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田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~エイダside~

「合格だよ、エイダ。君は討伐ギルドと勇者パーティに必要な人材だ」


エイダは、そっと頭を垂れ、その言葉に感謝した。揃えた軽鎧とまだ、新しいレイピアが、壊れてしまったが、何とか、合格点をもらうことができたらしい。


「ありがとうございます。エイダ=マグス、期待に沿うように務めるつもりであります」


エイダは、目の前の男を改めて見た。かつて、フォールスの村から勇者がでた。それが、目の前にいるこの男のはずだった。

何度も村では会ってはずだが、そのころの面影は全くなくなっていた。

年相応に伸びた背と大きくなった胸板。だが、陰を感じる表情を浮かべた顔からは、年齢よりも歳をとっているようにも感じる。


「しかし、マグスの嬢様が、俺の部下とは・・・全く世の中とはわからないものだ」


男はそういうと、ターニャが持ってきた水を手に取り、のどを潤した。


「そういう、エクス様こそ、王都で唯一の勇者となったではありませんか。かないませんでした」


さっきのは戦いにすらなっていなかった。エクスの攻撃に、エイダがどれだけ耐えられるか、試すようなものだった。

強い剣撃をかわし、隠れて放たれた氷の刃を、炎の矢でしのぎ、小細工に対処を求められた。実戦に近い形式の闘いで、エイダは3分間にわたり、猛攻に耐えた。終わるころには、あちこちに、擦り傷と打撲を創っていたが、最期まで膝をつくことはなかった。


「敵わないか・・・なかなかいい筋だった。相当に鍛錬を積んでいるみたいだな。次は、討伐ギルドの入団の時に会うことにしよう。エイダ=マグス。さて、ここからは、少し教えてもらいたいことがある」


ふっと空気が変わった。さっきの空気が、冷たい水のようだとしたら、今は、うすい氷が張った水の中にいる様な寒さと、息苦しさを感じる。


「村に剣聖が出たと聞いた。そして、それをエイダは部下にしたようだな。・・・なぜだ?」


いつか聞かれると思っていた。そして、エイダが気が付いたときにはすでに周りを逃げられないように囲まれていた。


聖騎士 ターニャ


聖女 オリビア


賢者 ディ=フォルト


それぞれの視線が、エイダに集中する。


「ええ、そうです。剣聖が出まして、その子を私の部下にしました。」


エイダは、エクスの言葉を肯定する。エクスは次の言葉を促した。


「部下にした理由は、その子が、正式な王国民と言えないからです。その子は、3年前に村に現れ、後見人に拾われた『拾い子』です。そのため、身分の保証としてわたくしが、配下に加えました」


エイダは、慎重に言葉を選び答えた。その言葉に、勇者パーティで反応したものはいなかった。それを、納得のいく説明だったと捉えてくれたのだとエイダは思った。


「では、エイダ、次の質問だ。その剣聖は、適性はあると思うか?」


エイダは、ごくっとつばを飲み込んだ。やはり、クラウをパーティに加えようとしている・・・これまでに集めている事実は伏せて、思っていることを素直に告げた方がいいと思った。


エイダは、考えをまとめ、深呼吸をするようにすっと息を吸うと、話始めた。


「剣聖・・・クラウと言いますが、剣聖としての適性は未知数です。今まで剣を握ったことがない子で、いま、村で門衛たちに稽古をしてもらっています」


ここで一度言葉を切った。反応を待つ。


「なるほどな・・・だが、それだけではないと聞いているぞ」


エクスの声に、やはりと内心に、冷や汗がにじむ。


やはりという気持ちと、どこからという気持ちが交錯する。


「それはどういうことですか?」


エイダは、動揺を悟られないように勇者に問いかけた。相変わらず、その表情からは何も読み取ることができない。


「エイダ嬢、私の置かれている立場というものは十分に理解していると思っている。そして、私たちが何を求めているのかということも・・・」


エイダは、その言葉の意味をよく理解していた。だからこそ、剣聖を求めている・・・だからこそ・・・。


「その剣聖は、何か特殊な能力があると聞いている。霧の深い日に何かをしているようだな。何をしているのか、そちらが知っている情報を教えてほしい。もし教えられないのなら、さっきの話はなしだ。」


エイダは、内心で唇をかみしめた。


「・・・どこで知られたのかはお教えいただけませんか?」


「それも、交換条件だ。剣聖が何をしているのか、教えてもらおうか」


「剣聖・・・クラウは、朝3時間のうちに国境である渓谷近辺に達し、薬草の選別、採取を行い、村へと帰還しています。村からは、60キロメートル離れた場所です。」


「ほう、面白い事象ですね?飛行魔導具を使用しているわけではないのでしょう?」


横から、ディ=フォルトが口を出した。勇者がにらみつけるが、それを異にも感じていないように言葉を続ける。


「いくつかの魔導具を使用すればそれを行うこと自体はたやすいですが、面白そうな素体ですね」


「ディ=フォルト」


勇者の声が、会話を打ち切らせた。声に、賢者は、不満そうな表情を浮かべたが、フンっと鼻を鳴らし、その場を後にする。


「どこに行く?」


「ああ、ご安心を。少し、散策したいだけなので。」


そういうと、足早にその場を去っていった。


「賢者様の言う通りですが、魔導器の使用は、見られません。これは、剣聖・・・クラウの能力だと思います」


エクスは少し考えるように目を閉じた。そして、考えがまとまったらしく目を開け、エイダを見据えた。


「剣聖であれば・・・そのスキルだけでも十分な戦力になる。ずっとはできないかもしれないが、実力を見てみることは可能だろう・・・」


エクスはそう、エイダに告げた。エイダは、否定するように視線をそらしたが、その口から言葉が出ることはなかった。




エイダは、一人屋敷の訓練場に残された。勇者たちは、今頃父と話をしているのだろう。


「剣聖であれば、スキルだけで十分ですって、クラウ・・・」


今頃門衛に稽古をつけてもらっているであろう、クラウのことを思った。勇者の頼みとあればさすがに父も反対を唱えられないだろう。


「クラウ・・・守ってあげるとか言っておきながら、弱い私でごめんなさい」


エイダは、涙を流したいのをぐっとこらえた。屋敷の中では、誰が見ているのかもわからない。部屋に戻るべきだと感じた。エイダは、使用人に、訓練場の後かたずけを依頼し、部屋へと戻ることにした。


本邸へ向かい歩いている時だった。視線の先に、白い鎧を見にまとったさっきまで一緒にいた聖騎士 ターニャがいた。


「お疲れ。大変だったね」


「稽古付けありがとうございます。ご期待に添えられたようで何よりです」


ターニャは、そんな世辞はいいというように、手を振った。


「いい筋の手合いだったよ。あれなら、あいつも十分に満足できるんじゃないかな?まあ、とりあえずおめでとう。これで、あなたの目的に近づけそう?」


「ありがとうございます。パーティの一員にそう言ってもらえると嬉しいです」


「あ~、あとさ、これ、聞きにくいことだったんだけど・・・エイダって好きな子がいるの?」


その言葉が何を意味しているのか分からずに、ぽかんっと口を開けて、ターニャをエイダは見つめた。


「あはは、今はきっとその部下の子がかわいくて仕方ないんだね。そんな顔もできるんだ。冷酷な感じじゃなくてよかったよ。エクスも、そうだったんだけどね・・・」


エイダは、辛そうに語るターニャの言葉に、思わず俯く。


「エクスさんの心中は、察しているつもりです・・・そのためにできることをしていきます。」


「固いね。でも、ここで話ができたのも何かのきっかけだね」


ターニャは、グローブを外し、エイダに握手を求めた。エイダはその意味がよく分からなかったが、握手に応える。


ターニャの少し大きな手に、ぐっと握られる。不快ではないが、一方的に握られているような気がして、エイダは、少し顔をしかめた。

それに気が付かないように、ターニャはそのまま手を握っていた。


「うん、エイダ=マグス=フォールスは、確かに『魔導士』だね。今のところ、スキル数は2つ」


その言葉にエイダは驚く。鑑定のスキルを持っているのだろうか?だとしたら少しうかつなことをした。思わず手を振りほどく。


「勝手なことをしないでください!」


「あ、ごめんごめん。そう怒らないで。勝手に鑑定したのは謝るから。」


ターニャは、そういうと頭を下げた。不思議と怒る気も起きず、エイダは、ふぅっと息を吐いたにとどめた。


「一応、確認をするようにって、言われていてね。悪かったよ」


ターニャが苦笑いを浮かべているのを見て、やはりという気持ちが少し沸いてきた。


「そんなに討伐状況はよろしくないのですか?」


「ああ、そうだよ。芳しくないね。新しい力が欲しいと思うエクスの気持ちもわかるんだけど・・・だから、・・・」


そこに続く言葉はわかる。エイダは、ターニャの言葉を信じようと思った。


「私が、良いというまでは、クラウは私の元から離れさせません。剣聖でないのならば剣聖でないと私が判断するまでは、クラウは私と一緒に過ごさせます。だから、ターニャさんは心配なさらないでください。」


エイダは、強く宣言する。ターニャは、少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻る。


「それでいいっていうのなら、私は止めないよ。討伐ギルドには、私から話しておくから、エイダは入団はすぐできると思うけど、そのクラウって子は、入団試験を受けてもらうことになる。それでも、大丈夫?」


エイダは、すっと息を吸う。そして、笑みを浮かべた。


「ええ、私、クラウさんの上司ですから、クラウさんは入団試験に必ず受かると信じています。」


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