田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~学び舎は王都にある(中)~
特に残虐や、心理的にきつい描写はないです。
クラウが、目を覚ますと、そこは、カーテンで区切られた小さな部屋のようだった。いつの間にか意識を失っていたらしく、ワンピースは脱がされ、下着の上に、着させやすい白い貫頭衣という、服装になっていた。
「うん?」
クラウは上半身を起こしてみるが、さして痛む様子もなかった。足元で動く影があるが、その声が聞こえたのか、すっと、顔を上げた。
「起きたようだね。一応心配だったから、骨とか調べておいたよ。時々ね、いるんだよ。ああいう討伐ギルドを勘違いしている子が。」
アマンダが、クラウの足に、何かを塗っている。ぬめぬめとしてるところを見ると、油のようにも見える。
「あの?何を塗っているんですか?なんか、すこし、気持ちがいいんですけど?」
「ああ、これ、特製の薬。・・・にならなんにでも効く秘密のお薬。みんなにはナイショだよ。もう少し、横になって休んでいて」
クラウは言われるままに、頭を寝台に倒した。まだ、今日は終わっていないのに、だいぶ疲れたような感じがあった。足に、アマンダがその薬を塗ってくれるたびに、少しずつ、何か暖かいものが、足を覆ってくれているようなそんな感じがした。
「はい、ちょっと、包帯巻くからね。今日中は取ったらだめだよ。あと、激しい運動は今日は禁止。午後から座学だからゆっくりしていってね。」
その声に、クラウは頷く。クラウの足に布が当たる気配があり、それが、両足をすっぽりと覆ったような気がした。
「はい、おしまい。すこし大仰だから、驚かれるかもしれないけど、こんなトラブルがあったから、一応おまけのようなものだよ。さて次は、お姫様の出番だ。邪魔者は一旦引かせてもらうね」
道具を直す音が聞こえ、カーテンの音が・・・
聞こえた。
クラウは、そのまま、少し眠ってしまった。本当にいろいろあった・・・
足からぽかぽかとした暖かさが昇ってくる。
その暖かさに身をゆだねるように、クラウは意識を手放した。
ひんやりとした感触に、クラウは目を覚ました。そこにはエイダが、座っていて、額に置かれたおしぼりに水を含ませている最中だった。
「エイダ様・・・」
「クラウ?クラウ・・・よかった。目が覚めたのね?心配したのよ・・・」
エイダは、目を覚ましたクラウを見て、安どの表情を浮かべる。それを見て、クラウはきょとんとした表情を浮かべ、エイダに問いかけた。
「あの、わたし、・・・もしかしてよく寝ていましたか?もう、2~3日経ってます?」
エイダは、それに一瞬驚いたが、笑みを浮かべ首を振った。
「さっき、アマンダさんと変わったところよ。本当にアマンダさん・・・
同じくらいの年なのに気が利くというか・・・
ギルド長から怒られたわ・・・私は、、クラウさんを止めるべき立場だったのに、そういわれて、つい・・・でも、アマンダさんが、間に入ってくれて、あなたが目を覚ましたって聞いて・・・本当に、良かった・・・
良かった。クラウさんが無事で・・・良かった」
クラウは、エイダの声にほっとしたような、気持ちになった。
「大丈夫です・・・アマンダさんが、いろいろと手を打ってくれたので・・・
午後からは、元気になれそうです。」
エイダの顔に、ほっとしたような笑みが浮かんだ。
「そういえばクラウさん、かなり苦しそうだったけど、もう、大丈夫なの?」
「ええ、もう平気です。なんか、前より元気っていう感じがするくらいですから」
クラウは、笑いながらそう言うと、エイダにお礼をいい、半身を起こし足を見た。
いつものように足はそこにあった。そこには特に変わったところもなく、布も巻かれていない。そっと触れてみるが、特に何かが塗られていたような形跡もなかった。
『夢だったのかな?でも、なんか心地いい夢だったな・・・』
「クラウさん、どうかされたんですか。自分の足をまじまじと見られて・・・」
「いえ、結構痛めたかなって心配になったので・・・」
クラウは首をかしげたが、答えが出るわけもなく、早々にあきらめた。
「クラウさん、無茶を今後してはいけないですよ。私がそれを禁じます。それに何ですか、あの走り。」
今日の走りはワンピースをできるだけ傷めないように気を使って走ったつもりだった。手を抜いたことを責められるのかと少し、びくっとした。
「2時間の間に、200周を超える周回を行うなんて、あなたの足はどうなっているの?」
言われている意味が分からずに、クラウは再び首をかしげる。
「あの、それってすごいことなんですか?今日は、服が服だったので、気を使って走ったつもりだったですが」
それを聞き、エイダは少し頭を抱えたような動作をした。
「あれは本当だったってことね。いい、クラウさん、あまり突拍子もないことはしないで。皆が驚いてしまって、止め時を失ったって聞いたわ。」
「そうだったんですか・・・反省します」
俯いたクラウの頭に、エイダの手が乗り、ゆっくりと撫で上げていく。
「でも、頑張ったわね。クラウ。よく頑張ったわ。合格だって、私はあなたとまだ一緒にいられるって。」
暖かいものが、体の内に生まれる様な気がしたが、クラウは、それが何なのかわからず、ぽかんとエイダを見つめていた。
「エイダ様・・・ありがとうございます」
クラウは、どう表現したらいいのかもわからず、その言葉に対してだけ短く返答をした。
そんなクラウの内心を知ってか知らずか、エイダは、クラウに微笑みかけた。
「お昼から着る服はあるの?」
「ええと、それが」
おそらく、あのワンピースは泥と汗でぐちゃぐちゃになってしまっただろう。となると、何を着て過ごせばいいのかと、クラウは頭を悩ませた。
「この格好じゃダメですよね」
「ええ、ダメね」
今、クラウが来ているのは簡素な貫頭衣だった。さすがにこの格好でうろつくわけにはいかない。
「はい、困っているみたいだから、着替え持って来たよ」
そこに入ってきたのは、アマンダだった。手には、少し珍しい服を持っていた。
「アマンダさん?」
「はい、この服ね。良ければ着てみていいよ。」
上着は、肌触りの良い布の一見男物に見えるシャツと、少し珍しい、青く、ところどころが白く退色している、手にごわごわ感触のあるスカートだった。
それに合わせるように、スカートの感触に似たジャケットが手渡された。
「見たことがない、ファッションですわね?これは、王都にあるお店のものなのですか?」
それに対してアマンダは首を横に振った。
「仕事上で手に入れたやつだよ。すこしダブっていてね。どうしようかなって思っていたところだったんだよ」
クラウは、エイダに目で訴える。あまり選択肢はなかったので、着てみようと思った。
「クラウさんはどうされます?」
エイダから不意に聞かれ、少しクラウは驚いた。
「ええと、着てみてもいいですか?」
アマンダは、嬉しそうにどうぞといい、さすがにここにいるわけにはいかないわねと言いながら、カーテンの外に出ていく。
そんな折、エイダを呼ぶ声が聞こえた。あれはターニャの声だろう。
「では、クラウさん、お昼からまた会いましょう」
周りの目がなくなったのを確認し、クラウは、貫頭衣を脱ぎ、シャツに手を通し、スカートに足を入れホックを止め、ジャケットを羽織り、ボタンを留めた。
その服は、合わせつけたようにぴったりで、クラウは少しうれしくなって、立ち上がり廊下に出た。
廊下には、エイダが待っていた。
「エイダ様?ターニャさんと一緒だったんじゃ」
「クラウさん?あら、意外と似合っているわね。少し変わっているけど、いい服じゃない」
少し珍しそうに、エイダはあちこちを触っていた。それを、クラウは少し恥ずかしそうに受け入れていた。
「見たこともない素材だけど、相変わらずアマンダは謎が多いわね。まあ、いいわ。クラウさん、体はもう大丈夫?」
「はい、平気です。心配をおかけしまし・・・た」
クラウは、いつものように頭を下げようとして気が付いた。この服では、こういう動作になれていないと。
クラウが一瞬、動作が澱んだのをエイダは、優しく微笑み見送った。
「すごくいい服ねクラウさん。とても・・・似合っている・・・似合っているわ」
エイダの瞳にふとさみし気な光が写った気がした。クラウは、それまで漫然と感じることしかできなかったエイダの表情が見えたことに少しうれしく感じた。
「はい、エイダ様、私はそれで、十分にわかりました」
クラウは寂しい瞳を讃えたまま、クラウを抱きしめた。クラウは、それを訳も分からず受け入れるしかなかった。
「う、ぅぅ」
エイダの言葉にならない、嗚咽が、ただクラウに聞こえるように響いた。クラウはそれを受け入れることしかできないことに、もどかしさを感じることしかできなかった。
でも、どんなに、もどかしくても状況が動くときは来てしまう。そう、望むに望まずに限らずに・・・
そんな時だった。ターニャが、廊下の角から現れた。意外に元気そうなクラウを見て、笑みを浮かべている。
エイダは、そんなターニャに手を上げ親しそうに挨拶を交わす。
ターニャとエイダは、2から3言ほど言葉を交わしたら、すぐにクラウへ向き直った。
「エイダ、クラウ?じゃあ、行こうか。今日の講義は大事だよ。これからこの世界で生きていくのならば」




