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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第16話 残された火種

 表向きには、何事も終わったように見えた。


 監査官は去り、王都からの急な通達もない。

 広場での騒ぎも沈静化し、領民たちは再び日々の仕事に戻っている。


 だが――私は知っていた。


(これは、終わりじゃない)


 政治は、音を立てて終わらない。

 必ず“残り火”を置いていく。


 その兆しは、帳簿の端に最初に現れた。


「……この項目、増えています」


 朝の確認作業中、ミレイアが小さく指摘した。

 彼女が示したのは、交易関連の欄。


「搬出量は想定内です」

「でも、問い合わせ件数が……」


 私は数字を追い、すぐに理解した。


(王都からじゃない)

(他領だ)


 辺境での動きは、すでに“内部の問題”ではなくなっている。


「どこから?」

「西の二領と、南の一領です」

「……早いわね」


 王都は動かない。

 だが、王都の外縁は動く。


 成功例は、必ず模倣される。

 そして、模倣は必ず摩擦を生む。


 昼前、見張り役が報告に来た。


「南の街道で、足止めが起きています」

「理由は?」

「……検問です。“安全確認”だと」


 私は、ゆっくりと息を吐いた。


(来たわね)


 正式な妨害ではない。

 だが、確実に“嫌がらせ”。


「商人は?」

「足止めされています。交易量は、半分以下に」


 露骨だ。

 だが、合法だ。


 私は即座に、ハロルドを呼んだ。


「街道管理の名目は?」

「疫病予防、だそうです」

「……便利な言葉ね」


 前例主義の世界では、最強の免罪符だ。


「こちらから抗議はしません」

「……え?」


「代わりに、記録を取ります」

「何を?」

「時間、件数、損失」


 ハロルドは、少し驚いた顔をした。

「抗議しないのですか」


「今は、しません」

 私は静かに言う。

「今は、“材料”を集めるだけ」


 感情で動けば、相手の思う壺だ。


 午後、私は集落を歩いた。

 領民たちは、足止めの噂をもう知っている。


「また、邪魔されるのか」

「せっかく回り始めたのに」


 不安が、少しずつ染み出している。


 私は、あえて集会を開かなかった。

 今、言葉を重ねれば、火に油を注ぐ。


(火種は、静かに扱う)


 夕方、ドルフの姿を見かけた。

 彼は誰かと小声で話し、私に気づくと、目を逸らす。


(動いている)


 彼一人ではない。

 だが、彼は分かりやすい指標だ。


 夜、執務室で帳簿を整理する。

 交易減、検問、他領の動き。


 点が、線になり始めている。


(王都は直接来ない)

(だから、周囲から削る)


 三年特例は、守りではある。

 だが、攻撃は別方向から来る。


 ミレイアが、不安を隠せない声で言った。

「……また、戦いですか」


「ええ」

 私は頷いた。

「でも、形が違う」


 剣も、命令書も使わない。

 使うのは――


「時間と、数字」


 私は、新しい紙を取り出し、項目を書き足す。


 ――周辺領地動向

 ――交易妨害記録

 ――損失推計


 そして、その下に一行。


 ――次の一手:公開か、包囲か


 辺境は、もう孤立した土地ではない。

 だからこそ、狙われる。


 残された火種は、小さい。

 だが、放置すれば燃え上がる。


 私は炭筆を置き、窓の外を見た。

 焚き火の数は、昨日と同じだ。


(まだ、大丈夫)


 だが――

 この静けさは、長くは続かない。


 次に動くのは、誰か。

 それを決める準備は、もう始まっていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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