第39話 制度は、人を選ぶ
ノルト西境での暴動は、表向きには収束した。
段階制が導入され、
再訓練枠が設けられ、
切られる前の“猶予”が制度に組み込まれた。
王都はそれを「改善」と呼び、
路線自体は維持した。
速さは、完全には否定されなかった。
だが――
「……また、来ています」
ミレイアが差し出した名簿には、
新たな名前が並んでいる。
段階制の中でも、
戻りきれなかった人たち。
「人数は?」
「上限ぎりぎりです」
私は、しばらく名簿を見つめた。
(選ばなければならない)
助けるか、助けないかではない。
条件を満たしているか、どうか。
午後、受け入れ審査を行った。
「再訓練は?」
「三か月受けました」
「移動支援は?」
「申請済みです」
事実だけを確認する。
感情は挟まない。
一人が、途中で声を荒げた。
「どうしてそこまで書かせる!」
「私は働ける!」
「ええ」
私は静かに答える。
「でも、ここでは“働ける”だけでは足りません」
沈黙。
「記録に残ること」
「役割を持つこと」
「順番を守ること」
「それが守れないなら、ここでも壊れます」
彼は、しばらく睨んだ。
やがて、視線を落とす。
「……分かった」
全員が残れるわけではない。
条件を満たさない者もいた。
私は、はっきりと言った。
「今回は、受け入れできません」
泣き崩れる者もいない。
怒鳴る者もいない。
ただ、静かな絶望があった。
(これが、制度の顔)
夜、ミレイアが声を震わせる。
「……助けられたのに」
「いいえ」
私は首を振る。
「助けたら、次が壊れる」
制度は、人を選ぶ。
そして、選ばれなかった人を生む。
それを受け止められない制度は、
すぐに崩れる。
翌朝、受け入れた者たちは、
既に役割を与えられていた。
驚くほど、静かに。
戻った者の顔には、
安堵よりも、緊張がある。
それでいい。
守られる場所は、
甘い場所ではない。
高台に立ち、私は焚き火を見下ろす。
数は、また少し増えた。
だが、急激ではない。
急激な増加は、急激な崩壊を招く。
速さは、まだ王都にある。
評価も、向こうにある。
だが――
ここには、
選ばれた人と、
選ばれなかった人の記録が残る。
それが、違いだ。
私は、帳簿に一行を書き足した。
――受け入れ完了:条件順守
――拒否記録:保存
制度は、人を選ぶ。
だが、
選んだ責任を、
隠さない限り――
それは、暴力にならない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




