田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~エピローグ~
クラウは、討伐ギルドの入団テストに合格した。
ただ、その時に無理をしすぎたのか、倒れてしまったクラウは、アマンダに治療を受ける。
治療の甲斐あり、クラウは午後から講義に復帰する。
以前は、討伐ギルドの仕事は、モンスターの討伐とダンジョンの攻略が基本となっていたが、現在はダンジョンの性質が変わり、帰還率が0になったため、国軍と協力し、ダンジョンから溢れた堕ちた獣を狩る討伐隊というように、変わっている。
クラウは、討伐ギルドにエイダとともに残ることにした。
そのほかにも、『剣士』レオ、『魔術士』アレク、『闘士』バルス、『騎士』イオシスが、討伐ギルドに残ることになった。
クラウは、それからひたすらに訓練と教えを受け続けた。
その大半が、すでに知っていることだとしても、それでも新しいことを知るという喜びはあった。
エイダは、別の訓練や教えを受けているらしく、一緒になることは少なかった。それでもクラウは、時折、討伐ギルドの廊下で出会うとき、そっと、微笑んでくれるエイダのことを信頼できると思っていた。
そんな中でも、時はめぐってしまうのだと、知ることが起きてしまった。
「え、明日で、終わりなのですか?」
クラウは、夜にエイダから、衝撃的ともいえることを言われてしまった。
「ええ、そうよ。明日で、ここの訓練と教習は終わり。明後日には退去が必要になってくるわ。クラウさんは、荷物が少ないから、少しうらやましいわ」
いよいよ明日で、討伐ギルドの基本的な訓練が終わり、それぞれ各自で活動をしないといけなくなる。
エイダからは、何も聞かされていないので、クラウはあまり気にすることなく、今まで過ごしてきていた。
それが、終わる。
「では、クラウさん、荷物をまとめておいてね。詳しいことは明日の夜にゆっくり話しましょう」
エイダはそれだけ言い残すと、その場を後にした。クラウは、その背中が廊下の曲がり角に消えるまで、ただ見続けていた。
いつも通りに訓練をして、いつも通りに学ぶ。そんな日が終わることがまた来るなんて、と、クラウは想い、ただ、ただ、いつものように過ごしていた。
あらためて、今日は最後ということが伝えられ、クラウは、この5日間ともに訓練をしてきたレオと模擬戦をすることになった。
クラウは、少し重めの樫の木剣を、レオは、標準的な白木の木剣を手に取った。
「では、これより模擬戦を始める。両者、背中を合わせろ」
ギルドの基本的な決闘スタイルの模擬戦だった。立ち合い人はジョンだ。
ルールはシンプル。立会人が10まで数え、両者とも1ごとに1歩前に進む。10歩目を踏み出した瞬間から、決闘開始というルールだ。
クラウとレオは、背中を合わせた。クラウは、どう攻めるのかを考えていた。
「2」
「3」
『一太刀が勝敗を分ける。絶対に、一撃目は譲れない』
クラウは、5歩歩いている。同じだけ、きっとレオも歩いているはずだろう。
『10の声と同時に、最大加速。相手に重い一撃を加える』
「8」
「9」
『やってみる!!』
「10」
踏み込んだ進行方向と垂直になるようにひねり、そのまま加速する。クラウは、木剣を逆袈裟に振りかぶる。本当は、上から下ろしたかったが、加速がつきすぎて、木剣を振りかぶることができなかったので仕方なく、逆袈裟にした。
「来ると!!」
レオには読まれていたようだったが、攻撃を受けるのが精いっぱいだったようで、そのまま、少し、剣に少し引きずられる。
「はっ!!」
レオが、気合を込めて、クラウの剣を受け流す。
クラウの剣が地をつく。
「くっ」
クラウは、その体制をあえて立て直さずに、左足で、レオの腹をけりぬき、その衝撃を利用し、3歩下がり、剣を正眼に構え、両手を添える。
一方のレオも、そのキックに驚いたようだったが、すぐに立て直し、剣を下段に構え、左手のガントレットを前に出す姿勢を取る。
『あの構えだとすると、組討ち狙い。だとすれば・・・』
ガントレットは、有効打とカウントされない。そのため、重い剣撃に対しては、叩き落すようにガントレットでパリィし、その無防備に開いた胴に、一撃をくれるという戦術が有効になっていた。
お互いに少し、動けない時間が過ぎる。クラウは、意を決し、相手の懐に飛び込んだ。
クラウの放った付き攻撃をガントレットで受け流そうとした瞬間に、クラウの剣が、跳ね上げに挙動を替え、ガントレットごと、左手を弾き飛ばす。だが、レオは、冷静に懐に飛び込んだクラウの腹に、木剣を当てる。それと同時に、クラウの右手の木のダガーがレオの喉元に突きつけられた。
「両者そこまで」
ジョンの手があげられ、クラウとレオは、お互い3歩離れる。
「ああ、一撃で決められるって思っていたのに・・・」
クラウは、少し残念そうに口を尖らせる。
「今日は相打ちだったけど、本当に、一撃目は鋭いな。何度苦汁を舐めさせられたかわからないよ。まあ、あれだけ見せていれば、対策くらいは取れるさ」
「2人ともいい動きだった。スキルもなくここまで動けるとは、筋がいい。これからは、実戦に移ることになるが、今の動きを忘れるな」
ジョンからお墨付きをもらい、レオはガントレットを外し、クラウに握手を求める。クラウもそれに倣った。
「じゃあな、『剣聖』クラウ、これから頑張ろう。君の活躍を願っているよ」
「ええ、『剣士』レオ、私も、同じ気持ちです」
二人は、握手を交わした時だった。
カーンッ!!、カーンッ!!、カーンッ!!
教会の鐘が高らかに鳴り響いた。ちょうど、お昼になったらしい。
「さて、今日で訓練は終わりだが、訓練場自体はいつでも使用できる。その時は使ってもらってかまわないからな」
クラウは、レオに別れを告げて、食堂に向かうことにした。昼からは、再び教習がある。比較的長く食事をとれるといっても、急いで終わらせるに越したことはない。
「はい、『剣聖』さん。いつものセットね」
そこには、少量の野菜と肉が入ったスープと、クラウの手の甲くらいのパンが置いてあった。
「あんたは、本当に小食だね。ここ一週間見てきたけど、そんなんで前衛なんてやっていけるの?」
「うん。あまり食べなくても大丈夫です。」
クラウの話に、食堂のおばちゃんが呆れたような表情を浮かべる。
クラウは、受け取ったプレートをもって、2人掛けのテーブルに座り、少し待つ。やがて、目の前に見知った顔が座る。
「相変わらず、小食ね。クラウさん。でも、全く食べなくても大丈夫ですとか言わなくなっただけでも成長したと言えるのかしら?」
エイダも、ワンプレートの質素な食事だが、クラウよりも品目も多く、パンの大きさも少し大きい。
「エイダ様。私は平気です。」
クラウはそういうと、スープを一口、口に含んだ。
エイダは、そう、とだけ相槌を打ち、サラダにフォークを刺した。
昼からの講義は、どちらかと言えば、今後の活動についてということを話しているようだった。クラウは、エイダとともに行くことを決めていたが、真面目に聞き続けていた。
「では、ここまでで、今後の活動についての説明は終わるが、追加で少しだけ話をしておこう」
ジョンは、壇上の本を閉じ、少し口を閉じた。
「パーティ、クラン・・・ここで、発生したトラブルは、基本的にそのパーティ内で処理されることになる。最悪の場合、メンバーから除外されることになるが、これを決めるのは、パーティリーダーに一任される。」
ここでジョンは一度言葉を切った。
「近年、パーティの無謀な行動が多く報告され、貴重なギルド員の流出が続いている。止む負えず、パーティメンバーを追放するかどうかは、事前にギルドへの報告を義務づけている。」
クラウは、その意味を知りたいと思ったが、聞かない方がいいと思い、そのあとの言葉を待った。
「もし、必要がある場合には、討伐ギルドにおいて、裁判を要求することができる。
裁判は、2つの方法がある。討議による裁判と、決闘による裁判だ。もし、意義やそのような空気があるときには、討伐ギルドの側としても力になるつもりだ。
戦場でも、いずれの場所でも、決して一人で戦っていると思わないでくれ。」
クラウは、その言葉に、なぜか少しだけ、安心を覚えた。
そこから先は、特に新しい情報もなく、講義も終わった。
講義室の外には、エイダがいた。服装が、いつもの訓練服ではなく、よそ行きのものに変わっている。
「クラウさん、急いで準備をお願いしますわ。」
「あ、はい」
クラウは、急ぎ自室に戻り、急ぎ訓練服を脱ぎ、壁にかけてあったワンピースに着替える。
靴下を履き替え、靴を履き替えて、急ぎエイダの元に帰った。
「お待たせしました」
「あら、早かったわね。表に馬車を待たせているから、一緒に行きましょう」
クラウは、不思議そうに首を傾げ、癖になっている首元にふれた。
着けた記憶のないチョーカーが、冷たい感触を放っていた。
クラウとエイダが馬車に揺られて着いたのは、町の中央にある豪華な宿だった。
「あのここは?」
「ここはね、クラウさん、これからあなたが暮らしていく場所。そして、私たちの拠点となる場所よ」
扉が開くと、中は広い空間になっていた。煌びやかなシャンデリアが、吊り下げられていた。おそらく本来はエントランスとしての役割をしているのだろう。その中に4人の姿があった。後ろで扉が閉まり、カギがかけられる音が聞こえた。
「エイダその子が、そうなのか?」
中央にいたリーダーらしい男が声を発する。エイダは、頷き、男に膝を折り、礼をする。
「はい、勇者様。この子・・・が、『剣聖』クラウです」
クラウは、目の前で起こっていることが、飲み込めないでいた。エイダが、まさか自分を売るなんて考えてもいなかった。それよりも、エイダが、人に頭を下げているのを始めて見た。
「さあ、クラウ。自己紹介を」
クラウは、エイダに促される。一瞬勇者と視線を交わす。勇者の瞳には、絵も知れない感情がが浮かんでいるように見えた。
「あ、あの、『剣聖』クラウです。」
クラウは、何とか失礼にならないように、腰を折って礼をする。
勇者の口元に、ほんのわずかに笑みが浮かんだ気がした。
「よろしく、『剣聖』クラウ、『魔導士』エイダ。王都唯一の『勇者』エクスだ。2人の力をこれから当てにしている。ターニャ。」
勇者の左手の側にいた、ターニャが、前に出て、クラウに微笑みかける。
「これから、しばらくの間は、私が後見になって、あなたたちとクエストに臨むことになるよ。最低限のスキルがそろうまでは、サポートをするからよろしくね。」
「皆、すまないが自己紹介をしておいてくれないか?」
その声に、ターニャの隣にいた銀の髪に、翠の瞳の女性が、一歩前に出る。
「聖女 オリビアでございます。神のクラスに愛された者よ。これからの活躍を期待してております」
右手を前に、頭をわずかに下げる。
右手側の男性が一歩前に出たのと同時に、オリビアは、一歩引いた。
「ディ=フォルトだ。賢者をしている。しかし、剣聖とは興味深いな」
まじまじと、見られて、クラウは、すこし怪訝にディ=フォルトを見返す。
「フォルト、あまり女性をじろじろと見るものじゃないよ。失礼だよ。」
「いや、剣聖となったのが、こんな、真っ白とは思わなかったのでね。」
ディ=フォルトは、意味ありげに口元をゆがめた。
「あの、エイダ様・・・これってどういうことなのです?」
エイダは少しだけ、クラウから視線を離した。
「クラウ、そんなエイダを責めるように聞くものではないよ。エイダは、もともと、勇者パーティに参加予定だったんだから。」
ターニャの声に、クラウは驚いた表情を浮かべた。
「クラウさん・・・一緒にやっていきましょう。」
エイダの差し出した手を、ほんのわずかに握るのが躊躇される。クラウは、少しだけ目を閉じ、チョーカーにふれる。チョーカーは、冷たいままだったが、クラウは、それ以上の選択肢がないこともわかっていた。
「わかりました。エイダ様と一緒ならば」
クラウは、頷き、差し出した手を取る。
「さて、二人の意見は固まったようだな。ようこそ、勇者パーティに。歓迎しよう。『剣聖』と『魔導士』よ」
翌日、勇者パーティに『剣聖』と『魔導士』が加わったと、討伐ギルドで話題に上がった。クラウはその話題を無視して、急ぎ荷物をまとめ、一週間暮らした部屋を後にした。
奇蹟は起きずに、やさしい夜が明ける。その後に、その対価として、朝の光が、苛むように降り注ぐのだろう。
注釈:国によって、ダンジョンへの対処は異なります。積極的に攻撃を行う国もあれば、戦略的に必要ないとすれば、徹底的に無視する国、そもそもどう対処しているのか外に知られていない国もあります。




