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黎明館殺人事件  作者: シッポキャット


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34/45

●結び『ある囚人の独白』⑯

――――――――――――

 ●結び


 ()()()策略(さくりゃく)(さと)っていた私は、包丁を床に投げ出し、鞄の中の凶器を捨てた。

外の警官たちに話が通じるかどうか分からなかったが、サムターン錠を順々に解錠(かいじょう)し、玄関のドアをゆっくりと(ひら)いた。

 (まぶ)しい光に軽い眩暈(めまい)を感じた。二メートルほど離れて、数人の機動隊が私を取り囲み、盾と警棒、刺股(さすまた)を構えて(にら)みつけていた。


「あの、私は被害者なんですが」

両手を挙げてゆっくりと話すと、中心にいた警官が落ち着いた口調で言った。

「話はあとで()こう。こちらもすぐには信用できない。申し訳ないが拘束(こうそく)させてもらう」

私は(うなず)き、大人しく手錠を()めさせた。


 私は最寄りの警察署に連行され、事情聴取が始まった。

これまで述べてきた通りの事を懇切丁寧(こんせつていねい)に説明したが、担当の刑事は薄ら笑いを浮かべ、明らかに聞き流していた。

もちろん私のほうにも弱みがあった。意識を失ってからの記憶が曖昧(あいまい)で、そこを責められると答えようが無かった。


 私を(おとしい)れるための証拠は(いく)つも見つかり、外堀(そとぼり)を埋められていった。徐々に逃げ道を失い、皆が納得しそうな動機を(こしら)え、優しく自白を強要される。そんな日々が延々と続いた。


 私はいつしか黙秘(もくひ)するようになっていた。真実を語っても、誰一人(だれひとり)聞く耳を持ってくれない。恩師の荒川や砂場の母親も、私の話を証明してくれなかった。保身(ほしん)に走ったのかも知れない。(いな)、私を血迷った殺人鬼と思っているのだ。


 砂場の通夜に出掛けた時点で、私の運命は(すで)に決まっていたのかも知れない。いや、砂場に冷たい態度をとったのが発端か? 考えるだけで頭が割れそうになる。

 もはや私の前には絶望しかない。同窓会参加者の中で、生き残ったのは私だけだった。私の無実を証明する客観的論拠(ろんきょ)は無く、弁護士も旗色(はたいろ)は悪いと語った。


 妻を除き、味方は私の理解者ただ一人となった。限られた面会時間を有効に使い、何度か打ち合わせを(おこな)った。正義感の強い理解者は、私の熱意と覚悟を()み取って、協力を惜しまないと言ってくれた。

 私の身に降りかかった事実を闇に(ほうむ)る訳にはいかない。砂場や()()()一矢報(いっしむく)いたいという思いもある。


 私は濡れ衣を晴らす希望を本にまとめて、味方となってくれる読者に(たく)す事にした。


 最後まで読んでくれた読者に想像してもらいたい。

もしあなたが身に覚えのない濡れ衣を着せられ、殺人鬼にされ、頼ろうとした人に裏切られ、真実を話しても相手にされないとしたら。


 私は絶望した。  


(了)

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