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世界を歪める令嬢は、幸せになりたい  作者: ZERO POINT


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第6話 世界より、あなたを選びます

 今日は、結婚のための支度でお金を使った。


 たくさんの金が動く。


 ――やはり、歪みは起きる。


 ディオルの屋敷では、使用人が何人も辞めたらしい。


 理由は、些細なことばかりだという。


 体調不良。


 家庭の事情。


 些細な行き違い。


 けれど――数が合わない。


 王都でも、動きがあった。


 王子の結婚相手が、突然姿を消した。


 逃げた、と噂されている。


「……ねえ、エリナ」


 ルシェリアは、静かに呟いた。


「これ、偶然だと思う?」


 ディオルに連絡を取った。


「ねえ、ディオル。色んなことが起きてるの……大丈夫かしら」


「今からそちらに向かいます」


 それから、あまり時間はかからなかった。


「お待たせしました」


 ディオルは、何事もないような顔で現れた。


「……早いわね」


「近くにいましたので」


 ルシェリアは、わずかに息を吐いた。


「さっき話したことなのだけど」


「……少し、不安になったの」


 ディオルは、静かに頷いた。


「確かに、多少の動きはありますが、業務の範囲内です」


「それに、あなたと結婚するための準備ですから。むしろ、順調だと思っています」


 ルシェリアは、言葉を失った。


「使用人が辞めたのは痛かったですが、これを機に体制を見直そうと思っています。うまく回るように何とかしますので、問題ありません」


「それと……色々な場所で不幸が起きているようですが、不幸ばかりではないと思っています」


「結婚の話も聞きますし、新しい縁も生まれているようです」


「悪いことだけが目立っているだけで、全体として見れば流れは悪くない」


 わずかに声が柔らぐ。


「今、悪いことが起きているとしても、その先に良いことが来るのであれば、それは必要な過程です」


「……ですから、きっと大丈夫ですよ」


「私は、そう思っています」


「……そう」


 そんなふうに言われたのは初めてだった。


 私の能力ではなく、私自身を見てくれている。


 そう思うと、胸が少しだけ温かくなった。


「何かを学ぶためなのかもしれません」


「……私たちに気づけと、何かが言っているのかもしれませんね」


「ただ――」


「世界で何が起きたとしても、私はあなたを離すことはありません」


 ほんのわずかに、声が落ちる。


「……最低だと言われるかもしれませんが、それでも構いません」


「……変な人ね」


「それに……私にとっては、ルシェリアが最高の婚約者です」


「世界なんかよりも、ルシェリアの方が大事です」


「だから――」


「こんなことで、私から逃げないでください」


 ディオルは、少し照れたように笑った。


「私は仕事では、損得で判断してきました。


 でも、あなたのことだけは違います。


 利益も理屈も関係ありません。


 あなたが隣にいてくれる未来を選びたい。


 それだけです」


「思ったより、重いし」


「……狂ってますから」


「仕事で、こんなふうになったことはないんですが」


 少しだけ視線を落とす。


「正直、元婚約者の方がイケメンだったと思いますし、良い相手だったとも思います」


「こんな仕事バカで、重い男より、あなたならいくらでも相手はいる」


「何度もそう思いました」


「私なんかじゃ、釣り合わないんじゃないかって」


「それでも」


「……手放したくないんです」


 静かに言い切る。


「もし、私たちの結婚の代償が世界だとしても、私はそれを差し出します」


「……結婚しましょう」


「多少狂ってる方が、私たちらしいわ」


 私たちは結婚した。


 世界にとっての幸せなのかは、わからない。


 でも――


 世界を差し出してくれる彼と。


 少しだけ考えてから、私は答えた。


「……それでも、私は彼を選んだ」


「……きっと、悪くないわね」


「ねえ、そういえば……」


 ルシェリアは、ふと思い出したように言った。


「ディオルって、私のどこがそんなに好きなの?」


「え?」


「……秘密です」


「顔?」


「……いや……それは……」


 わずかに視線を逸らす。


「聞いてはいけない質問です」


「色々、あるんですよ」


 ルシェリアは、くすっと笑った。


「ルシェリアこそ、どうなんですか?」


「顔よ」


 即答だった。


「それと、私のことを好きって言ってくれるところ」


「私には優しいし、仕事もできるし、性格も悪くないわ」


「私、基本的に面食いなの」


 ディオルは、少しだけ肩の力を抜いた。


「……それは、安心しました」


「狂ってても、イケメンなら許せるもの」


「正直、元婚約者より顔が好みなの」


 さらっと言う。


 ディオルは、一瞬だけ固まった。


「……それは」


「喜んでいいのか、少し悩みますね」


 ルシェリアは、くすっと笑う。


「いいのよ」


「私、嘘はつかないもの」


「それに――」


 ほんの少しだけ目を細める。


「今は、それだけじゃないわ」


「私も、最初よりずっとルシェリアのことが好きになっています」


「日に日に好きになっていって……自分でも驚いています」


「ただ……顔だけではないです」


「それと、婚約の時に言っていた話も楽しみにしています」


「二人でゆっくり過ごしたいですね」


「色々な結婚生活を……期待しています」


「私も期待してます」


「近くに素敵な花畑があるらしいのですが、私はまだ行ったことがないのです」


 ディオルは、少し照れたように微笑んだ。


「よろしければ、一緒に行ってみませんか?」


「時々は屋敷を出て、近くを散歩するのも良いかもしれません」


「楽しそうですね」


 ルシェリアも、自然と笑みを浮かべる。


「ぜひ、行ってみたいわ」


「では、結婚したら最初のお出かけですね」


「ええ」


 ルシェリアも、自然と笑みを浮かべる。


「ぜひ、行ってみたいわ」


「では、結婚したら最初のお出かけですね」


 ディオルが、穏やかに頷いた。


「ええ。お弁当を持って行くのも楽しそうですね」


「それなら、私が紅茶を用意します」


「私はお菓子を持っていきますわ」


 ルシェリアは、目を輝かせて言った。


「きっと、楽しい一日になりますね」


 二人でそんな話をしているだけなのに、不思議と心が弾んだ。


 まだ何も始まっていない。


 それでも、その日が来るのを楽しみにしている自分がいた。

第6話を読んでいただき、ありがとうございました!


今回は、世界の歪みが少しずつ広がる中でも、お互いを選び続けようとするルシェリアとディオルの想いを描きました。


能力や世界よりも、一人の相手を選ぶ二人の関係を楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いいたします!

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