田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~討伐ギルドはあなたを待っている~
改めて、クラウはアマンダと握手を交わした。アマンダの言った通り、手の違和感はだいぶ薄れていた。
「というか、今日は、忙しいって聞いてたから、私が代わりに来たっていうのに、まさか忙しいってそういうこと?いや、いくら温厚な私でも引くわ」
そんな中、ターニャが、呆れてように声を上げた。それに対し、アマンダは肩をすくめやれやれという表情を浮かべる。
「失礼ですね、ターニャ様。私にとっては、これは、大事なことで、とても忙しいことです。いい服でしょ?とっておきなんです。クローゼットの奥から引きずり出してきたんですよ」
ターニャはそのアマンダの、気楽な声を聴き、はぁっと頭を抱えた。
「そんな服探すのに、忙しいって?素敵な服だと思うよ。私には似合わない。紅のワンポイントなんてとてもきれいだし、でもな、ここは、治安の悪い入国地域だぞ。常識ないのかよ」
「ええ、アマンダさん、その服が良い服だというのはわかりますが、さすがに・・・ここには、都会が初めての子もいるのよ。そんな服着ていたら、ここじゃ私は、お金持ちですって、言うのと同じではないかしら?」
ターニャと、エイダが詰め寄るが、アマンダは、気にもしないように笑みを浮かべた。
「あら、嫉妬?そんなことないわ。今日はいい日よ。だって、言ったとおりになったんだもの。ねえ?クラウ?」
「へ?あ、はい。アマンダさんに再会できてとても、うれしいです」
「そうだよね。ほら、クラウがうれしいって言ってくれるから、私の勝ち。ね、ターニャ、これからパーティメンバーになる子に、文句は言えないよね?それにエイダも、あなたの初めての部下じゃない。かわいい部下を泣かせたくないわよね?」
ターニャは、少し顔をしかめる。それに対してエイダは、何も感じていないように無表情であったが、扇で口元を隠した。
「ところで、アマンダさん、今さっきの手品って?魔術ってどういうことですか?」
「あ、いいところに気が付いたけど、そろそろ行かないと王都に入れなくなっちゃうから、行こうか」
アマンダが親指で指さした方を向くと、確かに入国待ちの列はだいぶ短くなり、後ろに兵士が立っていた。おそらく、あの後ろに並ぼうとしたら追い返されるのだろう。
「あ、ちょっと時間たってたか・・・エイダ、クラウ、そろそろ行こうか?」
アマンダが、踵を返し、王都の門へと歩き出す。ターニャは、アマンダに見えないようにそっとため息をつき、エイダは、扇をたたみそのあとに続く。クラウは、エイダの荷物も持って、エイダの背中を追った。入国審査は、ターニャが書状を兵士に見せると、あっという間に完了し、4人は連れ添って、王都の門をくぐる。
門を出ると、すでに、西の空は美しい夕焼に染まっていた。
「さて、急ぎましょう。この先に馬車が来るはずよ」
「そんな都合のいいことなんて・・・」
あるわけないと言いかけたターニャの目の前に、馬車が止まった。その扉には、盾と剣と弓が描かれていた。
「・・・アマンダ、やっぱ、準備がいいな?」
「こんなに夕日がきれいだもの。明日、新人さんたちを歩いて本部まで連れていくわけにはいかないでしょ?討伐ギルドで部屋も確保しているわ。手際いいでしょ?ほら、褒めていいのよ」
アマンダの自信にあふれた表情が、夕日の赤に染まっている。アマンダが、ターニャに微笑み、ターニャが何とも言えない表情を浮かべる。エイダは、それを少し、余裕をもって見つめていた。
クラウも、自分がにぶいということはわかっていたが、それを見て、なんでアマンダに魅かれたのか少しだけわかった気がした。
『そうなんだ・・・アマンダさんは、動作がすごくきれいなんだ』
綺麗でぶれることのない動きが、その通る声と合わさって、まるで舞台に立っているような錯覚を覚える。それが、アマンダの魅力なのだろうと思った。
「エイダ様・・・」
「なに、クラウさん?あの紋章のことかしら?」」
クラウは、エイダを改めてみて思った。でも、アマンダさんには感じない魅力をエイダに感じると、それは、不思議な安心感・・・クラウは、アマンダのことを喉の奥に押し込んだ。
「はい、あの紋章って何ですか?」
「あの紋章は、討伐ギルドのものですわ。前線、中衛、後衛を表しまして、この三武をもって、獣を討伐する者、それが討伐ギルドですわ・・・そういえば、クラウさんは初めてでしたわね?」
クラウが頷くと、ちょうどそのタイミングで、口喧嘩をしていた、ターニャとアマンダは、一息ついたようだった。
「はい、ターニャさん褒めてもいいですよ」
「ああ、アマンダはすごいよ・・・全く、今日は厄日みたいだ・・・少しは新人にかっこよいところ見せられるって思ったのに・・・」
がっくりと肩を落とすターニャが少し、憐れみを感じさせた。
「あの、ターニャさんも、十分にかっこいいって思いますよ。」
その声に、少し呆れ顔でターニャは嗤った。
「ありがとう。それじゃあ、荷物の積み込みをやっておくよ。クラウ、その荷物を貸して」
もともと少なかったクラウの荷物に対し、エイダの荷物は、かさばるものが多く、その重量はターニャを驚かせるものばかりだった。
「こんなのを持っていたのか?全く、新人って末恐ろしいものあるよ」
御者とターニャは、荷物をバンドで括り、その遊びなどを確認していった。クラウはその様子を見ながら、指示に従い、ゆるみがないように縛り上げていく。
アマンダとエイダは、馬車の扉の前で何か話をしているようだった。けれども、荷物の積載に精一杯のクラウに、その声が全く聞こえてはいなかった。
「準備できました」
クラウが、ターニャの手が高くあげられたのを見て、エイダとアマンダに言うと、二人は、話を止めて、馬車に乗り込んだ。後に続くように、ターニャとクラウも乗り込む。
中は見た目より広く感じる造りになっていた。
「では、出ます」
中に、御者の抑揚のない声が響き、ゆっくりと馬車が動き始めた。
「この後ですが、討伐ギルドで、部屋を用意しています。今日は、そこに泊まってもらいます。明日、入団式を行います。服は、今着ている服以外にありますか?」
ターニャの問いかけに、
「ええ、持っていますわ」
エイダは余裕をもって答え、
「え?服?」
クラウは困惑をもって答えた。
クラウが、持って来ている服はそこまで数が多くなかった。今着ている白いワンピース。村の同世代の女子からもらった古着くらいだった。
入団式などに着ていける服などそもそも持っていなかった。
「あの、あまり服を持ってきていないです」
ターニャはその声に一瞬驚いたような表情を浮かべた。
「・・・ええと、その服でもいいよ。・・・その服で、大丈夫だから。」
「うん?いいんですか?」
ターニャが、いい澱むようにクラウに伝える。エイダは、窓の外を見ていて、心なしかアマンダとの距離が空いているようだった。
「まあ、少し大変だけど、何とかなるからね。クラウ。じゃあ、もうすぐ着くと思うよ」
アマンダが言い終わらないうちに、馬車の速度が明らかに落ちた。
「もうすぐ、到着します。」
再び御者の声が聞こえた。ゆっくりと進んでいた馬車に緩い衝撃があり、停車したことがわかった。やがて、馬車の扉が開かれた。
降りて、最初に飛び込んできたのは、立派な建物だった。領主の館より大きな建物を見たことがなかったクラウは、その大きさに圧倒された。
荷物は、御者と建物の前で待機していた人々にあっという間に荷ほどきをされ、それぞれに抱えられて建物の中へと入っていく。クラウはエイダを見ると、それに気が付いたようにエイダがクラウを見た。
「クラウさん。緊張されてます?ここに来るのは始めてでしょう?」
「あ、はい、少し緊張しています。」
「私は、よく来ているから、知り合いも多いの。不安ならば、私の後ろにいなさい」
「そんなに、緊張しなくても大丈夫だよ。別に取って食うような人はいないから」
アマンダが、クラウを安心させるように言う。そのまま、ターニャを待っているようだった。ターニャは、荷物の振り分けを支持して、いったん荷物を持った人たちは、別の場所へ向かっていったようだった。
「お待たせ」
ターニャが準備を終えて、アマンダの元に合流する。赤いドレスと、白の騎士服の取り合わせは、改めてみると素敵だなと、クラウは思った。
「では、改めて、『魔導士』エイダ=マグス、『剣聖』クラウ、討伐ギルドへようこそ。待ちわびていたよ」
目の前で扉が開いていく。その先にあるものをまだクラウは見えていなかった。
「さあ、行きましょう、クラウさん、あなたを待っている人がいるわ」




