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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第25話 境界線の外で、世界は動く

 受け入れ条件を示してから、一週間。

 辺境は、表面上は落ち着いていた。


 だが――境界線の外では、確実に何かが変わっている。


「……通行税が、上がっています」


 朝の報告で、ハロルドが眉を寄せた。

「西と南、ほぼ同時に」


 私は、地図の上に小石を置いた。

 交易路。街道。関所。


(囲われ始めたわね)


 正面からの妨害ではない。

 検問でもない。

 ただの“調整”。


 合法で、静かで、しかし効く。


「理由は?」

「治安維持費の増加、だそうです」

「便利な言葉ね」


 数字を理由にすれば、感情を挟まずに圧をかけられる。

 しかも、こちらが反発すれば“非協力的”になる。


 典型的な、周辺領の自衛反応だった。


「交易量への影響は?」

「今月は、二割減です」

「……想定内」


 私は、帳簿を閉じた。


(来ると思っていた)

(むしろ、遅いくらい)


 成功例は、羨望と恐怖を同時に生む。

 そして恐怖は、距離を取らせる。


 昼過ぎ、市場を歩くと、商人たちの会話が耳に入る。


「ここは、やり方が違う」

「面倒だが……信用できる」

「他が、締めてきてるぞ」


 噂は、もう広がっている。

 こちらが何もしなくても。


 その時、見慣れない馬車が市場の端に止まった。

 装飾は控えめ。

 だが、家紋が刻まれている。


(……領主級)


 馬車から降りてきたのは、若い女だった。

 年は二十代前半。

 視線は鋭く、迷いがない。


 彼女は、まっすぐこちらへ歩いてくる。


「あなたが、リリアーナ・フォン・グレイスね」


 断定形。

 挨拶もない。


「そうです」

 私は答えた。

「ご用件は?」


「話がしたい」

「ここで?」

「できれば、静かな場所で」


 周囲の空気が、ぴんと張る。

 彼女は、隠す気がない。


 執務室に通すと、彼女は自分から名乗った。


「アデルハイト・フォン・ヴァイス」

「ノルト西境の、代理領主です」


 来た。

 模倣者。


「あなたの改革を、参考にした」

 彼女は、まっすぐに言った。

「結果も、出した」


 私は、何も否定しなかった。


「でも、問題も出たでしょう」

「ええ」

 彼女は、あっさり認める。

「人が、余った」


 余った。

 その言葉の軽さが、彼女の思想を示している。


「あなたは、どうする?」

 彼女は、挑むように聞いた。

「切らない方法が、あるなら」


 私は、少し考えた。

 そして、正直に答える。


「あります」

「教えてくれる?」

「いいえ」


 彼女は、一瞬だけ目を見開いた。

 だが、すぐに笑う。


「……正直ね」

「ええ」


「なら、見る」

 アデルハイトは言った。

「ここで、どうやっているのかを」


 私は、頷いた。

「条件があります」

「何?」


「あなたのやり方を、正しいとは言いません」

「失敗も、含めて公開してください」


 彼女は、少しだけ黙った。

 それから、はっきりと言う。


「……いいわ」

「失敗も、私の責任よ」


 危うい。

 だが、逃げない目だ。


(この人は、敵じゃない)

(でも、味方でもない)


 執務室を出る前、彼女は振り返った。


「一つだけ、教えて」

「?」


「どうして、そこまで慎重なの?」


 私は、窓の外を見た。

 焚き火、倉庫、作業場。


「壊れるのは、いつも人からだから」

「数字は、後で直せる」


 アデルハイトは、しばらく私を見つめ、

 そして小さく息を吐いた。


「……面倒な人ね」

「よく言われます」


 馬車が去った後、ミレイアが小さく呟く。

「……嵐、来ますか」


「ええ」

 私は頷いた。

「でも、避ける嵐じゃない」


 境界線の外で、世界は動いている。

 そして――


 この領地は、もう“影響を与える側”だ。


 静かだった辺境は、

 今や、選択の中心に立っていた。


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