プロローグ 剣聖の敗北 ~レオside~
プロローグのレオ視点です。
「『剣士』 レオニード=フォールス
需給クエスト:残滓討伐
20/20 依頼完了
レオニード=フォールス 神託
闘気を授ける
変幻自在なる御身の戦う意思は、汝の敵を畏怖させるだろう。」
ほっとした。これで、必要なスキルがそろった。
『あとは、実戦だな』
「レオ、おめでとう。これで、剣士としては一人前だね」
仲間たちが、俺を祝福してくれる。そう、たとえ、お互いにわかり切っていると言えども、なれ合いっていうものは必要だ。
「ああ、そうだな」
戦勤めの第4王子そう呼ばれるために、俺はここにいた。
『ようやくここまで来れた』
俺はクエストカードを確認する。スキルの刻まれたクエストカードが9つそろっていた。
「そういえば、レオ聞いたか?」
イオシスが、俺を見て問いかけてくる。何をだというつもりはない。この1か月半、そいつの話題は、ずっとギルドの中でも話題に上がっていた。
「例の『剣聖』さまだよ。クラス詐称だってよ・・・」
最後に手合わせをしたのがふと昨日のように思い出される。あの技量で、クラス詐称ならば、俺は、クラスに恵まれていないと、苦笑するだろう。
俺の『剣士』は、自然に得たものじゃない。王都に伝わる、剣士の剣という魔導器で得たものだ。だから、俺は、本来の自分のクラスを知らない。それがゆえに、俺は、このところ、3つは外れスキルを取得していた。
だが、今回は『闘気』。闘気を扱える攻防一体のスキル。今度こそ大丈夫だと胸をなでおろす。俺は、剣士としてやっていける。
「まあ、そんなこともあるだろうよ。外れスキルが続いているだけじゃないのか?」
「いや、それがな、意味不明なスキルを取得し続けているらしい。神官たちも首をかしげてた。」
「意味不明?」
「ああ、噂だが、あいつのクエストカードは、黒塗りと不明で塗りつぶされているらしい。あと、明らかに神託じゃない文字も並んでる。まあ、友人から聞いただけだがな」
「そうか」
無愛想で、戦いと故郷の話をするとき以外は、全く表情に乏しかったクラウは、今どうしているのだろうか?ふと、そんなことを考え、考えていることを頭から消した。今の時期は他人の心配などしている暇はない。
「レオ!!、『剣士』レオ!!」
不意にカウンターから幼い声が響いた。アマンダの声だ。まったく、ギルドも、あんな幼い子に、構成員などさせなければいいのに。俺は苦笑を浮かべ、手を挙げた。
「はい、アマンダ特殊事務官、ここにいますよ」
カウンターに隠れている、アマンダは、声を頼りに、俺を見つけ出す。
「『勇者』エクス様と、ギルド長ががお待ちです。ギルド長室へ」
アマンダが、ひょこっと、カウンターから飛び降り、廊下に通じるドアを開けた。俺は、仲間たちに、少し外すと伝え、アマンダの開けたドアをくぐった。
アマンダが俺の前に立って歩き、俺はその後に倣った。
静かに、そして確かに廊下を歩いている。不思議と、遠く感じるのは、緊張のせいだろう。
「剣士が、剣聖に勝ったためしなしだそうです。だから、剣士が剣聖に勝つというと、明日は雨らしいです。」
不意にアマンダが、声を出した。誰もいない廊下にその声がよく響く。
「そうだな。剣聖の烈風剣、剣の極み、そして、身のこなし・・・どれをとっても剣士のそれをはるかに凌駕している。勝てる見込みはないだろうな」
クラスのこと、スキルのことは、図書室で学んだ。遠近隙のないスキルで固められる剣聖と、近距離しか能のない剣士、神業ともとれる身のこなしの剣聖と、その劣化に過ぎない剣士。基本のスキルも、有利さは全然違う。成長こそないものの、剣士よりはるかに有用性の高い剣聖と、鍛え無ければ、芽を出すこともない剣士。
差というよりも壁がある。もし、同じ数のスキルをもって戦えば、剣士に勝ち目などない。
「勝てる見込みなんてないですね?」
「ああ、剣聖に勝てる見込みなんてない」
俺は、その雑談に応じながら、扉の前を過ぎる・・・さっき通ったような気が?
「でも、勝てたら、自慢になりますね?」
「ああそうだな。仲間にも今後受けたい依頼にも、剣聖を破った剣士として、名乗ることができる。」
アマンダが、不意に止まり振り返った。俺も、足を止め、アマンダの瞳を受け入れる。
「ねえ?勝ちたい?剣豪の劣化って言われている、剣士が、剣聖に勝ちたい?」
アマンダの声が、魅力的に聞こえる。俺は思わず、喉を鳴らした。気が付けば、あたりに甘く乾いた匂いが、漂っている。喉が渇きを訴えるが、それは水でうるおせる渇きじゃない。
もっと本質的、もっと、底から出る本心のような物・・・
「クラウは、偽物なのだろう?だったら・・・」
「勝ちたい?この世界の根幹のルールに?剣聖に、剣士が。剣士が剣聖に勝つのよ」
ぞわっと総毛だつような笑みと、アマンダの瞳が、暗い廊下の中、ぐりっと輝いた。そうだ、ただ、本当の望みを告げればいい。
「私は、壁みたいなものよ。望みを聞くだけ。さあ教えて、勝ちたいのでしょう、クラウに・・・そうでしょう?剣士様?」
そうだ・・・そう、
「勝ちたい。剣聖が常に勝つなんて迷信を覆して、勝ちたい。剣聖に敗北を味合わせてやりたい。」
それは。俺の本心だった。王族であっても、クラスは、『剣士』。平民でもクラスは、『剣聖』そんなことなんてない。王族は背負わなければならない。
「勝利が欲しい、ただ、勝ちたい。そしてみなに知ってほしい『剣士』レオが、『剣聖』クラウに勝利したと」
それを聞いていたアマンダは、ぞっとするような笑みを浮かべた。それと同時に、周りに漂っていた甘く乾いた匂いは引いていき、同時に、あれだけ渇きを訴えていた喉も、
「願いを聞き入れたよ。じゃあ、行こうか。ギルド長が待ってるよ」
ぞっとする最初に比べ、最後はほっとするように気が抜けるいつものアマンダの声だった。気がついたら、そこはギルド長の部屋だった。歩数にして、50歩ほど。
『1時間は歩いているような気がするな』
俺はそう思い、ギルド長の部屋のドアに前にいた執事に来室を告げた。
「ありがとう・・・?」
そこには、アマンダの姿はなく、ただ、長い廊下があるだけだった。
「あれ、アマンダがいませんでした?」
「いえ、『剣士』レオあなた一人で来られましたよ。」
違和感がぬぐえないまま、俺は、執事に促されるまま、部屋の中に入った。
「『剣聖』を詐称している可能性が高いクラウの、決闘裁判を、6日後に開廷する」
用件は完結だった。『剣士』である俺が、クラウの裁判の相手になればいいだけ。
「もし、クラウが本当の『剣聖』であれば、『剣士』に負けるわけがない。それは常識だ。もし、負けることがあれば、正式に、離脱させるきっかけになる」
『聖剣なしの勇者』エクスが、そう説明する。明らかに、瞳に失望と焦りの色が浮かんでいた。
『確か、エクスは、名前在りの獣を討伐依頼を受けていたはず』
邪龍 レークメィードゥン。法国と王国の境界線上に存在する山岳に潜んでいる、獣。その討伐に参加できれば・・・と思っていた。
『思わぬところで、運がめぐってきた。』
「一つ提案があります。」
裁判に参加する場合には、一つだけ、提案をすることができる。
「言ってみろ」
ギルド長の目に刃のような光が見える。
ごくっと俺は、つばを飲み込み、用件を伝えた。
「もし、僕が、剣聖に勝利した場合、僕の所属してるパーティを、勇者様の討伐隊に加えていただきたい」
勇者は、少し眉をひそめただけだったが、静かに頷いた。
「次が、最後の討伐作戦だ。兵力は多いに越したことはない。剣聖を超えた剣士ならば十分に戦力として当てになるからな。」
冷たく、あきらめたような声色の声だった。帝国の勇者たちとは全然違う。俺は、心を新たにし、6日後の決闘裁判に向けて、今まで得てきたスキルを使いこなすための、訓練をしていた。
そして、あっという間に5日が過ぎた。
「少し話がある。」
勇者パーティの『聖騎士』ターニャだった。訓練場で、練習していたところ、不意に呼び止められた。
「なんですか?」
俺は、内心、警戒しながら、ターニャを見ていた。教皇の狗と言われている、『聖騎士』は王族内でも、警戒の対象だった。
「いよいよ明日が、裁判だな。どうだ仕上がり具合は?」
軽いジャブのような会話だった。こちらを探っているように見える。当然、仕上がりはいいに決まっている。ターニャは特にクラウに入れ込んでいるようだったが、そのために、勇者パーティでは、浮いている存在になっていた。
「ええ、順調です。」
どうとは答えなかった。クラウの、一太刀目をまずしのぐことを前提にして訓練をしてきた。1か月の間に俺は腕を上げたが、クラウはどうだろうか?
「そうか、順調か・・・良かった。」
何か、的を得ない回答だった。そもそも、ターニャは、俺を見てはいなかった。俺の方を見ながら俺以外の何かを見ている。
「ターニャさん?僕、訓練に戻っていいですか?」
ターニャが答えないのを承諾と取り、俺は、ターニャに背を向ける。
「レオ、明日は、きっとあなたが勝つよ。クラウは、何もできないし、させてもらえないと思う」
小さく、静かな声だった。耳を澄まさないと、聞こえないような小さな声。
「でも、明日の結果に満足しないで。レオは、レオの道を進んでほしい」
どういう意味かと問うつもりもなかった。勝負なんて、やってみないとわからない。俺は、そのまま、訓練の中に帰っていった。
その翌日の早朝、俺は、昨日の訓練場にいた。すでに、裁判は終わり、勇者様に、少し付き合ってもらい、十分に実力差を味わった。勇者様たちは、すでにその場を後にし、ギルド長とアマンダも、朝の仕事のために、事務棟へ戻っているだろう。
土には、クラウの木剣が、かつて『剣聖』だった、存在感を示すように、刺さっていた。
「・・・」
イヤな勝利だった。クラウが意図的に手を抜いたことがわかる。高速で繰り出される斬撃も、足を使ったかく乱もなく、ただ、まっすぐに打ち込んできて、ただ負けるために戦っているようなそんな感じがしていた。
裁判の後、逃げるように退出したクラウを追いかけるものは誰もいなかった。
オリビアは、嗜虐的な笑みを浮かべ、クラウの背中を見ていたが、すぐに、気を取り直したかのように、エクスと今後の予定を話していた。
ディ=フォルトは、はなっから興味がないように、飛行魔導を発動させ、帰っていった。
ターニャは、少し驚いた表情を浮かべていたが、すぐに気を取り直し、ギルド長と何か、話をしていた。
エイダは、クラウの逃げていった方を厳しい表情で見つめていた。少しだけ、涙目になっていたのが、印象的だった。
『勇者』のパーティには問題がある。これは、討伐ギルド内での公然の秘密だったが、それを今日、明らかに見せつけられた。あれは、魔境と言ってもいいだろう。
「なあ、『剣聖』これで満足なのか?」
俺は、地面に誇らしげに刺さっている木剣に話しかけた。当然返ってくる言葉などない。
ふぅっと、少し息を吐き、クラウの木剣に手をかける。多分いる場所は、あの川のほとりだろう。これからは『剣聖』として慕われる立場ではなく、『剣聖を詐称したもの』として、討伐ギルドでは、嫌われる立場になる。剣士としては、憎らしい相手だったが、侮蔑してもいいなんて思っていない。
王族として守ってやらないといけない。少なくとも、討伐ギルドの最低任期が終わるまでは。
俺は、ぐっと、クラウの木剣に力を入れた。
物語の、精神的折り返し地点です。
ここから後は、暗い展開になることは当面の間ないです。




