第46話 私は、これを望んでいない
北部三領・試験導入から、さらに一週間。
公開された失敗率は、七割成功、三割停滞。
王都はそれを「概ね良好」と評価した。
そして――
軍需再配分は、予定通り実行された。
(順番が、逆のまま進んだ)
中央庁舎の会議室。
今日は、非公開。
出席者は限られている。
レオンハルト。
ヴィクトール。
軍務官。
そして、私。
「公開後の動揺は限定的です」
財政側の報告が続く。
「移動拒否者は増えましたが、統制可能範囲内」
統制可能。
私は、資料を閉じた。
「停止条項は発動されませんでした」
「ええ」
レオンハルトが答える。
「現状、国家全体への悪影響は軽微」
「北部の現場は?」
「地方の問題です」
その一言で、何かが決定的にずれた。
「地方は、国家の一部です」
「国家は、全体最適を優先します」
私は、ゆっくり立ち上がった。
「私は、これを望んでいません」
室内の空気が止まる。
「何を?」
「私の制度が、削減の根拠になることを」
軍務官が眉をひそめる。
「あなたの制度は、無駄を可視化する」
「ええ」
「無駄を放置しろと?」
「順番を守れと言っています」
レオンハルトが、静かに言う。
「順番は守っている」
「いいえ」
私は、はっきり言った。
「移行前に削減を確定させた」
「失敗率三割を抱えたまま再配分を実行した」
「国家は待てない」
「では、制度を使わないでください」
沈黙。
「あなたは、撤回を求めるのですか」
「凍結を」
「軍需を?」
「再配分を」
それは、政治的に極めて重い。
ヴィクトールが、低く笑う。
「大胆だ」
「制度は、暴走させないためにあります」
レオンハルトの視線が、鋭くなる。
「あなたは、国家を縛ろうとしている」
「ええ」
「何の権限で?」
私は、少しだけ息を吸った。
「制度の設計者として」
彼は、即座に返す。
「国家の設計者ではない」
「だから、言葉で縛ります」
言葉。
公開。
順番。
国家を止めるのは、武力ではない。
責任の可視化だ。
「撤回はできません」
レオンハルトは静かに告げる。
「だが、第二段階導入は凍結する」
譲歩。
完全ではない。
だが、止まった。
「……ありがとうございます」
「感謝は不要です」
「数字が、そう判断した」
彼は、私を見つめる。
「あなたは、これを望んでいないと言った」
「ええ」
「では、何を望んでいる」
私は、迷わなかった。
「国家にも、戻る道を」
軍務官が苦笑する。
「国家に戻る道などあるか」
「作るのです」
会議が終わり、廊下を歩く。
足取りは重い。
完全には止められなかった。
だが、暴走は一歩抑えた。
外に出ると、夕暮れの王都が広がる。
整然とした石畳。
遠くに聞こえる市場の喧騒。
(ここには、焚き火が見えない)
だが、ここにも人はいる。
順番を間違えれば、壊れる人が。
背後から声がした。
「随分と、牙を見せたな」
振り返ると、カイゼルが立っている。
「私は刃を止めただけです」
「刃は、時に必要だ」
「鞘がなければ、手も切れます」
彼は、しばらく黙っていた。
「君は、国家を弱くする」
「違います」
「壊れにくくするだけです」
彼は、小さく笑う。
「同じことだ」
「違います」
強さは、速さだ。
壊れにくさは、順番だ。
似ているようで、違う。
私は、空を見上げた。
王都の空は、広い。
だが、どこか閉じている。
私は、これを望んでいない。
だが、望まないからといって、
目を逸らすわけにはいかない。
制度は、刃にもなる。
ならば――
私は、鞘を作り続ける。
たとえ、それが
国家を縛る行為だとしても。
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