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田舎生まれの剣聖は王都に 夢を見る ~忘れたはずの郷愁はいったいどこにある?~

ダークになるって言ったなあれは嘘だ。



すいません、ダークな表現が書けなかったです。軽いR15表現があります。

クラウは、一昨日、御救い草の残りかすを乾燥し、ほかの乾燥させた薬草と、焙煎した大麦を合わせて、煮立った湯に入れて、薬草湯を造っていた。

その光景を、おばばはベッドから半身を起こし、目を細め、何も言わずに見つめている。

やがて、上手く成分の抽出ができたらしく、鍋の中から、香ばしくも独特の匂いが立ち上る。火勢を落し、袋をつぶし、少しずつ混ぜながら、冷ましていく。



「よし」


クラウは頷き、漏斗を使って、一つ一つを大きめの木の水筒に移していく。やけどをしないように慎重にそして、鍋に残った薬草湯を木のコップに移しおばばに渡した。


「おばば、できたよ・・・飲んで」


ああ、と、手を伸ばし、おばばは、持ち手を力なく握る。クラウはそっとその底に手を添えた。

おばばは、その手をゆっくりと動かし、薬草湯を口元に運んだ。


こくっ、こく・・・


ゆっくりと、飲む音が聞こえ、クラウは安堵の表情を浮かべた。3分の一を飲んだところで、おばばは一度口元から、コップを放した。


「良い出来で、おいしかったよ。ずいぶんと腕を上げたね。もう、教えられることがないくらいだよ」


「そんなことはないよ・・・御救い草だって、偶然見つけただけだし、本当は、もっとたくさんこの薬草湯だって作れたはずなんだ」


籠いっぱいに摘んできた御救い草は、ほとんど葉のまま買い上げられたり、薬液にせざるを得なかった。薬液はいつもの額で買いたたかれ、葉のまま買い上げられたのには、ほとんど値段が付かなかった。


手には、ほんのわずかの御救い草と、薬液に加工した残骸のような茎や葉が残っただけだった。


わずかな薬草でも、何とかしようと、クラウは、知恵を絞り、それを乾燥させて薬草湯にした。ほんのわずかでも、おばばに飲ませたいと思って作ったが、それでも、納得がいく量を作ることはできなかった。


「これだけたくさんの御救い草を飲めたんだ、もう少し長生きをできるさ」


おばばは、からからと笑った。痛々しい笑い声に、クラウは少し気分が沈んでしまう。そのまま、おばばは、薬草湯をぐっと飲みほし、ふぅっと息を吐いた。


「話しておかないとね・・・うすうす気が付いているかもしれないけど。」


おばばは、コップをクラウに渡し、じっとクラウの眼を覗き込んだ。


「あんたをこのおばばが引き取った理由、おばばの子供の話はしたことがあったかね?」


クラウは、頷く。満月草の元で誓った婚姻と、最初の子供の話。この3年半の間に何度も聞いた話だった。


「王都にね、行った後のことだったんだよ。子供から手紙が来たんだ、王都にね、本物の聖剣が顕れたって、そういう噂が流れたんだよ。聖剣だよ?おかしいったらありゃしないって。なんでそんなものが、王都に出るのかって、夫と笑ったものだったよ。でもね、2枚目に驚くようなことが書いてあったんよ」


クラウは、おばばの枯れたような瞼に確かに伝う、輝きを見た。


「うちの子が、本物の聖剣の巫女の役割を命じられたって、そんな馬鹿なことあるもんか、まだ、10になったばかりで、クラスももらっていな幼子にそんなことを任せるものかって、憤って、前の領主様に掛け合ったものだったけど、それからしばらく、手紙が来ることもなかったんだよ。領主様も心配されて、王都でいろいろな情報を仕入れてきてくれたけど、なかなか、ほかの国が絡んでいると大変みたいで、これという情報はなかったらしいんだ。」


おばばは、スゥっと息を吸い、少し会話を切った。クラウは、その話の意味をよく分かっていなかった。ただ、その昔話は聞かないといけないと思い、それまでの話を反芻し、


「おばばの子は、どこにいるのかわからなかったの?」


問いかけるように、相槌を打った。


おばばは、少し瞼を閉じ、顔を伏した。そして、小声で話し始めた。


「それから、半年くらいして、その子から手紙が届いたのさね。何事もなく過ごしているから安心してほしい、今は教会で、聖剣の聖女候補として過ごしているから、何も心配しなくていい・・・そう書いてあってね、でも、その紙からかすかに立ち上る匂いがあったんだよ。・・・私たちは領主様にお願いして、ある薬にその紙を浸したんだよ、そしたら文字がにじみ出てきたんだ。私が教えたんだよ。あの子はちゃんと覚えていた、覚えていてくれたんだよ」


ゆっくりとした口調が、興奮し、涙を含み、声になる。それでも、はっきりとした声は、澱むことなく、クラウに伝えていく。


「『聖剣は偽物だった、王子様が聖剣を穢して壊してしまおうとずっといじめている、そんなことは止めてというと叩かれる。教会のみんなもよそよそしくて、わたし、偽物の聖剣を守る偽聖女ってみんなから言われて、もう、こんなの嫌だ。でも、聖剣さんは優しくって、良かった。本当はもっと、いろいろ書きたい。母様、赦してください。』・・・領主様は、王都で何度かその聖剣を壊そうとするショーを見たらしいんだ。偽物をつかまされた哀れな王家と笑われるのが嫌だったのではないかって、考えていたみたいだけどね。

結局、その手紙を最後に、私の仔から手紙が来ることはなかった。手紙は届いたけど、元気に過ごしているとかウソばかりの手紙だった。」


ふぅっと息を吐き、おばばは、深く息を吸い込み、少し逡巡しているようだった。


「そのあと、偽聖剣の話も出なくなって、私たちの調査は行き詰ったんだね。だから、それを知ったのは偶然だった。それからしばらくたって、今の陛下が即位され3年目のお祝いに領主様が上がり、そこで、龍狩りの勇者の物語を見たらしいのさ。」


「龍狩りの勇者の物語?なんで、王様がそんなのを見るの?」


クラウは不思議だった。あの劇は嫌いだが、どう見ても、高貴な方が即位の祝いの一環で見るようなものじゃない。あれは、どう見ても子供だましの劇だった。


「あれは、王様の前じゃ、別の劇になるのさ。全部はわからないけど、最後の竜が打たれるシーンあっただろ?」


「・・・うん、勇者が、竜の首の後ろから聖剣を刺すシーンだね」


あまり、いいシーンじゃない。逃げようとしている竜を無理やりに刺しているようなシーンだった。


「あのシーンがね、陛下の前では、幼い女の子を使うんだ。歳が10くらいの。戦うこともなく、偽聖剣を封じるために、女の子を刺し貫き、蹴り落とすというシーンになっているんだよ・・・それを聞いてしばらく、呆然としていたんだ、ただ、ほかの子供たちのこともあったから、そのことだけを考えるわけにいかなかったんだ。」


おばばは、少し放心したように、ふぅっと息を吐くと続けた。


「お前も、エイダ様の配下になられたのなら知っているだろう?領主様は、その劇の裏側に踏み込むことにされたのさ・・・結果は、その関係した貴族たちは領主様により誅殺される結果となったね・・・王都にいきなり聖剣が現れたのは事実だったみたいだけど、ほかの聖剣みたいに勇者を生むことはなかったんだ。でも、現れた聖剣を認定してしまった以上は、どうにか他国にわたるのを防ごうって思っていたらしいね。その時には、どうもその偽聖剣の存在を、法国が嗅ぎつけていたっていうことだったらしいね。いまいち法国にいい感情はないから、わたる前にこちらで処分しよう。そういう計画だったのさね・・・これ以上他国に媚びを売ることがないようにって・・・私の子はそう利用されたのさね、領主様は・・領主様はすまぬと頭を下げられたんだ・・・私の子は助からなかった・・・でも、ほかの子は助かったそれは偶然とはいえ・・・私は、打ちひしがれたよ・・・」


クラウはその絶望を知ることはできないと思った・・・おばばの眼は、虚ろに染まり、悲し気に染まっていた。


「老人の記憶は永いんだよ・・・そして、すべてを忘れて子供たちをみな一人前にして、送り出した・・・あの人とは、泣いたもんだったよ。あの子も一人前にしてあげたかったって。クラスをもらって、惑う子と、一緒に成長したかったて・・・もう、あの子が消えてから、20年経っていたさね・・・子供たちが全員いなくなって、家から声が消えて、忙しさがなくなってから、後悔、絶望というものを知ったのさね。でもね、後悔も絶望も生きているからできるといわれて、何とか、おばばも立ち直ったんだよ。」


おばばは、そっと、薬草湯を求めて、クラウはそれに応え、湯を口元に持っていく。


「あの子がいなくなって30年、あの人が亡くなって、5年経った時だった・・・お前が、村のはずれに現れたのは・・・」


クラウは、おばばの真剣なまなざしを、久しぶり見た気がした。おばばはいつも笑って、穏やかに見ていた、こんな詰問するようなまなざしを向けたことはなかった。


「クラウ?お前は、二ーナなのかい?それとも偽の聖剣なのかい?おばばはね、お前の姿が重なるんだよ・・・最初の子に、後悔に・・・お前はどっちなんだい、もう会うこともないだろう?はっきりここで言っておしまいよ!」


クラウは、はじめて、向けられたその意志に驚くが、


『わたしも、いままで、おばばと向き合ってこなかった・・・』


所詮夢だと、思っていた、もし、話したら、この関係が崩れるような気がして嫌だった。クラウはぎゅっと、手を握りしめた・・・おばばは、きっと、受け入れてくれる。クラウはそう信じて、おばばに、夢の話をすることにした。


「私はいつも見ている夢があります・・・それは、赤い髪の私とよく似た少女に見下ろされるところから始まる夢です。」


クラウは、今までよく見ている夢の内容をおばばにかいつまんでかつ、包み隠さずに話していく役立たずのなまくらといわれ、少女が自分を見下ろす絵、突然に衝撃を受け、落ちていくその先で血を吐く少女と話をする。

そして、舞台は変わり、地上を目指し歩く夢・・・そして、一昨日の出来事。


おばばは、それを黙って聞いていた。


「私・・・私もう何なのかわからない・・・おばばの子供なのか、それとも偽の聖剣なのかそんなのわからない・・・」


「大丈夫よ、クラウ。あんたはやっぱり強いね。よかったよ・・・本当によかった・・・おばばはね、最後の最後に強いあんたに会えてよかったよ・・・変になよなよして、心配をしていたんだよ。おばばはね・・・あんたを見たときに、この子はニーナだって直感したんだよ。ニーナの生まれ変わりだって・・・そう思ったんだ。だからね、この三年間、本当に満たされていたんだよ。それからね、今言ったことは、信用できる、あんたが信用できる人にしか言ったらだめだよ」


「おばば・・・」


おばばは、クラウに両手を広げ、頷く。クラウはそれに従った。


「よかった、ニーナじゃないとしてもあんたは偽物の聖剣なんかじゃないよ・・・あんたは、きっとその偽聖剣が最後の力を振り絞って、ニーナを30年かけて復活させたんだよ、あんたはニーナじゃない。立派な『剣聖』クラウだよ。胸張って生きていきなさい。クラウあんたは、みんなが言うような、子じゃないよ。おばばは信じているよ。剣聖じゃなくてもあんたには果たすべき役割があるって」


「おばば、いままで、黙っていてごめん、もしかしたら、おばばの子供じゃないかって思うと・・・私は・・・」


「あんたがニーナでもじゃなくてもいいんだよ。でもねクラウ、おばばの我儘を一つかなえさせてくれないか?お前の知る声で、『お母さん』って、呼んでほしいんだよ。」


クラウは、その言葉に胸の奥に忘れた感情に灯がともるのを感じる。涙があふれ、頬を伝った。おそらく、おばばも一緒なのだろう、肩に暖かい水滴が落ちているのを感じる。


「お母さま・・・いままでの親不孝を許してください・・・行ってまいります」


「ああ、クラウ=ニーナ・・・行ってらっしゃい。これはあんたが帰ってきたときの名前だよ。おばばは、あんたの無事を祈っているよ。」


クラウは、訳も分からずに流れ落ちる涙を止めることができなかった。こんなに深く人にふれたのは本当に久しぶりだと思っていたから。それでも、クラウは、別れを惜しむことはできなかった。


「お母さま、エイダ様が待っていられますので、・・・必ず、ご連絡します。約束します!」


その表情を、おばばはまぶしそうに見つめた。


「ああ、行っておいで、クラウ・・・『剣聖』として王都に」


注釈 王族が杯と短剣を喰らわなかったのはそれなりの理由があってのことです。

クラスを得ることは神の加護を得ることといわれていますので、クラスを得る前の子供を形式的に儀式で使用することは珍しいことではありません。

 


貨幣の設定

ここで書かないと多分永遠に書かない設定、おまけに作中で使われることはほとんどない。


金貨、銀貨、銅貨は、この全世界で使える共通貨幣で、基本的には国同士のやり取りに使用します。

~貨(使用例 王都貨、村貨) その場所でしか使用できない貨幣のことです。通常は、木片などを使用し作成されます。クラウが得ていた銅貨1枚で500王貨になります。100銅貨で1銀貨、100銀貨で1金貨となっていきます。なお、500王貨は、一般的な家庭1か月分の生活費にあたります。なお、王貨から、銅貨への交換は1000王貨で1銅貨です。

なお、クラウの村での生活は基本的に銅貨を使用していましたが、50王貨相当の村貨として両替されていました。1か月に10銅貨は生活費で出費していた計算になります。


特殊貨幣 

共通ドル・・・大倭周辺で扱われる貨幣ですが、その形などを見たこと物はいません。そのため、それがどんな貨幣なのかは不明です。

共通イェン・・・魔属領近辺で使用される通貨です。時折、銅貨などに混ざり流通しています。基本的には魔属領の内部貨幣と思われています。材質は銅で、微細できれいな細工が施してあります。が、銅貨よりも軽く価値は低いため、混ざり物として嫌われます。

聖銀貨・・・法国が発行する特殊貨幣で通貨としての価値よりも、魔導器としての価値に重きが得られます。これが一枚あれば、結界により、一夜の安全は確保できるといわれています。そのため、価値は流動的になります。

黒幣、黒貨・・・まず目にすることのない貨幣。特殊な加工と未知の金属で作られているため、その価値を図ることはできないといわれています。世界を探しても、片手で足りるほどしか流通していません。劇中ではほぼ登場することはないです。

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