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箱庭


 太平洋に浮かぶ人口約五万人規模が暮らす人口浮島フライハイト船団。島の形をしているが自律航行もできる、推進力を持った拠点だ。

 普段は島としての役割を果たし、大波で荒れる海域でも住人は、ほぼ揺れを感じる事なく暮らしている。大陸を巡りながら多種多様な人間を保護、乗組員を確保しながら、人間の住める陸地を開拓しながら流れる人類にとって重要な防衛拠点の一つである。


 ただ昨今の島内情勢を鑑みると、平和を享受したいという住民たちの意識統一が希薄になりつつあるのは明白だった。

 なにせ何世代にもわたってこの島で暮らす住人たちには、世にはびこる感染者の脅威が伝わりにくい。慣れ親しんだ島内での生活が崩されるとは微塵も思っておらず、感染者の存在にすら懐疑的である。

 ゆくゆくは島を巣立っていけると信じ、まさにこの地を一種の虜囚を閉じ込める監獄のようにすら考えているのだった。


 近頃は、この島の難攻不落ぶりにしびれを切らし、島に停泊中の軍船を奪い、または航行中の船を鹵獲し、陸地に向かう革命家気取りの若者たちの出現が後を絶たない。


 若者たちの過激派ぶりにしびれを切らした軍人たちが住民たちを広場に集め、拡声器で呼びかける光景も珍しいものではない。


 拡声器のハウリングが響く中、壇上に立った軍人は、少しでも若者の暴走を止めたい、しかしあまり効果がないことも、これまでの事で分かっていたが聴衆たちに呼びかけた。数日前、いや、数時間前に同僚を失くした部下もいるだろう中で声をあげる。


『えー、ですから何度も言うように、小型船はすべて軍所属であり、略奪行為は犯罪です。

小型船はみな、いざというときに任務で使用しなければなりません、皆様の安心安全の航行のためにも、ぜひともご協力を――』

「うるせーー!! 帰れーーー!!」

「か、え、れ! か、え、れ!」


 主に声をあげているのは若者たちである。老人たちは何も言わず、彼らの親の世代から聞かされてきたことも、もしかしたら単なる伝承なのではないかとすら思っている。フライハイトの住人を手厚く保護し過ぎた弊害であった。

 創設時はまだよかったが、海上は感染者が入り込む余地のない最高の環境だ。物資や燃料などの補給関連の仕事は危険性が高いので軍が請け負う。住民たちは陸地に一切近づくことなく、この島で生涯を終えるのだ。そんな生活をしてきた住人に、感染者の危険性を自覚しろという方が無理である。


 若者たちからの帰れコールを受け、少し怯みながらも、軍人は説得を諦めなかった。彼らのような過激派を抑えなければ若者らの行動はますますエスカレートするだけだ。次は部下たちにその矛先が向かうかもしれない。


 軍人はとりあえず、ブーイングを続ける者たちを落ち着かせようと拡声器を離して、まあまあと両手を上下させ落ち着かせようとする。

 軍の命令に強引に従わせても、また新たな反感を生む。

 彼らをこれ以上、過激な行為に走らせないよう、刺激しないように宥めてから、ゆっくりと説得を試みるつもりだった。


 軍人は拡声器のスイッチを今一度、入れ、なるべく穏やかな口調で語りかけた。


『ええ、わかっております、みなさまのおっしゃりたいことは痛いほどに。

ですが考えてもみてください、暴動を鎮圧するのにも犯罪行為を抑止するのにも労力がいります。皆様の主張はこのフライハイトの運営を混乱させているだけ。感染者がどうこうの前に安全な航行の妨げになっている、違いますか?』


 すぐさま若者から抗議の声があがる。それなら自分たちを自由にしろと言わんばかりだ。


『自由にさせてあげたいのはやまやまですが今、世界は混沌を極めています。どうしても世界がどうなっているのか知り合い、共にその混乱に立ち向かいたいとおっしゃるなら、ここはひとつ、我々に協力し、軍に志願してはいただけないでしょうか?』


 途端にブーイングの声が下火になった。彼ら若者は軍に入る気などさらさらないのだ。要は自分たちの主張を受け入れ、軍が折れることを願い、自由を得たいだけ。本当に世界の情勢に興味があるなら、その門戸はいつも開かれている。

 そして最終的には平和な居住区での生活に慣れ過ぎた、能天気という贅肉をあまりに蓄えてしまったクレーマーたちは、自身の主張が受け入れられないと知ると、こぞってこの言葉に帰結する。


「うるせー!!」


 強制労働なんてしたくない、いもしない感染者なんて化け物を持ち出して俺たちを操ろうとするな。だんだん高くなっていく若者たちの声、ボルテージに、再び軍人は、群衆の騒ぎを抑える方に回る。


『みなさん今一度、冷静に――』


 軍人は拡声器を握り締め、再度、声を張り上げようとした――が。

 そのとき誰かが投げつけた小石が軍人の頭に当たった。

 頭から流血して、ふらつく軍人。しかし軍人は自分を支えようと駆け寄る部下を手で制して止めた。すくっと立ち上がり拡声器を構える。

 

 部下の幾人かが恐れから群衆に銃を向けかけたのを留めたのだ。そうとは知らない若者たちはまだ怒りの声をあげていた。

 感染者と常に戦っている軍では新陳代謝が激しい。大きな作戦が立て続けに起こると、その分、何も知らない若い兵士が入ってくることになる。民間人を傷つけてはならないという決まり事も、手に持つ銃を安易に人に向けるなという規律も、感染者へ立ち向かう勇気の前では余事である。彼らが軍に志願したのは、各々が、今騒いでいる若者たちには至りようもない、よっぽどの理由があってのこと。新米であること、そして覚悟の違いからだった。


 そんな若者以上に血気盛んな部下たちを思いとどまらせ、軍人は立ち上がる。額から流れる血を拭きもしない、その狂気じみたメンタルに若者たちは圧倒された。


「私の後ろにいる彼らを見ろ、君らとそう変わらない。そんな彼らも戦っているんだ、君らがいないと主張する感染者と……私も多くの部下を失った。しかし」


 軍人は声音を変える。マニュアル通りの口調を止め、本音を告げる。


「お前たちは恨み言を言うだけで何も行動しない。ただ不満を言って泣き言を言っているだけのクレーマーだ、どうしてそんなバカげた人間たちのために俺の部下は死なねばならなかったのか教えてくれ、お前たちは民間人だ。馬鹿でも許されるが、無知を理由になにをしても許されると思わない事だ」


 再び盛り上がりそうな怨嗟の声を軍人は『黙れ!』の一言で遮った。


「次に無駄口を開いた奴は軍に強制連行するぞ! こっちは石をぶつけられて頭にきてんだ! 地獄を見たければいつでも歓迎だ、すぐさま前線に放り込んでやる、感染者をこれでもかってぐらい拝ませてやるぞ」


 もはや聴衆から声が上がることはなかった。気圧され、または呆れ、両者の間に空いた明確な溝はさらに深くなっただろうが軍人は後悔していなかった。いつかこうなる日が来るとは覚悟していた。これで住民が一斉蜂起にでもなれば自分の責任は免れないが、晴れ晴れとした気分でもある。

 部下たちのどこか晴れやかな、そして自分を見上げる目を見て、軍人は群衆に向かって敬礼をした。軍人は部下たちに合図を送り、そそくさと乗ってきたジープに乗り込む。


「撤収だ。全員、車に乗り込め」

「「「「はっ!!」」」」


 片手をあげて出発を促すと、ジープはタイヤで泥をかき上げ、広場から颯爽と走り去っていった。




 軍の食堂で、窓際で外の景色に目を向けながらスカイは溜息を吐く。


「ふん……」


 どこか苛立ちの窺える息を吐きだし、手を振って呼んでいるジェリドの元へ、その隣の席に着くなり、手袋を付けたまま豪快にコッペパンを齧っているジェリドをあきれ顔で見つめた。


 残ったパンの端切れを放り込もうと口を開けたところでスカイの視線に気づき、目だけをスカイに向ける。なんでもないと首を振るスカイを確認してから残りのパンを口に放り込んで咀嚼した。

 ジェリドの食事は誰が見ても美味しそうには見えない。パンだけでは口の中がぱさぱさになりそうなものだが水すら口にせず、味など感じていない様子だ。


「お前、胃に変な生物でも飼ってるんじゃないだろうな?」

「かもな」

「ふん」


 だがスカイにとって今一番、憂慮すべきはジェリドの異常性ではなく、対面の席に座るライラの不調だった。

 数日前、感染者になりかけていた青年を置き去りにしてから此の方、ライラはずっとこんな調子だ。いつも心ここにあらずで、今回は平皿になみなみと注がれたスープを見つめたまま、スプーンでスープを掬った状態のまま固まっている。


 ちょっと動いたかと思うと、何かを考えこんで動作を止める。ため息を吐くばかりで食事を再開する気配がない。


 スカイは大きなため息を吐いた。

 青年を救えなかったのは確かにショックだったかもしれないが、自分たちの仕事ではよくあることだ。見捨てないまでも食われている人間を尻目に任務を続行することだってある。死と隣り合わせの任務中に、そんな精神状態では、いつか大きな事故につながる。

 あれからスカイは何度かライラを立ち直らせようとしたが、尽くうまくいかなかった。強く叱責してもどこ吹く風で、まったく反省の色がないのだ。

 ライラの心が軟弱だとは思わない。なにがそうさせるのか、今までと何が違うのか、ライラにとって青年はそれほどまでにかけがえのない存在だったのか、ライラの口から何も語られないため理解しようがなかった。

 辛抱強く声をかければ反応はするし、戦いとなったら多少はシャンとするだろうが、最高のパフォーマンスは発揮できない。いわば腑抜けの状態だ。


 ショック療法でもなんでもいいからライラを立ち直らせなければと思っていると、スカイの脇腹をジェリドが突く。


「なんだ」

「隊長としてなんとかしないのか? このままじゃ、どう見たってまずいだろ?」


 わかっているといった顔でスカイは返すものの、なにか打開策があるわけでもない。スカイとジェリドは揃って腕組みしながら考える。


「原因はわかってるんだけどな」

「ああ」

「責めてるわけじゃねえぜ、ああするしかなかったて俺だってわかってる、もちろんライラだってな、しかし理屈ではわかっていても納得はできねえのさ」

「ああ」

「ま、性急すぎたのかもしれねえな」

「……」


 説得に時間をかけるわけにもいかなかったため、半ばライラを脅す形になってしまった。スカイ自身も自分の説得が多少強引であることを自覚している。だから今回に限って言えば、同じ轍を踏みたくはない。スカイがショック療法に踏み切れない理由がそれだった。


「落ち込んでたって何も始まらねえのによ」

「……」


 青年のことで落胆しているライラを見て、同じくショックを受けている自分がいた。スカイは腕を組みながら、二の腕を指先でトントンと叩いた。

 スカイの見つめる先にいるライラは、どうしたら立ち直ってくれるのか、スカイには見当がつかない。


 そのとき食堂の入り口から、【ジム曹長、マッケネン伍長、司令がお呼びだ、すぐ司令の執務室に――】と声がかけられた。


スカイは立ち上がり、ライラに一声かける。ライラはやや遅れて反応し、スプーンを平皿に戻して立ち上がった。二人が出ていく様子を見送ったジェリドは、ため息をつく。二人とも不器用なところがすごく似ている。相性は決して悪くないはずだが、たぶん親密になったらなったでギクシャクするんだろうなと不安感を抱いた。



 食堂を出た二人は、基地の中央施設、そこから海中エレベーターに乗って巨大潜水艦フライハイトの内部に入った。フライハイトはこの人工島を移動させるために必要な推進力を生み出す機関だ。


 海中エレベーターからは、煌めく鱗、小魚が群れをなして泳ぐ光景など、浮島の下に位置しているとはいえ、構造上、天気が良い日は海中に光が差し込むように設計されている。

 しばしの浮遊感の後、エレベーターが目的地に到着した。扉が開くと、目の前を白衣を着た科学者や軍人たちが行き来している。フライハイトの内部には軍人だけでなく作業する科学者の割合も多い。実験は人口浮島でもフライハイト内部でも行っているが、フライハイト内では危険性のない実験が主だ。ひとたび空気中に撒かれ、人がそれを吸い込むと死ぬような、または可燃性の高い液体、そんな危険な薬品を扱う実験などはすべて浮島の方で行われる。

 そうやってため込んだ知識の成果物、研究資料などは、すべてフライハイトに保管してあり、もし人口浮島が感染者による大規模な急襲に遭った場合は、浮島を切り捨て、フライハイト単独での脱出が可能だ。だがこれは民間人を囮にしているわけでも、民間人の命を軽んじているわけでもない、ただ人類がいつか感染者の脅威に怯えなくてすむ未来を迎えるために必要な予防策だった。


 海中では常にソナーを発し、大型の海洋生物が近づいて来ないか警戒している。しかしある意味、盲点は、フライハイトが先に撃沈されるリスクである。

 そうなれば重要な研究資料は藻屑と消え、人類による感染者への反撃は停滞するだろう。


 誰もそんな予想などしていないかのように溌溂とした表情をしている。巨大潜水艦、フライハイト内で働けるのは、科学者であれ軍人であれ、いわゆるエリートと認められた者たちなのだ。


 司令の執務室に辿り着いた二人は扉の前で顔を見合わせる。スカイが扉を軽くノックすると、中から『入りたまえ……』と厳かな声がした。

 『失礼します』と言って二人が室内へ足を踏み入れると、部屋の中央には大きな大理石でできた机がどんと構えていた。その向こうには執務机と、その前に立った壮年の男。軍服の胸元に幾つもの勲章を付けた、この潜水艦の艦長兼、司令官、フレデリックマーシャンだ。

 公の場でもないのに、彼が普段から勲章付きの軍服を愛用するわけは、一重に性格によるもの。ただ偉ぶりたいのではなく、自分たちの従っている者が何者か、どれだけの功績をあげた者なのか、それを正しく認識させることで、規律を徹底できると、多少古い考え方でも、そう考えているからだった。


 天井には派手過ぎない控えめなシャンデリア。室内にある趣味の良さが窺える調度品は、彼がおごり高ぶった権力者でないことをアピールしている。

 フレデリックは二人に入れと言った時から立ったままだ。

『来たな』と嬉しそうに話す様子からは、二人への関心、信頼が窺える。先の暴君と呼ばれる感染者の捕獲作戦に、スカイとライラ、彼らのチームが参加できるよう上層部を説得、無理やり作戦にねじ込んだのも彼だ。


 二人の前だけで浮かべる人懐っこい笑顔も、敬礼する姿も、信頼の証。

 二人も揃って敬礼すると、フレデリックは『楽にしてくれ』と言って茶封筒を手に持ち、大理石の机の前までやってくる。


「今回は君たちに聞きたいことがあって呼んだんだ、先の作戦に進展があった」


 フレデリックは机に茶封筒を置くと、それを二人の元に滑らせた。滑ってきた茶封筒を受け取ったスカイが、それを持ち上げながら尋ねる。


「中身を改めさせてもらいます」

「ああ、ぜひ君の意見を聞きたくてね」


 スカイがさっそく中身をあらためると、中には数枚の報告書と、偵察機で撮影されたものと思われる空撮写真が三枚入っていた。

 報告書を読む前に、スカイは写真に写っているものがどうしても気になってしまった。それはかなりの高度から撮影したと見られる、ごちゃごちゃしていて、何が写っているのかよくわからないもの、しかし一枚目の写真に半分ほど重なった二枚目の写真には、確かな人の顔。見覚えのある顔が写っている。

 スカイは眉を顰めた。いるはずがない、いや、そもそも生きているはずが……。


 そう思って、はっとしたとき、写真を覗き込んでいるライラに気付いた。ライラも同じく深刻そうな顔をしていた。当然だ。写真に写っているのはライラが今も気に病んで、立ち直れないでいる元凶。死んだはずの、いや、正確には感染者になりかけていた青年だったのだ。名前は確かレオ、ファミリーネームは忘れたが、スカイにとってはその程度の存在だった。


 ライラはじっと食い入るように写真に見入っている。そして三枚目の写真を見てぎょっとした。二枚目の写真ではてっきり青年が自害できず、感染者になったのだろうと推測したが、三枚目の写真は、さらにそれを拡大したもの、青年が意志ある顔で指さす方角に感染者たちを連れ歩いている光景だった。まるで迷える者たちを導くメシアのように。


 スカイは恐る恐る、フレデリックにこの写真を自分たちに見せた意図を尋ねる。


「指令、どうしてこれを?」

「その写真は数日前、君たちが向かった任務地の近くを、その後の経過を見るため、無人機でランダムに空撮したものなんだが、偶然、そこに、そいつが映っていたのだ」


 意図の説明もなく、もったいぶるようにフレデリックは言うと、笑顔を見せた。


「そいつは明らかに感染者を引き連れて歩いている。感染者たちはそいつの命令を聞いているのだ。これがどういうことだかわかるか? 今まで我々は、そんなことができるのは奴だけだと思っていた。感染者を操り、意のままにする。それは長年、我々が欲した力だ」


 少し不鮮明に見える写真に、どうしてそこまでの熱量があるのかスカイはよく知っている。最初の被験者、実験体、暴走して実験施設を破壊、逃げ出した感染者に発現した、その能力は確かにあった。暴君と名付けられたその感染者にはクリス・フォードという名前もあった。


「軍曹を取り逃がしたのは本当に残念だ。しかし奴は今や我々に対抗し得る軍団、力を得ている。しかしそいつが見つかった。軍曹には及ばぬだろうがモルモットとしては十分な性能だ。我々が奴に固執する必要はなくなったということだ」


 スカイは溜息を吐かずにはいられない。次から次へと難問が沸き上がる自身の立場を呪った。ライラの前でこの任務を引き受けなければならない心労はかなりなものだった。


「次の標的はこいつということですね。しかし実際どうでしょう、この不鮮明な写真一枚では――」

「だから君たちに、そいつを捕獲を頼みたいのだ。のちの研究資料になるかもしれない、なるべく傷つけず、生きたまま捕獲してくれ」

「生きたまま……ですか……」


 乗り気ではないスカイの様子にフレデリックが『なにか不都合でもあるのか?』と尋ねる。ライラに視線を移せば勘のいいフレデリックが気づくかもしれないので、スカイは『いえ……ありません』と言うしかなかった。


 捕獲作戦は、抹殺任務よりも難易度が高い。しかも重要な作戦に投入する戦力となるとライラを連れて行かざるを得ず、悩みどころだ。ライラがどんな奇行に走るか想像がつかない。多少、戦力に不安は残るが今回はライラを不参加にして、優秀な隊員の補充で乗り切るべきだが……。


「任務にあたる隊員の人選は私に任せてもらえますか?」

「ああ、構わんが、どうしてだね? できればいつものメンバーであたってもらいたいが」


 当然そう来るだろうなと思っていたスカイが説明しようとするとライラが『問題ありません』と声をあげた。


 フレデリックが満足するようにライラを見ると『いつものメンバーで任務に当たります、なにも問題はありません』とライラは繰り返す。スカイは何も言えなかった。確かに戦力的には、その人選以外にない。


「では任せていいな?」

「はっ!」


 敬礼をしたスカイがライラに視線を送るが、ライラは一度もスカイを見ずに下を向いたままだった。威勢よく任務を引き受けはしたものの心情的には、かなり堪えているようだ。

 今後の事を少し話して、二人して執務室を後にしようとしたとき、ちょうど執務室に入ってきた科学者の男とすれ違った。その男が持っていたのは、赤い宝石の入ったペンダント。スカイはその後ろ姿をしばし見つめる。


 執務室を出た途端、ライラは考え事をしている様子で、スカイを置いてそのままスタスタと歩いて行ってしまう。スカイは執務室の重厚な扉を見つめ、目を細めた。


「あの石……」




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