第52話 制度は、私のものではない
北部試験領の続報は、二日後に届いた。
成功率、五割。
失敗率、四割五分。
残りは未判定。
数字の形をしているが、実際は人だ。
職を失った者。
移行できなかった者。
移行途中で戻れなくなった者。
私は、紙を閉じた。
会議室には、いつもの顔ぶれが揃っている。
レオンハルト。
ヴィクトール。
軍務官。
財政官。
「再訓練削減の影響です」
財政官が説明する。
「地方判断による簡略化」
「制度そのものの欠陥ではありません」
私は、静かに聞く。
「順番が削られた」
「地方の裁量です」
「制度が許した裁量です」
沈黙。
レオンハルトが言う。
「国家は、全ての現場を監視できない」
「だから順番を固定した」
「固定すれば、現場が動けない」
「動けないのではない」
「逸脱できないだけです」
ヴィクトールが、軽く肩をすくめた。
「あなたは制度を信じすぎている」
「違います」
私ははっきり言う。
「人を信じていない」
室内が静まる。
「人は、近道を選びます」
「だから順番を作る」
レオンハルトが、机に指を置いた。
「公開は、明日です」
「遅い」
「政治判断です」
私は、彼を見た。
「隠すのですか」
「整理する」
「同じです」
彼は、少しだけ息を吐いた。
「あなたは、制度の守護者のように振る舞う」
「違います」
私は首を振る。
「制度は、私のものではない」
沈黙。
「順番を守る者のものです」
私は続ける。
「だから、公開してください」
軍務官が言う。
「国家が混乱する」
「混乱は既に始まっています」
「数字はまだ安定している」
「数字が崩れた時には遅い」
レオンハルトは、しばらく黙っていた。
やがて、低く言う。
「あなたは、制度を止めるつもりですか」
私は、答えなかった。
止める。
それは、国家改革の否定になる。
だが、止めなければ。
制度が、刃になる。
「……まだ」
私は、ようやく言った。
「まだ止めません」
レオンハルトは、ほんの少しだけ頷いた。
「公開は予定通り行う」
「ただし」
彼は続ける。
「制度の運用問題として扱う」
「制度の問題でもあります」
「あなたは、自分の制度を否定するのか」
私は、迷わなかった。
「制度は、間違えます」
沈黙。
「間違えない制度は、存在しません」
「だから」
私は、ゆっくり言う。
「撤回規定が必要です」
会議は、そこで終わった。
廊下に出ると、王都の窓から夕暮れが見える。
石の街は、整っている。
だが、その整い方が、どこか不自然だ。
背後から、レオンハルトが歩いてきた。
「あなたは、制度を止める覚悟がある」
「必要なら」
「それは、あなたの敗北です」
「ええ」
私は認める。
「制度の存続のためなら」
彼は、静かに言う。
「あなたは、本当に政治家ではない」
「ええ」
「政治家なら、制度を守る」
「私は、人を守る」
彼は、少しだけ笑った。
「順番ですか」
「ええ」
制度は、私のものではない。
国家のものでもない。
順番を守る者のものだ。
そして今――
その順番が、
国家の中で崩れ始めている。
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