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17.我国の月

「いやいや、あれはないでしょう!?あのやり方じゃ〈仇鬼〉に通用しない。せこすぎる!」

「でも実際に朔也さんに勝ったわけやし。」

「あのやり方で勝ってもなぁ。」

「規則違反はしてないやん。そもそもあの人数と契約できるだけすごいわ。俺には無理。」

「それほど本気やったってことやろ。準備の差やと思うけどな。」

「だから実力の差じゃないやんって。」

「準備含めて実力やろ。」

「朔也も相手の戦力把握してなかったんはあかんな。」

「それはそう思う。知りませんでしたで済むことなんてまぁ無い。」

「民衆の反響はええで。〈眷鳥〉だけじゃない軍全体の戦い見れた、って感じみたいやし。朔也の人気は止まるところ知らずやけど。」

「なんもわかってない民衆の意見なんていらんわ。」

「朔也隊の動きも見事やったなぁ。あの数の暴力に対応してたし。」

「だから、それも含めて準備で実力やんって。」

「とはいえ、あの数と契約ってのは無謀やな。」

「それはそう。博打すぎる…そんな人に〈玉輪公〉任せていいんかも不安や。」

「でも、ゴム弾ってのは逆に甘いわ!その甘さの方が心配になるな。」

「それは…確かに。〈玉輪公〉背負えるんかな。」

「やっぱ子供なんよ、そこは。」

「本物の弾なら、朔也は櫓まで引き下がったかな。」

「え?」

「引き下がらず鳥形のまま全速で飛んでたら、誰が朔也の首飾り奪えたかな。」

「繊乃さん…全部計算とでも?あの子の?」

「…」

「さすがに過大評価でしょ。臥郎さんも何か言ってくださいよ。」

「いや、異論はない。」

「え!?臥郎さんまで…なんでですか?」

「勘。ただ朔也には勝てても、あのガキには勝てんかもしれん。というかやりたない、気分悪なりそうや。」

「なにそれ、臥郎さんがそんなこと言うとは…」

「それより、伊吹って子は頑張ってたな。」

「あぁ!奴の能力は相当使えるんちゃう?うちにも訓練でいいから来てほしいな。」

「あんだけ危ない奴軍に置くんは反対っていうてたのに。」

「使える奴は使うわ。当たり前やん。」

「とはいえ私はまだ不安やな。韋鎚って方はほとんど手の内わからんかったし———」

 繊乃は臥郎に耳打ちした。

「あんた、そういう勘は昔からええなぁ。」

「黙っとけ狐ババァ。」

「ハッハッ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、次の〈玉輪公〉やけど。」

「待ってください、〈玉輪公〉。朔也兄さん。どうでしたか。」

「どうって?」

「僕に負けて、どう思われましたか。」

「悔しいよ…そうやな、けど、タマを見直した気持ちのほうが大きいかな。俺はあんな作戦思いつかへんし、あれを実行するところもすごい。賢いし、肝は座ってる。なにより覚悟も、あの試合の中で見せてもらった。もう文句は…なんだ?」

「何故負けたと思いますか。」

「準備不足か。確かに万全を期したつもりだったが、この日のためではなかった。」

「〈仇鬼〉退治を前提とした朔也兄さんのやり方が間違ってるとは思っていません。むしろその方が正しい。僕は卑怯です。」

「卑怯とは…」

「いいえ。でも僕はここまでしないと勝てなかった。でもここまでした上でも、朔也兄さんは勝てたと思っています。何故負けたと思いますか。」

「……」

「最初から銃撃兵の存在を知っていれば、もっと高度から攻められたでしょう。僕が飛べることを知っていたら、櫓の外にもっと残したでしょう。もっと伊吹を全面に使うことだって、そちらの櫓に細工することだってできた。たとえ規則違反でも道徳違反でも、勝つために僕の動向や会場の状態は探るべきだった。朔也隊の実力を過信しているとは思っていません。全ては知らなかったから。違いますか?」

「…そうかもしれないな。」

「………」

「ほな次の〈玉輪公〉は、タマでええか。」

「いや、でも、朔也兄さんはそれでいいのですか?」

「?〈玉輪公〉になりたかったんじゃないん?」

「そうですが、でも…」

「俺は、〈玉輪公〉にはなりたくない。」

「え?」

「いや、なりたくないわけちゃうけど、ならなあかんと思ってた。試合は全力やった、手は抜いてない。それは先に言っとく。けどタマにな、〈玉輪公〉になって何がしたいって聞かれた時から考えててん。岡元みたいなことがあったら、俺は何回でも助けようとする。目の前で〈仇鬼〉に襲われてる人居たら、他の所に派遣されてても目の前の人助ける。自分の命に賭けても目の前の一人を助ける。無視は絶対にせん、それが俺の正義やから。それって〈玉輪公〉じゃなくてもできる。むしろならへん方が、その正義は貫けるんじゃないかって。」

「……」

「わかってる。俺の我儘や。でも試合が終わった時、もう誰も傷つかんでいいんやって安心したのも、負けてなんかほっとしたんも本当。」

「……」

「そうやな、俺がしたいのは、目の前の人を一人でも多く助けること。根本はタマと変わらへんよ。でもきっとタマの方が、広く先の方まで見れるんやろね。」

「…どうしてそう思うのですか。」

「岡元見捨てろって言うて、タマが刃物持ってくれたからや。」

「……」

「俺の選択が間違ってるとは思わん。けどタマも間違ってないし、多分〈玉輪公〉に必要なんはタマの選択やと思う。俺は俺の正義のために、やり方は変えん。」

「……僕も、僕の正義を貫きます。そのためには〈玉輪公〉という立場はあった方がいい。」

「うん。重いもの背負わせてしもてごめんな。…泣かんといて。」

「泣いてません。」

「震えてるやん。」

「武者震いです。」

「そんな強がらんでも。普通に重圧で震えとるんや、俺もわかるって。」

「ほな、次の〈玉輪公〉は瑤一や。まぁこんだけ話しても、ここの一存で決まるわけちゃう。一旦お前らの気持ち聞いただけや。他の〈輪〉も認めさせなあかん。瑤一もまだまだ子供や。わしも引退するとは言うたけど、まぁゆっくり引き継いだらええと思ってる。」

「はい。…朔也兄さん。」

「ん?」

「僕には輝かしい経歴も、人望もありません。そして腕もありません。〈玉輪公〉は僕がやります。でも朔也兄さんが、〈玉輪公〉直下の部隊を率いて下さい。」

「それは…」

「前例がないとは言わせません。できないとは言わせません。朔也兄さんは軍を見ていて下さい。僕が烽州を守ってみせます。」

「それは、どういう…?」

「強くなって下さい。軍も強くして下さい。それで…」

「…?」

「僕が嫌な決断せんでいいようにしてください。」

「…わかった。俺は軍と、タマを守ろう。」

「若いなー。ま、それまで他の〈輪〉納得させるのと、〈玉輪公〉取られんようにするこっちゃ。はぁ、肩の荷降りたー。」

「何を仰る、まだまだ現役じゃないですか。活躍してもらいます。」

「年寄りをこき使うな。」

「さて、僕は自分が変容すれば、無くなった左の翼も現れることはわかっていました。片足を無くした〈眷鳥〉や大人数との契約も危険を承知した上で、それを賄う術も持っていました。決して博打ではありません。」

「なんや、その紙。」

「それが例の、〈桜姫〉との取引か。」

「はい。これは、所謂人体実験の報告書です。」

「人体実験…?」

「〈神器〉はわからないことが多すぎる。でも神に力を与えられたその時、まずは気になりませんか。力の詳細、限界が。何ができて、何ができないのか。」

「人体実験するにも、限界があるやろ。」

「それなくとも〈神器〉ですからね、神聖さはそういった時邪魔になるでしょう。僕もそう思っていましたが、でもこうして人体実験の結果があった。見てもらえればわかります。ここに道徳なんてない。」

「……」

「ただ、現状の認識と差がある部分が多い。失われた歴史も気になります。〈神器〉って、〈仇鬼〉って、なんなんでしょうか。」


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