田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~出立は祝われるものか、呪われるものか~
クラウとエイダそして、村で兵士職や剣士などの戦闘職に選ばれた子供たちは、村から王都へ馬車で向かっていく。
「王都で立派に果たして来いよ!!」
「お兄さんが家継からいいんだからね!!」
王都に向かう車上で村から出るときに聞いた祝福だった。
『私は・・・剣聖じゃなくても、お前の果たす役割はあるからね・・・だったな。でも、おばば、ありがとう。今日から、また頑張れそうです、それから、クラウ=ニーナか、すごくうれしい』
「クラウさんがにこやかにしていると、あまり、気が乗りませんわ」
不意に声がかけられれる。エイダ様にあまりににこにこしているのがばれてしまったらしい、
「申し訳ございません。エイダ様・・・もう少し表情を引き締めた方がよかったですか?」
「そうではないんですよ、クラウさん。クラウさんがニコニコとしていたので何があったのか、知りたいと思っただけですの。」
クラウは、エイダの方を向くとエイダも微笑みを返していた。
「クラウさんは、ずっとため込んでいたみたいでしたもの・・・それだけニコニコしていらっしゃると、いいことでもあったのかと思ってしまうのですわ、あなたの主として」
エイダは、いたずらめいた笑顔を浮かべた。それはクラウも初めて見る笑顔だった。馬車は、編隊を組みながらゆっくりと進んでいく。
その旅路は、穏やかなものだった。
その午前中こそは、林の中を走るルートだったため、野獣への警戒からゆっくりとした速度だったが、、昼からは、大街道に出て、昼食を取ってからは、馬車の速度も快適性も格段に上がった。
「結構揺れますね。」
クラウは、内部に張り巡らされているベルトに手を置きながら、エイダに問いかけた。
「でも、そこまで揺れているわけじゃないわ。快適なくらいよ。それと、」
エイダは、クラウを小窓に手招きする。クラウは、首をかしげながら、エイダの近くに寄っていき、窓の外を見た。そこには、赤い尖塔が荒野に一本立っていた。
「ここからは王都っていうこと。あれが見えたっていうことは、もう前の方には、城壁が見えてきているはずだわ」
それから、クラウはエイダは、他愛のない話に華を咲かせた。やがて、馬車の揺れが収まり、御者から一度馬車から降りるように指示される。
クラウたちは馬車から降ろされて、門の方へ歩いていく。入国を待つ、長蛇の列がそこにはあったが、その前に、クラウたちを待つように白い騎士服を着た一人の女性が立っていた。その女性はエイダに気が付くと、笑顔になりながら駆け寄ってきた。
「エイダ!!おめでとう、無事に、魔導士に成れたって聞いてほっとしたところだったよ」
「ありがとうございます。これからは頑張っていきたいと思っています。」
「そんなにかしこまらなくていいよ。当分は、討伐ギルドで訓練が待っているから・・・結構大変だよ」
「覚悟はできていますわ」
エイダは、その女性と親し気に挨拶を交わす。その間、クラウたちはその様子をぼうっと見ているしかできなかった。
やがて、話も終わったのか、エイダは、女性とともにクラウたちの方へ向かってやってくる。
「私はターニャ、聖騎士ターニャだよ。これから、みんなの入国審査を行うように討伐ギルドから言われていてね。ここで、馬車を分けないといけないから、みんな一列に並んでね」
そういうと、エイダは手際よく、皆を並べていく。クラウは最後に並んだ。
「すいません、なんで馬車を分けないといけないんですか?」
兵士のクラスを得た子供が、ターニャに問いかける。ターニャは、うんと頷き、
「単なる人数割りだよ。この後は、訓練とか適性の判定で半分に分けることになっているだけだよ。さすがに、村すべての人数を賄いきれる組織は一つじゃ足りないからね。ああ、大丈夫、単に受け入れ組織の違いっていう問題だけだから。」
そう嗤いながら、答えた。
な~んだという声が子供たちの間から漏れた。
「はい、馬車に乗る前に、握手の儀式だ。王都ではね、仲良くなる時に握手をすることって決まっているんだよ。」
ターニャはそういうと、先頭の子と握手する。はじめはびっくりした表情を浮かべていたが、すぐに受け入れて、ターニャと2、3言と話す。
「うん、あなたは、1番の馬車に乗って」
見ると、入国の行列の横に、1と2の旗を掲げた兵士が立っていて、その後ろに馬車が待機していた。
「はい、あなたは2番」
「うん、あなたは1番」
次々に、仕訳けられていくように、子供たちがいなくなっていく。ほんの少数の子供がちょっと待ってと止められて、その場に残る。
いよいよ、前に並ぶ子もいなくなり、クラウの番になった。クラウは緊張しながら、ターニャと握手を交わす。
『あれ?なんかみられているような気がするんだけど?』
クラウは、不思議な気持ちになって、ターニャを見つめる。ターニャは、その笑顔を崩していなかった。
『あ、問題なかったんだ。1番かな?2番かな?』
「ええと、お名前言えるかな?」
「?」
クラウは、少し不思議に思った。今までの子で、名前を聞かれた子はいなかった。不思議に思いながら、エイダの方を見ると、特に興味もなさそうに、子供たちが乗った馬車の方を見ていてた。
「ええと、クラウと申します」
「イヤ、聞きたいのは、通称とか、愛称じゃなくて本名なんだ。あなたのお名前は?」
「あの、クラウです。これ、本名ですよ、ターニャさん」
「そうなの?変わった名前ね。ちょっと、気になったから聞いちゃったの。クラスも教えてもらえる?」
「クラスは、『剣聖』です。裁定の儀で、剣聖と言われました」
「へえ、そうなんだ、『剣』のクラウでいいかしら?」
ここにきてクラウは少しむっとした表情を浮かべる。何だろう?なんでこんなに間違われるんだろう?クラウは、少しだけ、強く言い返す。
「『剣聖』です。『剣聖』のクラウです。勝手に訳さないでください」
「はいはい、わかりました。そう怒らなくても、かわいい顔が台無しだよ。もう少しだけお話させてもらっていいかな?」
クラウはむくれながらも、ターニャと本当に他愛のない話をしていく。その時だった。
ガラガラガラ!!
2台の馬車が、クラウとエイダあと何人かの子供を置いて出発していった。
「あ、馬車が!!」
その光景に驚いた他の子供は、馬車を追いかけて行って飛び乗る。馬車はその子供たちを抵抗なく乗せると、入国審査の横を通り、城壁の中へ消えていった。
一波乱あった後のその場には、ターニャと呆然としているクラウ、そして、何事もなかったかのようにたたずんでいるエイダしか残っていなかった。
「あれ?追わなくてよかったの?馬車行っちゃたよ。」
ターニャのおどけたような声に、クラウは無言で抗議するが、エイダがさして焦っていないのを見て、あきらめたように、ため息をついた。
「別に追おうと思ってませんし、それから、手を放してもらえませんか?逃げませんから」
ターニャは、いたずらめいた笑みを浮かべ、クラウの手を放す。
「『剣聖』の手堪能させてもらったよ、うん、鍛錬を欠かしてはいないようで、安心したよ」
「どうも、ありがとうございます。ターニャさんは変わった人ですね」
「君もね。・・・十分に変わっているよ。さて、あとは、少し待ちながら話でもしようか?」
ターニャが、相変わらずニコニコとしてるのを見て、クラウは、警戒を解いて、軽く手をほぐす。
「試すような真似をして悪かったね。改めて自己紹介させてもらうよ。あたいは聖騎士ターニャ。勇者パーティに所属している前衛だよ。」
ターニャは、人懐っこい笑みを浮かべた。よく見たら、身長も高いし、熟練した戦士の風格を漂わせている。
「あの、聖騎士って何ですか?」
クラウは、聞いたことのないクラスだった。少なくとも、村のクラス認定にはいなかったし、どういうクラスなのか、興味があった。
「ああ、このクラスはね、ちょっと特殊なクラスなんだ。」
「クラウさん、あまり、人のクラスのことを聞くものじゃないですわ。ほら、ターニャ様も困っているでしょう。」
ターニャは確かに少し困ったような顔をしているように見えた。その意味がクラウにはわからなかったが、
「あの、困らせてしまったのなら、あやまります。」
その声を聴いて、エイダは呆れ、ターニャは、少し微笑むような笑みを浮かべた。
「また・・・クラウ・・・」
「そうなんだ・・・いや、全然気にしていないからいいよ。少しだけ聖騎士について教えてあげるよ。聖騎士はね、独自クラスで通常のクラウ認定じゃなくて、特殊なクラス認定で認められるクラスなんだよ。あとは教えられないけどね」
「え、あの・・・」
そこまで聞くつもりはなかったが、その声は、クラウに優しく聞かせるように続けていた。
「だからといって、あなたのクラスに後れを取るつもりはないよ。・・・儚い『剣聖』さん」
ターニャはとびっきりいい笑顔を見せると、クラウに微笑みかけた。
パチパチパチ
不意に拍手がその場に響いた。ちょうど行列から死角になるような位置に、いつの間にか、赤い細身のドレスから、すらっとした肢体をを見せる、ひときわ目を引く深い褐色の女性が立っていた。
「アマンダ・・・」
「少し遅かったから迎えに来たの。よかった、クラウちゃん、ターニャさんと仲良くなれて、エイダさんは、お久しぶりね」
その女性は、それだけ言うと、不用心に近づいてくる。歩き方が、独特でありながら洗練されていて、クラウから見ても、すごくきれいに見えた。
「何で来たのよ」
「あら、今日はいい日だからよ。お昼から暇になったから、少しね、いい天気でお散歩には最適よ。」
悪べれた様子もなく、ターニャの横を通り過ぎる。その時にクラウは確かに見た、ターニャの表情に畏怖や恐れが混じったのを、そのまま、アマンダは、エイダの前に立つ。
「ようこそ、魔導士エイダ、討伐ギルドに」
「ええ、言われたとおりに参りましたわ、アマンダさん」
エイダは、当然といったように、ふぅっと息を吐き、アマンダに応えた。
そして、アマンダは、クラウに向き変える。
「クラウさん、お久しぶり。しかし、『剣聖』なんかになるなんて思ってなかったわよ。王都にようこそ。」
アマンダは、放し方が一気に気安くなる。そのまま、クラウに右手を差し伸べる。
「はあ、どうも・・・」
クラウは右手を差し伸べて、その手を握ろうとした。・・・手の甲が当たる。
「あれ?」
ずっと見続けていたはずの差し伸べられたアマンダの右手は、左手に代わっていた。
「あっと、うれしくて、手品しちゃった。魔法みたいでしょ?からかってごめんね、それから、右手怪我しているみたいだからあまり無理しちゃだめよ。」
アマンダは、その左手で、クラウの右手を取り両手で包み込むと、すっと、意識を集中させる。
確かに、クラウは、3日前のあの日から、少し右手がうまく動かせなかった。それが、外見だけでなく内部が治るような感触が伝わってくる、たとえるならば、細くほどけかけていた糸がつながり、それが、太くなっていくような感じをクラウは受けていた。
「はい、終わり、あと、半日もしたら、いつものように動かせるようになるわ。やっぱり魔法って便利ね。」
「アマンダさんは、魔法使いなんですか?」
クラウの問いかけにアマンダは、呼びたければどうぞと言いたげな、不敵な笑顔で答えた。
「そう、私は魔法使い・・・なんてね。ただの手品よ。魔術でもいいわ」
「そうよ、クラウ、この世に魔法なんて存在ないからな・・・こいつのやっていることはただの魔術だ・・・魔術に過ぎない」
クラウは、ターニャの顔を見て不思議そうに、首を傾げた。アマンダとターニャは、仲が悪そうに、いや、ターニャが一方的に嫌っているように見える。
そんな様子を楽しげに見ながら、アマンダは、クラウに手を伸ばした。
「クラウ、改めて、王都にようこそ。討伐ギルドにようこそ。歓迎するわ。『剣聖』を選んだのははすこし驚いたけどね。」
次の更新は、11月に入ってからになります。




