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  は      ~エクスside~

やはり、『剣聖』ではなかったか・・・


結果を見届け、レオに稽古をつけてから、俺は落胆の思いを胸に、大通りを歩いていた。すでに、邪龍討伐の締め切りは3か月後に迫っていた。期日としてみれば、次行う遠征が最期となるだろう。

現在参加を表明している人数はせいぜい20人程度。前回が100人を超えていたことを考えればかなり人数は少なくなる。さらに、そこから、直接邪龍にたどり着くまでのパーティ選出を行う必要がある。そうなると、現在のところ、自分のパーティ以上の実力者がいないことが悩みだ。少なくとも2パーティをと思っていたが、1パーティでは、目標の達成はおろか、討伐を行うことすら難しい。


「八方塞がりか」


俺は、そんなことを考える。いろいろと危険な選択肢ではあるが、もはやなりふり構わず切れるカードは切ったほうがいいかもしれないと思っていた。


ふと空を見上げるとまだ明るい空に流れ星が見えた。通りを行く人に気が付いた人はいない。


「ふん、昼の流星・・・凶星か。」


俺はすこし、人の流れの中で立ち止まり、そのまま、通りを進んでいった。しばらく思考に浸っていた時だった。


どん!


俺は、前に止まっていた奴に気が付かずにぶつかってしまった。相手は、少し驚いたような表情を浮かべている。かなり年上の男がいた。


「おや、坊主、ちゃんと前を見て歩かないとだけだぞ」


明らかに坊主扱いされたのは頭にきたが、柔和な男の表情に何とも言えない危機感を感じる。この男は危険な男だと、第六勘が告げている。


「やれやれ、気の強い坊主だ」


「それは、あなたのせいでしょう?」


一緒にいた女性が呆れたような声を出す。装飾品とかが、全く王都に合っていないが、それでもいいものを使っていることは、わかった。


「いえ、すいません。すこし考え事をしていたので」


その男を見ると、少し笑っているように見えた。


「いや、君の考えはわかりやすいな。こいつの宝石があっていないと思っていただろう?」


俺は、内心少しだけ驚いた。そして、おもむろに頷いた。


「ええ、そう思いました」


「まったく、今日ならば、少し地味なほうが服にも合っていると言っただろう?」


「全くね。柄にもないこと言うじゃない」


男の言葉は、女性を怒らせただけだったようだった。が、男は、少し呆れたように、肩をすくめただけだった。


「おっと、無駄話をしている暇はなさそうだ。ではな、坊主」


男が背を向け、女性がその右手に絡みついた。


女性の唇が、大きく動いた。まるで、俺に語り掛けるように。


『それじゃあね。勇者様』


男たちが、人ごみに消えていく。俺は、その光景を見守っていた。ふと気が付き、追いかけようとしたが、あれだけ目立つ格好だったのに、ついに見つけることはできなかった。



「はあ、はあ。」



王都中を駆け巡った俺は、そのまま少し外れの区画まで入り込んでいた。すでに太陽は南中を迎えつつあった。


「く、今日は厄日か!!」


そういえば、朝めしでも入れに行こうと考えて出てきたことをふとおもいだした。あれから少し時間がたってしまったことで、もう、朝市で食事を探すことは不可能だろう。しかし、俺は、この瞬間だけはついていたらしい。近くから、香ばしいにおいと、様々な香辛料の匂いが立ち込めてるのを感じ取れた。


「まったく、救世女に感謝だな」


柄でもない言葉をつぶやきその場所を目指す。


食堂を手早く見つけ、俺はその扉を開ける。大して、整備もしていないだろう扉は、音を立てて開いた。柄の悪い40過ぎの男が、俺をにらみつけてきた。まだ営業時間前だといわれるかと思ったが、


「客か。店の前の看板はなんて書いてあった?」


「は?見てなかった」


「すまんが、見て来てくれ。そうしたら、王都幣3枚で食わせてやる」


安いのを求めて入ったわけじゃないんだがと、思ったが、店主だと思われる男のいうことももっともな気がした。店主は、俺がいないように、再び、カウンターの椅子に腰かけ、少し雑誌を見ているようだった。


仕方なく俺は、外に出て、落ちていた看板を開店にしてかけなおした。


「開店になったよ。」


「すまんな兄ちゃん。ちょっとそこにかけて待っててくれ」


小さい店だ。カウンターに6つ、そして、テーブルが2つだけそのうち一つは壊れている。そういう小さな店だった。

俺は、ひとしきり、店内に目を巡らせ、店主が持ってきたぬるい水に口を付けた。いかにも、生水を沸かしましたという体の水は、決しておいしくこそはなかったが、すっと乾いた喉に吸い込まれた。


やがて、渇きが満たされたころ、店主が、大皿をもって現れた。香辛料の匂いがかぐわしく鼻をつく。そして、横には、8枚の簡単なパンが添えられていた。


「変わった料理だな」


「そう思うなら喰うなや。表通りに出ればしゃれた店はいくらでもあるだろう?」


俺は、大皿の料理に目を移す。そこから上がる暴力的ともいえるにおいに、あえなく負けてしまった。俺は、スプーンでその料理をすくい上げ口に入れる。ピリピリとした心地よい辛みが舌を焼いた。パンを一口噛み、ほっと一息をつく。少し汗が出てきたように感じ俺は、次のスプーンに口を付けた。


そうやって食べている時だった。


「おじさん、お昼2人前。あと、赤ワイン普通の」


「まったく、気を抜きすぎです。上司としての役割があるとわかっているでしょう?」


「だって、今日はここからしばらく非番だもの。お勤め終わったっていう解放感っていうか。そういうの感じたことない?」


「少なくともあなたの部下になってからはないです」


「もう、けち。そういう時は、上司を立てるものよ。」


2人の女性の声が聞こえてくる。一人は知らない声だったが、もう一人には聞き覚えがあった。なぜ、ターニャがここに?俺は、振り返ることも忘れ、食事をしているように、背を向け続けていた。


「で、どうした?」


「うん・・・なんて言ったらいいのかな。真っ白っていうのかなあれって」


「真っ白って・・・また直球な」


「そうでも、それ以外に表す言葉はないわね。本当に真っ白でこっちは少し不安になったわ。また、この後会わないといけないのに。ああ、お化粧なおしておかないと」


「お化粧って、そんな歳でもないでしょ」


「言ったわね」


気になる言葉はあったものの、ほとんど雑談のようだった。俺はほっとして、目の前の料理に再び匙を入れる。


「はい、・・・ウィングとジャガイモ、あと、■リーな。パンはお替り自由だ。あとワイン。」


「やっぱりこの店良いわね。」


「でしょ。リリアナ様がこの間いいって言ってくれた店を選んだんです。ここのマスター顔見知りなので、どんどん飲んでくださいね」


ワインの注がれる音が静かな店に響く。


そして、小さな咀嚼音が静かに続く。なぜか、店の空気が張りつめる。


「うん、料理によく合うワインね。とてもおいしいわ」


「良かったです。ほっとしました」


「ところで、こんないい店を教えてもらったから聞きたいんだけど」


「はい?なんでしょうリリアナ様?」


俺は、口にスープを含む。よく噛みしめていく。それが、混ざり合ったところで、ゆっくりと嚥下する。


「ターニャって、好きな人いるの?」


店主は、その声が聞こえたかどうかのタイミングで、あっという間に厨房に消える。どうやら、そういう話には弱いらしい。


逃げるタイミングも、避け得るタイミングも逸した俺は、ただ置物のように、カウンターでスープを流し込む機械と化した。


『さて、誰が出るかな?』


妥当なところでは、現在王都に在住する数少ない銀級討伐者のジョンや、何人かの雑誌を彩った貴族令息がいる。神は、こんなところでも贔屓をするのかと、他人事ながら嫉妬したものだ。


『生まれた時間と場所が少しだけ違うだけなんだがな・・・差っていうのは恐ろしいな』


おれは、ぬるい水を。再び、口に含んだ。


「あの、リリアナ様?」


「ほら、言っちゃいなさいよ。どうせ誰も聞いていないんだから」


「誰も聞いていないって、人いますよ」


「ああ、あれって、置物じゃないの?動く置物・・・うん、いいわね、今度のネタで使おう」


「この前ので懲りてください。あいつ、死んだような眼してましたよ」


「え?でも、結構ノリノリだったと思うけど?ほら、言っちゃいなさいよ。上司として■■■として、聞く必要があります!!」


「リリアナ様?酔ってます?」


「酔ってませ~ん。ほら、話さないと帰れないわ、ああ、私困っちゃう。夜のお勤めなのに」


「微妙に誤解を招く発言しないでください・・・」


「ターニャ?」


「私は、■ですから・・・できないこと知ってます。でも、にゃの・・・」


なぜか俺も緊張して聞いてしまっている。微妙に聞き取れないところが少し痛いが・・・


「あの・・・あの、・・・ェクスが好きです」


クス?そんな名前の令息がいたかな?俺は、思考を巡らすが、そんな名前の令息に心当たりはない。っていうか、俺の名前と似ているな。


「ええ、あれが、あれに?あれを!?」


「はい!あれが好きなんです!!」


「ターニャ。考え直さない?どう考えても。正気じゃないわ」


「それでもいいです。今日の夜にでも謝りに行くつもりですから」


「いや、何をどう、謝るのよ。っていうか、成就には遠い気がするわ・・・まあ、頑張って、応援はしておくわ」


何だろうか?女性が一気にテンションを落したような感じだった。


コトッ


ふと見ると、無心に食していたのだろうか、すでの器は空になっていた。満腹には程遠いが、腹は満たされた気がした。もし、この店を早くに知っていたら、もっとうまかったかもしれないと思い、少し、後悔を覚えた。


「おやじ、会計ここに置いておくな」


俺は言われた通り、3王都幣とついでに、1枚銅貨を置いていく。

こんな店もあっていいそう思えた昼だった。そんなことを考えながら、女性陣の座るテーブルを通る。真面目な話をしているようで、声を潜めていた。


「で、どうなんでしょう?」


「さあ、賭け。しかも分の悪い賭け。負ける確率が90%以上っていうね」


「そんな」


「でも・・・いいわ。その時は皆で逃げましょう。何もなくなるかもしれないけど・・・少しはましっていうところよ」


「身勝手すぎます!!そんなの。負けたら逃げたらいいって。人は・・・人はこれ以上逃げられないんですよ」


「ターニャ、あなたの気持ちもわかるわ。きっと、みんなで・・・あなたはエクスと一緒に生きていければいいでしょう。でも、もう、限界なのよ。これで最後なの」


まさか、さっきの言葉はエクスと言ったのか?俺は、じっとその女性を見ていた。女性ものの御者服に身を包んだ女性は、ターニャの上司だと名乗った。ということは・・・そんな馬鹿な?


視線に気が付いたのか、女性が、顔を上げる。赤い髪と黒い髪がまだらに混ざっている女性だった。でも、けっして、それが欠点になっていない。いや、むしろ、その顔の輪郭に沿わせている髪に青黒い瞳がよく映える。


「・・・勇者・・・」


女性の口から発せられた声に、ターニャが驚きこちらを見た。


ターニャはいつも通りだったが、少しだけうすく化粧をしていることに驚いた。てっきり、化粧をする習慣などないと思っていた。オリビアが化粧を教えようとしていたが、当の本人は興味がない素振りをしていたが、まともに取り合っていなかったので、いつの間にそんなことができるようになっていたのか、それともできたのかは謎だ。


「・・・エクス・・・」


その顔は、びっくりしたというよりも、何かを期待しているようにも見えた。


「この一週間はごめんなさい。わたし、意固地になってたわ。また、私は勇者のパーティに戻っていい?」


女性が、『違うだろ』というように声なき講義を上げるが、俺は無視する。


「ああ、ターニャ、これからが本番だ。勇者パーティの一員として、これからも頼む」




その後、女性・・・ターニャの上司、リリアナの紹介を受け。食堂を後にし、大通りに向かう道を歩き始める。


そんな時だった。奇妙な集団が、目の前からやってきたのは。


人数は4人さっきの男女と、角刈りの青年と眼鏡を兼ねた女性が、意見を交わしながら、こちらに向かっている。


ただ、その会話の内容が、全く俺には理解できなかった。


やがて、店の前までその集団がやってくる。


「ああ、さっきの坊主か。中に女性はいるか?」


「いると思うが・・・」


「もう、はっきりした方がいいわ。いるんでしょう?」


その女性に言われ、俺は、すっと、首を縦に振る。


「さて、昼飯と行くか」


「本当・・・酔いつぶれてなければいいけど・・・」


2人は先に入っていく。眼鏡をかけた女性もその後に続いた。あとに、角刈りの青年が残った。


「君は剣士か?」


「いえ、違います」


「そうか、ずいぶんと、剣に入れ込みがあるような感じだったからな」


「この剣ですか」


俺が、剣を握ると、男は頷いた。


「少し懐かしくてね・・・良ければ見せてもらえないだろうか」


俺は腰から、剣を外すと、鞘ごと渡した。


男は、俺に少し離れておくように目で伝えると、剣を、一瞬で抜き放った。


流れるように、男の手の中で、剣が生きているように動いた。鞘から解き放たれ、空を滑らかに斬り、再び、鞘に戻る。豪胆にそして時に繊細にその剣は男に応えていた。


「ふむ、手入れはしてあるようだが、3番目のビスが緩んていてしなやかさが少し落ちているな」


男は、剣を、俺に返しながら分析して見せた。


「あんたは剣豪なのか?」


「いや、古い友人が、剣をたしなんていたからね。私もそれに交じって、稽古に付き合ったものさ。だが、ちょうどよかった。こんなこともあろうかと、代わりを準備していたからな。ああ、君は、どこに泊まっているんだ?今君が持っているのは、硬化スチールだっが、もう一段上の装備が完成した。」


「もう一段上の装備?」


「そう、超硬化チタン複合合金製の剣ができたのでね、届けさせようと思っていたところだ。」


材質はよくわからなかったが、その言葉から、すごい剣だとわかった。俺は、宿の場所をすぐに紙に書いて渡した。男が、店の中に消えるのを見届け、宿に帰ろうとした時だった。店から、ターニャが出てきた。心なしか、少し落ち込んでいる。


「どうしたんだ?ターニャ?」


「あ、・・・エクス・・・ええとね、」


ターニャが、俺の眼を見た。その目は、少し涙に潤み、困っている子犬を連想させた。


「あの、さ、一緒に帰って、いい?みんなに謝りたいから、そんな時いてくれると助かるんだけど」

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