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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第17話 裏切りは、静かに起きる

 違和感は、音もなく忍び寄っていた。


 朝の作業報告は整っている。

 帳簿の数字も、前日との差異は許容範囲。

 一見すれば、何も問題はない。


 ――一見すれば。


「……おかしい」


 私は、同じ数字を三度見直した。

 交易量、倉庫残量、作業人員。

 どれも合っている。だが、“繋がり”が歪んでいる。


(数字が、嘘をついていない)

(だからこそ、誰かが嘘をついている)


 数字は結果だ。

 過程が歪められなければ、こうはならない。


「ミレイア」

「はい」


 彼女はすぐに反応した。

 最近は呼ばれる前から、こちらの顔色を読んでいる。


「直近三日の搬出記録を、班ごとに分けて」

「……ドルフの班、ですね」

「ええ」


 即答だった。

 彼女も、気づいていた。


 紙を広げる。

 搬出量は、規定内。

 だが、搬出“時間”が妙にばらけている。


「夜間が、多い……」

 ミレイアが呟く。


「ええ」

 私は頷いた。

「見張りの交代時間に合わせている」


 巧妙だ。

 正面から盗めば、すぐにばれる。

 だから、“見えない隙間”を使う。


 昼前、私は何事もなかったかのように現場を回った。

 指示は出さない。質問にも答えない。

 ただ、見る。


 ドルフは、いつも通り働いていた。

 声も大きく、周囲への気配りも忘れない。


(上手ね)


 だからこそ、厄介だ。


 午後、見張り役の若者が、小さな声で報告に来た。


「……リリアーナ様」

「何かあった?」

「南の道で、見覚えのある荷が……」


 私は、最後まで聞く前に理解した。


「外に?」

「はい。夜明け前です」


 裏取りは、もう十分だった。


 私は、すぐに動かなかった。

 ここで捕まえれば、簡単だ。

 だが、それでは“前と同じ”になる。


(これは、見せる裏切り)


 夕方、私は全体会議を招集した。

 理由は告げない。


 広場に集まる人々の間に、緊張が走る。

 ドルフも、少し遅れて姿を現した。


「確認があります」

 私は、いつもより低い声で言った。


「この領地では、例外を認めていません」

「それは、皆さん知っていますね」


 頷きが返る。


「では、夜間搬出は許可されていますか」

「……いいえ」


 空気が、張り詰める。


 私は、一枚の紙を掲げた。

 時間、班名、搬出量。

 すべて、事実だ。


「説明できる方は、いますか」


 沈黙。


 ドルフが、一歩前に出た。

「……それは、誤解だ」

「どの部分が?」

「緊急の――」


「緊急なら、記録が残る」

 私は遮らない。ただ、淡々と返す。


 ドルフの視線が、揺れる。


「前は、こういうことも許されていた」

「前は、です」


 私は、はっきり言った。


「今は、違います」


 誰かが、息を呑んだ。

 怒号も、罵声もない。

 ただ、理解が広がっていく。


 ドルフは、最後まで強がった。

「……少しぐらい、融通が利いても――」


「融通は」

 私は静かに言う。

「あなた一人のためのものではありません」


 それで、終わりだった。


 その夜、私は処罰を下さなかった。

 牢にも入れない。

 追放もしない。


 ただ、ドルフの“役割”を外した。


 倉庫鍵の権限剥奪

 班長職の解任

 交易関与の禁止


 翌朝、掲示板にそれが貼り出される。


 理由は、短く。


 ――規則違反(記録あり)


 誰の名前も、感情も書かれていない。

 ただ、結果だけが残る。


 ミレイアが、少し震えた声で言った。

「……優しすぎませんか」


「いいえ」

 私は首を振る。

「一番、残酷よ」


 彼はもう、“例外”ではいられない。

 誰も、彼を特別扱いできない。


 夜、焚き火の数は変わらなかった。

 だが、人々の距離感は、確かに変わっている。


(裏切りは、静かに起きる)

(だから、静かに終わらせる)


 帳簿の端に、私は一行を書き足した。


 ――内部不正:制度対応完了


 改革は、感情で進まない。

 だが、感情を無視もしない。


 この領地は、また一つ――

 前には戻れない場所へ進んだ。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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