第351話 聖国聖女猊下、修道士たちと話し合う
(聖国聖女猊下視点)
お茶会を終えた聖国聖女猊下は、聖国側のテント内で修道士たちと話し合います。
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皆様方とのお茶会(一応の休憩)の後、わたくしは聖国側で用意されたテントの中に入っていた。
メリユ様、メルー様、ハードリー様、メグウィン様、ルーファ様、マルカ様、皆様と過ごすお時間はとても貴重で、心温まるものではあったけれど……聖女としてのわたくしは、色々と考えなければならないことも多く、気が急いてしまっていたのも事実だった。
「聖女様、畏れながら、少しばかりご休息を召されてはいかがでしょうか?
さすがにお疲れが見受けられます」
「ありがとう、アルーニー」
「また、こちらに本日の特使の動きに関する資料を取りまとめております」
「お疲れ様、ギシュ」
ギシュから(いつもの)乱筆ながらもしっかりと取られた記録内容を拝見しながら、わたくしはことの重大さを改めて認識していた。
そう、オドウェイン帝国が(あろうことか)神のご存在を軽んじ、聖教すらも思うがままに操れると思い込んでいたこと。
そして、神がオドウェイン帝国を神敵とみなし、国家崩壊が起きるほどのご神罰をくだされようとしていたこと。
加えて、メリユ様が……ご自身が使徒ファウレーナ様の生まれ変わりであることを公言され、ご神命の代行者として(神と『人』の仲介者として)実際にご神罰をくだされたこと。
聖国にとって、宗教的象徴としての立場にいるわたくしも、動揺を抑えられないようなことが続き、今にも頭がはちきれそうだった。
「……此度のことだけで経典が相当に分厚くなってしまいそうね」
「そうで、ございますね。
まさか……これほどご奇跡を目の当たりにすることになるとは」
「帝国の民も……いえ、周辺各国でも、『鳥船』の動きを見ていたことでしょうから、聖教として何らかの見解を出さなければならないかと」
ハードリー様があのような目に遭われ、新たな聖女が誕生したことも頭が痛いわ。
もちろん、聖教としては喜ばしいこと。
これを隠し立てすることなどあり得ないのだけれど、あまりにも前例がなさ過ぎて、どのような見解を出すべきか、困惑を隠せない。
「まあ……何はともあれ、帝国の件が片付きそうなのはよろしかったのではないでしょうか?」
「そうね。
ちなみに、アルーニーは、帝国はどのようになると考えているのかしら?」
「神、ご神意としては、皇帝陛下は神隠しの上、神の御許に召されるご予定だったのでございましょう。
たとえ、メリユ聖女猊下のご慈悲で助かったとして、もはや皇帝陛下もご神意に背かれることはないのでは?」
「まあ、降伏以外、あり得ないでしょうね。
もはや、次はない状況なのでしょうし」
「はい……」
「はあ、あまりにもご神罰が強烈過ぎて、帝国の高位貴族ももはや神、いえ、聖教に楯突く気力も残っていないでしょうね」
「まあ、そうでございましょうね」
セラム聖国として、武力で到底敵わないオドウェイン帝国がすんなりと降伏してくれるのはありがたい。
もはや、無血開城状態になってしまうのではないかしら?
まあ、それはそれで喜ばしいことではあるけれど……聖国もまた神に目を付けられていることを自覚しなければならないわね。
「あと、聖国の方の清浄化にはどれくらい時間がかかるかしら?」
「聖都ケレンも、神よりの警告を受けておりますから、腐敗した聖職貴族も自ら名乗り出、懺悔するのではないでしょうか?」
「そうだと良いのだけれど」
国家元首である教皇猊下は清廉であらせられるのは間違いなく、問題は、枢機卿以下にどこまで腐敗が及んでいるかね。
地位が高ければ高いほど、名乗り出るにも名乗り出られない可能性が高いわ。
「ギシュ、全てが終わり次第、教皇猊下に早馬でご報告をお届けしなければならないわ。
分かっているわね?」
「はい。
タダ、『鳥船』や『ご神罰』につきましては、さすがに荒唐無稽と思われるのではないかと、懸念としております」
「それでも、王都において、バリア、『天界に通じる回廊』をわたくしと一緒にご覧になられているのだから、大丈夫だと思うわ」
「そうでございますか?」
ええ、わたくしを信じてくださった教皇猊下だもの。
報告を信じていただけると信じたい。
何より『鳥船』は王都からも多少は観測されただろうから、荒唐無稽なことと扱われることもないだろう。
「はぁ、それにしても、『鳥船』がこれほど著大であるとは……ギシュは経典の内容から想像できて?」
「いいえ……経典に記されし『鳥船』は実際にどのように観測され、記録されたのか気になるところではございますが……もはや言葉で記しても、己の目で見たことの壮大さを伝えることは困難かと」
「そうね。
聖都ケレンと、帝都ベーラートを放り込んでもまだ土地があまりそうな広さのあるここが『鳥船』の中だなんて、まさに『人智』を超えたご存在であると言えるわね」
「わたしなど『鳥船』の天井を見上げていて、眩暈がいたしました」
「ええ、『船』が空を飛び、更には『船』の中にも雲があるなど、誰が想像できましょう……」
「特にあの速さ。
砦から帝都まであっという間でございましたね」
アルーニーは(珍しくも)少年のような言動でそのときの感動を語ってくれる。
「まさに神のご眷属の乗り物ということなのでしょうね」
そう、今一番の問題は、やはりメリユ様のことだった。
セレンジェイ伯爵令嬢であるわたくしにとって、使徒ファウレーナ様は神のご眷属としてもっとも敬愛すべき対象だった。
幼少期からどれだけ使徒ファウレーナ様に関する伝承を聞かせてもらったことだろう。
わたくしの生まれた、セレンジェイ伯爵領の危機をお救いくださった大事な使徒様。
そして、再び訪れたセレンジェイ伯爵領の危機にご神託をくださったのは、ほぼ間違いなく使徒ファウレーナ様=メリユ様なのではないだろうか?
つまりは、聖女としてのわたくしは、メリユ様のおかげで存在しているも同じなのだ。
どれだけ感謝の気持ち、言葉を積み重ねても、メリユ様のご恩に報いることはできないように思えてしまう。
それでも、メリユ様がああして公言された以上、わたくしが謝意を伝えないなんてことはあり得ない。
今更かもしれないが、どんな形であれ、わたくしはメリユ様にこれまでのことにお礼を申し上げなければならないのだ。
「しかし、使徒ファウレーナ様がよりにもよってミスラク王国の辺境伯令嬢にお生まれ変わられるとは」
「アルーニー!」
アルーニーの言葉に、ギシュが窘めるようにそう言う。
まあ、それでも、その気持ち……分からないでもないわ。
「まあ、聖女は基本的に聖国内から誕生していましたからね」
「はぁ……ええ、聖女猊下は、聖教にとっての宗教的象徴でございますから。
それも三人も、王国から……となれば、聖国内に動揺が走りましょう」
そんな二人の聖国本位な考え方に、わたくしは顔を顰めずにはおられなかった。
使徒ファウレーナ様が地上=エルゲーナに戻られただけでも、わたくしたちは歓迎すべきことなのに、聖国内にお生まれにならなかったことをそのように否定的に考えるのは修道士としてどうなのかしらと思うのよ。
「その考え方はよくないわ。
エルゲーナに新たに三人も聖女がお生まれになられたことを喜ばなければ」
「た、確かに、そうでございますね」
「はぃ」
そう……喜ばしいことは喜ばしいことなのだけれど、聖教、聖国としてはここからややこしくなる。
何せ、わたくし含め、聖女は聖教の宗教的象徴であり、教皇猊下に次ぐ権威だ。
それが一気に、メリユ様、メルー様、ハードリー様と三人も。
しかも、ハードリー様は既にウヌ・クン・エンジェロでいらっしゃる。
お三方が聖国のご出身であれば、ケレンの中央教会に容易に来ていただくことが叶うのだけれど、王国の辺境伯令嬢に、伯爵令嬢に、子爵令嬢とは。
調整がどれほどややこしいことになるか、今の時点でも目に見えているも同然ね。
「ちなみに、ウヌ・クン・エンジェロ、それがどのようなものかは知識としてございますが、メ、メグウィン第一王女殿下と、ハードリー聖女猊下は……今後メリユ聖女猊下と、その、ご一緒になられるということになりますでしょうか?」
「ええ、生涯を使徒様に寄り添い、尽くし、共にあり続けなければならない、そういうことね」
「婚姻のようなものなのでございましょうか?」
「まあ、ある意味、婚姻のようなものとして理解して良いのでしょうね?
使徒様は性別をもたない……だからこそ、男女を問わず、ウヌ・クン・エンジェロは選ばれる……今回はたまたまメグウィン様とハードリー様が選ばれたというだけよ」
「なるほど」
もし公表を迫られたとしたら、メリユ様には使徒様のお姿をお披露目していただかなくてはならない。
何せ、第一王女殿下や伯爵令嬢という身分をお持ちの方が、通常の婚姻でなく、ウヌ・クン・エンジェロになられるのだ。
それははたして、メリユ様たちの望まれることなのかどうか……わたくしにはあまりにも頭の痛い問題だった。
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GW中、用事が入りまして、お待たせしてしまい申し訳ございません!
今回は銀髪聖女サラマちゃん視点でございますが、色々思い悩まれていらっしゃるご様子ですね。
ウヌ・クン・エンジェロについても現在の聖教側の考えが分かります。
はたして、メルサの望んだ通りになりますでしょうか?




