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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第13話 改革は、全員を救わない

 変化は、静かに歪みを生む。


 朝の作業報告は滞りなく進み、倉庫の在庫も安定していた。

 数字だけを見れば、この領地は順調だ。


 ――数字だけを見れば。


「……最近、息が詰まるって声が出てまして」


 昼前、代官ハロルドが控えめに切り出した。

 珍しく、歯切れが悪い。


「どこから?」

「……古くからの家です。前から、この土地を仕切っていた者たち」


 私は、すぐに理解した。


(出てきたわね)


 改革は、必ず“得をしない側”を生む。

 そして彼らは、自分が失ったものを「不当」と呼ぶ。


「具体的には?」

「“前は融通が利いた”と」

「……融通、ですか」


 それは便利な言葉だ。

 裏を返せば、曖昧さと裁量と、特権の塊。


「誰が言っています?」

「ドルフです」


 その名前を聞いた瞬間、点が線になる。

 倉庫整理の時、表向きは協力的だった男。

 作業量も多く、顔も広い。


(典型的な、旧体制の中核)


 私は即座に動かなかった。

 潰すのは簡単だ。だが、早すぎる。


「しばらく、様子を見ます」

「……よろしいのですか」

「ええ。問題は、表に出させた方がいい」


 午後、私は意図的に現場から距離を取った。

 執務室に籠り、帳簿とにらめっこをする。


 その間に、噂は勝手に育つ。


「最近、細かすぎる」

「全部書かされる」

「前は、もっと楽だった」


 誰も大声では言わない。

 だが、集まると必ず出る。


 夕方、ミレイアが戻ってきた。

 いつもより、表情が硬い。


「……作業報告、です」

「何かあった?」

「……帳簿の数字が、合いません」


 私は顔を上げた。

「どの部分?」


「薪の搬出量です」

「現場の報告より、倉庫の減りが多い」


 私は、内心で息を吐いた。


(来た)


 帳簿を並べる。

 数字は、小さい。だが、意図的だ。


「誰の担当?」

「……ドルフの班です」


 ミレイアは、不安そうに私を見る。

「……私が、間違えましたか」


「いいえ」

 私は首を振った。

「あなたは、正しく書いている」


 だからこそ、問題なのだ。


「今日は、ここまでにしましょう」

「え……?」

「明日、全体会議を開きます」


 ミレイアは、唇を噛んだ。

 彼女はもう、分かっている。


 夜、私は一人で考えた。


(罰すれば、楽)

(でも、それは“前に戻る”だけ)


 恐怖で縛る制度は、長く持たない。

 必要なのは――選別だ。


 翌日。

 集落の広場に、人が集まった。

 作業責任者、代官、そして領民たち。


「確認します」

 私は静かに言った。

「この領地は、今、回っています」


 誰も否定しない。


「でも、このやり方が“息苦しい”と感じる人もいる」

 ざわり、と空気が揺れる。

「それは、事実です」


 ドルフが、ゆっくりと前に出た。

「……正直に言わせてもらいます」

「どうぞ」


「前は、こんなに細かくなかった」

「帳簿だの、手順だの……仕事が増えただけだ」


 何人かが、無言で頷く。


「楽になった者もいる」

「だが、損をしている者もいる」

「それが、不満だ」


 率直だ。

 だからこそ、私は感情で返さない。


「では、確認します」

 私は一枚の紙を掲げた。

「その“前”は、誰が得をしていましたか」


 沈黙。


「融通が利いた、ということは」

「誰かが、優先されていたということです」


 ドルフの目が、わずかに細くなる。


「それが、悪いと?」

「いいえ」

 私は首を振った。

「ただし、今は違います」


 私は、はっきりと言った。


「この制度は、全員を救いません」

「代わりに、“続く形”を作ります」


 ざわめきが広がる。


「融通は、もうありません」

「例外も、特別扱いも」

「それが嫌な人は――」


 私は、一拍置いた。


「このやり方に、参加しなくていい」


 空気が凍る。

 追放ではない。処罰でもない。

 選択肢だ。


 ドルフは、しばらく私を見つめていた。

 そして、口元を歪める。


「……随分、冷たいな」

「そう言われるのは、慣れています」


 その言葉に、笑いは起きなかった。


 会議が終わり、人は散っていく。

 誰も声を荒げない。

 だが、境界線は引かれた。


 ミレイアが、小さく聞く。

「……大丈夫でしょうか」


「大丈夫じゃない」

 私は正直に答えた。

「でも、必要な過程よ」


 改革は、全員を救わない。

 救えない人がいると、最初に示さなければならない。


 でなければ――

 後で、もっと多くを失う。


 私は、帳簿の端に小さく書き足した。


 ――反改革派:顕在化


 嵐は、これからだ。

 だが、この領地はもう――

 後戻りできる場所ではなかった。


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