第37話 王都は、速い方を選ぶ
王都からの正式回答は、予想よりも早かった。
封蝋を割る前から、内容は読めている。
それでも、私は一度深呼吸をした。
「……どうぞ」
ハロルドに促され、私は文面を読み上げる。
――ノルト西境の改善計画を受理
――現行の高速改革路線は維持
――段階的移行制度の導入を“参考事例”とする
参考事例。
是正でも、採用でもない。
あくまで補足。
「……つまり」
ミレイアが小さく言う。
「速さは、否定されなかった」
「ええ」
私は紙を閉じる。
「むしろ、肯定された」
税収は伸びている。
交易も増えている。
暴動は“局所的”に収まった。
王都にとって、それが全てだ。
午後、アデルハイトが結果を聞きに来た。
「読んだわ」
彼女は、苦笑する。
「私は、速さを選んだ」
「王都も、速さを選んだ」
「ええ」
「あなたのやり方は、広がらない」
「ええ」
私は否定しない。
彼女は、窓の外を見た。
「……悔しくない?」
「少しは」
私は正直に答える。
「でも、想定内です」
王都は、速い方を選ぶ。
数字が伸びる方を選ぶ。
分かりやすい成果を選ぶ。
それは、悪意ではない。
国家として、当然の判断だ。
「あなたは、怒らないのね」
「怒っても、制度は変わりません」
彼女は、少しだけ目を細める。
「あなたは、勝とうとしていない」
「ええ」
「続けようとしているだけです」
沈黙。
外では、作業の音が響いている。
誰も、王都の判断を知らない。
知る必要もない。
「……私は戻る」
アデルハイトが言った。
「段階制を、入れる」
「時間はかかるけど」
「ええ」
「あなたの名前は出さない」
「それでいい」
彼女は、立ち上がる。
「私は、速さを捨てない」
「でも、ブレーキは付ける」
「それで十分です」
彼女は、一度だけ振り返った。
「あなたは、選ばれなかった」
「ええ」
「それでも、立っている」
「ええ」
彼女は、笑った。
「厄介な人ね」
その言葉が、妙に温かかった。
夜、私は帳簿の端に書き加える。
――王都判断:高速路線維持
――段階制:部分採用
勝ったわけではない。
負けたわけでもない。
ただ――
速い方が、表舞台に立った。
そして私は、
舞台の外で、
灯りを守る。
焚き火は、今日も同じ数だけ燃えている。
誰も拍手しない。
誰も称賛しない。
それでも――
制度は、感情より長く残る。
王都は、速い方を選んだ。
だが、遅い方が消えるとは、
誰も言っていない。
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