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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第35話 戻る道を作るということ

 共同記録の作成は、予想以上に重かった。


 数字を書くことは難しくない。

 だが、“その後”を書く作業は、誰にとっても容易ではない。


「……この欄、どう書く?」


 アデルハイトが、紙の一点を指す。


 ――切り捨て後の生活経路


 私は、少しだけ考えた。


「正確に」

「逃げた者は“所在不明”と」

「地下に潜った者は、そのまま」


「……冷たいわね」


「ええ」

 私は認める。

「でも、曖昧にすると、また繰り返す」


 彼女は、苦笑した。


「あなたの言う“戻る道”は、数字にしにくい」


「ええ」

「だから、先に作るの」


 戻る道。

 それは、失敗した後の救済ではない。


 失敗する前の“余白”だ。


 午後、私は具体案を提示した。


「段階制にします」

「いきなり切らない」


「段階?」


「第一段階:再訓練」

「第二段階:一時的配置転換」

「第三段階:移動支援」

「それでも無理なら、初めて契約終了」


 アデルハイトは、腕を組む。


「遅い」

「ええ」


「でも……暴動は減る」


「減ります」


 彼女は、長く沈黙した。

 やがて、静かに言う。


「私は、数字を守ることに集中しすぎた」


「それは、間違いではありません」

 私は即答する。

「あなたは、壊れかけた領地を立て直した」


「でも、壊した部分もある」


「ええ」


 肯定も否定もしない。

 ただ、事実を置く。


 夕方、王都から正式な通達が届いた。


 ――ノルト西境に対し、追加監査を実施

 ――改善計画の提出を求める


 罰ではない。

 だが、圧力だ。


「公開記録の影響ね」

 アデルハイトが言う。


「ええ」

「怖い?」


「少し」


 彼女は、初めて弱音を吐いた。


「でも、やめない」


 私は、わずかに笑う。


「戻る道は、途中で閉じると意味がない」


 夜、私は一人で高台に立った。


 焚き火は、変わらず灯っている。

 派手ではない。

 だが、消えない。


(速さは、眩しい)

(でも、眩しさは目を焼く)


 戻る道を作るということは、

 速さを否定することではない。


 速さに、ブレーキを組み込むことだ。


 執務室に戻ると、アデルハイトがまだ座っていた。


「……あなたは、どうしてここまでやるの?」


 私は、少し考えた。


「私も、一度壊したから」


 前世の記憶。

 速さを選び、

 制度を守り、

 人を守れなかった日。


「だから、二度目は」


 私は、最後まで言わなかった。


 彼女は、理解したように頷く。


「……あなたは、王にならない」


「ええ」


「でも、消えない」


 その言葉は、皮肉ではなかった。


 戻る道を作るということは、

 自分の功績を減らす行為だ。


 英雄にはなれない。

 賞賛も、少ない。


 それでも――


 壊れた後に立て直すより、

 壊れない仕組みを作る方が、

 ずっと難しい。


 そして今、

 速さを選んだ領主が、

 遅さの設計図を手にしている。


 物語は、静かに次の局面へ進んでいた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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