そのころ魔王は ~アッシャーナside~
「やだやだ!!上官殿のところに行く!!私もクラウちゃん見てみたいもの」
「ダメだ。言われたことくらいはきちんと守れ。お前は、一国の王でもあるんだぞ。魔剣の意向も組んでやれ。」
ようやく、誤動作を修正できたと思ったら、その翌日には、上官殿は、消えてしまった。その原因を知ることができたのは、その夜のことだった。
机の上にあった一つの手紙、それを見つけたのはミトだった。
『アッシャーナの宿から、徒歩10分ほどの、討伐ギルド本部近くの廃棄区画にいます、クラウソラスと最期の時を楽しく過ごしますので、探さないでください 追記 魔王城からいろいろといただきました。これまでのご愛顧に感謝いたします』
荒れた、実に荒れた。ただ、律儀に地図にバツ印を付けているのは、やはりポンコツの上官殿、私がいないと何もできないのですね!!
そう思い、追いかけようとした私を止めたのもやはりミトだった。
「だて、リリアナばっかリずるいんだもの。上官殿の同型に会うなんて。私も会いたい」
同型のクラウちゃんはどんな子だろうか?上官殿と違って真面目ちゃんだろうか?それとも、2人そろってポンコツちゃんだろうか。
どちらにしてもおいしい。
「げへへ、妄想がはかどりやす。って、あいた~!!」
間髪入れずにミトの杖が飛んでくる。私は、頭を抱えた。
「いい加減にしろ。・・・魔剣の気持ちも察してやれ」
「でも、上官殿は、人間じゃないから・・・気持ちって出るものなのかな?」
「俺にそれを聞かれても困る」
『アッシャーナ・・・今まですまなかった』
『え、上官殿?』
『私には、・・・私には・・・必要なのに、あんなひどい言葉で・・・アッシャーナ。・・・こんな上官で、お前は、私を・・・』
『そんなことしません!!いつだって、アッシャーナは、上官殿の味方です。だから、そんな暗い顔は上官殿にあってませんよ。凛々しくて、かっこよくて、時々ポンコツな上官殿だから、わたくしは、そんな上官殿と一緒にいられて、光栄なのです』
『アッシャーナ・・・あの、お願いがある。もっと、私にふれてほしい、そして、私を貴女の色に・・・染め上げて・・・お願い』
「はい上官殿!!アッシャーナは、アッシャーナは・・・げぶぁ」
激しい突込みが、こめかみに襲い掛かる。私は、宙を舞いながら、上官殿のことを思った。
「はい上官殿!!じゃない。いろいろと言いたいことが多いが、魔剣に心があったからと言って、お前の思っている通りには進まない」
力を入れて、立ち上がる。そうじゃないんだ、ミト。私はそうじゃない。私では、言葉にできない想いが胸にこみあげてくる。
「だって、上官殿がいないと、私・・・私」
その瞬間だった。私の腕の中に、まさに、夢の存在(上官殿)が生えてきた。
「ただいま」
「戻ったか。」
「ええ?上官殿?」
私はあわてた。上官殿が、私を見上げている。
「アッシャーナ?」
「はい?」
「・・・いままで、ありがとう」
上官殿が、私に抱き着いてくる。その瞬間だった。ほんの刹那、‡閲覧‡を使った時のように、私の頭の中に、映像が映される。
白磁に緑と青を散りばめたような上官殿が、何かに攻撃している。だが、相手の攻撃の攻撃の方が強く、上官殿の体が傷ついていく。やがて、上官殿の体にひびが入り、砕け散る。上官殿は、無数の欠片となり世界に散っていくが、その中でも、攻撃は続いている。
いや、違う・・・敵は、ただ、ずっと、見ているだけだ、負けて砕けて、降り注ぐ上官殿をただ見ているだけ・・・じゃあ、上官殿に攻撃をしているのは・・・一体。
「アッシャーナ?どうしたの?」
ああ、いけない、忘れることだった。手の中の上官殿、これは、愛でるしかない。アッシャーナ行きます!!
「・・・いえ、上官殿、もう少し、強く抱きしめてくれたら、私は・・・げへへへ」
さっきの妄想が、はかどる。いや違う。妄想は進歩し加速し、進化する。そう、これこそが妄想の本質そして行き着く先。アルバムが、アルバムが埋まっていく。
「いただきます!!」
しかし、ブンッと捕まえようとした手は空を切った。力なく、上官殿が倒れる。
「上官殿?」
触れようとした、手を、すっとミトが止める。
「ごめん、慣れないことしたから、疲れちゃった。・・・剣が人のように生きようとするのってむずかしいね」
「魔剣、食事をとったのか?」
ミトの声に、上官殿は、少し苦しそうに頷く。それを見た私は、すぐに、上官殿にふれる。痛々しい痕が見えるが、さらに奥を見る。さっき食べたであろう、食事が、そこに転がっていた。
「無茶をしないでください。ミト!!」
私は、ミトに懇願するような声を上げる。ミトは、すでに対策を考えていたようで、杖で中空に模様を描き出す。それは文字のようになり、中空に揺らいでいた。
「それは?魔力なんて上官殿に効かないわよ」
私の抗議を聞いてか知らずか、ミトは、小首をかしげた。その口元には皮肉気な笑みが浮かんでいる
「さて、理解は求めていない、そして、行うのは修復ではない!」
それを杖の先にまとわせて、上官殿の腹に合わせる。
「ポンコツ、少し痛いかもしれないが、我慢しろ」
「うん」
その言葉が是だったというように、ミトは、杖を、上官殿に突き立てた。
文字が上官殿の腹に吸い込まれていく。ミトがぐっと杖に力を込める。
「ぐがあああああ・・・・」
上官殿が言葉にもならない悲鳴を上げる。まるで、火であぶられているような苦しそうな声。見ていられないそう思いながらも、涙ながらに、何かを求めているように、訴えてくる上官殿の手を握りしめる。
「もう少しだ、頑張れ」
「ぐ、あ、ああ、っし」
「ああ、上官殿、ここにいます。アッシャーナはここにいますよ」
長い時間がたったように感じたが、ミトの行為は一瞬のことだった。上官殿の腹から、杖が引き抜かれる。ミトは、その様子を観察しているようだった。
「上官殿?上官殿?」
私は、握った手から力が抜けたのをみて、焦って、ゆっさゆっさと、上官殿の華奢な体をゆする。全く反応がない。胸に耳を当てる心音なし、私に、意味を与えてくれた唇から呼気を感じることができない・・・通信も返ってこない・・・まさか、上官殿が・・・私の上官殿が・・・ミトここで・・・
「ミト・・・答えて、上官殿に何をしたの?上官殿をどうしたの」
私は、握っていた手を上官殿の胸に置き、立ち上がる。
それに、私などには興味がないと、目もくれず、ミトは上官殿を見ていた。
「答えなさい!!」
思わず飛びつこうとした時だった。私の足を、誰かが握った。
へぶっ!!
顔面から、床に突っ伏す。その光景を、ミトは特に表情も変えずに、呆れたように、見下ろしていた。が、そんなことは関係ない。私はずるずると、その手の方へ向かう。地面に近いところで視線が合う。
「心配かけてごめんね・・・久しぶりだったから、ちょっと、手間取った。」
そこには、私に笑みを投げかけている上官殿がいた。
「気分はどうだ?あれくらいの量ならば食べても問題ないようにしておいた。全く、消化、吸収ができないのに、無理をするな」
「忘れてた・・・つい、クラウがかわいかったから・・・」
早合点?いや、そういうことなんだ・・・良かった、上官殿。アッシャーナは、上官殿に尽くします。って、いま、クラウかわいいって言いました?
かわいいって・・・うがぁ!!
「クラウ!?それは、私よりかわいいのでありますか?」
「お前は少し黙っていろ」
ミトが冷たく言い放った。
「アッシャーナ、ごめん、貴女に運んでほしい・・・お願いできるかな?」
「当たり前です。任せてください。」
私は、上官殿の、肩と足を抱き立ち上がると、魔王城から持ち込んだ長テーブルに腰掛けさせる。
ミトは何かを察したように、「散歩に出てくる」といい、宿から出ていった。
「アッシャーナ、ごめん。6番から、あれを取って」
少しだけ時間を置き、上官殿はそうお願いをして、胸を突き出した。私は頷き、上官殿の首元の蒼い宝玉に手を入れる。まもなく、お目当てのものを引き出す。青い箱に入った、白崖の管理者謹製の整備オイルだ。上官殿のような無機を主とする管理者や最上位の管理者用の武器の整備に使われる。当然管理者以外に販売。配布はされていない。それと、愛用の整備用の道具一式。私に、身を預けるという、意思表示だ。
「上官殿、さっそく始めます・・・」
「アッシャーナ、ありがとう、でも、少し待って、・・・ぐぅ・・・‡浄化‡」
上官殿は、一瞬で、その空間を清浄なものに変える。確かにその中ならば、この道具は最も効果を発揮するだろう。だが、傷が痛むのだろうか・・・だとしたら、少しでも早い方がいい。
「ごめん、少しきつい・・・横になっていい?」
私も!横に添い寝させてください!!と言いかけて、そこは、止めておく。ここで、余計な妄想を抱くとあとに痞える。今の上官殿に必要なのは、私を癒すことじゃない・・・
「ええ、上官殿。すぐに、処置します」
あお向けに上官殿が、テーブルに倒れ込む。
少しでも早くをした方がいい。私は、手に、整備オイルを取ると、上官殿の全身へ刷り込んでいった。
手慣れたように作業をこなす。小一時間もたっただろうか、オイルの残量半分になったとき、そこにあったのは、一本の剣だった。赤黒い刀身に青い宝玉の身の丈ほどの小さな大剣・・・上官殿のいまの本体だ。
よほど疲れていたらしい、いつもならば、あの御姿で寝てしまうのに、この状態にまで戻ってしまうなんて。きっと、まだ足りないのかもしれない。そう思うと、私の無力さが、辛い。これだけ想っても、きっと、あなたは、世界のためだと言えば、明日にも戦場に戻ることも辞さないだろう。きっと私にそれを止める資格はない、そして、止められない。
そんな想いを内に、私は、更に、整備を加えていく。オイルを浸した布で、細かい汚れを取り、鑢をかけ刀身を磨き上げ、ランプの光に刀身を照らす・・・だめだ、もう目をそらしたい、もう見たくない・・・。
痛々しい・・・
磨けば磨くほど、その体に受けた底知れないダメージが見えてくる。もし、上官殿が、人間ならば、手足に重大なダメージを受けすでに、指や一部の関節がもげかけていて、内臓もいくつかが機能不全に陥るような瀕死に近い重大なダメージ。それでも、生きていること選んでいるあなたには、驚愕と疑問がいつも湧き出てくる。
そんな折だった。私はふと違和感に気が付いた。上官殿の中に何かがある。それは、巧妙に隠されていた。気になり、手に取る。それは、小さな楕円上のパーツだった。
魔導器の光に透かす。だが、何も読み取れない。私は不思議に思った。
じっとその物体を見る。楕円形と思ったのは、私の早計だったようだ。それは、言うも難しい、形状をしていた。たとえるならならば、8を横にしたような物体。そして、管理者すら感知できないような、何とも言えない、感触を出している。
「それは、ダメ。元に戻して、アッシャーナ」
不意に、通信が聞こえた。上官殿の声。余裕もなく痛々しい声だった。そのボロボロの体に、戻せと・・・そんなことは、赦したくないです。もう、上官殿は、戦う必要なんてない・・・。
「しかし、異物ですよ。体の中に在ったら、大変なことに」
私のせめてもの抵抗は、結局押し切られた。
「早く戻して・・・大丈夫だから。早く」
私は、仕方なく、元の箇所にそのパーツを戻す。上官殿の体が、それを取り込むようにうごめいた。その様子を見る・・・確信がある。きっと、まだ、上官殿は戦っている。自分をこうした奴・・・そして・・・
「上官殿・・・前々から聞きたかったんですが・・・上官殿は誰にやられたのです?」
私は、この数年の間繰り返してきた、もう、何度とも知れない問いかけをする。答えはいつもそう
『時が来たら教えてあげる』
だった。
だけど、今日は違った。まず、沈黙があった。当然剣が話すわけもないので、通信が途絶えた。
上官殿は、この世界で、1,2位を争う強さの素材で構成されている。生半可な方法では、傷もつけられない。
そして、不可解なことがあった。
「観測者の異名を取る上官殿が、相手を知らないはずなど、ありません。教えてください」
「教えてどうなるの?」
いつもと違う答えが返ってくる。不意に、上官殿の体が、元の少女の形態に戻る。さっきよりはほんのわずかに調子がよさそうに見え、私は少し胸をなでおろす。。
「こんな風に上官殿をしたやつを私は許せません。一発ぶんなぐって、上官殿のすばらしさを相手に、こんこんと一晩説いてみせます!!」
私は本気だ。私だってやるときはやるのだ。
「ねえ、アッシャーナ・・・その必要はないと思うけど、私の仇をぶん殴るのはなし。それに、あなたが説く必要なんてないわ」
上官殿は、仇に対しても、お優しい。その優しさを、少しは、私に向けてください。
「アッシャーナ、私のこと、忘れないでね。きっと、あなたにしか今は託せないから。絶対に・・・私を忘れないで。そして、仇を憎まないで、優しくしてあげてね」
私は、その上官殿の優しさが、世界を包み込むように感じた。ゆっくりと上官殿が私の胸にその身を預けてくる。え、えと思う間に、上官殿の体は、私の胸中にあった。そのまま、静かな寝息をたてている。
そう、上官殿の髪の匂い、その体から立ち昇る整備オイルの匂い、そして、上官殿の呼吸の匂い・・・ひと呼吸、ひと呼吸が、ああ、愛おしい。ありがとう、呼吸を発明してくれた人。アッシャーナは、幸せです!!
「はい!上官殿の言われるがままに。だから、今は休んでください。私の、大事な・・・大事な上官殿」




