プロローグ
剣と魔術の、異世界ダークファンタジー。
戦闘描写あり。流血描写あり。
苦手な方はご注意を。
私は、19歳で死んだ。
正確にはまだ死んでいない。
けれどもうすぐ死ぬだろう。
大きな穴があいた腹を、無理やり魔術で塞いだとしても、そこから回復させる術はない。
失われた血液は戻らないし、致命傷を受けた身体には、それを補える力が残っていない。
だから私は、残ったわずかな時間でやれるだけの事をした。
単なる思いつきだった。
無駄かもしれなかった。
そして、それはとても酷い事だった。
けれど悩んでいる時間は私にはなくて。
私はその思いつきをやり遂げた。
正直なところ、うまくいったのかはわからない。
確かなのは、
彼は生きている。
それだけだった。
それだけを見届けて、
私はゆっくり目を閉じるだけ。
それで終わりになる。
……はずだった。
彼はそれを許さなかった。
文字通り、瓦礫と化した。
まだくすぶる、黒い煙がゆらゆらと登っている。
たった数時間前まで、ごく普通の日常生活を営んできた人々が住んでいた家々だったもの。
民家や商店だ。
軍警察の支部もあったはずだが、もう今はどの残骸が何の建物だったのかすらわからない。
一面に広がるのは、惨憺たる光景。
そこにひときわ、丹念にすり潰したかのようになった場所。
壊され、崩され、折られ、潰され、砕かれ。
屋根や壁、柱であったであろう残骸。
カラ、と欠片が一つ転がる。
風などひと吹きすらしていないのに、砂利が小刻みに震える。
そして今度は小さく跳ねた。まるで下から殴られたかのように。
それが何度も何度も、何度も繰り返され。
バキン!と乾いた音の後に、扉だったであろう板の破片が弾け飛ぶ。
そこから、彼が腕を出した。
「……ハァ……ハッ……」
爪は欠け、皮膚は裂け、血と泥でドロドロに汚れた、そんな手でずっと土と瓦礫をかき分けて。
どうにか地下から這い上がって来てた彼。
ほとんどぼろきれと化した服も、最後に折れた柱の先に引っ掛けてビリビリと破れて落ちる。
「…………」
彼は周りを見渡し、そして視線を下に向けた。
おびただしい瓦礫、瓦礫、瓦礫。
その隙間に……手が見える。足が見える。
赤い跡がついた壁の一部だった物が、そこでの凄惨な殺戮の様子を物語っている。
ただ。
彼は一度だけ、泣きそうに顔をしかめて奥歯を噛んで、もうすぐ死ぬだけの私を引き上げた。
「……死なせない……」
血に塗れた私の銀色の髪ごしに、彼の鳶色の髪が見える。
その鳶色の髪の向こうに、彼の瞳がわずかに見えた。
「……死なせない……」
つい数時間前まで、その瞳も髪と同じ、綺麗な鳶色だった。
私は彼の鳶色の髪と目が好きだった。羨ましかった。
何度、私もそんな色だったら、と思っただろう。
しかし、今の彼の瞳は、全く違うものになってしまっていた。
……ああ。
私は、なんて惨い事を。
一言でもいい。謝りたい。
しかし、乾ききった唇から出るのは、掠れた弱い呼吸だけ。喉を震わせる事も出来なかった。
「死なせて……たまるか……!」
その時、彼は近くの地面の瓦礫をいくらかどけていた。
地面がほとんど埋まるほどの木片、ガラス片、石片を、傷だらけで泥にまみれた手で次々とどかしてゆく。
やめて。
破傷風になってしまう。
そうはならなくとも、指がおかしくなってしまう。
だから、やめて。
思っても、伝える事が出来ない。止める事が出来ない。
「…………っ」
彼は時折、何かを見つけては唇を噛んでいた。
私と彼と妹たちとシスターたち。昨日まで皆が過ごしてきた建物の残骸。
きっと昨日までの何かを思わせる物が、掘り出した先にあったのだろう。
しばらくして、彼は人間1人分が横たわれる空間を作り出し、そこに私を寝かせた。
そして、見かけだけは塞がっている私の身体に手をあてた。
「…………ハァ……」
目を閉じて、集中する。
彼の魔力と空気中の魔力が結合していくのが、感覚でわかる。
「……【code:9dc04c=stYG】」
治療の魔術。
彼は諦めていなかった。
治癒と言ってもそれは、活性化を促すだけなのだから、今の私に施しても何もならないのに。
少し熱くなっただけの私の身体。
せっかく丁寧に編み上げた魔力が虚しく散る。
「ーーーッ!!」
絶望と悔恨に顔を歪ませて、彼は吠えた。
もうすでにボロボロの拳を、すぐ隣の柱だったものに、何度も何度もぶつけて。
彼の呼吸が荒くなる。
疲れたでしょう?
休んでちょうだい。
そんな事すら伝えられなくて、歯痒い。もどかしい。
何度か彼のその呼吸を聞いていると、不意に彼が顔を上げた。
絶望に歪んでいた目が、一筋の光を見つけたように。
「そうだ」
何を思いついたの?
「行こう」
私を背負い、彼は歩き出した。
まだ大人になりきっていない彼の背中は、小さく震えていた。
私の腕を両肩に乗せて、私の足を持ち上げて、一歩一歩足を踏み出していく。
途中、カーテンかテーブルクロスだっただろう布切れを、さらに破って紐代わりにして、私の身体と彼の身体をギュッとくくり付けた。
「……大丈夫。助かる、助かる」
私に言っているようには聞こえなかった。
まるで彼は、自分自身に言い聞かせているかのように続けた。
「前に来た、軍警と……あの、魔術師」
ガクン、と身体が揺れる。
足場が悪くて、彼が転びかけたんだ。
「大丈夫……助かる……」
お願い、無理しないで。
貴方も酷い怪我をしてるのに。
「ここを……抜けて……北に、行けば」
そんなに遠くまで行かなくていい。
私はもたない。
貴方だけ、ここから離れれば、それでいいの。
「レイビィ」
私の、名前。
もう呼ばなくていいのに。
「必ず、助けるから」
貴方は逃げて。
生きて。
天使たちに見つからないように。
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澄み渡った空。
優しくそよぐ風を押し除けて、爆発音が響く。
次いで、ボチャン!と大きなものが川に落ちる音。
一瞬の突風のような光景に、小柄な少女が目を見開く。
彼女はつい先ほどまで、個人経営の乗り合い馬車の御者から、理不尽な追加料金を迫られていた。
傷み一つないふわふわとした栗色の髪に、健康的なつるりとした肌。持ち物は華美ではないが、どれも良質な物。
そんな様子のたった17歳の少女が1人、街道外れの道を行く馬車に乗ったのだ。トラブルになるな、と言う方が無理がある。
しかし彼女は、見た目によらず負けん気が強かった。
自分の2倍はあろうかという、筋骨隆々たる男相手に、ふざけた事を言うなと真っ正面から反発した。
店で提示されていた料金表や注意事項を引き合いに、男が要求してきた事がまかり通る道理がない事を、護身用の短刀しかない事などすっかり忘れて叩きつけた。
小さな少女相手に、そんなふうに鼻っ柱をへし折られたごろつきが、手を上げないはずがない。
そこに、ラインは無言で割って入っていった。
長身の部類に入る彼より頭一つ大きい男の腕をねじり上げ、魔術一つで文字通り投げ飛ばした。
時代錯誤な長剣を背負った青年が、唐突に間に入ってきた事で、御者の男は面食らって何の抵抗もしなかった。
見事な放物線を描いて川に落ちた今でも、自分に何が起きたかわかっていないだろう。
水しぶきが舞う中、放置されていた馬車の馬が、神経質に蹄を鳴らした。
「……ったく、何やってんだか」
吐き捨てて、ラインはその紅い瞳で少女を見下ろした。
「トゥーシャ。ンな辺鄙なトコでボッタクリに遭うんじゃねぇよ」
「えっ?……は?」
少女は大きな碧眼をぱちくりさせた。
ところどころ擦り切れたジャケットもズボンも、首から下はほとんど黒。
髪も黒に近い鳶色。
そのせいか、瞳の紅が際立つ。
ひと目見たら忘れそうにない風貌の青年。
だが、少女には全く覚えがなかった。
「誰?何で?」
「ん?…………ああ、そうか」
ラインは面倒くさそうに、掌で額を押さえつけて前髪をかいた。
「ライン・ウィスカニア。『請負人』だ」
「『請負人』?」
「ああ、今じゃあ色んな意味があるが、俺は『依頼人から特定の依頼を受けて、そいつを果たして報酬を貰う』旧版の請負人だ。
例えば、お前の親父さんから『家出娘を連れ戻してくれ』って依頼とか」
「なっ」
そこで少女は絶句した。
ややあって、少女はギッ!と彼を睨む。
……幼さの残る大きな碧眼では、何の迫力もないが。
「わたしは家出娘じゃないわ!」
「…………勝手に学校に休学届け出して、明け方にコッソリ屋敷を抜け出す跳ねっ返りは、家出娘だろ」
呆れ顔で、ラインは少女の手首を掴んだ。
「おら、帰んぞ」
「嫌よ!大体、貴方がホントに父さんに頼まれたのかも怪しいじゃない!」
「その警戒心を、あの馬車に乗る前に何で発揮しないんだ」
「こっちに行くのがアレしかなかったの!」
「家出なら、せめて都市部に向かえよ。ンな辺境じゃなく」
「だから!家出じゃない!妹を探してるの!!」
そこで。
ラインはピタリと止まった。
「………妹?」
「そうよ、妹!金髪の可愛い子なんだから!」
彼は赤い双眸を見開き、少女を見下ろす。
「…………カレン」
「え!?」
ポツリと彼の口から漏れ出た名前に、少女がすぐに反応する。
そしてラインは、しまった、とばかりに目を逸らした。
「知ってるの!?カレンデュラはどこにいるの!?」
今度は少女の方が彼に掴み掛かる。
と言っても、身長が彼の胸元までしかない彼女がそうしても、服をガクガクと引っ張るだけであったが。
「そう言えば、アタシのあだ名も知ってたわよね!?父さんと本当に知り合いなの?カレンはどこ!?」
早口でまくし立てる少女に、ラインは奥歯を噛んだ。
前髪をガリガリとかいて額を押さえ、ため息をつく。
「……レイクさんも人が悪いな」
視線を外しての、ごく小さな呟き。
少女はきょとんと見上げた。
そして彼は、やや芝居掛かった手振りでパッと両手を上げた。
「家出娘は訂正する。悪かった。
それで……妹?は、知ってはいる。が、今どこに居るかまでは知らない」
「…………そう」
明らかに肩を落とす少女。
気まずい空気が流れる。
すると、川の方からブクブクと音が聞こえ、ややすると今度はバシャバシャともがく音が聞こえてきた。
「さっきの奴、起きたな」
「あ、そう言えば……」
彼女も忘れていたらしい。
「面倒だ。いくらか話も必要だろう。少し離れるぞ」
そう言うや、ラインは少女を担ぎ上げて肩に乗せた。
「え、わ!?わ!?」
突然の事に混乱する少女を放って、ラインはつま先で地面を2回、3回軽く叩いた。
「【code:a0d8ef=skB】」
チカチカ、と周囲に青い粒子のようなものがまたたいた。
かと思うと、少女は自分の体が急激に軽くなった感覚に目を丸くした。
そこで思い出す。
先ほど彼が、御者を吹き飛ばして川に放り込む寸前も、聞い慣れない何かを口にして、そしてやはり、何かがチカチカと光っていた。
見るのは、多分初めてだが、知っている。
「魔術……」
「口閉じてねぇと舌ァ噛むぞ」
「え、わぁ!?」
トン、と今度は一つ。
ラインは地面を蹴った。
それだけで、彼ら2人の姿はその場からかき消えた。
馬の早駆けよりも速く、道を、木々の間をすり抜けてゆく。
少女は恥などは後回しにして、ラインの首にしがみつくしかなかった。
周りの景色が、乾ききらない絵の具を引っ張ったようにしか見えないほどの速度。
そのスピードで、一体どれだけ駆け抜けたかは、少女には見当もつかない。
またも、チカチカ、と青い光の粒子がきらめく。
すると、徐々にスピードが落ちていき、周囲の様子もしっかり見えるようになってくる。
そして、人間の走る速度まで落ちたところで停止。
ラインはまた、つま先とトン、と鳴らしてから少女を下ろした。
周囲を見る。
元々辺境の、しかも街道から外れた道だったので周りは森ばかりだったが、その隙間にポツンと建物がある。
とは言っても、かろうじて建物の体を保っているだけの廃屋だ。
屋根は半分崩れ落ち、外壁も朽ちかけて蔦が絡みついている。人がいなくなって何年も経っているようだ。
すでに板すら残っていない、出入り口の手前には、おそらく薪割り台にしていたと思われる、どっしりとした丸太が一つ。そして、赤錆だらけでボロボロのナタが転がっている。
ラインはスタスタとそこに近付き、無遠慮にそのナタを遠くへ蹴り飛ばした。
胸元のベルトを外して、薪割り台に背負っていた長剣を立て掛けると、またもスタスタと、今度は納屋だったらしいボロ小屋に向かった。
あまりに躊躇のない行動に、少女がポカンとしている内に、ラインはその納屋の中から、比較的新しい物に見えるバックパックを持って戻ってきた。
「ちょっと……いくら誰もいなさそうだからって、それ泥棒じゃない」
「コレは俺がここに隠してった俺の荷物だ」
ハッキリそう言い、ラインはバックパックの口を開けた。
そして薪割り台の上に、鈍い銅色のカップを2つ取り出して並べる。……確かにそのカップは2つとも、使い込まれてはいるが手入れのされたしっかりした物だ。少なくとも放置されていた物ではなさそうだった。
さらに今度は、錆も汚れもない、金属の水筒を取り出した。
そこでようやく、少女もこれは彼の持ち物であると納得する。
そして、彼女に飲み物を出そうとしている事も理解し、おそるおそるだが近付いた。
「悪いがただの煮沸した水だ。紅茶なんかはないぞ」
「……こんな場所でそんな事言わないよ」
チラチラと周りを見て、比較的きれいな薪を見つけ、それにハンカチを敷いて座る。
ラインは地面に直に座っていたが、そのおかげでようやく目線が公平になった。
ラインがカップの中を煽るのを見てから、少女もおずおずとカップを取り、チビ、と一口飲む。
それを見届け、ラインは「よし」と一言置く。
「あぁ、まぁ、とりあえずだなぁ……」
息を細く長く出し、先ほど少女が睨んだ時とは比べ物にならない程に鋭い目付きを向けた。
「このっ、馬鹿娘!!」
ビクンッ!と少女の体が跳ね、カップの中も大きく揺れた。
「こんな場所まで1人でノコノコ来やがって!
学校で習わなかったか!?レイクさんにも言い聞かされてねぇか!?それとも全部きれいさっぱり忘れたってか!?
お前の家は貴族連盟の一つだぞ!!」
少女は、両手でカップを持ったままグッと口を横に結んだ。
彼女自身は知らない相手だが、言われている事は至極まっとう、というか常識だからだ。
「さっきの阿呆なごろつき程度で良かったな?お前さんの素性を知ったら、嬉々として殺しに来る輩もその辺を歩き回ってんだぞ!?」
「で、でも、ここまで来るまで全然会ってない……」
「普通は!貴族の家の娘が!1人で無防備に歩いてるとか思わないんだよ!運が良かっただけだ!覚えとけ!二度とするな!!」
「う……」
辺り一帯に響き渡るほどに怒鳴られ、少女は元々小さな体をさらに縮こませた。
「レイクさんから連絡来た時は、本気で血の気が引いた」
「ね、ねぇ?さっきも聞いたけど、貴方、本当に父さんと知り合いなの?」
まだ不審そうに見上げてくる碧眼に、ラインは一瞬だけ目を見張り、ああ、と納得して自分の体を手で払った。
貴族の当主と知り合いだ、と言うには、彼の風貌は粗野に見えるだろう。
上下ともに黒を基調にした服、無骨なナイフを提げているベルトも、使い込まれてくたびれてきている。
そして何よりも。
ちらり、と少女の目が、先ほど彼が立て掛けた長剣に向く。
大戦が終わって10年以上。
一般市民は余程の理由がない限り、大仰な武器など持たない。
護身用なら彼女自身も提げている短刀や、警棒などでも構わない。
追いはぎや武装盗賊なら、短剣やクロスボウ程度は持っているかもしれない。
しかしその剣は、そういった輩が持つイメージともかけ離れた外見だった。
装飾はほとんどない。
だが武骨とも言えない。
鈍い銀色に光る鍔も柄頭も、緩やかなカーブを描いているくらいしか特徴はないのに、どこか気高くすら見える。
奇妙なのは、鞘の方だろうか。
普通は、革製や木製、高価な物ならば金属製だろう。
しかし、それはどう見てもただの黒い布だ。
織り目も粗く、所々に違う色の糸が混じった粗末な長い帯状の物。それを、刀身が見えないように巻き付けてあるだけ。
彼女の視線に、ラインはしばらく黙ってから、肩を落として言った。
「そいつはお守りっつうか……一種の迷子札みてぇなモンだ」
「迷子札?」
大仰な武器にしては、あまりにも似つかわしくない名前が出て、少女はすっとんきょうな声で繰り返した。
訝しげに彼を見つめ、そして長剣の表面をジロジロと探す様子に、ラインは短く苦笑した。
「別に名前が書いてある訳じゃない。まぁ、見る奴が見ればわかるってだけだ」
「ふぅん……」
「お前はないのか?迷子札」
「ある訳ないでしょ。……まさか名前を聞き出そうとしてる?」
「トゥシャルレイ・Fw・クティルナード」
さらに疑いの眼差しを向けてくる少女を、真っ直ぐ見ながら、ラインはその長い名前を言い当ててみせた。
「あとは何だ?親父さんの名前のレイク・D・クティルナード。執事はナギ、メイドはロベルタ。他にはー……ああ、直近の算術のテストの点数」
「!?いい!もういい!わかった!信じる!」
彼女ーーートゥシャルレイは、慌てて手のひらで待ったをかけた。
「性格わっる!」
「それはありがたい。今の世の中、性格悪いぐらいじゃないと渡っていけないからな」
「……何でこんなひん曲がった人と父さん知り合いなのよぉ」
恨みがましい目で言った後、トゥシャルレイはふん、とそっぽを向いた。
「わかったけど、アタシは帰らないわよ。言ったでしょ?妹を探してるの」
ラインの眉が小さく動く。
そして数呼吸を置き、頷いた。
「ああ、それでか」
「何が?」
「君、聖堂を廻ろうとしてんだな?それであの道か」
「そうよ。貴族の2番目の子が外に出されるなんて事なら、聖堂でシスター見習いが妥当でしょ?」
「間違ってはいないがなぁ……」
ラインはまたもため息をついた。
今度のそれは、困り果てたような、呆れ返ったような、含みのあるものだった。
「あの先の聖堂なら、もう無いぞ」
サラッと言われた事に、トゥシャルレイは噛みついた。
「何それ、馬鹿にしてる?一昨日買った地図に載ってるのよ?」
「昨日なくなった」
「やっぱり馬鹿にしてる!」
「してないよ、本当だ。出来上がったばっかりの廃墟しかないぞ」
「廃墟って……」
そこで、トゥシャルレイはハッと息を飲んだ。
さすがに気付いたらしい。
今時は子供でも知っている事だから当然か。
ラインは長剣を抱え込んで、声を低めて目を据わらせた。
「昨日、天使信仰に襲撃されて、壊滅した」




