は ~エイダside~
「く、抜けられた!!エイダ、右から8つ、うち一つは、残滓憑き」
私は、討伐任務で、ターニャと、レオたち6人のパーティで、王都から、少し距離にある山岳に来ていた。朝方から昼過ぎまで、中腹で討伐をしていた。
前衛にターニャとレオのパーティ、そして、私はいったん下がり、荷物の守衛に移っていた。
「『火球』」
集団の中央で、火球が爆発するが、相手は動きを止めない。火力が足りていないのは明らかだった。
次は、もう少し、火力のある魔導を準備する。
「『束縛の炎』」
残滓憑きに、魔導を打ち込む効果があったことを確認する。そして、
「『炎の剣』」
レイピアに炎を纏わせる。
そのころには、相手はだいぶ近づいていていた。スライム型が3、小人型2。このくらいの相手なら、遅れを取ることはない。
ふぐぅぅぅる、ふぐぅぅぅる
奇怪な泣き声をあげ、小人型がとびかかってくる。私はそれを横に薙ぐ。それを読んでいたかのように、もう一体の小人型が、同じような挙動でとびかかってきた。
「っ、しつこい、『火の矢』」
火線が、そいつに吸い込まれ、小さく爆発をおこす。はじけ飛んだそいつを、レイピアで突く。
剣を向けると、そこには、残りのスライム型、よりかたまっていた。あまり、積極的にはちかづいては来ないようだ。
『火球を使えれば、楽なんだけど・・・』
魔導器の状態を確認する、回復前に、立て続けに使ったためか、少し、消耗しているようだった。このままでは、詠唱失敗することもあるかもしれないと思い、炎の剣の残っている間に、スライム型を討伐することにする。
スライム型は、大きく伸びて、牽制しているようだったが、そこまで近づいても、何もしかけてはこなかった。私は、それを、対抗する意思がないとみた。
「これで、終わりね。」
私が、レイピアの炎の剣で焼こうとしたその時だった。
スライムの中から、不意に何かが横なぎに繰り出された。
「『小さな盾』!!」
私は軽く吹き飛ばされる。
「何が起きたの?・・・ぇ」
頭を振り、立ち上がると、そこには、見たこともない巨大な残滓がいた。大きさは、3mもあっただろうか、見ると、スライム型がいなくなっているところを見ると、残滓同士が合体でもしたのだろうか?
ふぐぅぅぅる
背後で、鎖を打ち砕く音が聞こえた。どうやら、状況は最悪らしい。前門の合体残滓に、後門の残滓憑きか・・・
私は、すでに、『炎の剣』消えているレイピアを構える。『小さな盾』は、まだ大丈夫。
ふぐぅぅぅる!!
その巨人のような残滓は、手を横に振るう。私は、地面に伏して、それをよけ、足に斬り付ける。だが、足は、スライムでできているのか、レイピアでダメージが入っているのかもわからない。
その時だった、視界に残滓憑きが飛び込んでくるのが見えた。なんとか、地面を転がってよけるが、それが限界だった。巨人が、その手を私に伸ばそうとしてた。私は、小さな盾を使用しようとした。
「吾を戒るように、彼の者も戒めよ。契約の管理者の名に示す。以ってこれを為せ。‡%~‡」
ターニャさんの声?
ふぐぅぅぅる?
明らかな変化が、その巨人と残滓憑きに起こった。固まったかのように、動きを止める。いや、動こうとしているが、全く動けないようだ。
「ターニャさん?」
「エイダ、間に合ってよかったよ。すぐ、終わらせる!」
ターニャは、両手で、剣を眼前に掲げる。
「『聖騎士の覚悟』」
聞いたこともないスキルが、ターニャの口から出る。そのスキルの効果か、ターニャの剣がほのかな光に包まれる。
すぅ・・・
ターニャの腰がすっと低く沈み込む。剣を横なぎに構える。その動作を見て、とっさに頭を地面に着ける。
「『大旋風撃』!」
そこから、一気に踏み込み、嵐のような一撃が加えられる。その嵐が過ぎ去ったとき、その残滓は、上半身から上は、完全に消滅していた。
「立てる?」
「あ、はい」
私は、ターニャに、引き起こしてもらう。今のは危なかった。
「前線で、同じようなのと戦ったから、後衛にきていたらあぶないとおもって急いで駆けつけてよかったよ。大丈夫だった?」
私は頷く。それをみて、安心したのか、ターニャも頷いた。
「もしかしたら、この地下のダンジョンが、活性化しているのかもしれないね。」
「この地下ってダンジョンなのですか?」
「ええ、龍狩りの勇者の物語って知っているでしょ?」
当然知っている。裏側まで。それが何だというのだろうか?
「その舞台になったのが、この山だっていうことよ。」
それは知らなかった。私は、ターニャからもたらされた情報に驚いてしまう。
「ということは、この山の中にその偽聖剣があるのですか?」
「ええ、そうだと言われているわ。でも、今はダンジョンの中だから、回収することはおろか、本当にあるのかもわからないわ。」
そうなんだと、少しだけ納得した。
「こっちは片付いた。そっちはどうだ?」
レオの声が聞こえた。他の3人も無事のようだ。
「こっちも大丈夫だよ。一度合流しよう!」
私は、ターニャの横に並んで、歩いていく。すでに、山岳での討伐任務は移動を含めて5日目になろうとしていた。
広範性の結界が張られた施設に帰り着いたころには日はとっぷりとくれていた。あれから、2回襲撃があったが、レオや、ターニャの手で撃退することができた。
薪を割り、暖炉に灯を入れると、一気に人心地がついた。邪龍討伐の時期は、春前だから、だいぶ寒さも緩んでいるかもしれないけど、寒い中行軍してきて、暖を得る。この幸せも捨てがたい。
そんな中、ターニャが、皆を暖炉の前に集めた。
「明日は、いったんふもとに降りて、補給と休息をしよう。その後、近隣地域の残滓討伐を行って今回は終わりだね」
ターニャの声に一同がほっとした声を上げる。この3日間、朝から、探索と戦闘で疲れ切っていた。まだ先はあるものの、終わりが見えたということで、パーティにも、安どの表情がうかがえた。
「じゃあ、休む準備をしようか。それぞれの役割でうごいてね」
ターニャが手を叩いて、仕事を支持する。夕ごはんの準備と、寝床の準備を行い、再び、食堂に集まる。簡単な料理がトレイに乗せられて並べられている。そして、薬草茶が湯気を上げていた。
私は、料理をとり、開いているテーブルに座る。その対面に、いきなりレオが座った。
「そちらが先だったかしら?移動した方がいい?第四王子様?」
「いや、別にその必要はない。今日は、杯と短剣にではなく、お前に言いたいことがあって座っただけだ」
ふと、後ろを向くと、ターニャとも少し離されていた。
「暗殺でもするのかしら?」
「いや、そんなことは考えていない。単刀直入にいう、エイダ、『魔導士』のクラスの成長具合はどうだ?」
レオは、その言葉の後に、スープを一口飲む。
「スキルは、もうすぐ20といったところね。あなたも、同じくらい持っているのではないの?」
さくっと、暖かい干し肉を一口大に割き、口に含む。塩味は強いが、これは必要なことだ。肉のうまみが、一噛みごとにゆっくりと、口の中に広がっていく。
「使えるスキルのことだ。『火の矢』、『火球』、『束縛の炎』、『炎の剣』の4つを使っているのは見たが、」
「へえ、そんなに見てくれてうれしいわ」
「他のスキルはないのか?」
その言葉に、私は、心の中で唇をかみしめた。ほかにスキルはある。だけど、どう使ったらいいのかわからない。
魔導のスキルだと思ったが、そのスキルは、いつもの発現方法では、使用することもかなわなかった。
そんなスキルがかなりの個数ある。
「それが、どうかされたのですか?あなたも、『なぎ払い』『闘志』くらいしか使っているのを見ていませんわ」
「ああ、他のスキルは、どうもよくわからない。いくつかは魔術系のスキルかと思っているが・・・」
そう、本来クラスにより発現するはずのスキルを私は得ていなかった。火属性の攻撃のスキルこそはそろっているけど、本来はサポートするスキルも多く存在しているはずだった。
だけど、そのスキルを私は一つたりとも取得していなかった。
「お互い同じか、俺も、そんな感じだ・・・ところで聞いていいか?黒い海に紅い稲妻を見たか?」
少し驚き、周りを見る。周りの眼は、私たちに向いてはいない。
「もしかして?」
「その反応からすると、同じか・・・ずっと、あの言葉の意味を考えていた。」
雑音交じりの声を少し思い出していた。
「結局答えは出なかった。まあ、当たり前だよな。人である以上は、クラスを与えるものが、どう考えているかなんてこと、考えても仕方ないかもな」
ふと、脳裏にあの時の光景がよみがえる。あの時私は正しいことをしたと思っている。しかし、あの声、
『本来の・・・・より、・・クラス魔導士へ変更を行う。』
私は本来は何のクラスを得るはずだったのだろうか。そして、あの光景は一体誰のために用意されたものだったのだろうか?
「エイダ?」
不思議そうに問いかけるレオの声に、現実に引き戻された。
「いえ、すこし、考え事をしていただけですわ・・・暖かいものを食べないと、力になりませんし、明日も早いですね。」
私は、少し冷め始めたスープを飲み始めた。
その夜だった。
「やはり少し冷えますわね・・・」
棟と棟の間は廊下でつながれている。私はそこをランプを手に歩いていた。広範囲の結界があるこの建物は、残滓が立ち入ることなどできない。かなり安全な部類の施設だった。
「ふぅ、もう少し寝れそうですわね。明日は、晴れるといいのですが・・・」
何気なく、私は外を見た。そして、固まった。
そこには、誰かが、歩いているのが見えた。でも、あの服、そして、髪の色からして、
「ターニャさん?」
外に出れるような厚着などしていない。むしろ、部屋の中で着るための服を着て、ターニャは歩いて行っている。
「追いかけないと・・・でも、どうやって?」
ふと、さっきの会話が思い出される。レオは、もしかしたら、いくつかのスキルは、魔術系のスキルだと言っていた。
私も、さっきまで、クエストカードをもう一度確認してきていた。そして、もしかしたらというスキルが出来上がっていた。
『『心中の一振り』と『炎の剣』』
心の中に、一振りの剣を思い描く。それに、炎が絡みついた。その瞬間に、まとわりついていた冷気が一気に和らいだのがわかった。
『で、できた』
見ると、ターニャはまだ遠くに行っていないようだった。私は意を決して、窓を開け、寒空の下に踏み込んだ。
ターニャは、さしたる警戒もなく、歩を進めていた。
『どこまで行くのでしょう?』
その歩みは止まらず、やがて、そのまま、結界の外に出てしまうのではないかと思った時だった。
「=’#”$&%#」
不意に何も聞き取れない声が聞こえた。ターニャは、その声の方を向き、すっと膝をついた。
「&%$$」
「ああ、ごめん。ターニャ、そんなつもりはなかったの」
クラウ!?
その声は、この4か月の間、ずっと聞き続けた声、そして、もう聴きたくなくなって私が耳をふさいだ声だった。
「明日から、大事な用事があるの。今日はそれを伝えに来たの」
「はあ、伝令とかでいいのではないのですか?」
「ダメ。ここにあなたがいるって知ってた。だから、伝えに来たの」
あの抑揚のない声だった。怖いと思いながらも聞き続けてしまう。そんな折だった。
スキルの効果が切れてしまった。
『・・・さ、寒い・・・こうなったらもう一度・・・『心中の一振り』と『炎の剣』』
それは、予想外の効果を出した。私は、魔術系のスキルは、安定しないということを完全に忘れ去っていた。
「はあ、こういうことをする子がいるんだ・・・」
それは、ターニャの前にいたやつの姿を明らかにした。それは、平然と燃えている右手を見ている。
クラウにそっくりだった。そいつの色が黒と赤でできているのを除けば、双子と言ってもいいだろう。
「出ておいで。それとも。」
すっと、その目が細められる。
「そこで凍え死ぬ?エイダ=マグサ・・・」
いきなり名前で呼ばれる。なぜバレたのだろうか?でも、もう私に選択肢はなかった。凍える体で、一歩ずつあるいていく。岩陰から、出てきた私に、ターニャは心底驚いた表情を浮かべた。
「ばか、何をやっているのよ。・・・そんな恰好で」
「た、ターニャさんだって、か、変わりませんわ」
ターニャを見ると、泣きそうな表情を浮かべている。そいつは、少し呆れたような表情を見せると、仕方ないというような表情を浮かべ、ごそごそと何かを取り出した。
それは、かわいいクマのような絵柄の小さなブランケットと厚手のふわふわなブーツだった。
「ああ、」
何かを察したように、ターニャが、少し呆れた表情を見せる。それを見て、そいつは、否定するように首を振った。
「いや、違うから、そんな目で見ないで・・・ただ、・・・多分、合うと思うから」
・・・何だろうかこの人は、ターニャの主のようだが、どうも、抜けている。でも、その申し出はうれしかった。
「すこし、お借りします」
私は、履いてきた靴を脱ぎ、そのブーツに足を突っ込んだ。びっくりするほどの暖かさがそこにあった。そして、ブランケットも、羽織ると、寒さを忘れてしまうような上等なものだった。
「うん、ターニャ。邪魔も入ったし、部屋で、続きの話をしましょう?」
「仕方ないですね。エイダ、施設に戻るよ。では、行きましょう」
私は、施設に戻り、ブランケットとブーツを返した後に、すぐに眠ってしまった。そのため、あいつは誰だったのか、そして、ターニャとの間でどんな話が行われたのか知る由もなかった。
翌日は、快晴だった。撤収準備を終えた私たちは、ふもとの村へと向かい下山していく。結局あれから、おかしなことは起きず、残滓も沸くこともなく、ほんの2時間ほどで、私たちは村にたどり着いた。
「・・・・」
ターニャが、苦々しい表情を浮かべた。疑問に思った私は、その視線の先を見る。そこにあったのは、意外な光景だった。昨日のあいつと、笑みを浮かべながら話しているクラウと、それを微笑みとともに見ている軽鎧を着ている見たことのない女性が村の門の前で待ち構えていた。
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役に立たないけど、多分説明することがない設定
エイダのスキル使用失敗について
心中の一振りを使用する際に、ある剣を思い描いたままスキルを使用してしまったこと。対象が自身の中の剣から、実在の剣に移った。しかも効果範囲内に対象が存在した。そのため、その対象に効力が発生した。
魔術と魔導の組み合わせ発動
可能です。




