第21話 真似をする者は、必ず現れる
冬の最初の市は、小さな違和感とともに始まった。
例年であれば、数軒の行商が細々と立ち寄るだけの場だ。
だが今年は違った。
馬車が、三台。
しかも、どれも辺境仕様ではない。
「……多いですね」
ミレイアが、控えめに言った。
「ええ」
私は市場を見渡す。
「明らかに、様子見よ」
行商人たちは、商品より先に人の動きを見ている。
帳簿を持つ者、作業を割り振る者、値段交渉を一任されている者。
(役割が、外から見て分かる)
それは、誇示ではない。
だが、隠す気もない。
「グレイス辺境伯領の運営は、噂通りですか」
声をかけてきたのは、見慣れない若い男だった。
服装は質素だが、仕立てが良い。
護衛はいないが、背筋が伸びている。
「噂、とは」
「帳簿で人を動かす、と」
私は、少しだけ目を細めた。
「誰から聞きました?」
「複数から」
彼は即答する。
「失敗した者と、成功した者の両方です」
正直だ。
だが、それ以上に――危うい。
「あなたは、どちらですか」
「今は、どちらでもありません」
彼は、一歩だけ距離を詰めた。
「これから、選ぶ側です」
私は、理解した。
(もう、始まっている)
改革は、成功した瞬間から“模倣対象”になる。
しかも、都合のいい部分だけを。
「ここで学べると思いますか」
彼は、まっすぐに聞いてくる。
私は、少し考えた。
そして、正直に答える。
「学べます」
「ただし――」
「?」
「結果は、保証しません」
彼は、驚いた顔をした。
だが、すぐに口元を引き締める。
「十分です」
名前を名乗る前に、彼は去っていった。
あえて、名を出さなかった。
ミレイアが、不安そうに聞く。
「……大丈夫でしょうか」
「分からないわ」
私は答える。
「でも、止められない」
夜、私は帳簿とは別の紙を取り出した。
そこに書く。
――外部模倣:発生
――成功率:不明
(次は、外の失敗が、こちらに流れ込む)
これは、脅威でもあり、必然でもある。
雪の降る中、市は続いていた。
火を囲む人々の輪が、少しずつ広がっている。
この領地は、もう“閉じた成功”ではない。
だからこそ――
真似をする者は、必ず現れる。
それが、救いになるか。
それとも、新たな火種になるか。
答えは、まだ出ていなかった。
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