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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第53話 切られる側

 辺境から届いた書簡は、これまでのどれよりも短かった。


 ――再編見直し対象者、確定

 ――基準変更により追加


 それだけだった。


 だが、紙の重さが違う。


 私は、名前の一覧に目を落とす。


 十七名。


 国家制度の新基準。

 再編対象。

 再訓練移行。


 それ自体は、制度の想定内だ。


 だが――


 視線が、一つの名前で止まった。


 ハロルド・ケイン。


 私は、しばらく瞬きを忘れた。


 ハロルドは、辺境の初期から制度を支えてきた。

 倉庫管理。

 配分調整。

 現場判断。


 制度の実務を、誰よりも理解している人間。


 その彼が――


 再編対象。


(なぜ)


 資料を読み返す。


 年齢。

 労働区分。

 技能再分類。


 国家の新基準では、彼の職種は「再訓練対象」だった。


 つまり――


 制度上は、正しい。


 私は、紙を机に置いた。


 胸の奥が、わずかに揺れる。


 その時、扉がノックされた。


「入って」


 ミレイアが入ってくる。


 顔色は、いつもより固い。


「……見ましたか」


「ええ」


 彼女は、しばらく言葉を探していた。


「ハロルドは……納得しています」


 私は顔を上げた。


「そう」


「自分も順番の中にいる、と」


 彼らしい。


 制度を理解している。


 理解しているからこそ、拒否しない。


 それが――重い。


「本人と話します」


 私は立ち上がった。


 夕方、倉庫の裏でハロルドは焚き火を見ていた。


 私が来ても、振り向かない。


「聞いた?」


「ええ」


 彼は、ゆっくり頷く。


「順番です」


 それだけ言った。


「不満は?」


「あります」


 彼は正直だった。


「だが、制度です」


 私は、少しだけ笑った。


「あなたが一番理解している」


「ええ」


 彼は焚き火を見つめたまま言う。


「だから逃げません」


 沈黙。


 火が、ぱちりと音を立てる。


「……止めましょうか」


 私は、初めてそう言った。


 制度を。


 この再編を。


 ハロルドは、すぐに首を振る。


「それは違う」


「でも」


「俺が例外になれば」


 彼は、ゆっくり言った。


「順番が壊れる」


 その通りだ。


 だが。


 胸の奥が、少しだけ痛む。


 ハロルドは、初めてこちらを見た。


「初めてでしょう」


「何が?」


「制度で、自分の側が切られるの」


 私は、答えられなかった。


 前世では、数字だった。


 ここでは――


 顔がある。


「制度は、公平です」


 彼は静かに言う。


「だが、痛い」


 焚き火が揺れる。


 私は、火を見つめた。


 制度は、人を守らない。


 壊れにくくするだけだ。


 だが――


 守りたい人が、

 順番の中にいる時。


 私は、どうするのか。


 ハロルドが、立ち上がる。


「再訓練は三か月」


「ええ」


「戻れるかもしれない」


「ええ」


 彼は、少し笑った。


「戻る道は、ある」


 それは――


 私が作った言葉だった。


 私は、ようやく理解した。


 制度は、刃にもなる。


 そして今、


 その刃は――


 私の側にも向いている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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