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  は      ~休息~

様子が変わったのは、その日の夜だった。


夜ご飯を持て現れたのは、ジョンさんだった。ずいぶんと困ったような表情を浮かべている。いつものように、すぐに食事に入れるかと思ったが、そうでもないらしい。席に着くことを促され、クラウは、ジョンの目の前にご飯を挟んで座ることになった。


今日の料理は煮込み料理みたいだ。大なべがドンっとテーブルの中央に鎮座している。もし、レヴィが見たら、どう思うだろうか。そういえば、レヴィ出てきていないなと、全く関係のないことを考えながら、クラウは、ジョンの言葉を待った。


「すまない」


ジョンの第一声は、それだった。


「ええと、すまないっていわれても」


クラウは、少し困ったように、首を傾げた。何か謝られることをしたのだろうか?考え直してみたが、何も浮かばない。ここ2日間は、建物の中でじっとしていることが多かった。


「本来は、明日以降も、お前の話し相手になってやる予定だったが、少しな・・・」


「少し?」


ジョンが、言い澱んだのが気にかかった。クラウはジョンの次の言葉を待った。お互いの間に言いようのない空気が流れた。


「他国のお偉いさんが、来てしまってな。本当なら、明日からお前は、外に出れる予定だったんだが、当分は、ここで一人で待機をしてくれ。今まで通りに、食事や衣服は届けさせる」


なんだ、そういうことか。と、クラウはほっとした。


「優先順位が高い作業があるということですね?私の監視よりも」


「・・・まあ、そうだ。次に外出できるのは、あと、4日後だと思ってくれ。あと、その時に話すが、ある討伐依頼にお前も参加してもらう」


「ギルドの意に従います」


『偽剣聖』に討伐依頼に参加しろっていうのはなぜだろかと考えたが、当然、答えの出るものではなかった。だが、特に、反対する意見もない。

不思議と、心が軽かった。朝まで立ち込めていた暗雲がすっきりと晴れたようだった。


「ずいぶんと、聞き分けがいいな」


「その言葉は理解できませんが、ギルドの命には従います」


「はあ、その素直さをもう少し勇者パーティの連中にも見習ってほしいよ。まあ、お前の場合、素直さしかないわけだが」


「・・・」


クラウはそういわれては、返す言葉もない。ジョンをただ見つめていた。ただ、それが、


「ああ、そういえば、飯がまだだな。暖かいうちに食べられるようにって持ってきたが、こんな話で冷めてしまっては料理人に申し訳がないからな。」


鍋を見つめているように見えてしまったらしい。


『別に、おなかすいていないんだけど・・・』


クラウはそう思いながらも、もしかしたら、この光景をうずうずとした様子で見ているかもしれないレヴィをこれ以上待たせるのもよくないと思った。


「はい、空腹です」


「はあ、もう少し愛想よくしたら、いいと思うんだがな・・・まあ、話はこれまでだ。当面の間施錠して、感知魔導も強化するからな。不自由だと思うが・・・」


「いえ」


そんなことはないです。という言葉は、何とか喉に留めた。


ジョンは立ち上がり、建物を出る。扉の外から、鎖の音と鍵の音が響いた。




「お偉いさんって言っても大したの来てないんだけどな・・・ねえ、クラウ?」


さっきまで、クラウが座っていた椅子に、レヴィが座っていた。心なしか、服に艶が戻っているような気がした。


「ごめん、お待たせ」


「もう、幸せが逃げちゃうかと思った」


「そんなわけないじゃない。これは、私の幸せなのでしょう?」


そんな軽口を叩きあう。鍋を開けると、中には、大きめに切られた野菜や肉がたくさん黒いスープの中に浮かんでいた。今日はそのほかには、大きな黒パンが3個あるだけのシンプルな夕食だった。


「今日はシンプルなんだね?なんだか、討伐依頼中の食事を思い出すな・・・」


「討伐依頼中って、クラウはこんないいものを食べているの?」


「ううん、私一人の時は食事も水もいらないけど、皆で行ったときには、パンとスープと、もし動物が狩れたり、残滓付の動物を討伐出来たら、それを調理して、皆で食べるの」


「うへぇ・・・動物は仕方ないとして、%&‘の%&$#を食べるの?ちょっと私は、パスするかな。」


「うん。残滓付は、私も食べられなかったな。なんだか、ちゃんと調理って難しいみたいで、動物は、少しだけ食べることがあったんだけど」


クラウは、そのことを少し思い出していた。かたくなに食べなかったのは、自分とターニャだった。でも、オリビアは食べていたから、同じ国の中でも、食習慣に違いがあるのだろうか?


注ぎ分けたスープと、黒パンは、あっという間になくなった。




裏の水道で、トレイを洗い、クラウは、ついでに水浴びをしようと思い、服を脱ぎ。下着姿になる。四方を壁に囲まれさらに防御魔導が施されている。その場所は、誰に見られることもない良い場所だった。


「ちょっと、クラウ。その跡は?」


「えっ?」


手を中心に、みみずばれができていた。痛みこそないが、引いていないところを見ると、当分治るのは先かなと思った。


「ええと、多分今日の朝の・・・ええと、あの負けた」


ああっと、レヴィが、合点が言ったように頷く。


「ええと、まだ治ってないの?’%$’(で、すぐに治るって思ったけどダメか・・・なんか、ごめん」


「う~ん、ダメージを受けたことがなかったから、これが痛いっていうことだって知れたから、レヴィには感謝してる」


「それ、慰めになってないよ。もう、本当に’(の力が、出てないんだね。私はちゃんと分かったけど・・・。いや、まさか、クラウにはクエストカード、よくわからない文字の羅列になってるの?」


「うん。全然読めないの」


「もしかして、’(っていう言葉も、聞こえていない?じゃあ、&$( 、 )%#”=‘ 、となると †b4:@g†も?」


「うん・・・ごめん・・・全然、わからない」


「う~ん、こんな時、誰かいたらな・・・、助言もできるんだろうけど。私一人じゃ無理だ」


その言葉に、クラウは首を傾げた。レヴィにはどうやら仲間がいるらしい。


「まさか、このことを読んであいつ、これを渡してきたのかな・・・。ねえ、クラウ、今日の朝のお詫びにさ・・・その治療させてくれない?」


「ええ、でも、そのうちきっと治るよ」


「多分治らない。でも、そうなったら私が困る。・・・うん、幸いなんにでも効く薬を私持ってるから」


「ええ?」


「うん、大丈夫。私に任せて」


クラウはレヴィに手伝ってもらい、はやめに水浴びを切り上げる、レヴィが下着を脱がして、どこからともなく取り出したタオルで、全身を拭き上げる。そんなこと必要ないと、断ろうと思ったがそれを見透かされたようにレヴィが声を上げた。


「ダメだよ、クラウ、水気が残っていると、サビ・・・薬の効果が落ちます。だから、拭き上げは必要なのです。」


それよりもどこからタオルを取り出したのか聞きたかった。柔らかくて、大きなタオル。王都では、見たこともない品だった。




そのまま、タオルを素肌に巻き付けて、部屋に戻る。誰もいないとわかっているから、何とも思うこともなかった。


「以って為せ。‡%&‡」


レヴィが、何かスキルを使ったらしいが、詳細はわからなかった。そのまま、ベッドに寝かされ、上半身に新しいタオルがかけられる。


ベッドの脇に四角い黒い箱、小さな円柱の何かを乗せた小さなテーブルがいつの間にか用意される。


レヴィの手際の良さに、少し見とれてしまった。


「どうしたの?」


「いえ、レヴィって何でもできるなって思って」


レヴィに、明らかにうれしそうな表情が生れた。もしかしたら、レヴィも信じられるとか、褒められるとかは久しぶりなのかもしれない。そう思うと、よく似ているなと他人事とは思えずに思った。


レヴィが、黒い箱の中から、青い小さな箱を取り出した。そこから、一つの瓶を取り出す。


「それが、なんにでも効く薬?」


「そう、なんにでも効く薬。クラウになら」


足にレヴィの手が当たる。何かが、擦り込まれているのがわかる。みみずばれの箇所にまんべんなく、手が添えられ、そして、何かが巻かれる。ほんのりとした温かさが、体の内から湧いてくるのがわかる。そして、眠たさも。


「じゃあ、次行くね」


「うん」


反対の足にも、何かが刷り込まれる。眠たさが、更に湧き上がってくる。


「ごめん、レヴィ、少し目を閉じていい?」


「うん、いいよ。終わったら声をかけるね」


そっと目を閉じる。不思議だった。この感触は2回目。1回目はアマンダさんで、2回目はレヴィ。1回目の時は、すぐに眠ってしまったけど、一体どういう薬なのかは、元薬草摘みとして気になってはいた。万能薬って、あるのだろうか?


クラウは、うっすらとした意識の中で、レヴィが、右手にふれていることに気が付いた。眠たさはひどかったが、うっすらと、目を開ける。レヴィが、クラウに何かを刷り込むと、その皮膚の下から、白に流れる様な蒼と翠の光沢が現れた。皮膚が見えなくなるまで、まんべんなく刷り込み、それがいきわたったところで、円柱状のものを近づけると、そこから、クラウの肌に近い色の布がシュルシュルと伸びて、クラウの手を再び造った。


本来なら驚愕するべき状況だろうと思うけど、ただ、眠たさが勝った。


クラウは、夢を見ることもできない深い眠りに落ちていった。




「クラウ?クラウ?」


声が聞こえた。レヴィの声だ。ほっとしたように、クラウは目を覚ました。すでに、部屋暗闇に包まれ、月の光だけが入っていた。


「ああ、ごめん、レヴィ」


「ううん、気にしてないよ」


ついさっき、終わったようだ。まだ、テーブルの上には、かたずけられていない瓶が置いてあった。


その瓶のラベルには、「白崖の管理者 %&’$整備用オイル」と書かれていた。


視線に気が付いたレヴィが、そのラベルをクラウの視線から外す。


「整備用オイル?」


「ええと、他の治療器具を直すときに使ったの。べ、別にクラウには使っていないわ」


怪しいと、じっと見ると、観念したように話し始めた。


「ええと、整備用オイルを使ったのは、他のオイルの在庫がなかったからです。あと、クラウに害はありませんし、やましいことはしていません。信じてください」


「うん、大丈夫。・・・あ、本当に、腫れが引いている。」


手や胸に残っていたみみず腫れはきれいになっていた。


「どう、すごいでしょう?」


「うん、アマンダの万能薬みたいに効くんだね?このお薬」


「アマンダ?万能薬?」


レヴィがすこし怪訝な表情を浮かべた。あれ?


「あのね・・・レヴィ、実は3か月くらい前に、同じような経験をしたの。アマンダっていう、討伐ギルドの人が、私を治療してくれて、そのときにも同じような感じだったの、暖かい液体を刷り込んで、何にかが巻かれる感触があったんだけど・・・」


レヴィが、身じろきもせずに、興味深そうに聞いている。クラウは、どこまで話すべきか少し思ったが、


「でもね、治療の痕跡が何もなかったの。そのとき、何をされたのかも、よくわからなくて・・・」


一瞬だけ、レヴィの顔に困惑が浮かんだのが見たが、それをクラウに心配をかけないように、笑みを浮かべたのがわかった。


「そうなんだ。同じ品物を使っているのかもしれない。一品物のはずなんだけど、偶然って怖いね」


「アマンダさんに、あの時聞いておけばよかったな・・・もう、こんな状況じゃ会いに行くこともできないし・・・」


「・・・大丈夫だよ。きっと会えるよ。そのアマンダさんに。」


どうやら、クラウはしゅんと気負うような表情を見せてしまったらしい。今は、レヴィがそばにいるだけでも十分だった。


「うん、ありがとう」


そういえば、アマンダは私をどう思っているんだろう?やはり、偽物の役立たずと思ってるおだろうか、それとも、憐れんでくれているのだろうか?


そして、ターニャやエイダ様は、どう思っているのだろうか?


多分、答えは出ない気がした。そして、こんなに多くのことを考えていることにクラウは驚いた。


「・・・クラウ、今何を考えていたの?」


その表情が、レヴィにばれてしまったらしい、心配そうに、顔を覗き込まれる。


「うん・・・この、4か月の間に出会った人のことを考えていたの。みんな何しているのかなって・・・」

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