第23話・王都と怪しい宿
ミラドリア王国王都・ロンベルグ。
中に入るのには門で検査が必要だったけど、金級冒険者のバッジが効いて、案外スムーズに入ることができた。
「この馬車を留めておけて、安く泊まれるところってあります?」
「この大きさの馬車となると……、東街の奥の『カミュの宿』っていう名前の宿なら多分大丈夫だと思うぜ。」
「ありがとうございます。」
何故かニヤニヤ笑う門番の兵から情報を手に入れたので、ひとまずそこに向かうことを決める。
王都は想像以上の賑わいだった。
トゥンクと似たような街のつくりだが、圧倒的に行き交う人の数が多い。
特に特筆すべきは、やはり中央地区に建っている王城だ。
圧倒的な高さを誇り、純白の壁は荘厳な佇まいを示している。
道路もよく整備されており、馬車移動はもちろん、徒歩で移動するのもおそらく苦にはならないだろう。
総じて治安が良く、発展した街だということを俺は感じた。
「うわぁ…!近くで見てもやっぱりお城は大きいね…!!」
モミが感嘆の声を漏らす。
カエデはザグラスさんたちのおかげで少し克服してきたが、いまだになおモミの心の傷は深いままだ。
心配して見ていたが、どうやら普段通りの様子のようで、俺は少し安心をする。
ちなみに、モミもカエデも帽子、ゆったりめのスカートで耳と尻尾を隠し、種族を隠すようにしている。
何があるかわからないので、あのマリア王女の意見に従ったのだ。
「しかし、本当にヒト以外の種族がいませんね…」
カエデが俺の耳元で囁く。
「まあなぁ…、ミランさんも言ってたから薄々気づいてはいたけどね。」
俺はそう溜息をついた。
周りを見渡しても、トゥンクの2倍ほどの人はいるのに、トゥンクにはいた獣人や、他の種族の者たちが1人たりともいない。
少し嫌な気分になりながら、数分馬車を進めると、俺たちは東街に入る。
ここで説明をしておくと、王都は中央にある王城を基準にして、東西南北4つの街に内部は分かれており、そのそれぞれが外から来る人の玄関口である門を有している。
ちなみに俺たちが入ってきたのは北街の門からだ。
そして今移った東街は、少し今まで歩いてきた北街とは趣が変わっていた。
「これはまた、なんだか急に寂れたなぁ……」
俺はそう呟く。
北街と同様に治安の良さは感じるが、どこか物悲しい気持ちにさせられる。
歩く人はまばら、店もまばら。
例えるならそう、地元のシャッター商店街を歩いているみたいな。
「東街はあんなに賑わっていたのに、どうしたんでしょう?」
カエデも同じ気持ちらしい。
「とりあえずそれは一旦置いとこう。ひとまず、『カミュの宿』っていうところにいかないと、歩き回ることもできないから。」
それから数分後。
俺たちはようやく東街最奥地にある『カミュの宿』に着いた。
「うー、お世辞にも綺麗とは言えない……。」
先頭を意気揚々と歩いていたモミが、そう言ってげんなりする。
くすんだ壁の色や、怪しげなネオンサインを見る限り、モミでなくてもそう思うだろう。
「……あの門番、だから笑ってたのかもしれないな。」
「はめられたってことですか!?」
怒り心頭に発するカエデ。
「まぁとにかく、中に入ってみよう。」
俺も特に期待をしないで、軋んだ音を立てながらドアを開ける。
「いらっすゎ〜い!!あらぁん?ワチシ好みの色男じゃないのぉ!嬉しいから、サービスで値段はまけてあげるわよん♡さぁさぁ、中に入ってちょうだ……あっ」
俺はすぐにドアを閉めた。
大きく1つ深呼吸をする。
そして、モミとカエデの方を向き、口を開く。
「宿を変え」
「ちょぉっとぉ!どうしてすぐ閉めるのよん!あ、ワチシの魅力に気圧されちゃったのねぇ♡」
俺の発言を割って、突然開けられたドアから声が響く。
「こ、こういうことだったんですね、門番が笑ってたのは……。」
ドン引き状態のカエデがかろうじてそう口を開く。
「あらやだ小娘ちゃん、こういうことってワチシが綺麗ってことぉ?」
ばちんとその人が下手くそなウィンクをする。
「……ここは、本当に宿屋なんですか?」
宿を変える機会を逸した俺も、ようやく最初にすべき質問を発する。
「あったりまえよぅ!ここはワチシ、カミュが経営する『カミュの宿』、れっきとした宿屋よん♡あ、ワチシのことは呼び捨てでいいわよん!」
隆々とした胸筋と、見事な毛並みのすね毛、そして鮮やかなパステル色の化粧をした40歳くらいのその人、カミュは胸を張ってそう答えた。
「それはそうと、あなたたち随分大きい馬車をもっているわねぃ。でもワチシに任せて!この宿は色男の願いはなんでも答えるわ♡金級冒険者ならなおさらよん!」
ばちんとまた下手くそなウィンクをカミュはする。
そして、俺の返事も聞かずにブラウンの背中をポンポンと叩きながら、カミュは馬車を宿の裏へとさっさと引いていった。
あれー、もう泊まることは既定路線ですかー(棒)
その屈強なガタイの後ろ姿を見送りながら、がっくしと溜息をついた俺であった。
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入口を入ってすぐには、カウンターと何脚かの椅子と机が置かれていた。
どうやらここが受付兼食堂らしい。
「あ、とりあえずその辺座って頂戴ねぇ♡」
カミュのその言葉を受けて、外観とは裏腹に意外と清潔感ある椅子に俺たち3人は腰掛ける。
やがて、カミュが3人分のコーヒーをもってきた。
「それじゃ、愛しの色男くんと、小娘たちにも自己紹介してもらおうかしらねぇん?泊まっているお客様のことは知っておきたいからねぃ。」
ともすればプライバシー侵害になり得る質問だが、俺は王都の情報が欲しいため、それを受け入れる。
「俺の名前はキョウです。トゥンクからきた金級冒険者で、一応転生者です。」
「あらぁん?転生者だったのぉ?これはさらに期待大だわぁん♡」
なんの期待か、とは敢えては問わない。
「カエデと言います……キョウさんのお供として一緒に旅してます。あ、私の横にいるのはモミと言います。」
カエデが少し警戒心を見せながら名乗る。
モミは、目を伏せたまま何も話さない。
先程は大丈夫かと思ったが、やはり、俺以外のヒトと直接関わるのはまだ無理なようだ。
モミのもつ明るさと暗さ。
ここにきてから始めて見た、モミのその二面性に俺はふっと嘆息する。
……あれ?そういえば、モミはどうしてあの時あんなに普通に喋ったり、明るいままでいれたんだ……?
「あぁん、そんなに警戒しないでよぅ。ワチシは別に悪い人じゃにないからぁん。……それじゃあ、愛しのキョウ君は初めて王都に来たのねぇん?質問があれば、ワチシがなんでも答えるわ♡」
これは願ったり叶ったり。
モミとカエデを気にかけつつも、俺は思考を切り替える。
「じゃあ早速、1ついいですか?」
「なぁに?あ、別に敬語じゃなくていいわよん♡」
「そ、それじゃあ……。どうして東街と北街で随分様子が違うんだ?」
俺は少しつっかえながらも、一番最初に気になっていたそれを訊く。
それを聞いたカミュが押し黙る。
何かまずいことを訊いてしまった?
俺が内心慌てていると、少ししてカミュが口を開いた。
「……愛しのキョウ君に言うのは少し憚っちゃうんだけど……、これはキョウ君と同じ転生者のせいなのぉ。」
カミュから帰ってきた言葉は、意外なものだった。




