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王の名前を  作者: あまやどり
終章 堕天大戦
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名前

結構な数の人名が出てきます。知ってる人物の名前はあったでしょうか(/・ω・)/

「名前、です」


 やはり結論から告げる。


「悪霊、霊体の唯一の泣き所は、名前を言い当てられることです」


――“力ある言葉(名前)”は、口にするだけで違和を与えます――


とソロモンは説明したことがある。


「名前や解釈をつけるのは重要なことです。魔術の基本は、相手を“理解できるもの(・・・・・・・)”に落とし込むこと」


「謎のままじゃ対抗できる気がしないってわけか。平安時代に、名前を知られたら呪いをかけられるから、わざと難解な読みの名前つけてた、って聞いたことあるな」


 古典の授業を思い出す。蓮に実感はないが、名前は存在や本質に絡みついてくるものらしい。


「逆に言えば、名前を言い当てられなきゃ、俺たちに勝機はないわけだ」


「はい。ですがご安心を。間違いない、という候補を考えてあります。わたくしが悪霊王の名前を当ててみせましょう」


 王が現世に来たときに、「対抗策はある」と断言した。おそらくソロモン王の生涯から、悪霊の正体に当てはまりそうな“敵”を、入念にピックアップしたのだろう。


「じゃあ任せた」


「任されました!」


 ソロモン王は一歩進み出る。悪霊の王はなぜか、動きを止めて棒立ちのまま。ソロモン王はやや緊張した面持ちで言葉を紡ぐ。


「悪霊、(なんじ)の名を問う! 汝の名はアドニヤであるか?」


 考え抜いた末に挙げた名前は、ソロモン王の異母兄のもの。ソロモン王と王座を巡って敗れた王子。血みどろの争いを繰り返した義兄こそが、悪霊の正体と推測した。


《―――否》


 だが、悪霊はそれを否定した。亡霊の姿は小揺るぎもしなかった。相変わらず立ち尽くしている。解答は一言を以って否とされたのだ。


「うっ……」


 僅かに少女が狼狽する。が、すぐに気力を奮い起こした。


「まだです! 次の候補がありますわ。悪霊、汝の名を問う! 汝の名はウリヤであるか?」

 

 ウリヤは父ダビデ王の配下であったヘテ人。元はソロモン王の母バド・シェバの夫であったが、ダビデ王に妻を奪われ、戦死するように仕向けられた悲運の人物。ウリヤにとって妻と王との間に生まれた不義の子など恨めしい存在に違いない。


《―――否》


 だが、悪霊はこれも否定した。


「そ、そんな……」


 この結果に、王は目に見えてショックを受けた。十中十、この2人のどちらかであると推量していた。


――おかしい。


 蓮は疑念を抱いた。悪霊は、ただ傍観している。本来であれば「名前当て」を妨害したいと思うはずなのに。攻撃に移る気配もない。護衛をけしかけてもこない。まるで獲物を(なぶ)っているように見えた。


「とりあえず、ソロモン王に逆らった人間を片っ端から挙げていくってのは?」


 上策とは言えないが、本命が外れた以上「下手な鉄砲」に頼るしかなかった。


「わ、分かりました!」


 悪霊はまだ動かない。



「悪霊、汝の名を問う! 汝の名はヨアブであるか?」


 ソロモンが王位に就く際、反対した軍長ヨアブ。


《―――否》


「悪霊、汝の名を問う! 汝の名はアビヤタルであるか?」


 同じく、王位に反対した祭司。


《―――否》


「悪霊、汝の名を問う! 汝の名はヒラムであるか?」


 ソロモン王が神殿造営の負債を払いきれず、領地を割譲することになったテュロス(フェニキア)の王。


《―――否》


 ここまでくると言いがかりに近い。



――名前を当てられたら終わりって場面で、この余裕は何だ? 絶対に当てられない自信があるってことか?


 至極当然のことながら、イデアはソロモン王の生涯を知り尽くしている。現在のように適当に挙げていけば、まぐれ当たりでも的中させる可能性は充分にあった。


――楽観バイアス? それとも()うに狂っている? いや、堕天使を抑えつける精神力で、それはない。


 ソロモンは知識面から悪霊の名前を導き出そうとし、蓮は心理面から悪霊に迫ろうとしていた。

 心当たりある名前を挙げ尽くしたソロモンは、焦燥に駆られていた。



「悪霊、汝の名を問う! 汝の名はアヒノアムであるか?」


 ダビデ王の子の1人。


《―――否》


「悪霊、汝の名を問う! 汝の名はナタンであるか?」


 ダビデ王を補佐した予言者。もはやこじつけ以外の何物でもない。


《―――否》


「ううー。……悪霊、汝の名を問う! 汝の名はバド・シェバであるか?」


 (つい)には、母バド・シェバの名前まで持ち出した。ダビデ王に略奪された経緯から、心中では妻となることに不本意だったのでは、という憶測だったのだが。


《―――――否》


 結果は変わらなかった。が、声に何らかの感情が混じった、気がした。



* * * * * 


「よーっしよし」


 三船玲は汗を拭った。彼女は僅か遅れて王城に到着していた。2人に先んじられたときは(ほぞ)を嚙んだが、ゴールテープは切られなかったようだ。王の間の入り口で機を窺っている。

 逆に、遅れたお蔭で会話を盗み聞くことができた。


「やっぱしオタカラはソロモンの指輪!」


 ソロモン王は、指輪の力によって森羅万象を識ることができたとられる。


――知識(・・)


「好奇心の権化」たる玲にとって、指輪は命の1つや2つ、投げ出しても惜しくないお宝である。


「そのためには、オジャマな2人にゃどいてもらわないとねえ」


 蓮と少女は悪霊の名前当てに大苦戦しているが、心を読み、誘導さえもできる玲にとってはさしたる困難でもない。


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