9.戦後の開戦
〈仇鬼〉五体の被害は甚大だった。
退治に五時間かかった。この間、隊員にも一般人にも多数の死者が出た。その数は現状把握されている数で千人以上。ここ数十年で、少なくとも今の〈玉輪公〉になって最多である。五回分の襲撃が同時に起こり、各所対応しなければならなかったため当然ではあるが、我国随一の戦闘力を持つ烽州での被害として重く捉えられた。我国の民は改めて〈仇鬼〉の脅威に震えた。
〈仇鬼〉の襲撃を受けた各所で遺体が集められた。寝所の数が足りないため、広場に集められた。
襲撃から数日たった今でも行方不明者は大勢残っている。
広場へは、行方が分からない大切な人を探しに来る。
どこを探しても見つからない人を見つけに、最終的にここへ来る。
それでも、いないでほしいと願いながら探す。
あちこちで、静かにすすり泣く声が聞こえた。
その中、雁矢崎は思わず足を止めた。茜色の隊服を身につけて横たわる、真っ白な髪が目に入ったからだ。艶やかな特徴的な白髪。雁矢崎はその青年をよく知っていた。
「八…」
「知り合い?」
「…同期です。」
「そっか。」
越須賀はそれ以上なにも言わなかった。一度、慰めの言葉を出すときりがない。特に軍の人間は、誰かしらを亡くしている。まだ、悲しみに暮れている余裕はなかった。
越須賀と雁矢崎はその足で診療所へ向かった。自然と足が速くなる。
目的の病室に入ると、寝台で上半身を起こした朔也の姿が目に入った。越須賀と雁矢崎は胸を撫で下ろした。
「すまない。心配をかけた。」
「身体は?」
「うん、もう痛みはない。あれからのことは、だいたい佐義名から聞いた。」
朔也は隣の寝台へ視線を送った。三人もそれに続く。
そこには岡元が眠っていた。
現場を離脱し、診療所に運ばれた時には既に、〈輪〉の『治癒』能力によって完治とはいかずとも、止血はほぼ完了していた。元の怪我の酷さを鑑みれば驚異の治癒能力だった。
岡元の心臓は動いていた、しかし、意識は戻らない。輸血含め、可能な限りの蘇生治療が施された。
朔也は痛みに気が朦朧とする中でも弱音を一切吐かず、岡元の身を案じた。可能な限りの治療がひと段落したと聞いた後、安堵したのか、「岡元を頼む」と言い残して気絶したのだった。
朔也の眠りは長かった。〈眷鳥〉の負傷による〈輪〉のこれほどまでに長い眠りは前例がないらしく、いかに大きな負担だったかを表している。
岡元の体に繋がれた無数の管が痛々しいが、病室に響く心音が再び彼らを安堵させた。
岡元はまだ生きている。
しかし、まだ意識は戻らない。
岡元ほど瀕死の状態から回復した事例は少ない。ましてや現在〈輪〉の治癒能力はほぼ働いていないにもかかわらず、意識が戻らないという事例はより一層少ないそうだ。
病室の扉が開く音がした。見ると、一人の女性が入るところだった。
「ん、あら!!!」
「岡元のお母様ですね。」
「わぁ!気ぃつかはったんですね!良かったわぁ。」
ペコペコと頭を下げる岡元の母に、雁矢崎は椅子を勧めた。「どうもすみません、皆さんお疲れやろに」と明るくにこやかな彼女だったが、隠しきれない疲れが見られた。
朔也は座ったまま、深々と頭を下げた。
「私がついていながら—「やめて下さい。そういう仕事やもん、こういうこともあるって、最初からわかってます。」
目はしっかりと開きつつも、口元の笑みで人を安心させるその表情が、岡本によく似ていた。きっと彼でも、辛い時でもこうやって明るく笑い、ましてや誰かの謝罪など求めないだろう。そう思うと、誰もそれ以上言葉が出なかった。
「この子はねぇ、体だけは昔から丈夫やったから、病気とかは心配してへんかったんやけどねぇ。ちょっとお調子もんなところがほんま、誰に似たんか。皆さんにご迷惑おかけしてへんかなぁて思とったんやけど。なかなか連絡もせぇへんくて、家にも帰って来んから久々に顔見たんですけどね、まだ寝とるでしょ。赤ちゃん時からそうなんですよ、寝つきはいいのに寝起きはほんまに悪くて、…うん…どうでしたか、最後まで頑張ってましたか。」
「はい。今回も、これまでも、現場で率先して前に出てくれる彼に、何度勇気づけられたかわかりません。お母様のおっしゃる通りで、彼のおかげでうちの隊は明るいです。普段の調子以上に、彼が努力家なことを皆知っています。今も、頑張っているところだと思います。」
「あ、今も…」
「彼が私を守ってくれたんです。そのおかげで今、私は生きております。うちの隊には彼が必要です。信じて待ちましょう。」
「…そうですか……あぁ、そうやなぁ…」
彼女は笑っていたが、目からは大粒の涙が溢れ出した。「最後まで」と、無意識に口をついたのだろう。頭をよぎる最悪の事態、その不安とずっと戦っているのだ。
「あーあかんあかん、弱気なとこ、この子に見せられへんわ。あぁ、でもほんまに…」
彼女は手を差し出した。朔也は何事かと一瞬戸惑った後、両手で固く握手を交わした。
涙を拭った目から、再び涙が溢れ出した。しかしその目は、確かに朔也を見つめていた。
「こうやってまだ希望持てて、温かい手ぇ握って励まさせて貰えて、ほんまに良かったです…正直、あの広場で冷たいこの子見つけてたらと思ったら、心臓痛くて震えが止まりません。この子見捨てんでくれて、ほんまに、ほんまにありがとうございます。」
強く握られた手を、朔也はしっかりと握り返した。
まだ休んだ方がいいと止める佐義名を振り切り、岡元と母親を残して病室を出た。
泣いている彼女に気を遣ったということもあるが、なにより現場の惨状を想うと自分だけじっとしていられなかった。岡元だけじゃない。生死を彷徨う人、怪我の痛みに耐える人、大切な人を想って泣いている人が、たくさんいる。
〈仇鬼〉は厄災だ。
突然現れて、何もかもを壊していく。
もっと強くならねばと、朔也は再度己を奮起させた。
結果的に、岡元が負傷したことで得られたものは大きかった。朔也の〈輪〉としての「許容量」を把握できた、非常に貴重な機会となったのだ。
〈輪〉による治癒能力で、どれほどまでの怪我に対応できるか、どれほど速く治癒できるか、何人の〈眷鳥〉の負傷に耐えられるか、ということは〈輪〉によって異なる。この度合いを治癒能力の「許容量」として〈眷鳥〉所持数の指標として扱っているが、この「許容量」は〈眷鳥〉が死んで初めてわかるという点で把握が困難なものだ。
今回、朔也の〈眷鳥〉一人が即死級の大怪我を負った上で死ななかった、という事実から、朔也の「許容量」は”不明”から"上の下以上”と評価が変わった。これにより、約二十人の〈眷鳥〉を受け入れ可能という判断になる。むしろ〈眷鳥〉の数を増やしたい軍としては、持てる者は持たなければならない義務がある。
この結果は他の〈輪〉達から〈玉輪公〉として認められるための後押しになるだろう。さらに〈輪〉以外の隊員の間では、朔也の「見捨てなかった」選択が密かに評価を急上昇させていた。大っぴらにはされないが、軍で負傷兵を切り捨てる選択はしばしばとられる。仕事上やむを得ないと理解はしていても、それでも当然死にたくはないし、仲間を失いたくはない。
〈仇鬼〉五体の襲撃から十日後、各地の対応はまだ続いているものの落ち着きを取り戻してきた頃。〈玉輪公〉によって〈輪〉が招集され、軍議が開かれた。年に一度の定例以外では異例の招集である。
定刻間際、本部の大広間に向かって多くの鳥が飛来した。鳥達は大広間に入り、定位置に着いた。それぞれが人形に変容後の身だしなみを整えた。烽州のほぼすべての〈輪〉が一堂に会した。一部は側に〈眷鳥〉を控えており、その場の人数は三百人を超えた。
パンッ
その音で場は静寂に包まれた。空気が引き締まるのがわかる。
前段には一人の男。彼が一つ、軽く手を叩いた音だった。
全員が、彼が現〈玉輪公〉の〈眷鳥〉だと知っている。
その数秒後、その場にゆっくりと男が現れた。
顔に刻まれた深い皺、重たい瞼に埋もれた鋭い目が遠目でもわかる。
けして身長は高くはないが、強い存在感を持つ人だった。特にこうした集会での〈玉輪公〉を前にした場合は、一対一で会うより緊張感がある。
全員が低頭した。
「時間もったいないし、さっさと始めよか。」
その声に、〈輪〉達は頭を上げる。
低く僅かにしゃがれた声。淡々と紡がれるその一言一句を逃すまいと全員が傾聴する。
「当然、今回集まってもらったんは先日の〈仇鬼〉五体の件や。皆わかってると思うけど、なんやいろいろおかしかった。異例の事態やった。まずは調査結果。」
「はい。」
〈玉輪公〉の最後の〈眷鳥〉の地位に就く男が、低頭したまま続けた。
「一つ。〈仇鬼〉五体、いずれも『廃灯域』方面から襲来。さらに三メートルを優に超える巨体、分厚い皮膚などの特徴から、五十年越えの個体と推定。十分以内の同時出現。この間隔で一範囲内に三体以上が同時に襲来した事例は、少なくとも過去百五十年無し。
二つ。『廃灯域』内で異国人四名の遺体を発見。現在玖州へ訪問中の使節団の一味であることは確認済みですが、行動目的は不明。それが使節団へ指示があったものか、独断のものかも不明。
三つ。『廃灯域』内に紡錘型の白色の装置を二つ発見。全長二メートル程、表面は金属製で、複数の線と画面が付属。一部ガラス製であり、中が空洞であることは確認できますが、開錠方法および使用用途は不明。
『廃灯域』内は引き続き捜索中。異国人の遺体は玖州の〈桐凰卿〉へ引き渡され、玖州へ訪問中の使節団への取り調べも〈桐凰卿〉に一任されることに。以上。」
———嫌な感じだ。
全員が似たような感覚を受けた。報告された三点は関連があるだろうが、言い回しからして確証がないといったところか。
いつもの災害的なものとは違い、〈仇鬼〉襲撃の裏に人間の意図を感じざるを得ない。
そんなことが可能なのか、結局明らかなことはまだない。
しばしの沈黙の後、一人が手を上げた。
〈玉輪公〉の視線で発言が許可された。
「その装置、電源は入れましたか。」
「いや、電源入れた時点でなんか起こる物やったら、最悪今回の二の舞やからな。〈桐凰卿〉と相談せなあかんけど、できたら装置の調査は〈露雨殿〉に任せたい。」
沈黙。
〈露雨殿〉も関与するとなると、すでに烽州の問題に留まらず。
事は想定外に大きくなっており、〈五光〉の決め事に一〈輪〉が意見しようとする者はいなかった。
「今回の件、わしの認識が甘かった。正直ポッと来た異国人数人ごときが、〈仇鬼〉に干渉できると思わなんだ。わしの非や。皆は以降、不穏な動きには気ぃ張ってくれ。でや、」
パンッ、と軽く手を叩く。
「次の〈玉輪公〉を決めようと思う。」
〈玉輪公〉がにやりと笑ったからだろうか、雰囲気が軽くなった。
間を置いて、場がどよめいた。
誰も予想していなかった。〈玉輪公〉はかなりの年ではあるが、まだ現役だ。今回の〈仇鬼〉五体のうち、初期被害が最も大きく、最も凶暴と思われた一体を片付けた部隊は〈玉輪公〉が率いていた。
「半分は今回の責任とってや。もう半分は、異国人の動き、〈仇鬼〉の様子、他州の動き…他にも色々、時代の移り変わりを感じることが多い。勘やけどな。いつ死ぬかわからん年寄りがいつまでも残ってる場合やない。反対もないやろ。」
ここでも、沈黙だった。
急とはいえ、いつかは世代交代の時が来る。想像より十年ほど早かったというだけのことだ。
そして既に、次の〈玉輪公〉に最も近い人物がいる。
「公平に選挙といきたいところやが、まぁ今すぐに変わるわけちゃう。朔也。」
朔也が立ち上がり、〈玉輪公〉の視線がそれを捉えた。
〈玉輪公〉はひとつ頷いた後、さらに次の人物へ視線を向けた。
「それから瑤一。前に来なさい。」
再度どよめいた。間などなかった。
場の動揺は先程より大きく、その視線は朔也より瑤一の方へ多く注がれた。
二人が前へ出る間にも、〈玉輪公〉は語る。
「わしは、次の〈玉輪公〉はどっちかやと思っとる。が、若すぎるって不安もわかる。もちろん他の候補を無視する気も無い。ただ今回の惨劇で、民の不安も大きなっとる。嗜好変えたいってのはそこでな。次の〈玉輪公〉候補のお披露目と際して、二人で『神前試合』をやってもらおうと思う。」
『神前試合』。〈輪〉同士の模擬戦のようなものである。かつては〈玉輪公〉を決める際によく行われたらしいが、近年は民に向けた催しや、任務や配属の人選のために稀に行われる。
朔也は〈玉輪公〉の隣に立ち、反対側に立つ瑤一を見た。瑤一はいつもと変わらない様子で、まっすぐに全員の視線を受け止めている。
臥郎が手を上げた。
「他の候補は今聞かないんで?」
「『神前試合』見た後に、そいつには任せれんと思ったら名乗り出てくれたらええわ。もう一回『神前試合』やるなり、選挙にするなりはそれから決めよ。それでええか?」
臥郎は静かに手を下ろし、それ以上は何も言わなかった。
隣にいた〈輪〉が囁く。
「臥郎さん、ほんまに異論ないんですか?」
「後で意見できるなら、『神前試合』で手の内見とこってだけや。」
他に手は挙がらなかった。臥郎が大人しく引き下がった理由はそこにもあった。
実力主義の軍。大事なのは血筋では無い。自分より能力が劣る者を、いくら現〈玉輪公〉の孫でも、推薦でも、次の〈玉輪公〉として他の〈輪〉が認めるとは思えない。それもあんな子供を。ここで声が上がらないのは、皆が何も知らず様子を伺っているか、〈玉輪公〉の裏の意図を察しているか、本当に瑤一が〈玉輪公〉にふさわしいと思っているか、か。いずれにせよ、ここで騒いで自分の無知をさらすことになる。
「事後処理も準備もあるし、赫州での『神降祭祀』も控えてる。開催は八月にしよか。五ヶ月後やな。とにかく烽州を活気付ける祭りみたいにしたい。ぱぁっと盛り上げろや。じゃぁ最後に、連れて来なさい。」
〈玉輪公〉は瑤一の背中を軽く叩いた。
瑤一の視線を受けて、どこからともなく二人が現れた。
全員が僅かに身を引いた。
「既に知っとるとは思うが、この二人。半人半鬼や。今回の〈仇鬼〉討伐の功労者として、隊員として認める。」
場は静かだった。誰も、一言も口にしない一方で、瞬時に複数の手が上がった。
それが異様な雰囲気だった。
「人間を襲うことはないのでしょうか。」
「無い、と本人らが言ってる。」
「彼らに言葉は通じますか。」
「通じる。この子らも普通に話せるし会話はできる。」
「〈仇鬼〉の力、いわゆる鬼術は使えるのですか。」
「使える。既に実際見た者も多いやろ。」
「出自は?」
「わからん。本人らも覚えとらんし、公にしてないからな、調査も進まん。」
「そもそも本当に半人半鬼なのでしょうか。完全な〈仇鬼〉ではなく、人間の血が入るという確証は?」
「今んとこは本人談と、見た感じやな。証拠はないが、正直わしは完全な〈仇鬼〉やっても構わん。人間の血が入るかでなんか変わると思っとらん。追々調べはする。」
「信用できますか。いくら戦力とはいえ、リスクが大きすぎるのでは。」
「それも『神前試合』で判断したらいい。瑤一の手駒として参加させるつもりや。」
「『神前試合』は民も見ますが。どう公表するのですか。」
「公には優秀な魔術師を軍に迎えたことにする。まぁこれで、OMICに存在はばれるかもしれん。」
「OMICに研究対象として提供するのが、我国の発展に直結するのでは。」
「〈仇鬼〉研究のモルモットにすべきっちゅうわけやな。」
「…はい、そうです。」
「そこも追々や。〈仇鬼〉の研究進めなあかんのは間違いないが、モルモットにするんか協力的な被験者になってもらうかは二人次第や。後者から前者にはなれても、前者から後者は誰もならんやろ。あとOMICにタダで譲る気はないし、提供先もOMICにするかは悩んどる。まぁ今回のことで、わしは戦力としての価値に重きを置いとる。その意味でも易々と他に譲る気はないし、そうしようとして抵抗されたら一筋縄ではいかんやろな。」
「やはり危険かと。一部隊員の間でも不安の声があります。何か安全策を取るべきでは。」
「それは、既にとってある。」
〈玉輪公〉は瑤一に目配せをした。
瑤一が小さく前に出る。
「私の心臓が刺されれば、彼らの首輪が爆発します。」
今度のどよめきが一番大きかった。
さらに手が上がる。
「仕組みはどのように?」
「〈露雨殿〉の手が加わっています。信頼してください。」
「首輪を外すことはできないのですか。」
「そこも〈露雨殿〉を信用してもらわねばなりませんが、まずありません。もし外すようなことがあれば、〈仇鬼〉として、退治対象として見ていただいて構いません。」
「瑤一さんと生死を共にしているということでしょうか。」
「私が死んだだけでは爆発しません。必ず心臓を刺してください。」
「二人を止めるためには、瑤一さんを殺せという意味ですか?」
「そうです。私を殺すことは、二人を殺すことより随分と簡単かと思われます。むしろそういった事態になれば、私が私自身を刺しましょう。」
「あの、どうして…なんというか…〈玉輪公〉の指示ですか?」
「いいえ。彼らは私が拾ったので、その責任を私がとるだけのことです。この心臓の役は誰でも良いそうなので、どなたか代わりたい場合はいつでも。」
誰も口を開かない。
煽りと受け取ったのか、顔を顰めるものが大半だった。
「心臓でないといけないのでしょうか?スイッチのような、物として持ち歩けるものではいけないのですか?」
「そこは、〈露雨殿〉に聞かないとなんとも。」
「現状、二人が瑤一の〈眷鳥〉と同じ扱いであることに異議はありません。しかし、『神前試合』であまりにも戦力差が出ませんか。」
そう言ったのは繊乃だった。
「〈仇鬼〉相当の二人を〈輪〉一人の部隊で相手にするようなもの。しかし、『神前試合』には参加してもらわねばなりません。であれば一人は朔也側として参加してもらっては。瑤一以外とは戦えないというのも問題でしょう。」
〈玉輪公〉は頷いた。
「そうしよか。」
「では、そのように。朔也兄さん、どちらを?」
「え。」
「朔也は片方とは訓練で関りがあると聞いております。時間も限られていますし、慣れている方がいいのでは。」
「では、伊吹を朔月隊に。」
「え。」
朔也と伊吹の目が合った。伊吹はすぐに視線を瑤一に戻したが、動揺が伺えた。
瑤一は伊吹を見るだけで何も言わない。
「……拝命しました。」
伊吹は〈玉輪公〉の後ろを通り、朔也の斜め後ろに立った。
「これを機に、瑤一にも〈眷鳥〉を持つ権利を与える。それぞれ準備しておくように。以上。」
〈玉輪公〉とその〈眷鳥〉が去り軍議は終了、その場は解散となった。しかし動揺が覚めない者が多く、その場にとどまり各所で会話が飛び交った。
〈仇鬼〉五体の調査報告は想定内として、突如発表された〈玉輪公〉引退、半人半鬼の入隊。矢継ぎ早に行われた質問に追いつけなかったことも多い。繊乃の発言で質疑が打ち切られて様なものだ、まだまだ不明なことが多すぎた。
ちらちらとその視線の多くは半人半鬼の二人と瑤一に注がれた。
「タマ。」
「朔也兄さん…」
先ほどとは打って変わり、瑤一は不安そうに俯き眉を寄せた。
「大丈夫か。」
「僕が…〈玉輪公〉なんて…」
「タマ、いい訓練やと思おう。」
朔也は明るく言った。
「俺もびっくりした。けど、〈玉輪公〉が引退するのも、タマが〈眷鳥〉従えて戦うようになるのも遅かれ早かれや。想定より早かったけど、一番は『神前試合』で烽州を盛り上げよう。手は抜かへんで。タマも全力でぶつかってき。」
瑤一も緊張がほぐれたのか、苦笑して小さく頷いた。
「伊吹も、しばらくよろしくな。」
伊吹は無言で頷いた。
伊吹の視線が逸れ、その先では繊乃がこちらに向かっていた。
「今よかったやろか。」
「もちろんです。先程は———」
「それ以上はええ。」
繊乃は朔也の言葉を遮った。繊乃と朔也、そして繊乃と瑤一の目が合い、互いに小さく頷いた。
「礼言われに来たんちゃうねん。一応念押しとこうと思ってな。」
繊乃は再び朔也に視線を合わせた。
「突然のことやけど、〈玉輪公〉はこういうことで冗談は言わん人や。次の〈玉輪公〉は十中八九どっちかなんやろ。ただ、決めるのは〈玉輪公〉だけの権利ちゃう。皆、相応しいか見てるし、どっちにも肩入れせん。助言はせん。わかってるな。」
朔也と瑤一は確かに頷いた。




