第36話 模倣者は、間違えたのではない
改善計画の草案は、三日で形になった。
アデルハイトは、驚くほど素直だった。
反論も、強がりもない。
ただ、必要な修正を淡々と受け入れていく。
「……こうなると、私の改革は別物ね」
草案を見下ろしながら、彼女が呟いた。
「ええ」
私は頷く。
「でも、根は同じです」
「同じ?」
「可視化し、役割を固定し、責任を明確にする」
「あなたは、そこまでやった」
「……私は、速くやりすぎた」
「ええ」
私は、否定しなかった。
間違えたのではない。
順番を飛ばした。
それだけだ。
午後、二人で作業場を歩いた。
受け入れた者たちが、黙々と働いている。
「彼らは、あなたを恨んでいないの?」
アデルハイトが、低く聞く。
「恨んでいる人もいるでしょう」
私は正直に答える。
「でも、残った」
「どうして?」
「条件が、変わらないから」
彼女は、足を止める。
「……それだけ?」
「ええ」
「感情で揺れない場所は、安心する」
怒らない。
甘やかさない。
例外を作らない。
それは冷たい。
だが、予測できる。
「私は、速さを武器にした」
彼女は言う。
「あなたは、予測可能性を武器にした」
「ええ」
彼女は、しばらく空を見上げた。
「王都は、速い方を評価する」
「ええ」
「あなたのやり方は、広がりにくい」
「ええ」
「それでも、やめない?」
「やめません」
彼女は、笑った。
「……厄介ね」
その笑みには、敵意はなかった。
夜、執務室で最後の修正を入れる。
――段階的移行制度、導入
――再訓練枠、常設
――切り捨て前、再配置義務
アデルハイトが、最後に署名する。
――責任者:アデルハイト・フォン・ヴァイス
私は、そこに一行を足した。
――共同設計:リリアーナ・フォン・グレイス
「連帯責任にするの?」
「いいえ」
私は首を振る。
「連帯“記録”」
彼女は、静かに頷いた。
「あなたは、私を否定しない」
「否定しません」
「ただ、順番を戻すだけです」
彼女は、椅子にもたれた。
「私は、あなたになれない」
「ええ」
「あなたも、私にはなれない」
「ええ」
その確認が、二人の距離を決めた。
模倣者は、間違えたのではない。
ただ、急いだ。
そして今、
急ぎすぎた領主が、
遅さを学び直している。
焚き火は、静かに揺れている。
速さも、遅さも、
どちらも正しい。
だが――
責任を取る覚悟がある方だけが、
制度を名乗る資格を持つ。
その事実を、
私たちは、ようやく共有し始めていた。
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