第47話 国家は、速さを選ぶ
第二段階導入は凍結された。
だが――
第一段階は、予定通り継続された。
北部三領のうち一領。
人口再配置は七割成功。
三割は停滞。
そして、軍需再配分は確定したまま。
(止めきれなかった)
中央庁舎の廊下を歩きながら、私は静かに息を吐く。
完全な勝利など、最初からあり得ない。
だが、順番が守られなかった事実は消えない。
「報告です」
レオンハルトが資料を差し出した。
「再配置成功者の税収改善、想定以上」
「失敗者の生活支援費は、予備費で吸収可能」
数字は、美しい。
「……成功と見なすのですね」
「国家としては」
私は、彼を見る。
「国家は、速さを選びました」
「ええ」
「あなたは、それを止められなかった」
責める口調ではない。
確認だ。
「ええ」
私は認める。
沈黙。
「ですが」
私は続ける。
「公開失敗率は、残りました」
「ええ」
「それが、次を止めます」
レオンハルトは、わずかに目を細める。
「あなたは、長期戦を選ぶ」
「ええ」
「政治は、短期で動く」
「だから、制度で縛る」
彼は、小さく笑う。
「あなたは、しつこい」
「存続には、しつこさが必要です」
午後、議場で最終報告がなされた。
第二王子カイゼルも出席している。
「北部試験導入は、概ね成功」
拍手。
「国家改革は、着実に進んでいる」
歓声。
私は、その中心にいない。
だが、名前は出る。
「辺境の制度を参考に――」
参考。
利用。
旗。
(また、象徴にされる)
だが、私は動かない。
会議後、カイゼルが近づいてきた。
「君の名は、民衆に広がっている」
「広げないでください」
「なぜそこまで拒む」
「制度は、人の名前で動きません」
「だが、民は顔を求める」
「顔は、失敗の時に責任を取れません」
彼は、しばらく私を見つめる。
「君は、国家の味方か」
「国家の存続の味方です」
「同じだ」
「違います」
国家は速さを選ぶ。
政治は成果を求める。
民衆は象徴を求める。
だが、制度は――
順番を守らなければ、崩れる。
夜、宿舎に戻ると、辺境から報告が届いていた。
――王都関係者、訪問
――制度視察希望
――一部規則緩和の打診
私は、紙を握り締める。
(来た)
王都は、私を利用するだけでなく、
私の領地をも取り込もうとしている。
制度が、国家の部品になる。
レオンハルトの言葉が蘇る。
――あなたは危険だ。
危険なのは、私ではない。
制度が、政治の道具になることだ。
私は、机に向かい、返書を書き始めた。
――規則緩和は行わない
――視察は公開形式のみ
――記録は全て保存
利用させない。
歪ませない。
国家は、速さを選んだ。
私は、遅さを守る。
どちらが勝つかではない。
どちらが残るかだ。
王都の夜は、明るい。
だが、焚き火のような温度はない。
私は、静かに目を閉じる。
戦いは、まだ終わっていない。
むしろ――
本番は、ここからだった。
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