第55話 制度を止める
王都からの返答は、翌日の昼に届いた。
――国家制度停止提案、却下
――非常措置継続
予想通りだった。
私は紙を机に置いた。
怒りはない。
ただ、静かな確信があった。
「……却下ですか」
ミレイアが言う。
「ええ」
「どうしますか」
私は答える前に、少しだけ考えた。
国家は速さを選んだ。
それは政治として正しい。
だが、順番を飛ばす制度は――
もう制度ではない。
「宣言します」
私は立ち上がった。
「この領地では、国家制度適用を停止します」
部屋が静まる。
「国家の命令ですよ」
ミレイアが小さく言う。
「ええ」
「大丈夫ですか」
「大丈夫ではありません」
私は正直に答えた。
「でも、やります」
ハロルドが、静かに頷いた。
「順番ですね」
「ええ」
午後、広場に人が集まった。
住民。
職人。
商人。
私は壇に立たない。
いつものように同じ高さに立つ。
「王都は、制度を続けます」
ざわめき。
「だが、この領地では――」
私は一度息を吸った。
「制度を止めます」
広場が揺れた。
「なぜですか!」
若い職人が叫ぶ。
「制度は成功していた!」
「ええ」
「ならなぜ!」
私は、静かに答える。
「順番が守られなくなったから」
沈黙。
「順番がない制度は」
私は続ける。
「人を切るだけの刃になります」
誰も言葉を返さない。
「制度は、人を守りません」
「壊れにくくするだけです」
私は、周囲を見渡した。
顔がある。
名前がある。
数字ではない。
「だから――」
私ははっきり言った。
「壊れ始めた制度は、一度止めます」
ミレイアが、少し震えながら立った。
「再設計します」
ハロルドが言う。
「順番を作り直す」
ざわめきが、少しずつ静まる。
誰かが言った。
「戻る道、ですね」
「ええ」
私は頷いた。
「制度にも、戻る道が必要です」
夕方、王都から通信が届いた。
レオンハルトだった。
『あなたは本当に止めたのか』
「ええ」
『国家命令に反して』
「ええ」
沈黙が続く。
やがて、彼は低く言った。
『あなたは自分の制度を殺した』
「いいえ」
私は静かに答える。
「守りました」
『どう違う』
「順番を守れなかった制度は」
私ははっきり言った。
「もう私の制度ではありません」
通信の向こうで、彼が息を吐いた。
『政治は怒る』
「知っています」
『あなたは孤立する』
「知っています」
しばらく沈黙が続いた。
そして彼は言った。
『……だが』
『あなたは一貫している』
通信が切れた。
夜、焚き火の前でミレイアが言った。
「怖いです」
「ええ」
「王都が怒ります」
「ええ」
「でも」
彼女は小さく笑った。
「順番は守られました」
私は、火を見つめた。
制度は、壊れてもいい。
だが――
順番だけは、壊してはいけない。
今日、私は自分の制度を止めた。
それは敗北かもしれない。
だが。
順番は、まだここにある。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




