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そのころ聖女は ~幕間~

黒衣の聖女視点です

「うぉら!!どけどけ!!ひき肉になりたいのか!!」


目の前に残滓や、残滓付が湧き上がる。そいつらを罵り、時に鞭を当てながら、11頭立ての馬車を駆る。私は、少し怒っていた。あいつ(教皇)から、もたらされた情報、そして、託された使命に。


目の前には、帝国と王国の境界である渓谷が広がっている。私は、さらに速度を上げるように、馬に鞭を打つ。


「おらあ、いけえ!!」


渓谷を軽々しく馬車が飛び越える。着地はあえて、乱雑にし、さらにターンを決めるが、それが無駄だったことは、後ろから聞こえてきたのんびりとしている声で分かった。


「おやおや、ずいぶんと荒れているね。」


「それはどうも。あいにくこういう性格なの。勤め中の性格を期待しているのなら、後で来て」


いつの間に乗り込んだのか、聖者は、座席下の特別な一本を開けながらそこに座っていた。


「君が急いでいるなんて、あの時以来だね?あまり無理をさせるべきじゃないと思うけど。リリアナ」


私は、ぐっと唇を噛みしめて、馬に鞭をやる。迷いなんてない。明日の夜明けには王都に着かないといけない。


「私は、今、黒衣の聖女だ。その名を語るのは止めて。」


その声が聞こえないふりをしているのだろう、聖者は、グラスに注いだ液体を玩び、やがて口に入れ、少し口の中で堪能しているような表情を見せる。


「・・・な、いい酒だ。」


その声は聞こえない。私は、ただ、鞭を入れる。やがて、陽の光が、全てを明らかにするころには、王都の城壁が、そこに見えてきた。


警備兵のぎょっとしたような表情が見えた。すでにこの時は黒衣を演じることにしていた。もう、悔いはない。そして、隙を作る気はない。


「2週間ほど勤めでお世話になります。教会には、話は通してあります」


「・・・聖女 オーリディア」


その入国許可書に、異論をはさむ者などいない。私は、あっさりと王都の門をくぐる。


大聖堂への道は、きちんと整備されていて、ゆっくりと歩を重ねる。自然と背が伸びる。この名を名乗っている以上は、けっして、無様な格好は許されない。いくつかの家の戸が開き、窓が開き、そこから、祈りを手に、私を見てくる。私はそれにこたえられない。


心の中には、あれだけ傷つけられ、それでも信じている二人の姿が見えた。


「許されたくても許されないなんて」


口の中で、そっとつぶやく。




あの時の教皇の言葉は一緒だった。


『救ってほしい。無限の中からようやく浮かんだ彼女を』


つい、一気に近づき、頬を叩いた私は泣いていた。おそらく、顔を伏せている教皇も同じなのだろう。だから、謝らない、誤ってたまるか。


「お前が、彼女にしたことに比べれば、今の事象ですら、いい状況だ。・・・いい状況なんだ・・・いまさら・・・」


知っている。彼女の想いも、それが、今のあれを傷つけるということも。彼女が、せめてなんて知っているだから。


「何で、玉座から立とうとしない!!お前がそこから立って、立って動いて、会いに行けば・・・すべて、納まる話。そうでしょう?・・・なんで、なんがそうさせたの」


もう、言っていることはめちゃくちゃだと、自分でもわかっている。それでも言わないといけない。

階下の聖騎士共がいまさら動き出そうとしてるがもう遅い。私は、教皇の細い右手を掴む。


「わかっているでしょう?私は本気。」


その小さなからだが震えている。卑怯だな・・・私の見た目だと、ただ、幼い教皇をいじめているみたいじゃない。


手を振り上げると、教皇がびくっと体を縮こませる。正直、この空間で何か事を起こそうていうつもりはない。きっと、これ以上、手を上げたら、あいつはこういうだろう。


『何でこんなことをしたの?リリアナ!!』


当然、ここにあいつがいるわけもない。本音を言えばいてほしい。無意識に右手をからませて、なにげなく、ただ、楽しく話をしてほしい。

振り上げたこぶしは行き場所を失い、仕方なく、教皇の右手にそれを置くしかなかった。教皇が、目を開き、私を捉えるころには、私は、周りを美青年に囲まれながら、教皇との謁見位置に戻っていた。


「神命を拝借しました」


すっと、頭を下げる。そんなものはこの世界に存在しないと知っていても、周りがそれをゆるさない。そして、わたしはきっと許されない。赦されることはない。


「推して励めよ、オーリディア」


『お前がその名を騙るな』


その言葉は、けっして口を通ることなく、ただ、喉の奥で止まっていた。



「この大聖堂の一室は、吾身オーリディアが預かる。これが、教皇の神命である。」


私は、大仰にバッグより、書類を取り出す。あいつの言葉を読み上げることが、苦痛だ。ただ苦痛の時間が過ぎる。馬車の中から、気が付いたら、聖者の姿は消えていた。もともとからそういうやつだ。あまり気にもしていない。ついでに特別な一本とグラス2つも消えていた。他にもたくさん持ってはいるけど、そういうことが読めない奴だとは思っていなかった。



「・・・拝命いたしました。」


苦痛にまぎれること、数分。だが、私にとっては、この瞬間がすべてだった。ベールの下で、ただ、唇を噛みしめる。

もし泣けるのならば、泣きたい。もし、言葉が出せるのならば、出したい。

吾身はそれを許されない。


この瞬間、黒衣の聖女『オーリディア』として、任を果たすまではそれもできない、


人と交わる管理者に意志は必要ない。ここには、リリアナではなくて、黒衣の聖女『オーリディア』あるだけ。そう、ただ、あるだけだった。



部屋に案内される。まず私がやることは、隠し通路や、盗聴、盗撮の確認。あと、全体の警備シフトの確認。そこまで終わるのに大体30分はかかる。


それがようやく終わり、私は、部屋にいくつかの荷物を運びこんでいた。その中には、他人からしたらようと不明のものも多々存在する。


「もういいわよ、出てきて」


私の声が、きっかけになったらしく、ひときわ大きな、衣装ケースの中から、朱色のローブを身にまとった女性が、すっと出てくる。あまりに自然な動きに、私は目を丸くした。


「大丈夫なの?あなた?」


「ええ。猊下の命とあれば。朱は耐えられますよ。まあ、しかし、衣装ケースに入ってと言われ反論の余地もなく詰め込まれたのは、少々癪に障りますがね」


何事もないように、クモートが、そこから這い出して来る。そして、すこし、体をほぐすように動き、私の目の前に座る。


「正直あなたには用はないのですが。あなたが、衣装を似せている以上は何か、取引があったのですね?」


正直、クモートは苦手だった。人間か、管理者かもしれず、管理者の権限にすら膝を折らないその、クモートが嫌いだったが、今日は、少しだけ頼もしく思えた。


「ええ、お願いがあるの。私は、本当は・・・」



小一時間ほどクモートと話しただろうか。



クモートは、すっと立ち上がり、私の衣装ケースをあさり始めた。


「何をしているの?」


一瞬、やっていることがわからなかったが、クモートは、すぐに今私が来ているものと同じ服、小物をすべて見つける。


「アークラ。」


クモートの後ろにいつの間にかアークラが生じ、クモートは、慣れ親しんだであろう、朱のローブを脱ぎ捨て、アークラに渡す。


「あなたの気持ちも、猊下のお考えも理解しているつもりです。だから、ここしばらくは、あなたの勤めに付き合ってあげます」


ブラを外し、アークラの補佐の元で、さらしを巻く。ぎゅっと、締め付ける。


「ごめんなさい」


私はただ、何とも、惨めな気持ちで謝ることできなかった。でも、クモートには、少し違ったように聞こえたようだ。


「そうだ、今回の件が片付いたら、私を西の大陸に連れて行ってください。あなたが愛したその人の跡をまだ私はたどり切れていないのです」


思いついたように、笑みを見せるクモートに、私は、一瞬虚を突かれる。



クモートが、準備を終えるころにはすっかり夜のとばりが降りていた。



「鏡で見ても、全く同じですね」


クモートのスタイルのいい体が、すっかりスレンダーになって、鏡に映り込んでいた。本当に申し訳ない。もう、内心では完全に土下座を決め込んでいる私を知ってか、クモートは少し微笑んだ。


「大丈夫です。座っているだけですから。以前ならそんなことは許されなかったのですが、今は平気なのですよ」


「ご、ごめん・・・あなたの追い求めてるものを穢してしまって」


私は、クモートに謝りたい気持ちでいっぱいになるが、それをクモートは笑みと、手で制した。


「あなたの気持ちを知れた今、私、少しの納得とそれより、仲間ができたってうれしいんですよ。彼女の跡を追いかけていけるのは、私だけじゃないって知れて」


クモートは、そっと、窓の外の月に目を見せる。月は、ただ何も言わずに、そこにあるだけだった。


「彼女の本当のことを知れているのが、私とあなただけでよかった。彼女が望んだものが、そんなものじゃないと知れてよかった。」


クモートが、独り言を言うように、窓の近くへ移動する。


「だから、『オーリディアさん』も、あなたの信じる人の元に行くといいと思います。私は、前にそうできなかったのです。もし、あなたが、その姿に後悔を感じているのでしたら、次に生かせばいいですよ。」


「クモート・・・」


目の前の、女性は、ただの人間のはずだった。でも、私は、そう思うこともできずに頷く。思えば、人間と管理者の違いなど、ほんのわずかな差だと言ったのは彼女だった。


クモートは、顔を向けようともしない。私は、意を決する。


「行ってくる。留守を頼む」


クモートは頷き、すっと身をよける。その隙間に私は、身を投げた。


「今から行く。・・・今から行きます。」


私は、闇に溶け込むように、‡欺瞞‡の御業を発動させた。


本当は隠蔽系の御業がつかえていれば良かったのだけどと、私は思いながら、ゆっくりと大通りを歩いていく。服装は変えていないが、誰も黒衣の聖女だと振り返る人はいない。ありふれた顔にありふれた人の波が私の存在をあいまいにしていく。それを、確認し、少し速度を上げた。

私は、大通りをだれにも知られることなく駆け抜けていく。その先に待ってくれている人がいることを知っているから。

あまり意味のない設定


この世界における、魔法の順位


魔法>権限>御業>>>魔術スキル魔導スキル


魔法は、この世界の率そのものに干渉する方法使用者は、管理者たちを作り出した創造主だけだと言われている。

そして、その一部を管理者たちは†権限†として使用している。権限は一人の管理者につき、1つだが、使用についてはかなり幅が広い。

‡御業‡は、簡易化された権限で、管理者が、その責務を行うために使用することができる力。その数は、この世界の活動的な管理者の数に比例し、現在のところ、20程度である。だが、かつては、100を超える御業が存在したといわれている。

‡御業‡は、人間に与えることができる。なお、人間の許容できる数はおよそ3つと言われている。

ちなみに、この御業がさらに簡易、簡略化したものが『スキル』と呼ばれている。

魔術は、複数の事象を組み合わせて発動させるスキルで、汎用性、拡張性の高さが売りだが、再現性の乏しいため、魔導士の方が人気。

魔導は、再現性のある魔術と言えるものであり、最も簡素化された魔法。定められた事象を再現することしかできないが、逆に言えば、継続性が高いと言える。そのため、魔導器はあるが、魔術器はないとされている。

スキルも、魔法の一つとして扱われている。スキル自体にも、魔術系スキルと魔導系スキルが存在する。例えば、魔導系スキルの『烈風剣』は、魔術系スキルの『剣圧』+『風』+『剛腕』で再現することもできる。(効果は魔術スキルの方が上)


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