そのころ少女は ~幕間~
幕間です。前話よりはるかに薄いR15シーンがあります。(切断)
「あだっ~!!」
落下高度 3メートル、落下速度 普通、落下地点 いろんな魔導器の中心部、落下位置 頭。
「なにこれ?なにこれ!???なにこれは~!?」
確か最後に地点登録したときには、今代の持ち手の居城、しかもふかふかのベッドの上落ちる予定だったはず。それがなぜか、悪意ある変更をされていた。
「おのれー、たった2週間開けたくらいで」
少女は、棒きれを持ったまま、埋まっている魔導具の山から抜け出そうともがく、
「許さないだから・・・さっさと助けに来なさいよ!!」
少女の叫びが誰もいない宝物庫にむなしく響き渡った。
話はほんのわずか前にさかのぼる。
あの探索開始から1週間がたとうとしていた。いかに私たちが優秀でも、消えてしまった彼女を探し出すのは、何の地図もなしに海底へ消えた宝船をサルベージするのと同じくらいには難しかった。
とくに私は何もできないのが、歯がゆかったが、その間は、黒衣と聖者が、様々な手段を使って彼女の存在を検索しようとしていた。結局私たちには、彼女は、なぜ消えたのか、その原因も、理由もわからないままだった。
そんな折だった。いよいよ、もともと予定されていた期間が過ぎようとしていた。
「ごめんね、そろそろ、帰らないと家が心配で、あと、教上様から帰って来いって、なんかお怒りの言葉が今朝届いていたの・・・だから、ちょっとこれ以上は無理なの、ごめんね。貴女が、彼女と会えることを信じているわ。」
黒衣はそういうと、乗っている馬車の扉を閉めた。そのまま、馬車は、地平の彼方へ走っていく。いつも思うんだけど、なんで馬車走らせる必要あるのかな?
「さて、すまないね、君の手助けをしてあげたいけど、所用が入ったみたいなんだ。君の幸運を祈っているよ」
聖者はそれだけ言うと、帽子を取り頭を下げる。再び帽子を被るころには、聖者の姿は、薄くなり、朝日とともに消えていった。相変わらず、気取った消え方をする人だな。
私はそう思い、少し膝を抱えた。これで、私は打てる手がない。私の力では、彼女を見つけることなど不可能だからだ。
「はぁ、次は、4か月後か・・・」
二人とは、4か月後の再開を約束していた。聖者は何の用か知らないが、黒衣には、私の手伝いと同じくらいに大切な仕事がある。一人になった私は、野営をしていた渓谷のそばを、ぼうっと歩いてみることにした。まだ時間に余裕があったからで、特に理由はない。
「今日は、報告に戻らないと・・・あの持ち手苦手なんだよな・・・」
ぜったいに杖で殴られると、そこから来る痛みに、ぞくっと身を震わせた。
「暴力的持ち手め・・・大体防壁貫通できる、魔導器か何か知らないけど、一介の人間がホイホイ持っていていいものじゃないのよ。そもそも、私たちのありがたみっていうやつをもう少し感じていたらこんなことに・・・」
そんな時だった、ふと、光るものがあるので近づくと、それは、何の変哲もない木切れだった。なぜ光ったのかはよくわからなかったが、気になって拾い上げると、目線の先に、比較的広く、草むらが切れて、赤い土でが広がっているのが見えた。せっかくなので、私は、今の気持ちをその棒きれと地面にぶつけることにした。
「ああ、なんか思い出したらムカついてきた、あいつなんか、こうやって、こうしてやるこうしてやる」
私は、地面にあいつの顔を書いて、眉毛を繋げてみたり、ほくろから毛をはやしてみたりしながらそれを書いては踏んで消し、書いては踏んで消し・・・と、気が付くと小一時間くらいやっていた、ようやく、鬱憤が晴れて、少し落ち着いてきた。
「はあ、少しすっとした・・・ふふっ、全くいいざまだわ」
腰に手を当てて、高笑いをしてみる。その瞬間だけは、私があいつより上位に立てたみたいで、本当に愉快だった。うん、意味のないことは、十分に知っている。
「はあ、もう帰ろう・・・って、ナニコレ?」
私が木切れを渓谷に投げようとすると、その木切れに、変なものが付いているのに気が付いた。そういえば光るものがあったから拾いに来たんだっけと、思い出す。
「白と青と翠の何だろうちょっとキラキラしてる・・・、残滓?いや、金属の溶液?う~ん、こんな時に聖者とか黒衣がいたら・・・いや、ちがうぞ、私がこういうのが偶然得意分野じゃないだけで、」
ついさっき別れたのはあまりにも痛すぎた。頭を抱え、うんうんとうなる。
「私だって別に、何にもわからないわけじゃないぞ!!そうだ、こうなったら、魔王様に聞いてしまおう。もう3か月も返ってないから、すごく、心配しているだろうし、うん、私も帰ろう」
私は、指で円を描き、そこに飛び移る。そこは、いつか見た庭園が広がっていた。
「必ず、ここに連れて来るから、待っててね。」
自棄になって、この2週間、ずっとここで、黒衣とお茶会をしていた。時々聖者の演奏を聴きながら、3人で集まることが多かった。
その庭園から離れて、小さな小屋に入っていく。そこはまるで武器庫のようになっていて、49本の様々な武器が所狭しと並べられていた。そのほとんどが、折られ、砕かれ、壊されている。無事に使えるのは、一振りの細身の剣だけだった。
「今だけはごめんなさい、使ってあげられないの、今日の夜にはまた、会いに来るから待っていてね。」
私は、その剣の柄を撫で、そのまま、小屋を後にする。そのまま歩いていくと、暗いトンネルが見えてくる。一歩踏み込むと、取っ掛かりのないつるつるの床が広がっていて、その先は闇の中へつながっていた、地の底まで滑っていけそうな雰囲気が、私のお気に入りだった。
『いやよ、あなたのとこのやつは二度と使わないわ!!』
『うん、私の趣味ではないね。君はこういうのが好きなのか?』
以前、黒衣と聖者に使わせてあげたとき、大絶賛だったのが思い出される。二人とも、顔を蒼くして喜んでくれた。
書くいう私は、この装置が気に入っていた。まず、行き先を指定、そして、
「いくぞ!!」
そのまま、飛び込んだ。うん、すごくいい速度が出てる。
最初は、一本道で、だんだんと速度が付いてくる。そうすると、ジャンプ台みたいになってて。そのまま、ジャンプ、そして、切り返して壁にダイブ、今度はうつぶせで、その落下感に身を任せる。お次は、天井から、床まで不利に使ったローリング、上手くねじれを使って、最後にムーンサルト、一回転が入る。
終わりの地点では、だいぶ勢いが落ちて、私は、その先にある、黒い穴を捉える。
そのまま、ゆっくり飛ぶと、私は、確かな浮遊感の中、その穴の底へ落ちていった。
そして冒頭につながるわけである。
「やかましいやつが帰って来たな。全く、場所を変えておいて幸いだった。」
その声が聞こえたかと思うと、私の目の前に見慣れた杖の先が差し伸べられた。私はそれを左手で捕まえるとぐっと、持ち上げられる感触が私を包んだ。
「で?ご主人様に何か言うことはないのか?」
「あなたを、ご主人様と思ったことはないです・・・あだ~!!」
久しぶりの痛み、気が付いたら左手から杖が抜けていた。ぐぬぬ、今日は杖をがっちりと掴んでいるから頭を打たれることはないと思ったのに、いつの間に手から離れたんだ?全く、この私の眼をもってしても見抜くことができなかった。
「ちょ、ちょっと、すいません、一言も告げずに出ていったのは悪かったと思っておりますし、・・・あ、痛い痛い!!そうじゃないってことですか?」
「はぁ、お前は、もう少し自覚を持って行動してほしい。果樹園を荒らしたのは、お前だな?」
ええ、庭園で出すおいしい果物が必要だったので・・・
「俺のコレクションに手を付けたのもお前だな?」
何怒っていらっしゃるのですか?一番、高いところにあって、新しい木箱の中に紙に厳重にくるまれていた茶缶から、半分ほどいただいただけです。全部はもらっていません。
「で、隣に誰もいないということは、そいつじゃなくて、ほかのだれかと楽しんだ・・・と」
ええ、お仲間で、盛大に楽しませてもらいました。果物もお茶も非常においしゅうございました。ああ、痛い痛い!!そんなに殴りつけないでください。なぜ怒るのか理由を教え・・・てくれそうにないですね。
酷い折檻だった、あんなところも打つなんて、本当に、この持ち手は、容赦というものを知らない。
「まあいい、お前に言っても無駄だということは十分に知っているからな。ふん・・・その手に持っているものが、今回の収穫か?」
そういえば、右手に棒きれを持っていたことを思い出す。
「確認してもらおうって思って、あの・・・」
「あ~帰ってきてたの?早く連絡くれれば迎えに行ったのに。って!あざだらけじゃない、ミト?また、ボコボコにしたの?」
うるさいやつが来たと、一瞬肩を落とし、ミトと呼ばれた少年は、目にかかっていた、髪を掻き上げた。その左目のところには、眼帯がかかっていて、ほのかに青い光を発する宝石が埋め込まれていた。
「今回はボコボコにする理由もある。教育的指導だ。」
「あ、体罰ってこと?ダメよ、いくら、要領と物覚えが悪くて、悪さもするポンコツでも、ボコボコにするよりは、愛情を注いだ方がいい場合もあるわ。まあ、どんな愛情なのかは知らないけど」
その言葉に納得したように、ふんっと鼻で笑って・・・って、鼻で笑いました?改めて、ミトが私の方に振り返る。
「まあ、こちらの手落ちもあったようだが、魔王殿、木切れを見てくれないか?」
魔王と呼ばれた女性に、私は、木切れを渡すと、魔王はその左手を木切れに付着したものをじっと見ていたが、ふぅっと息を吐くと、その木切れに、力を注いでいく。
「ただの魔力ではダメみたいね。ミト、権限を使用するけどいいかしら?」
ミトは頷き、口の中で何かの呪文のようなものを唱え杖を高く掲げる。杖からうすい膜のようなものが降り注ぎ、ミトの全身を覆いつくす。
「こちらには一部の隙もない、やってくれ」
「管理者アッシャーナ、権限の使用・・・許可申請・・・承認・・・『閲覧』の権限」
魔王アッシャーナの口から、無機質な声が響き、その木の棒の記憶が最初から再生され、壁に映し出されていく。木の新芽として生まれたときからだった。
「どうやら、最近のようだから、ここ一週間くらいでどうだ?」
アッシャーナは、ミトの声に頷くと、映像の時間を加速させる。
「あ、ここ、ここで、この棒を拾ったの」
私が、見覚えのある場所で映像の加速を止めるようにお願いする。大風で折れて飛ばされた木の枝は、転がりながら、その渓谷のたもとに落ち着いていた。
そこは、草むらではなく、御救い草の群生地だったみたいだった。御救い草は、ほんのわずかな間だけ、その薬効を出す葉を作り出す。その効果は、うん、いまいちよくわからない。
木の棒が、流れ着いてから6日が過ぎた。それは深い霧の朝だった。
「もう、あと、1日しかないわ。巻き戻すことはできないから、慎重に見てて」
「おい、静かにしろ・・・音が聞こえるぞ」
映像の中、確かに小さいながらも足音が近づいていた。一瞬で霧がかき分けられ、そこに、粗末な服装のサンダルをはいた小さな人影が現れる。
「なんだこいつは?」
ミトが深く、何かを考えているような表情を浮かべる。
いきなり、その少女が、拳を空に突き上げた。
『今日は最高。こんな貴重なものが手に入るなんて、やっぱり霧の日は最高ね』
驚いた表情を浮かべたアッシャーナとミトの視線が私に突き刺さる。ちゃんと黙ってるって・・・声なんか上げてません。
そのまま、少女は、御救い草の収集を始める。ずいぶん手慣れた様子で、次々に摘み取っては、籠に入れていいる。
そのまま、20分ほど時間がたっただろうか?
ウォォォ~ン
その少女もその声にずいぶん前から気が付いていたみたいで、何か武器になりそうなものを探している。
その顔が近づいてきて、棒きれを持ち上げたのだろう、一気に視界が高くなる。
少女の顔には怯えが強く見えた。
その顔は私によく似ている。いや、私よりも私らしいという言える顔・・・
「そんな・・・」
私のその声は、獣の嘶きにかき消えた。
あの夜に見た顔だった。あの時幸せを願った顔だった・・・あの夜に何でもしようと誓った顔だった。
『堕ちた獣?』
その考えを振り払うように、堕ちた獣との戦いが始まった。
『うん、そんなわけない・・・これは、犬なんだ』
普段なら、敗北など考えもしないだろう、鎧袖一触で無力化できるはず・・・でも、もし、それが当たっているのなら・・・
「やめて!!逃げて、そいつは、そいつは!!あなたがかなう相手じゃない!!」
思わず声が出た、あっという間に組み伏せられて、握っている手ごとく引きちぎられるように食われるのが見えた。
「あ、ああ・・・そんな・・・」
獣の口の中で噛みにじられる、その牙の隙間からその少女の様子が見えたぼうっと、獣の方を見ている。噛み千切られた右手は、白と蒼と翠の断面からすでに再生が始まっているようだった。
棒きれを握っていた手にも変化が訪れる。白い肌質が消え、無機質な白と蒼と翠の金属のような輝ける肌が産まれる。その白い部分が棒きれにまるで生き物のように伸びているのがわかる。
その白さが、棒きれの先端までたどり着いたとき、そこから、光があふれた。
私はほっとして、膝から崩れるように、床に座り込んだ。あの光はそうだ、だとしたら、無事に生きているはず・・・ということは行き先は帝都だろうか?それとも、まだ王国側だったから、王都近辺にいるのだろうか?
心配そうにアッシャーナが見ているのに気が付いた。泣くことはできないけど思わず涙が出そうになった。
そこからは、しばらく映像が途絶えた。
私は決意を新たにして、目の前の『閲覧』映像に向き合った。そして、心の底から後悔した。
そして、再び映像が始まったときには、無邪気に笑って近づいてきている私が見えた。
あ、続きは、今日の朝の映像だ・・・これはまずい・・・、
「あ、ここで終ですね、ね、アッシャーナ様、『閲覧』の権限使用ご苦労様でした、ほら、ミト様もお昼の仕事がありますよね?お仕事大変ですよね?」
精一杯私は、気遣うアピールをする。それに二人は、一瞬驚いたような表情を浮かべ・・・
「上司殿、ここから先に何か重要なものが写っているようです、確認しておきたいと思います」
「そうね、かわいいあなたのためですもの、今回は、どんなヘマ・・・いえ、面白いことをしてきたのか確認しておきたいですわ」
「あ~!!」
私は、もう、全身から崩れ落ちるように両手を床についた。もう、映像も何も見ることはできず、二人が楽しそうに談笑する声が耳に流れ入ってくるのを聞き続けることしかできなかった。
でも、あなたが無事にいてくれてよかった。でも、私の無事は・・・
「さて、行きましょうか?今日はね、おいしい果物と、お茶を用意してあるの。余興もあるみたい・・・楽しみね」
さっきまでミトと楽しそうに『閲覧』をしていた、アッシャーナが、私の眼を覗き込みながら話してくる。
「余興の主役はお前だ、まあ、道化のようにおどけて見せろ」
アッシャーナに手を引かれ、ミトの杖にベルトを抑えられながら、私は、取り返しのつかないことをしてしまったと、後悔しながら、長く、暗い魔王城の廊下を歩くのだった。
次は、少しダークよりの話になる予定です。




