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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第15話 勝たないという選択

 監査官ヴィクトール・ラインハルトが去った翌日。

 辺境は、何事もなかったかのように動いていた。


 作業場では槌の音が響き、倉庫では保存食の仕分けが続く。

 昨日までと同じ光景。

 それが、何よりの成果だった。


(現場は、政治に付き合わない)


 私は執務室で、三年期限の特例指定書を改めて見つめていた。

 紙切れ一枚。

 だが、この一枚がある限り、王都は“今すぐには”手を出せない。


 完全な勝利ではない。

 だが、完全な敗北でもない。


「……悔しくは、ありませんか」


 ミレイアが、ぽつりと聞いた。

 彼女は、あの場でのやり取りを、すべて見ていた。


「勝てたかもしれないのに、と」


 私は少し考え、正直に答える。


「悔しいわよ」

「……」

「でも、勝つ必要はなかった」


 彼女は、首を傾げた。


「王都と正面から戦えば、どうなると思う?」

「……もっと、厳しい命令が来る」

「ええ。人も、制度も、全部潰される」


 前世の記憶が、嫌でも蘇る。

 正論で殴り、勝ったつもりになり、組織ごと切り捨てられた改革者たち。


「政治は、相手を倒す場所じゃない」

「相手に、“倒す理由を与えない”場所よ」


 ミレイアは、ゆっくりと息を吸った。

「……だから、譲ったんですね」


「譲ったんじゃない」

 私は首を振る。

「時間を買ったの」


 三年。

 この辺境を、誰にも止められない形にするには、十分な時間だ。


 その日の午後、代官ハロルドが慌ただしくやって来た。


「……リリアーナ様」

「何かあった?」

「ドルフが……動いています」


 来た。

 外が静かになれば、内が動く。


「具体的には?」

「“王都に睨まれた改革は危険だ”と」

「……分かりやすい」


 彼は、監査の結果を“不安”として利用している。

 そして、それは半分正しい。


「集会を開くそうです」

「止めなくていい」

「……よろしいのですか」

「止めたら、彼の言い分が正しくなる」


 私は立ち上がった。


「ただし、私も出ます」

「え……?」


 夕方、広場には人が集まっていた。

 ドルフを中心に、十数人。

 顔ぶれは、第13話で不満を口にしていた者たちだ。


「聞いてくれ!」


 ドルフは声を張り上げる。

「王都は、この改革を危険だと判断した!」

「特例? 三年? その後はどうなる!」


 不安が、ざわりと広がる。


 私は、人の輪の中へ入った。

 ざわめきが、止まる。


「事実だけを言います」

 私は大きな声を出さない。

 それでも、全員が聞いていた。


「この改革は、王都に歓迎されていません」

「三年後、何も変わっていなければ、潰されます」


 どよめき。


 だが、私は続けた。


「だからこそ、三年で“潰せない形”にします」

「それが、今やっていることです」


 ドルフが、鼻で笑った。

「夢物語だ」

「そうかもしれません」

「なら――」


 私は、彼の言葉を遮らなかった。

 代わりに、問いを投げる。


「では聞きます」

「改革前に、戻りたい人は誰ですか」


 沈黙。


「飢えていた頃に?」

「融通という名の順番待ちに?」

「記録もなく、責任も曖昧な頃に?」


 誰も、手を挙げない。


「私は、勝とうとしていません」

 私ははっきり言った。

「続けようとしているだけです」


 それだけで、十分だった。


 ドルフは何か言おうとして、口を閉じた。

 彼は理解している。

 ここで“戻る”選択肢は、もう支持されない。


 集会は、自然解散になった。


 夜、執務室で帳簿を閉じる。

 今日の出来事を、私は一行でまとめた。


 ――内部不満:拡大せず、固定化


(勝たないという選択)

(それが、最も強い場合もある)


 外では、焚き火が静かに燃えている。

 誰も、騒いでいない。


 辺境は、今日も回っていた。


 第一の政治戦は、終わった。

 だが――


 本当の試練は、ここから始まる。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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