表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を歪める令嬢は、幸せになりたい  作者: ZERO POINT


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/7

第7話 世界が祝福した日

 結婚の準備は、静かに進んでいった。


 けれど――


「……おかしいわね」


 ルシェリアは、招待状の束を見ながら呟いた。


「予定していた人数より、かなり減っているわ」


 エリナが控えめに答える。


「はい。数名、辞退の連絡が来ております」


「理由は?」


「体調不良や、急な予定変更など……」


「……そう」


 ルシェリアは、それ以上は聞かなかった。


 理由は、どうでもよかった。


 どうせ――歪んだのだろう。


 おそらく、必要な人だけがここに集まるのだろう。


 式場も、少しだけ変更になっていた。


 より広く、より整った場所へ。


 まるで最初から、そう決まっていたかのように。


「……ねえ、エリナ」


「この結婚って、祝福されているのかしら」


 エリナは少しだけ考えた。


「お嬢様にとって、良い形に整っているのは確かです」


「そういうことにしておきましょうか」


「ですが――」


 言葉を選ぶように続ける。


「誰にとっての幸せかは……わかりかねます」


 ルシェリアは、小さく笑った。


「そうね。私にも、わからないわ」


 窓の外では、空が少しだけ曇っていた。


 さっきまで晴れていたはずなのに。


「でも」


 カーテンを少しだけ開ける。


「綺麗ね」


 曇り空の向こうに、わずかに光が差している。


「……どっちでもいいわ。きっと今日は、良い日なのよ」


 静かに、そう呟いた。


 結婚式の日が来た。


 純白のドレスに包まれたルシェリアは、美しかった。


 誰もがそう思った。


 ディオルは、一瞬だけ言葉を失った。


 その視線に気づき、ルシェリアは少しだけ照れたように視線を逸らす。


「……綺麗です」


 短い一言だった。


 けれど、その一言には飾りがなかった。


 ただ、心からそう思っているのだと伝わってくる。


「ありがとう」


 頬が熱くなる。


「そんなふうに言われると、少し恥ずかしいわ」


「本当のことですから」


 ディオルは、照れくさそうに微笑んだ。


 その笑顔を見ているだけで、不思議と緊張がほどけていく気がした。


 けれど――


 ほんの少しだけ、違和感があった。


 招待客は、予定よりも少ない。


 けれど空席はなく、最初からそうであったかのように整っている。


 花は、よく咲いていた。


 季節ではないはずの花が、いくつか混じっている。


「……綺麗ね」


 ルシェリアは、そう呟いた。


 祭壇へ向かう前。


 ディオルは、そっとルシェリアの手を取った。


「緊張していますか?」


「少しだけ」


「私もです」


 思わず顔を見合わせる。


「意外ね」


「初めてのことですから。それに、ルシェリアが美しいですし。こんな美人を目の前にして、緊張しない人はいません」


「私も、今日のあなたはとても格好いいと思うわ。だから、緊張しているの」


「ありがとう」


 少し照れたように笑う。


 その笑顔が嬉しくて、私もつられて笑ってしまった。


 その笑顔だけで、不安が少し軽くなった。


 この人となら。


 そんな思いが、自然と胸に浮かんだ。


「ディオル・グランセイル。あなたはルシェリア・フェルティアを生涯の伴侶とし、どのような未来が訪れようとも共に歩むことを誓いますか」


「はい、誓います」


 ディオルは、まっすぐルシェリアを見つめた。


「私は、ルシェリアを選びます。


 どんな未来でも。


 何が起きても。


 あなたと共に歩むことを誓います」


「ルシェリア・フェルティア。あなたはディオル・グランセイルを夫とし、生涯愛し、敬い、支え合うことを誓いますか」


「はい、誓います」


 ルシェリアは、ほんの少しだけ微笑んだ。


「私も、ディオルを選びます。


 何が起きても。


 あなたと共に歩きます」


 その時、何かの音がした。


 ほんの一瞬、世界の奥で鳴ったような――


 そんな気がした。


 次の瞬間、光が見えた。


 やわらかいのに、逃げ場のない光。


 多分、気づいたのは私たちだけだった。


 ディオルと目が合う。


「……今の」


 言葉にしようとして、止まる。


 その瞬間。


 何かが、歪んだ。


 景色が揺れる。


 空気がほどける。


 私たちは、どこか"別の場所"にいた。


 光の中だった。


 無数の細い光が、絡み合うように広がっている。


 糸のように。


 流れのように。


 それらはすべて、どこかへと繋がっていた。


 そして――


 ひとつの、大きな光へ。


「……綺麗だ」


 ディオルが、静かに呟いた。


 次の瞬間。


 すべてが元に戻った。


 何事もなかったかのように。


 光が消えたあとも、ディオルは手を離さなかった。


「大丈夫ですか」


「ええ」


 まだ鼓動は早かった。


 それでも、不思議と怖くはない。


 隣に彼がいる。


 それだけで安心できた。


「何が起きても、これからは一人ではありません。ずっと一緒ですよ」


 その言葉だけで十分だった。


「はい。ずっと一緒ですね。約束ですよ」


 私は、小さく頷いた。


「ああ。約束する」


 私たちは、誓いのキスをした。


 あの日、何があったのか。


 今でも、わからない。


 あの光は、何だったのか。


 世界の歪みの中に、触れてしまったのか。


 それとも――


 もともと、そこにあったものを少しだけ見てしまっただけなのか。


 ただ。


 あの光は、確かに繋がっていた。


 すべてを。


 そして、私たちも。


 私たちは結婚した。


 世界がどう変わったのか。


 あの光が何だったのか。


 まだ何も知らない。


 それでも。


「ルシェリア」


「はい」


 彼が笑う。


 私も笑う。


 それだけで十分だった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


なろう版は、ひとまずここで一区切りとなります。


ルシェリアとディオルが互いを選び、結婚という一つの答えにたどり着くまでを描かせていただきました。


ですが、二人が見た"光"の正体や、世界の歪みの謎はまだ始まったばかりです。


また続きをお届けできる日がありましたら、その時はぜひお付き合いいただけると嬉しいです。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ