第38話 それでも残った人たち
王都の判断が出てから、十日が過ぎた。
辺境は、変わらない。
交易量は、わずかに減ったままだ。
派手な視察も来ない。
噂は、少しずつ薄れていく。
(それでいい)
速さが話題をさらい、
遅さは日常に溶ける。
それが、私たちの立ち位置だ。
「……また、三人残るそうです」
朝の報告で、ミレイアが言った。
「どこから?」
「西境です」
「段階制導入で、居場所ができたけれど……」
「それでも、戻りきれなかった人たち」
私は頷いた。
「受け入れ上限は?」
「まだ余裕があります」
「なら、条件通りに」
特別扱いはしない。
だが、拒絶もしない。
午後、私は新しく来た三人と対面した。
「ここでは、特別扱いはありません」
「役割を持ち、記録に残ります」
「それでも?」
三人は、迷わず頷いた。
「……追い出されないなら」
その一言が、すべてだった。
私は、静かに言う。
「追い出しません」
「でも、甘やかしません」
彼らは、それで十分だと理解していた。
夕方、作業場を歩く。
以前より、人数は増えている。
だが、騒がしくはない。
誰も、英雄を待っていない。
誰も、奇跡を期待していない。
ただ、明日の役割が決まっている。
それだけだ。
ハロルドが、ぽつりと言った。
「……正直、派手さはありませんな」
「ええ」
「でも、壊れません」
「ええ」
私たちは、互いに笑った。
夜、ミレイアが帳簿を閉じる。
「……増えましたね」
「何が?」
「“戻ってきた人”の欄」
私は、そのページを見る。
切られた者。
逃げた者。
戻れなかった者。
そして、戻った者。
「ゼロではない」
ミレイアが、小さく言う。
「ええ」
私は頷く。
「ゼロではない」
それで、十分だ。
速さは、眩しい。
評価も、称賛も、集まる。
だが、ここに残った人たちは、
評価ではなく、安定を選んだ。
私は、高台に立つ。
焚き火の数は、増えている。
少しずつ。
本当に少しずつ。
誰も声を上げない。
祝福もない。
それでも。
(残った)
王都は、速い方を選んだ。
だが――
人は、必ずしも速さを選ばない。
それでも残った人たちがいる限り、
この制度は、消えない。
それが、
私にとっての答えだった。
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