17 封印した話
荒川は煙草を燻らせ缶コーヒーを口に含んだあと、当時を思い出すように語った。
「これは本格的におかしいと思って、砂場の母親が買い物に出掛ける機会を見計らって待ち伏せした」
「信じられない。コワ過ぎる!」
東風が顔を顰めて言った。
「まぁまぁ、先を聞こうよ」
愛想笑いをして荒川を促した。
「砂場の父親は、少しクセのある人だったからな。私も事を荒立てたくは無かった。嘘をついた理由と、あのノートパソコンのメッセージの件が一体どういう事なのかを知りたかったんだ」
荒川は空気清浄機に向かって煙を吐いた。
「私は交通事故の情報と救急車の目撃情報の事実を母親に突きつけ、砂場の死因の嘘とメッセージの疑問を問い質した」
ゴクリと岸本氏の喉が鳴った。
「砂場の母親は、主人の言う通りにしただけだと言った。私は何も知らないと。ただ、息子が階段から落ちた時、主人と二階で言い争っていた。ひょっとしたら事故ではなく、息子を突き落としたのかも知れないとも言っていた」
「先生から見て、砂場の親子関係はどんな感じだったんですか?」
質問すると、荒川は目を瞑って上を向き、必死に思い出すような感じで言った。
「母親は腫れ物に触るような感じで息子に接していた。正直怯えていたな。父親は息子の存在を持て余していた。これは余談だが、私とクラスメートに相当恨みを持っていた。息子の性格を歪めた原因がクラスメートのイジメと放置した担任の所為だと」
荒川は煙草を揉み消して、煙混じりのため息をついた。
「先生の印象が正しいとすると、通夜のあとに見た手紙とノートパソコンのメッセージは、復讐のために砂場の父親が書いた創作かも知れないって事?」
東風が両手でこめかみを押さえて呟いた。
「そうとも考えられるが確証はない。だが、その後に開かれた同窓会を考えると、息子の死を利用して報復の舞台を設定した可能性が高い」
荒川は大きく息を吐いて続けた。
「砂場の母親から訊いた話は、その場限りで全て封印する事にした。私にも砂場の家族にもデメリットはあっても、メリットは一つも無いからな。そして同窓会が開かれ、あの事件が起きた」
荒川の顔が思い出したように再び蒼白になっていく。
「あの別荘で、立山紘一に何があったのかわからないが、酷い状況だった。私は惨殺された教え子たちの身元確認をさせられた。思い出したくもないのが正直なところだ」
荒川は冷静に語っていた事が嘘のように、両手で顔を覆い隠し、只々震えていた。




