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剣と魔術と 天使 の世界で  作者: hisa
出会いと再会
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2/12

御伽話と、『私』の話


 御伽話をしてあげる。


 え?……もう。子供扱いなんてしてないよ。

 これは『お伽話』と言っても、私たちのご先祖様たちのお話。

 わかりやすくして語り継がれてきた、大事な大事なお話。


 誰でも知ってる、始まりのお伽話。

 だから、思い出すかもしれないでしょ?


 目を閉じて。

 想像して。

 聴いて。





【昔々、私たちのお爺さんお婆さんの、お父さんお母さんが産まれるよりももっとずっとずっと、ずーっと昔のこと。


 人々は、今私たちが住んでいる場所とは別の、広い広い大地に住んでいました。


 陽の光が差し、山があり、森があり、川は流れ、海は緩やかに波をたて、風は優しく吹く、そんな場所でした。


 そこで知恵や道具を使って、皆それぞれ暮らしていました。


 しかし、決して平和ではありませんでした。


 ある時から、『魔獣』と呼ばれる恐ろしい怪物が、世界中に現れ始めたのです。


 炎の魔獣は人里を焼き、

 海の魔獣は村々を飲み込み、

 霧の魔獣は人々を溶かし、

 森の魔獣は人々を食らい、

 山の魔獣は土地を押し潰し、

 毒の魔獣は土も水も毒に変え、

 鎧の魔獣は人々を狂わせ、

 血の魔獣は全ての生き物を操ってしまいました。


 一体どこから来たのでしょうか?

 何故人々を襲うのでしょうか?


 それは誰にもわかりませんでした。


 人々は知恵や道具や魔法で、なんとか土地や家や大事な人たちを必死に守って、怯えながらもたくましく生き続けました。


 魔獣たちと戦える武器や方法も、少しずつでしたが編み出していっていました。



 ところが、そんな最中。

 それまでの全ての魔獣よりもずっと強く、全ての魔獣を従えてしまう、『夜の魔獣』が現れてしまいました。


 『夜の魔獣』の闇は深く暗く、とても恐ろしいものでした。

 それまでなんとか戦えていた人たちも、『夜の魔獣』には勝てません。


 どうにか立ち向かえたのは、広い広い世界の中で、たったの三人だけでした。


 一人は西の外れの国の王様。

 一人は世界中を旅する戦士。

 一人は最も賢い魔法使いで、アダムという名前でした。


 アダムにはきれいな奥さんと、かわいい三人の子供がいました。


 アダムは王様と戦士を呼んで、相談しました。


 『私一人だけならば戦えるが、家族を守れるかはわからないのです』


『しかし私は家族を必ず守りたい。だから、遠く遠く、魔獣たちが追ってこられない土地に逃げようと思う』


『そのための魔法の扉を、今作っている』

『君たちも行こう』

『一緒に行きたい人がいるなら、誰でも何人でも、連れて来てくれて構わない』


『共に逃げて、新しい土地で生き延びよう』


 それを聞いた二人は、それぞれ一緒に行きたいと思う人に声を掛けました。


 王様はまず、友人を誘いました。

 王様の国で一番の力持ちでありながら、とても優しく、何でも相談出来る心強い友人でした。

 友人がいれば、王様に怖いものなど何もなく、友人も同じでした。

 国をずっと守ってきた仲間でした。


 戦士はまず、弟子を連れて来ました。

 東の国の旅の途中で、森の魔獣に襲われていたところを助けた少年でした。

 それから戦い方や勉強を教えてきていました。

 ずっと一人で旅をしてきた戦士にとって、家族のような男の子でした。


 三人は他にも声を掛け合いました。

 魔法の扉が出来上がる寸前には、たくさんの人々がアダムの家の周りに訪れていました。


 しかし、『夜の魔獣』が、そんな人々を追いかけてきてしまったのです。

 他の魔獣も引き連れて、襲いかかってきました。


 扉を壊されてはいけないと、戦える人たちは必死に抵抗しました。

 王様も、王様の友人も、戦士も、戦士の弟子も戦いました。


 たくさんの犠牲が出てしまいました。

 しかし、絶対に魔獣を魔法の扉には近付かせませんでした。


 そしてついに魔法の扉は完成し、アダムは叫びました。


「さあ、早く逃げよう」


 アダムは家族と、傷ついた人たちを先に行かせました。

 王様の友人は、渋る王様に人々を導くよう言って行かせました。

 他の人たちも、次々と扉をくぐりました。

 戦士は、そんな彼らを守れと弟子に言いつけて行かせました。


 魔獣たちの前に残ったのは、アダムと王様の友人、そして戦士です。


 王様の友人と戦士は頷き合って、アダムの背中を力いっぱい、扉へ向かって突き飛ばしました。


 扉の向こうへころぶアダムへ、王様の友人と戦士は言いました。


「このまま私たちまで行ってしまったら、魔獣たちもそちらへ行ってしまうだろう」

「だから私たちは残って魔獣と戦う」

「そして扉を壊そう」

「魔獣が決してそちらへ行かないように」


 そう言って、戦士は弟子が止めるのも聞かずに、扉を閉めてしまいました。


 アダムは泣きました。

 戦士の弟子も泣きました。

 王様はとても怒り、そしてやはり悲しみました。


 皆の涙が二粒落ちた時、扉は粉々に砕けてしまいました。


 残った二人がどうなったのかは、誰にもわかりません。


 ですが、二人によってアダムたちは、魔獣のいない土地へ辿り着くことが出来ました。


 それが今、ユーモレスクと呼ばれるこの場所なのです。】




 とても強くて優しいお話。

 そしてとても悲しいお話。


 これが、この世界の最初のお話。


 聞いた事ない?

 小さな子でも、誰でも知ってる話なの。


 ーーー…………ーーー


 そう。


 ううん、ごめんなさい。

 もしかしたら、と思っただけなの。

 あなたが気に病む事はない。


 それに。


 これからをもう忘れなければ、良いだけだもの。


 恥ずかしい?

 あなたもそんな事を思ったりするんだ?


 からかってなんかいない。

 少し、嬉しかっただけ。


 …………。


 あのね?


 このお伽話には、続きが三つあるの。

 アダムの家族たちの話と。

 王様と弟子のお話と。


 全く別の立場の話。



 全部繋がっているの。


 ……違うの。お話じゃなくて。


 ーーー『私』に。

 

 ごめんね?

 思い出すかもしれない、と思ったのは本当だけど……実は半分。


 もう半分は…………


 貴方に知っておいてもらいたくて。

 それで、決めて欲しくて。





 ……ねぇ?

 続きも、聞いて、くれる?




 『二人の天使』の、お話。






===========






「……天使信仰って、本当にいるんだ……」


 信じられないと目を見開くトゥシャルレイに、ラインは鞘の刺繍を撫でた。


「首都は鉄壁だからな。実感ないのは仕方ないか」

「でもさ、何でその、天使?を信じてる人たちが暴れる訳?」

「…………教わってないのか」

「何か、時々事件を起こしてるって事はちょこちょこ聞いた、かな?

 何だっけ?大昔の人たちが、怪物に追われて、天使の住んでるこの大陸に逃げて来たんでしょ?」

「そう。で、まあ……自分の住処に、断りもなく入ってきた人間が好き勝手やり始めたもんだから、ブチ切れた」

「一気に俗っぽいんだけど」


 多少神妙に聞いていたトゥシャルレイが、瞬時に引きつった顔になる。


「わかりやすければいいだろ。それで、天使たちが人間を滅ぼそうとした」

「滅ぼす?何で?追い出そうとしなかったの?」

「自分の部屋にゴキブリが入ってきて、そっと捕まえて外に出す奴なんて、どのくらいいる?」

「え、いや……ちょっと、それは…………って、そんな認識なの!?」

「天使にとっては、な」


 言い捨て、ラインは剣を撫でてゆき、柄に指をかけて擦った。


「その天使にこの大陸を返すべきだって言ってるのが、天使信仰。

 で、最初に大陸に逃げ込んで来た人間の直系が」


 そこで言葉を切り、ラインはトゥシャルレイの顔を見た。

 指そうと上げ掛けた人差し指を、数秒フラリと揺らして、すぐに引っ込めて握る。


「貴族。連中にとってみたら元凶なんだよ」


 ラインが言い切ると、トゥシャルレイは目を丸くした。

 数秒ほど、そのままぱちくりさせてから、口をへの字に曲げる。


「とばっちりじゃない」

「そうだよ。完全にとばっちりだ。でも連中にとっては、親の仇よりも憎い対象になる。

 俺が運が良かっただけだって言ったの、わかったか?」

「わかったけど」

「けど?」


 まだ何かあるのか、と見ると、彼女は腑に落ちない顔で首を傾げてみせた。


「貴族だって、どうやってわかるの?」

「見た目」

「みたっ……はぁ!?」


 無理もない返答に、トゥシャルレイは素っ頓狂な声を上げる。

 ラインはそれも想定済みとばかりに、思いつくものを連ねながら指を折った。


「肌は日に焼けていないか、髪は手入れされてるか、服や持ち物の質、靴のすり減り方、体型、歩き方、仕草、話し方、物の食い方……思いつくのはこの辺りか。

 ああ、あと金髪に碧眼なんかだと、真っ先に狙われたりするらしい」

「ほとんど思い込みじゃない!!」

「そうだ。ただの思い込みで、本気で殺そうと襲ってくる」


 先ほどとほぼ同じように肯定すると、さすがにトゥシャルレイは呆気に取られた。

 無理もない。

 貴族と言っても、ひと目でバッチリわかるような人間など稀な上に、そういった貴族の人間は安全圏から出る事はほとんどない。


 数年前ならば、政治に関わる貴族たちの移動を狙うなどあったが、今は軍警察が設立した、専門家の魔術師たちで結成されたメッセージセンターが各地に建っている。

 危険を冒して郊外に出る者は、それこそ皆無になった。


 それでも信仰を持った彼らは止まらない。

 『そう』と判断したならば、彼らは凶器を手に走ってくる。


 例えば、少しばかり裕福な農家の夫婦が、豊作のカボチャを大きな街で売ろうと馬車で出掛けたら、その三日後に襲われた、という事例もある。


 鞘を撫でていたラインは、チリ、と僅かに痛んだ指先に眉を寄せた。


「奴らは、自分たちが絶対正しいと信じて疑わない。仲間の誰か一人でも、指を差して『アイツだ』って言ったら、全員が斧やら鉈やら振り上げてくる」


 どこか怒りのこもった声に、トゥシャルレイはたじろいだ。

 睨まれた時よりも、怒鳴られた時よりも、何か、寒気を覚える。


「……信じられない」


 どうにか出せたのは、そんなありきたりな言葉だった。


 ラインは肩を落とし、カップに注いだままだった水をグイッと一気に飲み干した。


「どうする?」

「え?」


 唐突に尋ねられ、トゥシャルレイは目を瞬かせた。


「俺は君の親父さんから、君を何が何でも首都に連れ戻す依頼を受けてる。

 だから、正直なところ、気絶させて担いで行くのが一番楽なんだが」

「う……」


 トゥシャルレイが口許をひきつらせる。

 世間知らずと言えども、頭一つ分以上の大男を簡単に放り投げた場面を見た後では、彼の発言はハッタリでも何でもないとわかっただろう。

 隙を見て全力疾走したとして、先ほど見せられたばかりの魔術で追いつかれて終わりだ。


 口を結ぶ彼女に、ラインはわかっているとばかりに瞼を伏せた。


「ただまぁ……楽は楽だが、通行人に勘違いされるのは面倒だからな。俺としては、大人しくついて来てもらえるのがベストだ」


 コツ、と薪割り台の上にカップを置く。

 そして、ラインは人差し指と中指の二本を真っ直ぐ立てて見せた。


「ワガママを二つ、聞いてやる。

 それで大人しく俺と首都に帰れ」


 ラインのその言葉に、トゥシャルレイは今度は目を丸くした。


「……二つ?」

「そう、二つ」

「普通、一つじゃない?」


 気にするのはそこなのか、と思いながら、ラインは手を引っ込め、額を隠すように前髪をかいた。


「……単なる気まぐれだ。

 ああ、でも一つで良いなら別にそれで」

「いっ、いい!二つ!二つね!」


 ラインの言葉を、トゥシャルレイは慌てて遮った。

 そしてそこで、しまった、と苦虫を噛み潰した表情をする。


 同意してしまったのだ。

 この男に連れられて、首都に帰る、と。


 仕組まれてしまっていたのではないか、とすら思えた。


 彼女の目の前の男は、彼女よりも歳上であるのは確かだが、青年、と言って差し支えない。

 擦り切れた鋭利なナイフのような印象を受けるのに、どこかが歪な、そんな奇妙さが垣間見えた。


「よし、ならまずは街道に戻って」

「待って!」


 腰を上げようとする彼を、トゥシャルレイは手で制した。


「一つ目。わたしが行こうとしてた、バディヌリー聖堂に連れて行って」


 ラインの紅い瞳が、キュッと引き締められる。


「さっき言ったよな?壊滅したって」

「わたしも言ったでしょ?信じられないって。

 危ないとか言うなら、遠目から見られる所まででも良いから」


 澄み切った蒼玉のような双眸を、彼女は出来る限り鋭くして彼に対抗した。


「父さんが雇ったんだもの。

 もしそのおかしな人たちが来ても、貴方がいれば何とか出来る。そうなんでしょ?」

「…………」


 今度は、ラインが呆気に取られた。

 挑戦的な、挑発的な物言いと目。どうだ、と言わんばかりの口。


 それは、『令嬢』というイメージからは、遠くかけ離れたものだった。


 ラインは、上げようとしていた腰をドカッと下ろして、深く深くため息をついて下を向き、額に掌をあてがった。


「……あぁ……まぁ、そうだよな」


 ポツリと呟いた言葉は、トゥシャルレイには聞き取れなかった。

 だから彼女は、彼が「やれやれ」だとか「まったく」だとか言ったものだと思い込んだ。






==========






 御伽話をしてあげる。


 そう、この前話したお話の。


 正しく言うとね?続きではないの。

 だけど、とても大切なお話。


 『私』の、お話。



 最初のお伽話の、もう一つのお話。

 『二人の天使』のお話。




【いつかもわからない、

 どこかもわからない、


 ただ、世界を創った誰かの声を聴く事が出来る場所。


 そこには天使たちが住んでいました。


 天使たちは全て等しく清らかな姿で生まれて、世界を作った誰かの声を聴いていました。


 平等な世界。

 争う事も、羨む事も、蔑む事も、何もありません。

 天使たちは誇らしく思っていました。

 醜い事は何一つない事を。


 世界を作った誰かを、天使たちは『主』と呼んでいました。


 『主』は、別の世界を二つ創られました。


 その一つに、私たち人間が暮らし始めました。

 天使たちは私たちのその様子を眺めては、笑い、哀れんでいました。

 無知でか弱い姿で生まれ落ち、限られた中で力を得ても、やがて必ず朽ちてゆく。

 彼らとは異なる、不完全な存在。


 天使たちは眺めていました。

 人間たちは、幼い内は何も出来ない。他者と意思疎通すら叶わない。

 新しい物を作り出しては、また別の何かを作り出す。

 土地や権力や財を求めて求めて、果てしなく求めて争う。

 求めたものをようやく手にしたとしても、それを手にし続ける事なく土塊になる。


 なんて無為な。

 異質な存在なのだろうか、と。


 それでも天使たちは、ずっと眺めていました。


 やがて。


 人間の住む土地に、恐ろしい『魔獣』が現れたのです。


 いくらかの知恵や道具を手にしていても、人間たちになす術はありません。

 もがいてもがいて、一部の人間が使えるようになった魔法でも、『魔獣』の大きさや力、数には対抗しきれません。

 『魔獣』は、恐れ逃げ惑う人間たちを、容赦なく襲ってゆきました。


 驚いたのは天使たちだけではありませんでした。

 『主』もたいへん驚き嘆きました。

 逃げ惑い、苦しむ人間の姿に、とても心を痛められました。


 そこで、『主』は天使たちの中でも、とびきり力を持った二人を、自分の目の前に呼び出しました。


 一人はルシフェル。

 星々のような銀色の髪の、剣と盾を持った天使でした。


 一人はミカエル。

 太陽のような金色の髪の、天秤と鍵を持った天使でした。


 『主』はこの二人の天使に言いました。


 「人間たちのもとへ赴きなさい。


 ミカエル。お前の天秤で彼らを測り、必要ならばその鍵を使いなさい。


 ルシフェル。お前の盾で彼らを守護し、必要ならばその剣を振るいなさい。


 私は、私自身に課した制約により、動く事は出来ないのです。


 お前たち二人が、見定めて決断しなさい」




 二人の天使は、『魔獣』に怯える人々のもとへ向かいました。


 美しい姿を隠して、人々と同じように歩き、様々な人々を見て回りました。


 そして。


 魔法の扉を作り出して逃げようとしている、アダムたちと出会いました。


 ミカエルは怒りました。

 『主』が与えた土地を棄てるなど、あってはならないと、アダムに叫びました。

 それまでの旅の中で、幾度も天秤で計り続けてきた彼は、人間に呆れ返っていたのです。


 ルシフェルは憐れみました。

 『魔獣』はあまりにも残酷で恐ろしい。

 それでも懸命に戦い抗い続けてきた彼らを、尊く思えてきていたのです。

 そして『夜の魔獣』に勝てる者など、誰もいないと理解していました。


 そんな中。


 アダムたちが魔法の扉を完成させました。


 ミカエルは一人も通さずに、扉に二度と開かない鍵を掛けようとしました。


 しかし、ルシフェルが盾でそれを防ぎました。


 ミカエルは驚きました。


 ルシフェルはさらに、自分の剣を、アダムの子供たちに渡し、早く逃げろと言いました。


 ミカエルは怒り狂いました。


 それはしてはならない事だと。

 あってはならない事だと。


 しかし、ルシフェルは動かず、盾はびくともしません。


 ミカエルは問いかけました。


「私の兄弟、何故その人間たちを助ける?

 その人間たちが何をしようとしているか、

 どこへ行こうとしているか、わからないのか?」


 ルシフェルは問いかけました。


「私の兄弟、お前こそあの『魔獣』がどれだけ恐ろしいものかわからないのか?

 どうしてこの者たちが逃げる事を咎める事が出来る?」


 二人の天使の言い合いは、決して交わり重なる事はありませんでした。


 我慢が出来なくなったミカエルは、天使の姿に戻りました。

 ルシフェルもまた、天使の姿に戻りました。


 やがて、ほとんどの人間が扉を潜り抜け、残った二人の人間が扉を閉めました。


 残った人間の二人。


 旅の戦士と西の王様の友人は、残った力の全てを使って、扉を粉々に壊しました。


 自己犠牲。

 それは最も尊い行い。


 ミカエルは嘆き、ルシフェルは涙を流しました。】





 ……おかしな終わり方?


 そうだね。

 でも、知りようがないんだもの。


 私たちは、逃げ出したアダムたちの子どもの子どもの、ずーっと後の子どもたち。


 砕かれてしまった扉の向こうで何があったのか、わかるはずがないの。




 わかるのは……そう、その少し後の事。


 アダムと、奥さんと、三人の子供たちにあった事。


 これが、『私』に直接繋がる話になるの。

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