君 パーティにふ しいか 当てて聞いてみろ ~エピローグ エイダside~
エイダsideです。
「『剣聖』クラウ・・・」
私は、ただ、呆然と立ち尽くしていた。クラウの剣が、深く刺さっている。さっきの光景、ここで、『剣聖』のスキルが覚醒してなんて都合のいいことを考えていた。
奇蹟なんて起こるわけがない、そして、起こってはいけない。
しかし、起こってしまった。曲がりなりにも、『剣聖』が『剣士』に負けた。
「クラウさんは、本当に剣聖ではなかったのね。ざ、ざまあないですわ」
思わず、思いもしなかった言葉が出る。これ以上は無理だ。さっさと、この場は退場しよう。
「エイダ、どこに行く?」
「部屋に戻って、明日の準備をしてきますわ。明日からは、山岳での討伐でしたわよね?準備がいろいろありますので」
エクスに声を掛けられるが、私は、振り向きもせずに答える。訓練場に続く廊下はただ寒くて暗く、それは、夜へと逆に戻っているように錯覚させられて。
夜が来るのが怖くて泣いた子供のころを、思い出していた。あの頃は、闇の奥に何かがいる気がしていた。なんてことはない、想像力が豊かだっただけで、それはいいことに何もつながらない。
判断は・・・間違っていなかった。
「クラウ」
いつも冷静なクラウに憧れていた。
何があっても動じないクラウがお手本だった。
でも、それは、全部ウソだった。
クラウには、単に感情がない物のような存在だと思えてきた。そして、その思いの成長は早く、気が付いたときにはクラスのすべてがそう見えていた。視線の動きが嘘に見えた、表情がただの再現のように見えた、声が魔導で合成された音声のように聞こえた。動きが、そして、感情すらも、偽物に見えてきて仕方がなかった。
憧れが恐れに変わった。
それが、決定的になったのは、クラス詐称が言い渡された時だった。明日どうなっても、おかしくない状況なのに、クラウは平然としていた。
それが私の癪に障った。泣きついて来てくれていい、もっと、頼ってほしい、クラウ、私にも責任があるのよ。だから、私にあなたを助けさせて・・・
その思いをクラウは、組むことができなかった。クラウから返ってきたのは、ただの疑問だった。
『わたしは、おかしいのですか?』
イヤな声だった、時々クラウから発せられる抑揚のない、不気味な声。それが私にふれた。
クラウの最後の顔は思い出したくもなかった。泣いているようなふりをしていた。
「クラウが、クラス詐称であるか確認する必要がありますわ。そのテスト相手として『剣士』レオを推薦いたします」
私は、そこで思いを新たにした。もともとは反対していた、決闘裁判の開廷申請を討伐ギルドに提出して、開廷にこぎつけた。パーティでも、裁判を開くことについては、すでに全会一致していて、無事に開廷が決定した。
翌日には私は、馬を1頭借り、父親に報告へと帰っていた。
用件は、『剣聖』の詐称と、クラウの取り扱いについてだった。
「報告は以上であります」
「わかった・・・エイダ・・・残念だ、早まったことをしたな」
「はっ?」
私は、父親の発した言葉の意味が分からなかった。父アレッシオは、ゆっくりと顔を上げた。
「『剣聖』の子はおそらく、来年が最期の年になるだろう・・・」
「・・・それはどういうことです?」
「お前は、2か月近く勇者とパーティを共にして、気が付かなかったのか、調べなかったのか?」
この2か月の間、私は、なれない討伐や自分のスキルのことで頭がいっぱいだった。その表情を読み取られたのだろう、父親は、すっと立ち上がり、本棚から、一冊のノートを取り出す。
「これが何か知っているか?」
「いえ・・・」
「赤い付箋で法と注釈している箇所だ」
目の前に置かれた、ノートを手に取り開く。それは、月次報告書だった。
「下位聖女 オリビア(本名 パメラ・ビアンコ)
元 神の乙女(法国の異端審問官と推定)危険度:高
所業(伝聞):
・法国南部の穏健宗派の村を襲撃 異端裁判ののち村人30人全員を拷問の上で殺害。
・1年前、王都、法国、大倭の空白地帯において、簡易裁判という名の襲撃を実施。旅人や商隊を襲い、1週間の間に8人を殺害。金品を強奪し、教会に寄贈した可能性がある。これにより『下位聖女』の地位を得、聖名オリビアを名乗ったと思われる。聖女の名をもとに勇者パーティに接触その一員となる。教皇謁見の権利と『上位聖女』を求めている。
これ以外にも、襲撃、拉致、破壊活動等を行っている可能性が高い。
(推定)おそらく、10~20人程度の仲間がいると思われる。
「聖騎士 ターニャ(本名不明)
白崖聖騎士団所属(法国の実行部隊と推定) 危険度:不明
経歴:王国出身。12年前の教皇訪都時に匿われたと思われる。(目撃証言在り)
王都における、現在の目的は不明。
「これは・・・」
私は絶句した。オリビアのあの笑みの正体が分かった・・・
「こんなことは許されるはずが・・・」
「オリビアのその所業については、あくまで噂の部分が大きい。法国の秘密主義は大倭のそれに匹敵する。私たちであろうとどうすることもできない」
父は、席を立つ。
「よく覚えておけ、エイダ。貴族というものは、人を助けることもできるが、子供のような我儘で、人を殺すこともできる。」
「・・・」
「今回のことはゆめゆめ忘れるな。庇護のなくなった『剣聖』の子は、勇者が名前在り討伐に出陣したのち、行方も知れなくなって死ぬだろう。お前が殺すのだ。そのことを生涯忘れるな」
もし、問題があると想像できていればこんなことにならなかったのか、暗い廊下を歩きながら、ずっと考え続けていた。そんな感じだったから、気が付かなかったのだろう。
「おっと、」
「あ・・・」
アマンダだった。いつの間にいたのか、正面からぶつかてしまうが、タイミングが良かったからか、アマンダが胸に、私を抱きしめる様な形になる。
不思議な甘い匂いがその体から立ち上っていた。
「こら、エイダ。ちゃんと前見て歩かないと危ないじゃない。」
「あ、すいません」
私は、アマンダから体を引き離す。目の前には、いつものアマンダの顔があった。
?
なんで、正面からぶつかったはずなのに、私の頭が、アマンダの胸にあったんだろう?
目の前のアマンダとは、真正面から、いつもと変わらぬ位置で、視線を交わした。
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません」
いまいち調子が出ないのは、きっとさっきの光景のせいだ。強引に思考に蓋をして、考えないようにした。
そんな様子を見たのか、アマンダは、いじわるそうに顔をゆがめた。
「あれ?どうしたの?ああ、もしかして、クラウのことを考えているの?」
「別にそんなことありませんわ。クラウさんには、『剣聖』の資格がなかったから、これからは自分の人生を歩んでいきますわ。私の庇護はあくまで、『剣聖』に与えられるものです。だから、もう、クラウさんなんて関係ありませんわ」
そう、あとは見ていることしかできない。どんなことが起ころうとも何があろうとも、私に許されたのはたったそれだけの行為。そう、たとえクラウが、すぐに行方不明になったとしても、私は、もう何もできない。クラウが私に助け求めたとしても、見殺しにすることしかできない。
私は、不快を感じ、アマンダを見つめる。アマンダと、同じ位置で視線を交わした。
「まあ、そんなに、気負うことなんてないと思うけど」
まるで、心の中を透かして見られたように、アマンダは、肩をすくめる。
「どういうことですの?」
「今回の件はさ、私も手を貸したけど。ほら言うじゃない、『君子怪力乱神を語らず』って。奇蹟なんて信じていちゃだめだよ」
「それ誰の言葉ですか?」
「さあね、多分、どっか東の国の言葉じゃない?」
相変わらずつかみどころがない会話をさせられていると、少し苦笑する。全く、同じくらいの年なのに、いいように私を振り回す・・・
「あ、そうだ、今日は少し肩の荷が下りたから、気まぐれでエイダちゃんにも聞いておこう」
「え?」
甘い匂いが強く・・・強くなっていく、全身の産毛が総毛だつように、心にえも知れない説明もできない感情が生まれる。
暗い廊下の中、アマンダから紅い光が見えた気がした。
私は意識を手放した。
気が付いたのは、宿の自分の部屋だった。太陽を見るとまだ上がり切っていない。あれから、1時間~2時間過ぎたところだろう。
「ぼうっとしてたのかな?早く終わらさないと。」
熟睡した後のようなすっきりとした気持ちで、私は、明日の準備を始めた。とはいっても、そこまでたくさんのものは必要ない。
新調した魔導器と付与用に少し改良したレイピア、あと、非常用の装備。今回の討伐対象を考えれば、それくらいでも十分だけど、もう、4か月後に迫った討伐を考えた事前演習も今回はかねていた。まず、1週間分の食料、水は、自分で運ばないといけない。そして、一人一人が野営に必要な物品を持ち歩く必要があった。私の割り当ては、小物類一式。刃物とかが多く、慎重に運搬方法が求められていた。
小物を詰め込むと、重さは約10キロにもなった。多分、食料や水を持つことになると、30キロ近くになってしまうだろう。非力な私では、この重さでもかなり厳しく感じる。
「4か月の間に、きちんと鍛えなくてはね」
私はそう、誰ともなくつぶやくと、机に向かう。やることを書き出しておくと、忘れることが少ない。そう思い、私は、ペン先にインクを付けて、何気なく、紙をその手に取った。
「なにこれ?」
そこには、大きく焦ったような字体で、私の字が書いてあった。
『まだ終わりじゃない まだ終わりじゃない まだ終わりじゃない こんなことで終わるわけなんてない こんなことで終わるわけなんてない こんなことで終わるわけなんてない』
次の紙を取る。
『探せ 探せ 探せ まだここにある まだここにある まだここにある』
『間違った 間違った 間違った どこで どこで どこで』
次から次に現れる私の文字、意味をなさない羅列。それを破り捨てて、床に撒いていく。綺麗だった床は、だんだんと白と黒に染まっていく。
「はぁ、はぁ」
肩で息をしながら、私は、最後の一枚にたどり着く。破り捨てようとして、その文字にくぎ付けになる。
「そうだったんだ・・・私は・・・」
誰にも言えない記憶と後悔を抱えて生きていくしかない。もう会うことすら難しいのだとしても、せめて生きている間に、伝えないといけない。私には、忘れることなんて、赦されない。
奇蹟は起きて、出会いは巡る。もし、朝日に傷ついたのならば、まどろむような陽だまりの中で傷を解かしていけばいい。
第3話 『君が勇者パーティにふさわしいか胸手にを当てて聞いてみろ』は、これで終わりになります。
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