第350話 ダーナン子爵令嬢、『鳥船』でお茶をする
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢、『鳥船』でお茶をします。
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商隊で訪れた街の市場で、吟遊詩人さんが歌った恋のお話は『めでたしめでたし』で終わる、素敵なお話で、あたし、メルーにとって忘れられないものだったの。
王女様(殿下?)と騎士様が結ばれるお話だったかな?
そういう恋ってあるんだって思って、ドキドキしたの覚えてるの。
確か、騎士様は英雄のごとき活躍をして、偉くなって、王女様と結婚したんだよね?
お姉ちゃんと、メグウィン様、ハードリー様のそれを見てると、それを思い出しちゃうなあ。
うん、あたしは妹役で十分なの。
ウン・クン・エンジェロのお二人が『めでたしめでたし』になってくれれば、妹として(ようやく)祝えるんだもの。
これはメルサだった頃からの悲願って言っても良いわ。
「テラに……そのお姿で?」
「もちろん、そのときは、メグウィン様もご一緒に赴かれますよね?」
「ええ、テラだろうと、どんな世界であろうとご一緒しますけれど、ハードリー様だけメリユ様のお姿のままいらっしゃるなんてずるいですわ!」
お姉ちゃん、メグウィン様、ハードリー様、あたしの『めでたしめでたし』
このオドウェイン帝国のご聖務が終わっても、あたしたちは(色々な場所へ、色々な世界に行くことになっても)いつもこんな風に楽しく笑っているのかなあ?
終わりのない『めでたしめでたし』
見たことのない景色を見て、見たこともないような『人』たちに会って、見たこともないお花を見て、賑やかに笑っていられるのかなあ?
そうだったら良いなあと、あたしは思うの。
「メルーもメルーもぉ」
お姉ちゃんが白いお翼であたしたちを包んでくれて、聖なる光の粒がまわりを舞って、まるであたしたちを祝福してくれているみたいだったの。
神秘的な光景が広がる『鳥船』の世界で、テントの設営と、お茶の準備が始まっていたわ。
あたしも、喉が渇いちゃって限界だったし、ようやくホッとできるなあって思ったんだけど、何だかまたすごいことになってきちゃってるみたいだった。
テントだって、あたしの知ってる商隊のそれと違って、ものすごく豪華だったし、お茶の準備も普通じゃないの。
まあ、メルサは……そういうのに慣れていたみたいだけど、あたしはそうじゃない!
ハーブティーにお茶菓子も豪華過ぎるよ!
梨の砂糖漬けとか、商会でも扱ってはいるけど、特別なお客さんのときぐらいしかあたし、食べたりしないからね?
銀食器も、多分聖国の高そうなものだし、触れるのも怖いよ!
「メルー様、もう少々お待ちくださいませ」
「ぅ、うん……はぃ」
あのね、あたし=メルー、うずうずしてるんじゃなくて、こんなのをあたしが飲んだり食べちゃったりして良いのって意味でこうなってるの! って、分かってくれて……ないよねぇ?
あたしがお貴族様で、聖女様とか、今も実感ないんだよ?
メルサは、そりゃ、聖女様だったんだろうけど……だんだんそんな感じも薄れてきてるし、こんなの全然慣れないよ、はあ。
「皆様、本当にお疲れ様でございました」
「サラマ様こそ、お疲れ様ですわ」
「いいえ、皇帝陛下との交渉では、誠にありがとうございました」
うん、よく考えると、このお茶会の面子、ものすごいの……。
お姉ちゃんも……そうだけど、聖国の聖女様とか、聖職貴族様とか、前のメルーならお会いすることもなかったと思うもの。
ああ、もう……変に緊張してきちゃうよ!?
「どうしたの、メルー?」
「お姉ちゃん、戻ってぇ」
「なぁに、緊張しちゃった?」
「うん」
赤毛の使徒様お姉ちゃんもとっても好きだけど、やっぱりあたしにはメルーなお姉ちゃんが欲しいと思う。
「あらあら、困ったわね。
じゃあ、メルーのお姉ちゃんになる?」
「良いの!?
じゃあ、メルーのお姉ちゃんになって!」
「「はい!?」」
あたしがそうお願いした途端、メグウィン様とお姉ちゃんなハードリー様が揃って反応されて、あたしを睨んでこられるんだ!
「メルー様、最近メリユ様に甘え過ぎではありませんか?」
……あれ、気付かれてた?
うん、そりゃあ、初めての自分のお姉ちゃんだから、甘えてたのは……自覚ない訳でもないけど……でも、そんなに分かりやすかったかなあ?
「そんなことはないかと」
「いいえ、メルー様、以前は『メルーはぁ』みたいな話され方されていませんでしたでしょう?」
うぐ……メグウィン様も鋭い。
だって、仕方がないじゃない?
お姉ちゃんに甘えようとしたら、自然とこうなっていっちゃったというか……ね?
「とにかく、この状況で、そんなに気軽にお姿を変えられては困ります」
そ、そうだよね。
分かってたよ、あたしも……でも、ハードリー様、ちょっとずるいなあとか思っちゃって。
「わ、分かりました……我慢します」
「まあ、メルー、偉いわね」
「えへへ……」
お姉ちゃんに頭を撫でられて、思わず笑みが自然と零れちゃう。
こうされてると、お姉ちゃんにゴーテ辺境伯領都イバンツで助けられたときのことを思い出すんだ。
お母様でも、お爺様でもなく、あたしを守ってくれる存在。
歳のそう離れてないお姉ちゃん!
そんな憧れの存在=お姉ちゃんが傍にいて、こうして触れてくれるだけで、今のあたしは幸せだなって思うんだ。
「メルー様、こちらへどうぞ」
「うん」
あたしがマクエニ商会、お爺様の孫娘からダーナン子爵令嬢というお貴族様になっちゃうっていう話を初めて聞いたときは、とても怖くも感じたんだけど、お姉ちゃんたちがいてくれるのなら怖いものなんて何もないわ。
メルサのわたしも言っているもの。
お姉ちゃん=ファウレーナ様、メグウィン様=メルカ様、ハードリー様=リーラ様を見守ることができるだけでも幸せなんだって。
それに加えて、今はファウレーナ様がお姉ちゃんなんだから、これ以上に良いことなんてそうそうないでしょ?
あたしは、お姉ちゃんの腕にしがみ付きながら、お茶の席へと向かったんだ。




