第24話・発露と懇願
穏やかな午後の日差しが降り注ぐ王都某所の美しい庭園。
「獣人がいました……!しかも見たことのない金級冒険者が一緒にいます!」
息をきらしながらやってきてそう報告した部下の言葉に、男はパタリと読んでいた本を閉じて、その部下の方を無言で一瞥する。
「帽子とかでうまいこと隠してたんですけど、俺は見ました!風が吹いた時、チラリと見えた長い尻尾を!!」
得意げに言う部下。
ふぅと短く息をつくと、その男が初めて言葉を発する。
「それで?」
凍るように冷たい声音が部下に突き刺さる。
「そ、それでとは……?」
「その後、そいつらがどこに行ったかまでちゃんと見たんだよね?どこに行ったの?」
「え、い、いや、まずは報告をと思いまして……。」
「わかったわかった。」
パンパンと男がにこやかに、しかし笑っていない目で手を叩く。
「どこに行くのかはわからなくても、声ぐらいは聞けたよね?流石にそのくらいはしてるよね〜。」
冷や汗をダラダラと流す部下。
「も、申し訳ございません。なにぶん遠い位置からでしたので……。」
「うーん、それはまずいねぇ〜。」
そう言った男の手には、いつのまにか一振りの剣が握られていた。
「ま、待ってください!!そそそそれだけで何も……」
部下の懇願は、しかし最後まで言い切られることはなかった。
目の前で事切れる部下を一向に構うことなく男が言う。
「そいつらの泊まる場所や行く場所を突きとめちゃって。あ、見つけても手出しは無用ってことでよろしく。僕がやるから。あの盗賊どもみたいにヘマはしたくないでしょ?」
ザッといくつかの影がそれを聞き瞬時に動く。
再び静かになったそこで、男が呟く。
「さてさて……。この名剣、『狩猟者』に敵う騎士くんかどうか、じっくりと楽しませてもらうよ。」
剣をさする男のもとには、相変わらず穏やかな午後の陽光が降り注いでいた。
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「東街と北街に差があるのは、俺と同じ転生者のせい?」
俺は思わず訊き返す。
「そうなのよん。ここ王都ロンベルグなんだけど、軍に専属で1人転生者がいるってことは知ってるわよね?」
「それは聞いたことがある。」
トゥンクの街ギルド長のザグラスさんからそれは聞いた通りだ。
「彼……あっ、間違えないでぇ、ワチシはキョウ君一筋だから心配しないで♡」
キャっと頬をぽっと染めるカミュ。
知り合ったばかりでいけしゃあしゃあと言ってのけるカミュのその言葉を流し、俺は黙って続きを促す。
「んもう、ノリが悪いんだらぁ。……その子はキョウ君と同じくらいの歳の男の子なんだけどね、1年くらい前にこの国にやって来たんだけど、そこで当時のうちの軍の小隊長たちに挑戦状をだして、しかも軒並みその巧みな剣技で打ち破っちゃったの。あれは流石のワチシも惚れかけたわねぃ♡」
俺は魔法に関してがメインのチート能力だったけど、そいつは剣技がメインのチート能力か。
「それで、その報告を受けた国王がその子のことを気に入っちゃってねぇ、今ではミラドリア王国軍の最高戦力なのよん。名前は確か………タクミといったかしらねぇ?」
知りたかった転生者の基本情報は手に入った。
だけど、それがどう街の様子の違いにつながってくるんだ?
「ここからが重要よ♡国王の直轄で、4つの街をそれぞれ担当するNO.2のポジションの「街長」って人がいるんだけどねぃ、ある時ここ東街の街長がタクミ君に不用意な発言をしちゃったの。」
「不用意な発言?」
「東街長は街長たちの中で唯一"開都派"に属しているんだけどぉ、国王の信頼を得て政治の方にもちょっかいを出し始めたタクミ君の急進的なやり方をすこぉし諌めちゃったの♡」
「まってくれ。"開都派"っていうことは、同じ王都の中でも派閥がいくつかあるのか?後『急進的なやり方』って何をその転生者はしてたんだ?」
俺は混乱する頭を整理しつつ問いを重ねる。
「あ、説明してなかったわねぃ。"開都派"って言うのは、ヒト以外の種族も王都に受け入れようって考え方の人たちねぇん。東街長のピリオンさんをはじめ、東街の人たちは大概この考え方よ。かくいう私もね♡」
バチョンと下手くそなウィンクをまた飛ばすカミュ。
トゥンクの街で聞いていた通りだと、ほぼ全員が獣人排除派だと思っていたので、俺は少し安堵する。
「他だと、第3王女のマリア様もどうやら開都派らしいっていう噂も流れているわねぃ。ま、ほんとかどうかはわからないけどね。」
「マリア様って……あの時会った人ですか!?」
カエデが声を上ずらせながら言う。
「あらん?王女様に会ったことあるのぉ?」
「まぁ、行きがかり上……」
俺は言葉を濁す。
なんとなくだけど、あんまり人には言ってはいけないような気がする。
「ふぅん、まぁいいわん♡……それで、タクミ君は獣人を認めない"保守派"の代表たる存在でね……。獣人を見かけたら即刻投獄っていうことしてたの。ひどいでしょ?プンプン。」
頬をぷくーっと膨らませてわざとらしく怒りを表現するカミュだが、その目は本気で怒りを示していた。
「それを腹に据えかねたピリオン東街長が出会った時につい、ほんとについポロっと
『獣人いじめは楽しいですかな?』
って皮肉を言っちゃったらしいの。そしたら、次の日から露骨に嫌がらせがはじまったのよぅ。」
ニッコリと笑うカミュの首元には、ぴくぴくと青筋が浮き出ていた。
「具体的に言えば、例えば王城からの配布金を異常に東街だけ少なくしたり、整備開発を東街以外で進めたり……。他にもあげればきりがないわねぃ。」
「ネチネチ気持ち悪ぅ……。」
目を伏せていたモミがポソリとそう呟く。
「あら、やっと喋ってくれたわねぃ?そっちの小娘ちゃん♡」
モミに向けられた、ねっとりとしたカミュの視線を俺は手を入れて遮る。
「王様は何も言わないのか?」
「王様は王様で保守派と同じ考えだからねぃ……。黙認してるってワケ。」
「だからこんなことになっているのか?」
「ワチシたちも東街は東街で団結してはいるんだけどねぃ。ぽつぽつと他の西南北の街に行く人も出始めたのよん。結局、こうなっちゃってねぃ……。」
カミュがそう吐露する。
「なるほど……。」
俺はそう言うと、隣に座るモミの肩が小刻みに震えていることに気づく。
「大丈夫か、モミ?」
「う、うん。大丈夫だよ……。」
硬い笑顔でそう言うモミ。
「そう小娘ちゃんが気に止むことはないわよん♡これはワチシたちの問題だからねぃ。」
そんな空気を笑い飛ばしたかと思ったら、すぐに真顔になるカミュ。
「でもね、少し妙なのよ。」
「妙?」
「投獄されているはずの獣人たちなんだけど、投獄されていないみたいなの。」
「ど、どういうことだ?」
混乱する俺。
「普通の牢屋にはいないみたいなの。一度こっそり軍の目から逃れて、東街の人で見に行った人がいたんだけどねぃ、そこには獣人は誰1人としていなかったって。」
「王都の中にはもういないんじゃないのか?」
「うーん、それも違うわね。でていくのをワチシも含めてみんな見たことないって言ってるし……、多分まだ王都の中にはいるわねぃ♡」
どういうことだ?
俺は熟考する。
牢屋に入れているはずなのに、牢屋にはいない。かといって、王都の外にでているわけでもない。
転生者のタクミとかいうやつと、何か関係はあるのか?
少し気になる。
「ちょっと調べさせてくれないか?」
俺がそう言うと、急に破顔するカミュ。
「やっぱり、キョウ君ならそう言ってくれると思ったわん♡私の目に狂いはなかったみたいねぃ。むしろ、こっちからお願いしたいぐらいだったから、今全部ぶっちゃけちゃったのよん♡」
「俺が保守派のやつらと同じ考えだと思わなかったのか?」
「あら、長年宿屋をやってるんだし、人を見抜く目くらい自信があるわよん♡同じ転生者でも、キョウ君の目には、『優しさ』がある。」
ふっとオネェ口調ではなく、普通の口調になってそう言うカミュ。
「お願いだわん、お願いを聞いてくれないかしら?ワチシたち東街の人は変な動きをするとすぐに軍のマークがついて、思うように動けなくなっちゃうから……。どうかワチシたちを、いや、獣人たちを助けてちょうだい!」
そう懇願するカミュに、俺はぐいっと顔を近づける。
「あ、あら?そんなに顔を近づけられると……♡」
「カミュ。」
動揺するカミュを無視して俺は言う。カミュの懇願に対するアンサーは当然、
「まずは、東街の街長さんと話させてもらえないか?」
カミュよりは数倍上手いと自負するウィンクをカミュにして、俺はそう頼んだ。
もしタクミとか言う転生者の仕業だったら、俺がそんな馬鹿みたいなこと、即刻暴いてやめさせてやるからな。




