君 パーティにふ しいか 当てて聞いてみろ ~プロローグ~
ここから、少しの間、精神的にきついと思う展開があるかもしれません。
あれから、1週間が過ぎた。クラウはエイダ、ターニャとともに討伐ギルドの発注クエストで、残滓狩りに来ていた。
討伐のクエストは、戦闘を主とするクラスが、スキルを得るための数少ない手段だと、クラウは、これまでの間、いろいろな人から教えられていた。
クラウは、まだピカピカの剣が慣れるまでターニャに鍛錬を付き合ってもらい、勇者パーティのメンバーから、いろんなことを教えてもらっていた。
オリビアからは、応急手当の方法、ディ=フォルトからは、契約書の読み方やクエストの受け方、ターニャからは、武器防具の手入れの方法。
そんななかでも、エクスと話す機会は少なく言葉をかけてもらうこともまれだった。
ただ、そんななかでも、久しぶりにエイダともに、訓練できるのはとても、安心できたし、エイダの魔導を近くで見れて、本当に驚かされることが多く起きた。
「クラウ!!」
「はい!」
残滓は、獣の残り香と呼ばれている。ダンジョンがなくなっても、この残滓だけは当分の間沸き続ける。残滓は、単体では大して強くないが、動植物、時には人にとりつくという厄介な性質を持っている。
残滓がとりついた、動植物は、土地そのものを汚染し、再度、ダンジョンが活性化する原因となるし、人にとりついた場合は、正気と人の姿を失って、他人へ襲い掛かり、その残滓を感染させるような行動をとるようになる。
討伐者は残滓への対策をしてあるが、それでも、絶対にとりつかれないとは言えない。
そのため、残滓はできうる限り、討伐する対象となっている。
そして、国軍の体制が整ったら、この場所も、広域魔導で、浄化されるだろう。それまでの間は、戦闘職を得たものたちが、自らのスキルを強化するために入れ替わりで利用していくことになる。
クラウは、後列で、荷物を守りながら、そのことを思い出しながら、時折抜けてくる残滓に剣を突きつけていた。
残滓が悲鳴もなく消滅し、その核が残る。
クラウは核を、皮袋に入れ、ほっと一息をつく。すでに、必要討伐数の4分の3以上を討伐していた。残りは、20個強と言ったところだ。この調子でいけば、明日の昼には討伐を完了することができるだろう。クラウはそう思い、内心でほっと息をついた。
でも、この討伐は、自分には合っていないなと、クラウは感じていた。不思議なことに、クラウが振り下ろす剣を残滓はよけることをしないような気がしていた。エイダとターニャの攻撃はなかなか当たらないのに、クラウは、そこまで苦戦することなく、残滓を倒すことができていた。
「ふぅ、助かったよ。抜けられたから、荷物に攻撃が集中するんじゃないかって思ったよ」
ターニャが、ほっとしたように近づいてきた。どうやら、近くに残滓はいないらしい。
「はい、何とか倒して核の回収をしました。これで、72個ですね」
すでに朝から倒し続けて、40個は回収している。目標は100個だ。だが、すでに日は傾き、すでに夕刻が近づいている。
「よし、二人とも、キャンプ地に帰るよ。忘れ物がないようにしておいて」
今日はもう引き上げようとターニャが判断するのもわかる気がした。
「「はい!!」」
エイダと同時に返事をしてしまって、久しぶりにエイダ様と顔を見合わせた。それを、付近を警戒しながら、ターニャは、優しそうに見守っていた。
「いやぁ、本当に見所のある新人が入ってくれて助かったよ。でも、早く撤退の準備をしようか?」
「ええ急ぎますわ。」
ターニャは、身に着けている最低限の武器防具以外を、クラウに預け、エイダも、それと同じようにクラウに預けた。
クラウは慣れた手つきで、預かった品物をまとめ上げ、固定すると、少し試すように動かす。
特に不安定な箇所なし。問題なし
そう判断し、背中に重みを感じながら、一気に担ぎ上げる。不思議なことに、引き上げた後は重たさを感じることもなくなっていた。
「こっちは大丈夫です!行きましょう。」
クラウの声に、ターニャとエイダは顔を見合わせて、頷き、あたりを警戒しながら、急ぎ足で、その場を後にする。ほんのわずか後に、残滓たちが、再び湧き上がるように現れたときには、すでに3人の姿はその場にはなかった。
クラウたちは、キャンプ地につくと、すぐに野営の準備に取り掛かった。クラウが、荷ほどきをして、テントを準備し、エイダが、竈整備をして、ターニャが薪と夕食の準備をする。大掛かりなテントが張り終わり、竈に灯がともり、その場に、香ばしい肉の焼ける音と匂いが、漂い始める頃には、すでに、あたりは薄暗くなり始めていた。
ターニャは、懐から一枚の銀貨を取り出すと、竈に投げ入れた。聖化銀貨と呼ばれる、一種の結界魔術が封じられた特殊な貨幣だった。一夜の安全を与えるという、法国の奇跡を表す一品だ。
討伐者や商人に優先的に与えられるが、それは、希少で、なかなか市場に出回らないものだ。そのため、銀貨という名前だが、金貨より高値で取引されることも多い。
「いいのですか?そんな希少なものを?」
エイダの問いかけにターニャは笑みで応えた。
「いいの。明日にはここから離れて、村でゆっくりできるから、これくらいの投資は、全然余裕。っていうわけで」
直火で炙った干し肉と、小麦粉と塩と水だけで作って、スキレットで焼いた素朴なパン、そして、皮袋から取り分けた薄めた葡萄酒が、今日の晩餐だった。それぞれを、クラウが、テント設営の時に見つけた、大きな葉っぱに、切り分け、とりわけて、それぞれの木のコップに注いだ。
「さて、たべて、早く寝よう。明日は、お昼までには終わらせたいからね。」
ターニャの声に、おされて、クラウは、少な目に切り分けてもらったパンにほんの少しの干し肉を乗せ、食べた。パンは、けっして柔らかいものではなかったが、干し肉のうまみと塩味をうまく取り込んでくれて、とてもおいしく感じられた。
咀嚼を重ね、ゆっくり、少しずつ食べていく。間に、アルコールを飛ばし、水で薄めた葡萄酒を口に含む。ぱさぱさになった口の中が潤されていくと、再び、パンが欲しいという欲求が首をもたげ、少しずつ、口に運んだ。
ふと、ターニャとエイダを見ると、それぞれに食仕方が違った。ターニャは、持参した葡萄酒にパンを浸しかじると、干し肉を交互にかじり取っていた。
エイダは、干し肉をダガーでさき、それを一口食べると、その後、パンをおなじダガーで切り分けて食べていた。コップには、まだ、口をつけてもいなかった。
じっと見ていることに気が付かれたのだろうか?ターニャが苦笑いを浮かべながら、クラウを見つめなおした。
「ああ、この食べ方か?変わっているだろ?」
「あ、いえ、そういうことはないです。」
「いや、どうしても、討伐隊の前衛なんて張っていると、食べられるときに食べることしか考えないようになってしまう。特にダンジョン防衛戦に駆り出されたら、三日三晩働きづめってことも多いからね。どうしても、早く食べよう、早く食べようって、そればっかり考えてちゃうんだ」
「だから、わたくしが、今ターニャさんにマナーの指導をしていますの。クラウさんもよければいかが?」
思わずターニャを見つめると、笑みで返された。クラウは、その意味が分からずに、一口、葡萄酒をすする。
「あはは、ほらね、エイダ。まだクラウには早いのよ。」
「そうですね。少し残念ですわ。」
クラウは、少し首を傾げ、エイダを見た。エイダはいつものように微笑んでいるだけだった。
「そういえば、クラウは好きな人はいるの?」
「え?」
クラウは、完全に不意を突かれたように、考え込んでしまった。好きな人?好きって何だろう?おばばのことかな?でも、エイダ様も・・・。
「ターニャさん?クラウさん、真面目に考えなくてもいいのですよ。」
エイダからそういわれて、クラウは、考えるのを止めた。結局、一人では考えがまとまらないらしい。
「すいません。ターニャさん。私は、好きな人の意味が分かっていないのかもしれません」
その声に、ターニャは、少し声を上げて笑った。
一瞬馬鹿にされていると思ったが、違った。たぶん、ターニャは、自分を笑っている?
「いいんだよそれで、その年で、好きな人と言われて困惑しないのは、すでに婚約者がいる場合だけだ。クラウ。あんたが、好きな人と出会えることを信じているよ」
ターニャは、そういうと、少し紫色になったパンにかみついた。
「あら、でも、ターニャ様には思いの人がいらっしゃる模様。わたくし、気になりますわね」
「うっ。エイダ嬢。大人をからかうものじゃないよ」
いたいところを突かれたらしい。ターニャは少しもの言いたげに、エイダを見ていたが、エイダは涼し気に流していた。
クラウはその様子を見ながら、残ったパンを噛みしめた。結局、その輪に入れないだけだった。
翌日、100個の核が集まったのを確認して、3人は急ぎ、その場を後にし、王都へ帰還することにした。
村を2つ経由し、そして、半日歩き通して、王都の城壁が見えてきたときにはほっとした空気が流れた。
「お疲れ。エイダ、クラウ。報告と、認定を受けたらこのクエストは終わりだからもう少しだよ。」
「はい!!」
「はいって、クラウさん、その前に」
目の前には、長蛇の列が出来ていた。しばらくは入れそうにない。
「ああ、しばらくこんな状況なんですね」
いやがおうにも目立ってしまうクラウは、少し肩を落とした。
「いや、そうでもないみたいだ。」
ターニャの見つめる方に視線を向けると、そこには、見たことのある人影があった。
細身の体のラインがよく出る、赤いドレスにヒールの高い靴・・・アマンダだ。
「Hello.おっと、久しぶり。クラウちゃんも、エイダちゃんも。元気そうで何より。」
「アマンダ・・・全く、何の連絡も入れていないはずだぞ」
アマンダは、少し考えている様な表情を浮かべたが、すぐにいつものような表情に切り替える。
「ええ?そうだったかな?1週間の予定ってい聞いていた気がしたからね。」
アマンダの全くつかめない行動に、ターニャは、少し怒っているようだったが、やがてあきらめたようにため息をついた。
「はぁ、お前と話をしても仕方ないってわかっているけど・・・で、迎えに来てくれたの?」
「そう、お迎えです。こっちにどうぞ」
ターニャは、少し諦めたように、アマンダの後についていく。クラウはほっと胸をなでおろした。今度は、服のことでもめなかったようだ。
「さあ、行きましょう?今日のアマンダの服は地味だから、見落とすかもしれないわ。」
エイダが声をかけてくれる。クラウは、頷き、アマンダを見落とさないように後に続いて、王都への門をくぐる。
やがて、いつものように、ギルドの本部にたどり着いた。
そこはいつものように、いや、いつもよりも、荘厳な気がした。ギルドの受付カウンターには2人の姿があった。
一人は、受付嬢。もう一人は、神官服を着た男性であった。クラウとエイダはその姿に見覚えがあった。村での最低の儀式のときにいた神官だった。
「クススト完了です。お疲れ様です。さて、クエストカードを。」
促されるがままに、クエストカードが、ターニャの手から、受付嬢の手に渡り、クラウもそれに倣うように、残滓のコアを受付嬢に渡す。
受付嬢はそのコアを確認し、隣の神官服を着た男性に渡す。
「核の個数、確認しました。」
男性は、祈りをささげると、そのコアがだんだんと減っていき、そこには、最初からなにもなかったように、机だけがあるだけだった。
「・・・エイダさん、クラウ様。これより、決定が下されます。」
エイダは、ほっとしたように、神官の前に膝まづいた。
神官が、エイダの額に手をかざす。その瞬間に、神官の茶の瞳に、金の光明が走る。
「エイダ=マグサ。貴のクラスに祝福を。
汝に『火球』のスキルを与える。」
おおっと、声が上がる。討伐ギルドでも、有名になりつつあったエイダに、さらに箔をつけるにふさわしいスキルだ。
討伐者たちの声援が、エイダの心を後押ししたように少しホッとした表情をクラウに向ける。
「エイダ、汝には、『大修復』、『鎮静化』、『活性化』のスキルを与える。」
聞いたことのないスキルだが、エイダはそのままその栄誉を身に受ける。
その様子を見ながら、クラウはほっとしたように見つめていた。次は自分の番だ。
「では、クラウ。貴のクラスに祝福を。」
『何かな?烈風剣かな?見切り系のスキルかな?早く前線に立ってエイダ様や、ターニャさんの役に立ちたいな』
そう思いながら、クラウは、膝をついた。
その瞬間は、すぐに訪れるはずだった。
「クラウ■■■■、汝は、■■の■■■として、”#!’(を与える。もって、■■、#$~=を許可する。」
不意に訪れた聞き取ることすらできない声に、ギルド内は、困惑に包まれた。
「な、なんて言ったんだ?何も聞き取れなかったぞ」
ターニャが、困惑を顔に出しながら、問い詰める。神官や受付嬢にも困惑が伝わっているのがわかる。
「そうだ、クラウさん、クエストカードを見てみられては?そこに答えはあるはずですわ」
クラウはエイダの声に応え、自分のクエストカードを確認する。その時だった。
「なにこれ?」
クラウのクエストカードに、スキルが書き込まれた。しかし見たことのない内容にターニャは絶句していた。
’(クラウ■■■■、エイダ=マグサ
『剣聖』クラウ
需給クエスト:残滓討伐
100/100 依頼完了
クラウ■■■■ ~=!神託
”#!’( を授ける
’(たるあなたに祝福を、
不明は不明なり、不明不明不明
『魔導士』エイダ=マグサ
需給クエスト:残滓討伐
100/100 依頼完了
エイダ=マグサ 神託
火球を授ける
御手は炎。なり、汝の敵を焼き尽くすだろう。
その、クエストカードは、クラウの未来を嘲笑うように、黒く塗りつぶされ、何もわからないという文字が踊っていた。
覗き込んだエイダが絶句する。
「クラウさん、それは?どういうことです?あなたは『剣聖』なのではないのですか?」
クラウは、何も答えられずに、物言わぬ、そのカードに目を落していた。
注釈:通貨について
銅貨、銀貨、金貨・・・国同士で使用する貨幣単位。通常のレートは、100銅貨→1銀貨→100銀貨→1金貨
聖化銀貨・・・特殊な工法で作成された銀貨。結界を張る効果があり、様々なところでの需要が見込まれため、価値は安定しない。法国の主な輸出品の一つ。
○〇幣・・・ローカル通貨。村、王都などの様々な種別が存在する。銅貨から返還する場合は、9割、銅貨に変換する場合は1.1倍で換算される。レートは場所によって異なる。
共通ドル・・・大倭で流通しているといわれる貨幣。詳細は不明。
共通イェン・・・魔属領で流通しているといわれる貨幣。詳細は不明。




