第21話・疑念と感傷
おいおいおい……。
たしかに異世界転生ものラノベではこういった展開はテンプレだけど……。
いざ自分がその状況に陥るとなんとも、いやはやどうしましょうかね……。
あぁ、あの俺の好きなラノベの主人公はどうしてたっけ?
「マリア様がご決断されたのなら私は反対はしませんが、この方々に話してどうなさろうとお思いですか?」
俺が混乱している間に、グラムウェル執事が話を進めている。
「あっ、そう言われてみればそうですね!」
パンと手を叩くマリア王女。
「私としたことが、つい獣人の方に出会えたため、我を忘れてしまいました。申し訳ございません。」
「はぁ……」
「さっきのは忘れてください。ただ、獣人についていろいろとあるのは知っていますよね?」
「はぁ……。まあ知ってますけど。」
「それならよかったです。見たところ、金級冒険者の方のようで、おそらく腕には自信があるのではと思います。一応、ご忠告までに申し上げますと、そちらのお2人の耳と尻尾は隠されることが賢明かと思われます。」
「いえ、わざわざご丁寧にどうも……」
「でも、いつかそんな状況、私がきっと変えてみせますので。」
そう言うマリア王女の美しい翡翠の目に、一瞬強い意志が宿ったような気がした。
「とにかく、今日は本当にありがとうございました。その後もいろいろとご迷惑をかけて……。お詫びと言ってはなんですが、これを受け取っては頂けないでしょうか?」
そう言ってマリア王女がドレスの懐から取り出したのは、1枚のコインであった。
細部まで丁寧な装飾が施されており、庶民の俺の目でも一目でお高いものだとわかる。
「王家のコインです。もし何かあったらこれを使うといいでしょう。」
そう言って差し出されたコインを、未だ要領を得ていない俺がおずおずと受け取る。
「ではまた御縁があればお会いしましょう。本当にありがとうございました。」
そう言い残すと、グラムウェル執事とマリア王女は馬車へと戻り、そして王都の方へと走り去っていった。
「ねーねー、獣人がどうかしたの?」
ぼーっとその馬車が視界から消えていくのを眺めていた俺に、モミが無邪気に聞いてくる。
「あぁ、2人が可愛いって話だったかな?」
俺ははぐらかす。
一段と傷の深いモミには特にまだ知られるわけにはいかなかった。
「えっ、えっ、可愛いなんて……」
モミに言ったつもりなのに、なぜか事情を理解しているカエデが混乱している。
「ふふーん、可愛いって言われちゃった。そうかそうか、それならしょうがない。」
モミもニコニコしている。
ひとまず難を切り抜けた俺は、珍しく仲良く2人向かい合ってニヤついているモミとカエデを視界から外し、あの馬車が消えた方角を見やる。
あの王女様には、不審な点が多すぎる。
護衛をつけないのもそうだし、やたら獣人の件に言及してくるのもそう。
第3王女で異端だと自らは言ってたけど、いくら異端でも王族は王族だ。
護衛なしなんてありえない。
というか、マリア王女も、グラムウェル執事も特に獣人に対して嫌悪感を抱いている様子はなかった。むしろ、心配してくれたほどである。
王族が差別していないのに、国民は差別しているのか?
それが、異端と呼ばれることに関係があるのか?
疑問は尽きないが、いよいよ夜の帳が下りそうである。
おれは胸に残った疑念をそっとしまい込んだ。
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「んー、ほひひい!!」
モミが口をパンパンにさせながらそう叫ぶ。
盗賊退治を終えた後、俺たちは本来の目的であった、そこの草原で夜営をすることにし、今は夕食を食べていた。
「ふふん、私の腕を舐めてもらっては困ります。あの『おやじの気まぐれ亭』にも負けない出来栄えだと思いますよ!」
カエデが言う通り、たしかにこの『萌葱大烏賊飯』は、あのガロフさんの店で食べたのと遜色ない美味であった。
「カエデがこんなに料理上手いなんて知らなかった!ちょっと見直したかも。」
ごくんと嚥下したモミがそうカエデを褒める。
トゥンクの街にいた時から思っていたが、やはりカエデは料理が得意らしい。
意外な才能、ここにありである。
「ふふん、もっと褒めてください。」
ぶんぶんと尻尾が振られる。
「べ、別に褒めてるわけじゃないよ!」
悔しさからか、顔を真っ赤にしてまくし立てるモミ。
…料理を口に運ぶ手は止まってはいなかったが。
「…しかし、ほんとにこの烏賊、空飛んでたなぁ…」
俺も口にその奇っ怪な色をした烏賊を運びながら、そう呟く。
萌葱大烏賊は夜行性らしく、気づくとこの草原でも月明かりに照らされながらふわふわと飛んでいた。
それを片っ端から捕まえ、料理にしてもらった次第である。
「烏賊って空飛ぶんですね…。改めて何か常識が根底から崩れていってる感じです…。」
カエデもそう呟く。
すっかり順応したように見えるが、俺たちはまだこちらの世界に来てから数日しか経っていない。
正直、元の世界が恋しい気持ちは各々が持っている。
しばらく静寂の時が訪れる。
それを破ったのは、モミの声だった。
「もう、しんみりしちゃダメ!せっかくモミもカエデもウキョウと話せるようになったんだから!それだけでもいいと思わないと!」
「それはそうですね!私もそう思います。珍しくモミにしてはいい意見です!」
「ん?珍しいとは何よ、珍しいとは!?」
「え?そんなこと私言いましたっけ?(棒)」
「棒読みはやめろーーー!」
と、思ったらすぐにこの有様……。
いつもの2人のやりとりに、感傷的になっていた気持ちが少し晴れる。
「あっ!ウキョウが笑ってる!」
「キョウさん、笑ってないでモミをなんとかしてくださいよ!」
「モミじゃなくてカエデをなんとかして!」
互いにつかみ合ったまま、2人がこっちを見てくる。
たしかに、モミの言う通りかもしれない。
まだまだこの世界には慣れていないし、危険も沢山ある。
でも、この世界で始めて得た喜びもある。
俺も、ずっとみんなと喋ってみたいと思っていた。
大きなことから、それこそ日常の些細なことまで。
そんなことを喋れたら、どれだけ楽しいのかをいつも考えていた。
それが、この世界ではできる。
俺の脳裏に、あのねっとりした話し方の女神の顔が浮かぶ。
……不運で死んだ俺への、これは神様からのプレゼントなのかもしれないな。
「喧嘩はやめい!」
感傷を振り切るように叫んだ俺の声は、満点の星空に大きく響いたのだった。
いつもありがとうございます!




