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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第22話 正しさは、切り取れる

 最初の噂は、雪解けと同時に形を持った。


「……西のノルト領で、帳簿改革を始めたそうです」


 朝の報告の中で、ハロルドがそう告げた。

 声には、戸惑いが混じっている。


「早いわね」

 私は、帳簿から目を離さずに答えた。

「内容は?」


「税と労働の可視化を」

「ただし……」


 彼は、言葉を選んだ。


「“効率の悪い者を切った”と」


 ミレイアが、はっと息を呑む。

 私は、ゆっくりとペンを置いた。


(来たわ)


 正しさは、切り取れる。

 便利な部分だけを抜き出し、都合の悪い前提を捨てる。

 それが、模倣の本質だ。


「結果は?」

「短期的には、税収が増えたそうです」

「……でしょうね」


 数字だけ見れば、成功だ。

 だが、その数字は――人を含んでいない。


「逃げてきた者がいます」

 ハロルドが、続ける。

「今朝、二十名ほどが」


 私は、すぐに理解した。

 切られた側だ。


 集落の端で、彼らは肩を寄せ合っていた。

 顔色は悪く、持ち物も少ない。


「……働き口は、ありますか」


 一人の女が、恐る恐る聞いた。

 責める声ではない。

 期待も、ほとんどない。


 私は、すぐに答えなかった。


(無制限に受け入れれば)

(ここも、壊れる)


 前世の記憶が、警鐘を鳴らす。


「条件があります」

 私は、はっきり言った。

「記録に残ること」

「役割を持つこと」

「規則に従うこと」


 彼らは、互いに顔を見合わせる。

 やがて、全員が頷いた。


「……それでいい」

「選べるだけ、ましです」


 その言葉に、胸が少しだけ重くなる。


 夜、私は一人で考えていた。


(私のやり方は)

(誰かを切るための刃にもなる)


 止めることはできない。

 だが、無視することもできない。


 翌日、再び報告が入る。

 別の領でも、同様の改革。

 同様の“切り捨て”。


 ミレイアが、静かに言った。

「……これ、私たちのせいでしょうか」


「違う」

 私は即答した。

「私たちの“責任”よ」


 影響力を持った以上、

 結果から目を逸らすことはできない。


 私は、新しい紙を取り出した。

 帳簿ではない。

 規則でもない。


 そこに書いたのは、一文。


 ――制度の“説明責任”は、作る側にある


 そして、さらに続ける。


 ――見せるべきは、数字ではなく、前提


 私は、決めた。


 正しさが切り取られるなら、

 切り取れない部分を、言葉にするしかない。


 この改革が、

 誰かを救う刃になるか、

 誰かを傷つける刃になるか。


 それを分けるのは――

 これからの、私たちの選択だった。


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