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  は     ~プロローグ~

第4話のプロローグです

「クラウ、着いていたのか?」


不意に後ろから声が聞こえた。クラウは不思議に思い、顔をあげると少女はもういなかった。


「ジョンさん?」


クラウの声の方をむくと、逆光に立つシルエットがあった。ふと、振り返っても、そこには薄闇が広がっているだけで、誰かの気配を感じることはできなかった。。


「あの?さっきの少女は?」


「少女?ここに、そんなのいるわけないだろ?荷物はそれだけか?」


クラウは、頷くと、ポーチに入れてあった書類を取り出し、ジョンに渡す。ジョンはそれを確認し、テーブルに置いた。


「さてと、とりあえず窓を開けるから、クラウ、手伝ってくれ」


「はいっ!」


手分けして、窓を開けていく。一つ開けるごとに、暗かった室内に、太陽のひかりが長く差し込む。簡素な室内は小さな机がいくつかと、カウンターと棚、そして、壁に、柄に蒼い宝玉のはめ込まれた黒くて紅い刀身を持つ大剣が飾られているだけだった。


「もう、だいぶたっているんですね。」


「ああ、もう、昼過ぎって言ったところか。クラウ、お昼にするか。近くにうまい食堂がある。出来合いの惣菜もできるはずだ」


そういえば、朝から何も食べていないと、クラウは思い出した。食べる必要も感じないが、いりませんなんて言うと怪訝な顔をされるだろう。おとなしく、相手に合わせることも必要とこの2か月で学んでいた。


「わたしも言われてみれば、おなかがすきました。一緒に行ってもいいですか?」


「ああいいぞ、ただ、これをつけてくれ」


ギルド員の手には、腕輪が握られている。


「探索探知の魔導器だ。すまないが、ここ一週間は、行動を制限させてもらう。お互いにギルドと勇者様を敵に回したくないだろう」


そうだった、今日ここにいるのは、勇者パーティを除名されたからだった。


「そうですね。今度会ったら斬るといわれてしまってますし、」


「いいか、その腕輪が震えたら、路地に隠れるといい。近くに勇者様がいるということだからな。後、腕輪の位置は、こっちで常に把握している。逃亡は考えないことだ」


「そんなことは考えないです」


クラウは、ぷくっと膨れた。この2か月いろんなことを学んだ。


『お前たちの命は、たった、5金貨の価値』


討伐ギルドで2日目に告げられたのは、その言葉だった。


それが自分たちの価格だと知ったのは、かなりたってからだった。それだけの投資をしているという意味でもあり、それ以上の働きを期待しているというギルドからの意思表示だったのだろう。


クラウは、そう思うと、自分の価値についても少し考えることがあったが、結局答えは出るはずもなかった。

その時は、討伐ギルドにいるそれだけで、十分だった。


「はい、ギルドの意に反することはしません」


クラウは、誓約の言葉をジョンに告げる。


「はは、それでいい、じゃあ、腕輪をつけるぞ。」


クラウの右手に、腕輪がはめられる。自動的に腕の太さに代わり、魔力で、結合する。


「あと、これも書いてくれ。」


立ったまま、テーブルに1枚の紙が置かれる。4か月間の滞在契約書並びに行動誓約書。クラウは、さっと目を通し、文言を確認する。


『いいかい?クエスト、誓約、契約すべてきちんと目を通せよ。読み方は教えるから』


まだ、会話を交わしていたころの、魔術師の言葉がよみがえる。クラウは、契約書の要点を確認する。


・建物の2階に宿泊許可。


・外泊は、1週間禁止。


・単独行動は1週間禁止


・探索の腕輪は1週間使用する。


・2週目からは、監視を外す。また、『剣聖』クラウでギルドでの依頼を受けることを許可する。


小さい文字や、魔術文字がないこと確認する。


内容を確認し、クラウは、問題なしと判断し、ペンにインクをつけて、自分の名前を書き込む。


「あっさり書くね?説明とかいらないの?」


「いえ、契約書読み方は習ってますので、大丈夫です。」


そのまま、ジョンに契約書を渡す。


「ふむ、では契約完了だな。では、あらためて、自己紹介をしよう、俺は討伐ギルドのジョンだ。」


「『剣聖』クラウです。お世話になります」


クラウは、頭を下げる。


「さて、ここのことを説明したいがまず、飯だな。」


「はい」


二人は、並んで、ドアから出ていく。それを、大剣は見てただ見ていただけだった。


食堂で、クラウはスープ、ジョンは、スープと大ぶりなハムステーキのサンドイッチを頼んでいた。


「剣聖が、そんなに食が細くて大丈夫なのか?」


クラウとジョンの前に、スープが運ばれてくる。相変わらずのクラウの食の細さに、ジョンは疑問を感じていた。


「はい?これが普通じゃないんですか?」


クラウは、不思議そうに首をかしげ、根菜と小さな肉が入ったスープを木匙で混ぜる。


「前衛職は、体が資本だ。きちんと食べられるときに食べておくようにって、勇者パーティでは言われなかったのか?」


「はい、確かに、教わりましたけど、これ以上、おなかに入らないんです。あと、昔から1週間くらいは何も食べなくても平気です。

食べないって決めたら、のどが渇くこともないので水もとらないですね」


「は?それは、『剣聖』の力か?」


クラウは、スープを口に含む。おいしいとかではなくなんだか満足したような気持が、胸を満たす。


「よくわからないです。私、効果不明のスキルだけは多いので」


クラウが、そういうと、ジョンは、怪訝な顔をしたが、それ以上問いかけることはなく、自分の前のサンドイッチにかぶりついた。


ジョンがすべてを平らげるのと同時に、クラウも、食べ終わった。


昼ご飯の後、少し休憩をし、説明に入るころには、すでに日は大きく傾いていた。


「まず、この建物の入り口は、俺の仕事が終わった後は施錠する。1週間の間は、夜から明け方にかけて感知魔法を強化する。その時間中に建物にいなかった時点で

討伐ギルドに通知が行くのでそのつもりでいること」


ジョンが説明を始める。休憩の時に入れてもらった2階の部屋はベッドとクローゼット、装備品の置き場が設置されている、少し広い部屋だった。小規模な訓練所だと

説明を聞いて納得した。


「あと、井戸と水道を併設した裏庭がある。柵に防護魔導術式がかかっているから、出ることはできないが、剣を振りたくなったらそこで振ってくれ。」


「はい」


クラス適性がないのがわかったからと言って、何かが変わるものではない。毎日に素振りと体裁きの練習しようと心に決めた。


「あと、この都市区画は、半年後に破棄されることが決まっている。4か月たつまでに新しい居住地を決めること」


「破棄ですか?」


ああ、と、ジョンは、ぬるま湯を口に含む


「まあ、お前に関係はないが、ここにいられるのは4か月が限度だ。ここには、貴重品など何もないが、自分の身は守れなければいけない。」


クラウは、カウンターをみた、立派な大剣が壁につるされている。


「あの、貴重品がないってお話でしたが、あの、カウンターの壁にかかっている、立派な大剣は価値のあるものではないのですか?


「?壁に?大剣?何を言っているのだ?ここにある刃物など、クラウ、君の木剣くらいのものだ。もし、『剣聖』が本物だとしたら、刃物を持って暴れ始めたら、止めるのは困難なのに、そんなものを置くことはしない」


「?」


クラウは、カウンターに目を向ける。大剣はいつの間にか消えていた。


「疲れているか、今日のことがショックで、幻覚を見ているのではないか?」


「そうかもしれないです」


クラウは、ふうっとため息をつく。確かにいろいろあった1日だった。


「まあ、気にするな。さて、俺の今日の仕事はこれで終わりだ。この一週間は、朝と夕はギルドから飯が届くからこの建物内で食べてくれ。もし出歩きたいのなら、朝食を届けたものに言伝してくれ。クラウ、気を落すなよ、あと、くれぐれも自棄になるのだけは止めてくれ」


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします。」


クラウも、ジョンを見送るために立ち上がる。ジョンは、ドアを出ると手慣れた感じで、鎖を取っ手と壁の出っ張りに巻き付け、南京錠でカギをかける。


ガチャリと無機質な音が響く。


「ランプとかランタンは、確かカウンターの奥の物置にあるって話だったよね。」


クラウは背を向けると、そのまま、カウンターの奥の扉を開け、中に入っていく。それを見守るように、入り口の壁に、柄に紅い宝玉のはめられた黒い大剣がつるされていた。



「ちょっと待ってください、こんな量食べられないです」


ギルドの配達員が不思議そうにクラウをみる。


クラウの肩幅より大きなプレートにあったもの、大きな焼いた肉を斬ったものと、豆と玉ねぎのマリネ、大皿のスープ、そして両手の平からあふれるような大きな黒パンだった。

あと、どういう用途かわからないが、小さな白パンが添えられている。


「いや、『剣聖』ではなくても、前衛職なら、おなかすくでしょ?」


当然の疑問をぶつけられる。クラウは、少し困ったという顔をする。


「私、小食なので、あまり食べないんです」


「え?小食な前衛職っているの?」


ここにいますよと、クラウは、言いたかったが言えなかった。


「でも、こんなに食べられないんです」


「まあ、きちんと食べてかないと、前衛は務まらないよ。ギルドからの命令、ちゃんと食べるんだよ。残したら許さないからね」


クラウは、無理やりに、夜ご飯を押し付けられる。


ぽかんと立っていたが、お盆を、テーブルに置く。


「どうしよう」


テーブルの半分が埋まるような大きなプレートからはみ出るような、食材の暴力。


「残すなっていう命令・・・無理だよ」


少し呆然としていたが、クラウは、少しずつでも食べることにした。


「うぇ、酸っぱい・・・そして、辛い。」


マリネを木のフォークで食べる。酸っぱさと、塩辛さが、口の中に流れ込む。


「お肉とパン固い・・・」


肉は、少し噛んだだけで、顎が疲れてくる。大きな肉だから、もう少し小さく切りたいけど、あいにくここには、ナイフの類は置いていない。黒パンはちぎるのに一苦労する固さだった。


「スープは、うん、あまり味がしないような感じ。パンを浸して。うん、おいしい。これだけでもいいな」


クラウは、何とか、一通りの料理を食べる。もう、満腹に近かった。


「ちょっと、水のもう。」


水差しをもって、クラウは、裏口から、水道に向かう。桶に水を汲み、水差しに移す。


「何とか、流し込めるかな?」


『どうしたのクラウ?もう食べられないの?そんな時は、流し込むのも方法よ。まあ、討伐や戦場に出たらそれが常識みたいになってしまうけど』


ターニャは最後まで優しかった。たぶん、公平に接してくれていたのだろう。ふとその言葉が頭によみがえった。


「よし、もう少し食べてみよう」


まだ、全体の10分の1も食べていないが、クラウは、少し前向きになって、ドアを開けた。


「あら、遅い登場ですわね? ’(。予告通り、あなたの幸せを奪いに来ましたわ」


あの紅黒いドレスの少女が、テーブルに座っていた。


クラウは、驚くが不思議と恐怖はなかった。ゆっくりと自分の席に戻る。


「あの、どちら様ですか?」


少女は、椅子を近くから持ち出し、クラウの隣に座りなおした。


「そんなこと、今はいいの!!’のために作られたこの料理を、私、$(=(&$=)’が、奪っちゃうのだから。本当は、あなたが噛みしめるはずだった幸せが、亡くなっていくその表情を見せて頂戴」

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