田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~学び舎は王都にある そして~
説明となるシーンです。
読み飛ばしてもらってもいいです。
次話前書きで、わかりやすいように書きます。
簡素なお昼ご飯を食堂で食べ、クラウたちは、講義室のようなところに案内された。そこでしばらく待っていると、さっきのライトブラウンのギルド構成員が、クラウたち、新規入団者の前に現れ、全員に開いている椅子へ着席を指示した。
クラウは、エイダの隣に座らされた。
皆が、かたずをのむ中、男は軽く自己紹介を始めた。
「先ほど、見知った顔もいるが、俺は、ギルド銀紋のジョンという。今日は、昼から君たちに、討伐ギルドのことなどを教えていきたいと思っている。
明日からは、訓練等で、忙しくなる者もいるだろう。だからこそ、この討伐ギルドという組織を十分に知って、君たちの力にしてほしい。そして、ギルドのために君たちの力を貸してほしい。」
すこし、講義室内がざわつく。そのざわつきが収まるのを待って、ジョンは続けた。
「では、討伐ギルドを説明していく前に、少しだけ、君たちの認識を確認しておこう。そこの、赤い術士服の君。」
ジョンが指さした、少年が立ち上がる。さすがに動揺している様子もなく落ち着いている。
「ダンジョンについて、知っていることを言ってほしい」
「ダンジョンですか?」
少年は少しだけ、考える様な表情を浮かべ、知っている知識を話していく。
「ダンジョンは、様々なモンスターが住んでいる場所です。そのモンスターには、ゴブリンやコボルト、オーク、そして、最上位のドラゴンもいます」
「そう、そう、そこに潜入して、モンスターたちをバッタバッタと倒して、奥から宝を持ち帰るっていうのが、討伐者の姿だよな。」
横から口をはさんできた少年に、赤い術士服の少年は、少し驚いたようだったが、すぐに落ち着きを取り戻し、話をつづけた。
「これが、僕の知るダンジョンです。このダンジョンを攻略する者たちが、討伐者と呼ばれていると聞いています」
パチパチパチパチ
ジョンの拍手が、教室の中に響いた。クラウは、教えてもらったこととずいぶん違う話を聞いたので、少し驚いていた。
「そうだ、ダンジョンとは、多様なモンスターが生息する場所で、そのダンジョンに突入し、モンスターを討伐し、宝を持ち帰る・・・それが、討伐者・・・だった」
ジョンの目が開かれて、次の犠牲者を探す。
「では、次、さっき討伐者の姿について語ってくれた君に聞こう。ダンジョンは危険がたくさんだ。そうだな、世界で一番簡単なダンジョンに突入した人間はどれくらい戻ってきていると思う?あてずっぽでいい」
「ダンジョンに突入できる討伐者なら、よっぽど運が悪かったり、実力と離れたところじゃなければ、きちんと、10人中10人戻ってくるんじゃないですか?」
ジョンの眼が、少し閉じられて、静かな講義室内に机を指で叩く音が響いていた。その音は、人を不安にさせる要素でもあるのだろうか、赤い術士服の男のこと、今立って発言した、赤茶色の騎士服の男の子は、不安そうに顔を見合わせた。
「では、正解を言おう。ダンジョンに突入した人間が10人いた場合、10人とも帰ってこない、これはどんなダンジョンでも同じだ。実力に見合っていようが準備をしていようが、現在、ダンジョンに突入した人間の生存率は0だ」
全員に緊張に似た空気が走った。それは、事前にこのことを知っていた者たちにも改めて衝撃を与えるに十分な情報だった。
「ダンジョンの入り口から中を見て、暗がりに入り込んだ時点で、人間はまるでいなかったように狂気に陥り、消失する。そして、ダンジョンの入り口を我々の力のみで塞ぐことは不可能だ、大規模魔導器による爆破、岩で塞ぐなどを試してみたが、全く効果がなかった。今のところ、ダンジョンから、あふれ出てくるやつらを根こそぎ倒しつくして、ようやくダンジョンが閉じることができる」
「奴らというのは、モンスターのことですか?」
赤い術士服の男の子から発せられた質問に、ジョンは首を振ってこたえた。
「今のダンジョンから出てくるものは、獣とだけ呼ばれている。正式な呼称は『堕ちた獣』だが、大きさ、形だけで判定され、固有の呼称を持たない。こいつらが、ダンジョンから溢れることを、氾濫というが、1回の小規模な氾濫でおよそ100~200、大規模なものの場合、1000を超える数が吐き出される」
再び、室内がざわつく。
「そのため、ダンジョンの攻略は、基本的に国軍の仕事となっている。そのため、討伐ギルドは、その支援に行くことはあっても、ダンジョン攻略の本隊として動くことはほぼない」
「じゃあ、討伐ギルドは、何をするところなんですか?」
つい、クラウの口から、疑問が漏れた。小声であったはずだが、講義室内に響いたのか視線が集中してしまっている。
「あっ、さっきの・・・」「隣のやつ、止めろよ」「変な服だな」
小声の会話が一瞬聞こえた。
「いい質問だ。討伐ギルドの役割は2つ、ダンジョン攻略の支援とフラッドで処理できず、
ダンジョンから離れたところに居ついた獣の討伐だ。これを国の垣根を超えて行うのが討伐ギルドの目的になる」
クラウは、納得したように頷いた。エイダは、すでにその知識を知っているからだろうか、特に表情を変えず、背筋を伸ばしていた。
「このダンジョンだが、本体と思しき場所があることは、知っているか?」
本体という言葉に、エイダも驚いたような表情を浮かべた。
「遥か北に、ハイブと呼ばれる、六角柱が連なる背塔螺旋状の巨大な縦穴が存在する。深度は最も浅い場所でも3kmを超える巨大な縦穴。ここは、不思議なことに人類が近づいても、何ら問題はないが、その穴の奥に、無数の獣が存在していることは確認されている。その密度の高さから、ここが、ダンジョンに何か深い影響を与えているのだろうと言われている」
確認した方法を聞こうかと思い、エイダを見たが、どう見ても聞かない方がいいとクラウに無言の圧力を加えているようだった。
クラウは黙り、ジョンの説明に耳を傾けた。
「では、次にモンスターだが・・・モンスターと呼ばれる存在は、30年前に全滅している」
全滅という言葉が、出るとは思っていなかったらしく、全員が絶句していた。
「30年前、オークキングが討伐されてからは、全世界において、モンスターの目撃情報はない。もちろんモンスターとされていた野生動物などいるのだが、モンスター自体は不思議なことに影も形もなくなってしまった」
「もし、モンスターを捕獲できたのなら、望む金属1kgと交換できるようになっている」
次々と新しい情報を教えられて、クラウも少し混乱してきていた。
「さて、では、1時間ほどたったな、10分ほど休憩しよう」
ジョンは、教壇に戻り、水を口に含んだ。教える側にも休憩時間が来たようだった。
「あの、エイダ様、さっきから、変な単語がたくさん出てくるんですがメートルとか、グラムとか、さっきの時間、分とか・・・何なんですか?」
「あら?クラウさん、メートル、グラム、時間ってご存じないの?」
クラウは、頷いた、村や館での教育の時に、時々そういう会話があったのは知っていたが、今までは、気にしたこともなかった。
「メートル法・・・20年前から標準的に使われている、単位法よ。30年くらい前に、魔属領が提唱して、検証作業を行って定着したわ。その後、大倭が、3年前に単位の正確さについて更新を行ったの。ええと、今のメートルの単位は」
「相対性理論が成り立つ世界の場合、光が1秒の299792458分の1時間の間に進む距離、これが1メートル。呪文みたいで、何を言っているかわからないが、これが、メートルの単位の基本らしい」
気が付いたら、クラウの横にはジョンがいた。顔をじっとのぞき込んでいる。クラウは恥ずかしさからか、思わず視線をそらした。
「しかし、共通単位を知らないとは。エイダ嬢、教育が成っていないぞ」
「いえ、クラウには、先に知るべきことが多かったため、共通単位については後回しにしただけです。それにここで聞けると知っていましたし」
エイダが少し抗議するような眼を向け、クラウは少し縮こまった。聞くべきだったのだが、後回しにしたツケが今回ってきた。
「まあいい、ちなみに、グラムは、よくわからん。重力とか質量、粒子場関数という単位が使われるらしい。まあ、概念的な存在をどこまで認めるかということらしいがな」
やがて、鐘が鳴り、再び9人の生徒が、講義室に集合する。
その瞳は真剣そのものだ。クラウもその空気に引きずられ、必死に聞こうと、表情を引き締める。
「さて、講義を始めるが・・・少しはリラックス・・・落ち着き給え。まだ、始まったばかりだ。次は国のことを話していこう。
今現在、王国と親交のある国は6カ国。
我が王国
双子なる帝国
異端なる魔属領
素晴らしき法国
畏怖すべき魔王国
そして、謎多き大倭
この6国だ。」
その声に、講義室のあちこちから疑問と修正を求める声が出る。
「あの教官、機甲国や、魔導国は?あるはずです修正してください!!」
「小王国群は?どうなっているんですか?」
その声に、ジョンが悲哀をもって答える。
「ほかの国はない。諸君らの言っている国は、すでに30年前に消滅したと思われている国だ。ゆえに国交はない・・・」
その声は、宣言のように講義室に木魂した。一部の生徒たちは、明らかに顔をゆがめる。
「本来は、現状で全く連絡が取れない。・・・つまり我々にとっては、無くなったと考えるべき国だ。今ある国で、と言いたいところだが・・・」
ジョンが一瞬言葉を斬る。クラウは、全てがわかっているわけではなかったが、じっとジョンを除いこむ。
「王国を例にとると、大倭、魔王国と少しは親睦があるが、他国とは友好的な関係とは言えない。特に、帝国、魔属領とは犬猿の仲と言われても仕方ない。これは王国出身者の討伐ギルド員においても同様だそう考えてほしい」
ジョンの言葉に、クラウはつい、エイダに問いかけてしまう。
「あの今の言葉の意味がよくわからなかったのですが・・・」
「いかに討伐ギルドと言えど、国同士の垣根を完全に超えるとは言えないということですわ。私や、クラウさんは帝国内では、活動に制限を受けます。そして帝国出身の構成員の随行を求められることになりますわ。ただね、クラウさん。これは仕方のないなのですよ」
「国という枠組みが存在する。そうなると、制約はかかってくる。そういうものだと今は考えてもらっていい」
どんな危機にも一つになり切れない。人とはそういものだと言われているようで、クラウはなぜかは知らずに、身震いをした。
「我々は、ある程度の自由は認められる。だが、国にかかわる部分では、制約を受ける。それは知っていてほしい。さて、次の話だ。諸君、これが最後の話だ。」
講義室が重い静寂に包まれる。それは、ジョンの話を待つ入団正すべてに覆いかぶさる。
「それでも、名声を求めるもの。
それでも、人々の安寧に心砕くもの。
討伐ギルドは、君を待っている。
君の力を、待っている。」
「今までの話を聞いて、討伐ギルドに少しでも疑問を感じたものよ、この部屋から去るがいい。
討伐ギルドに、自らの利のみを求めるものよ、この部屋から去るがいい」
「ここは、そういう場所だ。それでも、討伐ギルドは君たちを求めている。」
その言葉に、3人が部屋を出ていく。エイダはそこに残り、クラウもそこに留まった。
ジョンは満足したように、残った6人を見た。
「魔導士 エイダ
剣士 レオ
魔術士 アレク
闘士 バルス
騎士 イオシス
そして・・・剣聖 クラウ」
全員の名が呼ばれる。あらためて、全員が身が引き締まる想いだった。
「あらためて言う、ようこそ、討伐ギルドへ。討伐ギルドは君たちを求めている。」




