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「お待ちください、速報が入りました」
腹をかかえて笑っていた司会者が、スタッフに渡された紙に目を凝らした。
真顔になり、上目づかいにカメラの横をしばらく見てから、とつとつとメモを読みあげる。
「総理官邸より、先ほど午前零時三十分、港区全域において、避難指示が出されました。くり返します、先ほど午前零時三十分、総理官邸より、港区全域に避難指示が出されました……」
*
「あの生物から別の生物の遺伝子が検出されました」
黒いスーツの男が、神経質そうに書類の束をめくりながら、早口で云った。
「唾液です。傷ついている個体が多かったでしょう? 今日のも、そうだった。ひれから、体液と血液の入りまじった、あの黄色い汁を流していた。専門家も、かんちがいしていました、あの傷は次元だか、時空だかを越えたときにできた傷だろうと。しかし、そうではなかった。ヤツらは襲われ、食われかけ、そして必死で逃げていた」
雨粒のついた車窓に額を押しつけたまま、となりの陸曹が鼻を鳴らした。
「アレを食う? 物好きにもほどがあるな」
「わたしがもうしあげたいのは、つまり、あれをエサにしている、もっと強力、もっと強大な個体がいるということです。カエルを食らう、ヘビのように。ネズミを狩る、キツネのように。襲われ、食われまいと必死で逃げてきたアレが、どいうわけだか、われわれのこの世界にまぎれこんだのでは……。専門家たちは、そう考えています」
流れる街並みからようやく目をはなして、陸曹がとなりを見やった。
「なんで、いまその話をする? なにが云いたい?」
「あなたは、この奇妙な現象の発生以来、あの生物の処分を一手にひきうけてこられた方だ。第一人者と認めて、もうしあげております」
いそがしく動かしていた手をとめ、男が暗い車内でじっと陸曹を見た。
「東京を、いや日本を救っていただきたい」




